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19.王妃からの言葉

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(うう、まばゆい……いつ見ても王族の馬車って凄すぎるわ!)

 それでなくとも、公爵家の馬車すら凄いと思っていたのに、と心の中で呟くティアナ。まず馬が違う。立派だ。それは、馬が引くボックスが豪華で大きく、重たいからに違いない。きっと、その内側はビロード貼りにでもなっていて広く、最高の座り心地に違いない……そんな想像をしながら、じっと馬車をみつめた。

 神官たちは入り口に並び、その中央に神官長とティアナが立つ。いつ見ても「この他の神官たちって、ここで何をしているのかしら」と思うが、それ以上の興味は湧かないため尋ねたことはない。彼らのほとんどは神聖魔法の研鑽を行っていたり、神殿にある過去の書物の解読をしているのだが、それすらティアナはよくわかっていない。

 馬車から降りて来たのは、王妃と王女。身に纏った豪奢なドレスは一目見て「マリウスからいただいたドレスもすごいと思っていたけれど、そんな騒ぎじゃないわ」と思える代物だ。

 王妃は年のころ40才前後。少し神経質そうな顔立ちだが美しい。髪はきっちり結い上げて高くあげ、結った場所に多くの宝飾品を差し込んでいて、贅を強烈に感じる。それもティアナにとってはうまく言葉にならず「すごいわねぇ~」という感想しか出ない。

 王女は年の頃13,4歳ぐらいか。母親譲りの豊かな金髪を下ろしており、うつむきがちな表情を時折隠す。彼女はいつも恥ずかしがりなのか、目を伏せてあまり人々と視線を合わせない。だが、これもまた身に纏ったドレスは豪華なもので、残念ながら人目を引くのは間違いがなかった。

(この国、そこまで財政が潤っているってことよねぇ。王族ってやっぱり違うわ)

 一斉に神官たちは頭を下げる。ティアナもそれに倣う。

「良い。頭を上げなさい」

 と、王妃が凛とした声をかけ、人々はそっと頭を上げる。それから、王妃と神官長の間に何やら会話があり、中に誘う。ティアナは聖女ではあるが、神殿に属しているというわけでもないため、王族の2人と神官長の後についていく。ティアナにとっては、既に今日でこの行事は5回目なので慣れている。よって、神官長とも軽く目配せをして一礼をするだけだ。

 神官長に案内されて、まずは祈りの間だ。神官たちは祈りの間には近づかないため、みな足を止めて控える。神官長が案内をして、最後はティアナ。

(祈りの間に行く時の王妃様、いっつもしかめっ面なのよね……王城での催しはそんなお顔はなさらないのに)

 少しの時間であれど、王妃と王女は祈りの間に立ち入る。きっと、王妃はあの霊体たちを感じ取る力が強いのだろうと勝手にティアナは推測をした。

 扉を開け、神官長は「どうぞ」と2人に中に入るようにと勧めた。王妃、王女と続いて祈りの間に入り、ぱたんと神官長は扉を閉じた。それから、ほんの2,3分後に2人は出てくる。

「ありがとうございます。それでは、こちらへ。半期の神殿のご報告をいたします」

 そう言って神官長は再び先頭に立って歩き出す。王妃と王女は彼に続いて歩き出したが、気が付けば王妃は歩を緩めてティアナを振り返る。

「聖女よ。最近、宝剣は役立っていますか」

「え?」

 一体どういう意味がある質問なのか、とティアナは一瞬喉を詰まらせた。

「は、はい……?」

「そうですか。引き続き、ある程度役立てるように」

 それ以上の会話はない。が、王妃は心なしか表情が柔らかい。とはいえ、それは好意的という意味ではない。会話が終われば、ふいと前を向いて再び神官長の後ろを歩く。彼女は何を言いたかったのだろうか……そう思っていると、通路の角にたどり着く。そこからまっすぐ歩けば神官長の執務室につながるし、折れればエントランス方面に向かう。ティアナはここで別れ、帰ることになっていた。

「では、聖女様はこれで」

「はい。神殿へのご訪問誠にありがとうございました」

 そう言って頭を下げれば、王妃は淡々と

「お勤めご苦労。今後も励みなさい」

と言い放つ。悪い人ではないのだろうが、少し居丈高なんだよな……だが、人々の上に立つ存在ともなれば、そうならざるを得ないのかもしれない、と思う。

(それにしても……)

 神官長。そして王妃と王女の背をちらりと見て、ティアナは一人ごちる。どうにも、いささかひっかかる。

(引き続き、ある程度役に立てるように? 使えっていうことかしら? よくわからないわね……)

 とはいえ、それ以上何かを考えられるわけもなく、ティアナの脳からその会話はすっと忘れられた。
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