弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長?に甘やかされる

今泉 香耶

文字の大きさ
6 / 52

ヤーナックの町(3)

しおりを挟む
 その晩、ヴィルマーとクラウスは宿屋の隣にある酒場兼食事処にミリアたちを誘った。中に入ると、ヴィルマーの仲間たちが既に数人酒を飲んでいて「おっ、帰って来たか」と手を振って挨拶をする。

 子羊を煮込んだシチュー、魔獣バイコーンのもも肉のロースト、この付近で獲れるバントと呼ばれる芋を焼いたもの、野菜を細かく切って甘辛く炒めたものを詰めたパイ……それらを「今日は俺が選ぼう」と頼むヴィルマー。

 彼らは誰も酒を頼まず、果物を漬けた茶を並べて乾杯した。何に乾杯なのかと言っても、特に何もない。「なんかわからんが、乾杯」と適当なことをヴィルマーが言い、クラウスが「出会いに乾杯とか言ったら、ぞっとしたところでした」と突っ込むものだから、ヘルマが声を出して笑う。

「本当は、ヤーナックにようこそ、とでも言えばいいんだろうが、我々はここがホームというわけでもないのでな……毎月やってくるものだが」

「そういえば、子供たちが『おかえり』と言っていましたね」

「やつらからすれば、そうなんだろうなぁ……さ、子羊のシチューを取り分けよう。ここはなんでも大皿で出てくるから、2人で頼む時は気を付けるといい」

 そう言って、ヴィルマーは豪快に盛られた大きな皿から、少し雑ではあるが4つの皿に取り分ける。彼は、取り合分けた皿をミリアに渡す。すると、受け取ろうと手を出したミリアは、その皿を差し出す彼の手をじいっと見る。

「ん? どうした? 何かおかしいか?」

「……いえ、まるで配給のようだと思っただけです。ヴィルマーさんのようにわざわざ全員分よそう人は珍しいなと思って……」

「はは。最初だけな。2人が遠慮をするんじゃないかと思ったので」

 あっさりと彼はそう言葉を返す。聞かれれば答えるが、聞かれなければわざわざ言わなかったのだろう。少し大雑把なように見えて、それは見せかけだ。彼は相手の気持ちに配慮することが出来る人なのだろう……とミリアは思った。

 それから、彼らは互いにそれなりの一線を守りつつ、楽しく食事をした。なんとなく、クラウスとヘルマは馬に関する話で盛り上がっていたので、それを聞きながらミリアは静かに食事をしていた。それへ、ヴィルマーが声をかける。

「君は、食べ方が美しいな」

「そうですか。ありがとうございます」

「いや、思ったことを言っただけだ」

 なるほど、それについては誰にも指摘をされなかったが、少し考えればわかることだ。こういう場で、いつも通り――それは伯爵家での話だ――マナーを守って、いつも通りの所作で食事をしていれば浮いてしまうだろう。かといって、もうそれはどうにもできない。既に見られて、そして既に彼に把握されてしまった。

(身分はまあ……バレても良いといえば良いが、あまり話題になっても困るし、元騎士団長はともかく伯爵令嬢については、知られると少し困るな……)

 金を持っていると思われても困るし、物を知らないと思われても困る。何かにつけて足元を見られての交渉をされれば面倒だ。腕っぷしでどうにかなるなら問題はないが、なんにせよ今のところは伏せておきたい。

(が、そう言っている彼の所作も、それなりに美しく見えるのは気のせいではない)

 ちらりとヴィルマーを見ると、彼もちらりとミリアを見て「はは、気にするな」と笑う。ミリアは心の中で「まったく、侮れないな」と思いつつ、仕方なくそのまま食事を続けるしかなかった。



「ヴィルマーさんたちは、生まれが良い方ですね」

 部屋に戻ると、開口一番ずばりとヘルマが言う。ミリアはミリアで自分の身分がバレてしまうな、と思っていたが、あちらはあちらでそこここに「それ」が見えていたということだ。そして、彼女が「たち」と言ったのは、クラウスも含むということだろう。

「どうしてそう思うの?」

「まず、腰の剣が違います」

「……そうね」

 そこまできちんと目が行き届くのは、さすがと言ってもいい。ヘルマは明るくて、少しおっちょこちょいなところがあるものの、騎士としては優れている。なんといっても、2人旅のパートナーとしてミリアが選んだぐらいなのだから。

 もちろん、ヘルマがこれから言うことの大半は、ミリアが一目で見抜いたことだ。

「あれは、良いところで購入している剣ですね。それに、服。マントに隠れているし、それなりにくたびれて見えますけど、くたびれていても仕立てが良いものは、どんなにくたびれていても、良いものだとわかります」

「そうね。勿論、それは実際に良いと思うものを見て来た人間にしかわからないことかもしれないけれど」

「あと、爪」

 ああ、いいところに気づいたのだな。ミリアは「ええ」と先を促す。

「整えてありましたね。あれも、この辺に住んでいる、しかも、あちらこちらに行き来している男性にしては、綺麗すぎます」

「そうね」

「ね。一体どこの金持ちなんでしょうねぇ~」

 そこで話が終わるのがヘルマの良いところだ。ミリアは「ふふ」と微笑んで「本当にね」と小さく返すだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

処理中です...