魔界の先生も教育相手は選びたい~平穏な日々のためサキュバスさんにお仕置きを~

今泉 香耶

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7.魔族の体を知る男

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「気が付きましたか」

「……最低……」

「解毒剤、飲ませておきましたから。どうですか、体の様子は」

「どうだと思う?」

「そのような問い掛けをする女性を相手にするような性格ではないので、勘弁していただけますか」

 フェーリスが目覚めれば全裸のまま大きいベッドに運ばれており、隣ではコーバスが上半身を起こしたまま、淡い光の中で書物を読んでいた。

「今、どれぐらい……?」

「月が、頂点にいったばかりです」

 そういえば、確かにことを始めたのはまだ夜になりかけの時間だった、とフェーリスはゆっくりと記憶を辿っていく。それから、コーバスの体にしなだれかかろうと思うが、彼の尻尾がそれを遮るように、頭の方へ向かって伸びている。

「先生、尻尾邪魔なんだけど」

「体が熱を持っていたせいか、わたしの尻尾を離さなかったのを覚えていないんですか。そこにあるのはあなたのせいですよ」

「あら。覚えていないわ」

「地面や床を擦っているので汚れていますよ、と何度か怒ったら、ご自分のドレスで拭いてから抱きついたのも覚えていないんでしょうね」

「……先生、新しいドレス買ってくださる?」

 ねだる声ではなく、まるでそれが当然だとでも言わんばかりの、平坦な声音で返されてコーバスは苦笑いを見せる。

「話がおかしいにもほどがありませんか」

「あんな酷いことしたんだもの。それぐらいしてくれてもいいでしょ? 実力行使するような人だとは思っていなかったわ。頭がいい男は口ばかりじゃない?」

「わたしは頭が良い男ではないですよ。ただ、新しいことを学ぶことと、学びを必要とする誰かに教えることが好きなだけです」

「もおー、ああ言えばこう言う! わたしが欲しいのは学びじゃなくて、ほどよく気持ちいいセックスと精子なのよ、今は」

「ほどよく」

「そう! さっきのは、ほどよくないわ!」

 フェーリスが唇を尖らせると、ようやくコーバスは小さく笑う。書物をヘッドボードに置いてから横たわると、尻尾をしゅるりと足元へと逃がした。

「こちらにいらっしゃい」

「……!」

 思いもよらず彼から腕を伸ばされ、フェーリスは素直に身を任せる。が、彼の腕に抱かれた途端、彼女はのけぞって荒く息を吐きだした。

「あ、あ、あ」

「どうしましたか」

「やだ、ゾクゾクする。何これぇ……」

 引き寄せられると、4本の腕で抱かれる。たったそれだけのことなのに、フェーリスは何故か愛撫をされたかのように声をあげた。

「ちょっと、こんなの……ねえ、駄目になる」

 見た目よりもしっかりとしていた彼の胸板にフェーリスは体を押し付け、足を絡ませる。背を、腰を、頭を、尻を、彼の腕が掴んでいる。ぎゅ、と抱かれれば豊満な乳房は彼の胸で押しつぶされて少し息苦しい。

「あ、あ、あ……!」

 体と体の間に、彼のものが挟まる。何故か硬い。そう思うフェーリスの尻尾のつけねに、彼の尻尾の先がぬるりと触れた。

「こんなの……腕4本どころか、これじゃ5本じゃない!」

「サキュバスの方々は複数人の男性となさるともお伺いしていますが」

「全然、全然違う……!」

 まったくバラバラの意思を持った男性数人に体を与えても、それぞれが勝手にするだけだし、1人ぐらいは圧倒的に下手な者もいる。だが、これは違う。相性がいい男が1人で3人分彼女に刺激を与えているようなものではないか。

「あ、あ、なんで、なんでそこ……そこ、さ、触るような、男なんてっ、いない……何これ、何これええええ」

 抱きしめられたまま、フェーリスは仰け反った。コーバスの尻尾は彼女の尻尾の付け根より少し下のあたりをなぞっていく。彼女たちの尻尾は、俗にいう尾てい骨よりも少し上から生えている。コーバスはその尻尾をどかして円を描くように撫で続けた。

「どうですか。お好きだと思うのですが」

 サキュバスの尻尾の先や付け根を触れたり擦ったりする者はよくいるが、尻尾の付け根から持ち上げて「何もない」と思われている付近を触れる者は初めてだ。フェーリスは快楽と恐怖が混じった表情でコーバスを見る。

「すき、すき、なんでっ、わか、るの……お、おお……」

「あなたの能力が強いからですね。強いサキュバスは尻尾の先だけではなく、この付け根の下に魔力の流れを感じるセンサーがある。だから、人間型に擬態をした時、ここにセンサーがない弱いサキュバスは尻尾の先でしか感じ取れないため弱体化しやすい。ですが、あなたのように力が強いサキュバスは尻尾の付けねになっているこの位置で感じ続けるため、尻尾を隠しても問題なく弱体化しにくいと昔は言われていたようですよ」

 フェーリスは彼の説明を既にほとんど聞いていない。聞いていても「そんなの知らなかった」としか返せなかっただろう。体を震わせながら「いまさら感じさせてどうするつもりなの……」と甘い吐息を漏らす。

「セックスをしたがっているご様子だったので、ちょっと酷いことをしたお詫びに」

「酷いことした自覚がないわけじゃなかったのね……ねえ、早く、早くおっぱい触って……全然かまってくれないんだもの……自信なくしちゃうわ……今まで、これにむしゃぶりつかなかった男なんていないのよ? 早くたくさん揉んで、先っぽ……たくさん気持ち良くしてくださらないの……?」

「気が早いですね……それにしても、フェーリスさん、あなたわかっています?」

 コーバスは彼に押し付けられている彼女の乳房に触れ、ゆっくりと揉みしだく。ようやく興味を持ってもらえたことを喜びつつも、フェーリスはきょとんとした顔で彼を見上げた。

「え?」

「わたしを抱く、という発言があった気がしますが、あなた媚薬を飲んだら今度は『いっぱい虐めて』っておっしゃっていましたよ。抱く側の発言ではないように思われます」

「っ……」

 フェーリスは彼の腕の中で、悔しそうに見上げて睨んだ。どこまで意地が悪い男なのか、と言おうとすれば、彼の尻尾はまた彼女の尻尾の付け根をゆるりと刺激する。

「あ、ん……ほんと、も、最悪……ねえ、眼鏡邪魔じゃない……?」

「邪魔ではないですよ」

「ん、ん、ちょっと、腕緩めてよ……」

「胸をいじれとか腕を緩めろとか」

 身勝手な、と言いつつあっさり受け入れるコーバス。どう見ても彼に主導権があるはずなのに、フェーリスはどこまでも我儘だ。緩んだ彼の腕から抜けだし、ずるずると上へと這い上がると、白く美しい乳房を持ち上げてコーバスの眼鏡に押し付けた。

「ねえ、やっぱり眼鏡邪魔でしょ……?」

「いや、むしろ眼鏡がないと……やめてください。そんな大きな胸を強く押し付けられたら眼鏡が割れるかもしれないじゃないですか……乳圧という言葉は存在するのかな……」

 そのコーバスの発言にフェーリスは堪らず笑い出した。そして、言ったコーバスも我慢出来ずに声をあげ「いや、これはいくらなんでも馬鹿な発言だ」と笑う。

「せんせ、ほんとは阿呆だったのね」

「本当も何も、ずっと阿呆ですよ。ちょっと、本当に眼鏡は勘弁してくださいよ……これからかけるたびにあなたの乳房を思い出しちゃうでしょう。そんな呪いはご免ですね……」

「失礼すぎない?」

「乳房を人の眼鏡に押し付ける方が失礼ですよ」

 コーバスはそう言って眼鏡を外し、雑にシーツで拭いた。それを見たフェーリスは

「ねえ。そういう男の方が好きなのよ」

「そういう? 眼鏡がない方が良いという意味ですか」

「違うわ。こんな時に、わざわざそれ用の布をとりにいったりしないで、雑にしちゃう男。この場を決して切り落とさないで、一緒にいてくれることを選ぶ男よ……」

 コーバスはやれやれ、と言いたげな表情だったが、フェーリスはお構いなしに彼の体の上に乗った。まるで騎乗位で交わるような体勢でコーバスを見下ろす表情は艶めかしい。

「早く、お詫びして? 媚薬なくても、お詫びになるようなセックス出来るんでしょ? わたし、せっかちなのよ」

 細い両腕をあげてうなじ付近に差し入れると、わざとゆっくり背に流れる髪を持ち上げ、それをはらはらと落とす。突き出された美しい乳房は美しい形で、張りがありつつも柔らかさを感じさせる。自信をなくす、などと言っているが、彼女が自分の体に自信を無くしたら、この世のサキュバスのほとんどは自信を無くすに違いない。いくら相手の性癖が多様だとしても、彼女の体が美しいことは揺るがない。

「せっかちなだけじゃなくて我儘なのは本当によくわかりました。手に負えないとはこのことですね」

「先生なら負えるでしょ。4本もあるんだから」

「あなたも阿呆なことを」

 言うじゃないですか。そう言おうとしたコーバスの顔に、フェーリスは自分の乳房を近づけた。

「早くご奉仕してくれないと泣いちゃうわ」

 コーバスは彼女の性急かつ身勝手なその行為を怒らない。仕方がない、と諦めの表情で彼女の乳首を吸い、舐め、軽く噛む。

「あは、先生お上手じゃない? ねえ、もっと音立てて吸って……音聞こえると、わたしに夢中になってくれているんだなって気がして、嬉しいの……んっ……」

 フェーリスの期待に彼は応えなかったが、その代わり口に含まれていない方の乳房をもみしだき、彼女の腰をさすり、尻尾の付け根をまた自分の尻尾で刺激する。1人を相手にしているのに複数の刺激をうけて、フェーリスはぞくりと背に何かが走る感触を味わい、興奮する。

「……んあ……」

 乳首を甘く噛まれて鼻にかかった息を吐く。コーバスは口を離すと、両手で彼女の乳首を軽くひねりながらひっぱった。

「やあだ、乱暴じゃない……? ゆっくり前戯しない人なの……?」

「あなたこそそうでしょう? 虐められるのが好きだから早くしろっていう意味ですよね?」

 コーバスは穏やかにそう言うと、声音とは裏腹に尻尾を彼女の腰に巻き付かせて動かないように固定をする。フェーリスはそれを嫌がり、彼の体の上で四つん這いになったまま羽根を開いて振り解こうとしたが、びくともしない。

「ちょっと、待ってよ、こっち、魔族の1人や2人抱えて飛べちゃうぐらいの力、あるの、に!」

「残念ですね。わたしの尻尾も、1人や2人は簡単に支えられるほどの力がありますし、体の他の部分と密度が違うんですよね……」

「嘘でしょ……獣人2人が腰にぶらさがっても振り解いて飛べちゃうのよ、わたし……」

「本当にあなたは煽る相手を間違えてしまって可哀相ですね。はい。暴れないでください」

 コーバスは暴れるフェーリスの両手を自分の両手で掴み、あっさり四つん這いのままの体勢で拘束する。

「ねえ……お詫びって、言ってた、わよね?」

「お詫びですよ」

「……そうよね?」

「さっき、言いましたよね。あなたがわたしに虐めてっておっしゃった時、何をどうしろと言っていたのか覚えていますか?」

 正直な話覚えていない。だが、虐めて、とは口走ってしまったような気がする。普段の彼女は決して誰にもそんな姿を見せないが、うっすらと被虐心がある自覚はあった。それが、媚薬のせいでそのまま口から漏れてしまったのだろうと思う。

「媚薬のせいよ……」

「ええ。媚薬のせいで、とても素直で……おっぱいを、虐めて、と言っていました。フェーリスさん、あなたはご存知ないでしょうが……」

「んんっ……!」

 コーバスは彼女の乳首を強く摘まんで引っ張る。

「得意分野ですよ。よかったですね」

 彼の眼鏡の奥の目は笑っていない。フェーリスはそれに気づきながら、乳首から下半身まで一気に駆け巡るような快楽を味わい、瞳を潤ませた。



 仰向けになっているコーバスの体をまたぐように、フェーリスは四つん這いで拘束されていた。シーツに突っ張った腕は、手首を彼に手で押さえられ、片足の足首は彼の尻尾が巻き付いていた。コーバスは下から彼女の豊満な胸を淡々と攻め続ける。息苦しいほどの強さで、形を変えるほど乳房を揉まれると彼女は嬉しそうな声をあげた。だが、決して痛みはないように。ゆっくりと5本の指を食い込ませるようにしながら手の平全体で乳房を押し上げれば、鼻にかかった甘い声を出す。

「や……おっぱい……形……かわっちゃうう……そんなこねたらっ……んっ、んん……ねえ……わたしのおっぱい、どう……? 可愛い……?」

 コーバスはその問いに一瞬戸惑う。乳房が可愛いかどうか。そんな質問を今まで投げられたことが彼はないし、考えたこともなかった。が、可愛いか、可愛くないか。その二択で質問されたと仮定すれば、返事はひとつだ。

「可愛いですよ。みてください。わたしの指がくいこんで……指と指の間で、どれぐらいあなたの乳首が膨らんでいるのか。歪んだ乳房も、触って欲しくて困っている乳首も可愛らしいですね」

「ううん、もうちょっと、もうちょっと揉んで……ね、重いから、手で持ち上げられると、楽なのよ……」

「ああ、そうでしょうね。重いと苦しいですか」

 四つん這いのまま拘束したが、確かにそれはそうだとコーバスは思う。

「苦しいけど、せんせ、みたいに、ゆっくり持ち上げられると……大事にされてる感じして、いいわね」

「……一瞬、ほだされるところでした。違いますね。それ、殺し文句のひとつでしょう」

「……バレてる?」

 色っぽいのに愛嬌もある、フェーリスの大きい瞳がきょろっと動く。

「聞いたことがありますよ……サキュバスの常套句だって」

「くっそ! 余計なことばかり知っててムカつく!」

 コーバスは苦笑いを見せ

「どうしてサキュバスの皆さんは、時々そうお口が悪くなるんでしょうね。美しいんですから、美しい言葉を使っていただきたいですよ」

と言えば、唇を尖らせて可愛らしい表情でフェーリスはむくれた。

「美しい言葉とやらでおねだりしたらすぐにセックスしてくれたの? そんなものは肉欲の対極にあるのに、全裸の女を拘束しながら言うことじゃないと思うわよ」

「確かに。これはわたしが悪かったですね。ですが、わたしはあなたがそういう知性を見せる言葉は美しくて好きですよ」

 そう言いながらコーバスがフェーリスの乳首を親指の腹で擦ると、彼女は体を震わせながら「もっと気持ち良くして……」と甘い響きで囁いた。
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