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17.求婚
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「失礼する」
「アルフォンス様」
思いの他、早くアルフォンスが駆けつける。未だ、テーブルがひっくり返っている室内だったが、ソファに座ってくつろいでいた――と言うか、それ以外にどうしたらいいのかエレインにはわからなかったのだ――エレインは腰を浮かせた。
「賊は」
「先ほど、護衛騎士たちが連れて行ってくれました」
それへ、アルフォンスの後ろからバタバタと再び戻って来たランバルトが続ける。その様子を見て、エレインは「ランバルトは大変だな」と心の中で呟いた。
「離れには牢がないので、本城の地下牢に入れますが、3人ほど手当てが必要な者がいますので、先に城の医師のところへ……」
「ランバルト。今すぐそこにも立ち会え。医師に口封じされて、そうとは見せずに殺される可能性がある。3人の中にことを知っている首謀者がいるかもしらん」
「……!」
その言葉に慌ててランバルトは部屋を出ていった。まったく苦労性だ。とんだ主を持ったこと、同情をせざるを得ない……そう思いつつアルフォンスを見れば、彼の額には汗が浮かんでいる。彼もまた、彼にとっての全力でかけつけてくれたのだと気づき、ざわりと心が揺れた。
「悪かった。もう、今後はこのようなことがないようにする」
「そうですね……そうしていただけるとありがたいのですが……その、今後も、あると仮定をするならば」
アルフォンスは切り裂いたドレスの裾から出た白い足を見て、彼女の足元に跪いた。
「アルフォンス様?」
「擦りむいたのか」
「ああ、ほんの少し……えっ……」
彼女の足にそっと指を這わせるアルフォンス。エレインは驚いて足を引こうとしたが、彼の力強い手がそれを許さない。
「あっ……」
エレインは困惑の表情で「アルフォンス様」と声をかけた。
「じっとしていてくれ。薬がある」
そう言うと、アルフォンスはポケットから小さな容器を出した。自分で塗れる、とエレインは訴えたが、それを無視して彼は手早く容器の中の軟膏を手にとり、エレインの擦り傷に塗った。
「何の詫びにもならないが。早急にあなたのブレスレットを外す鍵を探させる。ごたごたしていて、まったく兄上の遺品を見ていなかったのでな……申し訳なかった」
ガーディアンの能力が使えれば、この傷もなかったのに、と彼が言いたいのだということはエレインにもわかる。彼は、跪いたままエレインを見上げている。エレインは震える声で「お立ちください」と告げたが、彼はそれを断った。
「答えを聞きたい。もう兄上の葬儀は終わった。エレイン嬢、わたしの伴侶になってくれないか」
「待って、ください……」
そんな風にはっきりと求婚をされるとは思っていなかったエレインは頬を赤らめる。情緒が追い付かない。先ほどまでここで戦って、血濡れた遺体や苦しんでいる暗殺者が横たわっていたのに。そして、今まだ血だまりが残っていて、その匂いが鼻につくというのに。そこで求婚をするなんて、頭がおかしい。
もちろん、彼からの求婚は、受け入れるしかないとは思っていた。昨晩そう腹をくくったのだが、いざ再び尋ねられれば、うまく言葉が出ない。
彼はちらりとベッドの横に立てかけてある剣を見て、生真面目に言葉を差し込んだ。
「剣が、あなたの役に立ったようでよかった」
「あっ……は、はい……ありがとうございます。素晴らしい剣ですね。とても助けられました」
その言葉を聞いて、アルフォンスは憂いの表情で軽くため息をつきながら立ち上がった。
「こんな風に役立てたかったわけではなかったのだが。エレイン嬢。大変申し訳ないのだが、やはりわたしの伴侶になって欲しい。わたしの伴侶になれば、居が移る。王妃となれば、本城の特別棟の二階に行ける。ここは、側室や愛妾のための場所で、それゆえ警備も甘い。だが、特別棟になれば今の倍は厳重になる」
「!」
「ただの側室であればこんなことは必要がないだろうが、あなたはガリアナ王国の王女でいわくつきだ。今後、もしもあなたがわたしに正妻を娶らせて側室になったとしても、ここでの暮らしが継続するわけで、今のようなことが起きる可能性は高くなる」
エレインはじっとアルフォンスを見上げて、息を整えた。それから少し意地が悪い笑みを浮かべる。
「ちょうど良い言い訳が出来たというわけですね?」
「む……」
それはアルフォンスには図星だった。が、仕方ないな、とすぐに小さく笑って
「まあそうだ。おわかりのとおり、わたしが差し向けた賊ではないが」
と正直に言うと肩を竦めた。
それから、彼はソファに座るようにエレインを促す。座った彼女の横にアルフォンスも腰を下ろした。それは、先ほどの騒動で、彼らのソファの向かい側にあるソファは、背もたれに大きく傷が入っており、使い物にならなくなったからだ。
並んで座ったことで、エレインはクリスティアンのことを思い出す。だが、アルフォンスは適切な距離をとってくれていたし、クリスティアンのように無理やり体に触れることは一切ない。彼は淡々と話を続けた。
「そうだな……ここで一つ、あなたにとって魅力的……かどうかはわからないが……」
「……?」
「あなたさえよければ、騎士団の鍛錬所で朝から鍛錬も出来る」
「えっ」
声をあげてから、エレインははっと指で唇をふさいだ。完全に無意識だったようだ。これは、良い傾向だとばかりにアルフォンスは話を続けた。
「特別棟は離れの反対側なのでな。騎士団の鍛錬所には、一階の渡り廊下から行くことが出来る。わたしは毎朝そこで鍛錬を行っているんだが……」
「……わ、わたし、が、剣を持つことを、お許しいただけると……鍛錬の場を与えていただけるのですか……?」
「勿論だ。側室として離れにいては無理だが。ああ、そのための服もこしらえなければな……動きやすい恰好が良いのだろう?」
困惑をしながらエレインは「はい……」と小声で答える。
「ならば、わたしの伴侶になってくれないか?」
「……それは……」
「これでも駄目か」
アルフォンスはため息を一つついて、エレインの隣にどっかり座った。エレインは一瞬身を竦める。それは、故マリエン国王が彼女の隣に座った時の不快感を思い出したが故なのだが、それをアルフォンスは知らない。
「あなたが何を考えているのかは、そうだな……まあ、半分ほどしかわからないが、1つだけ。きっと、国民からの非難はあなたではなくわたしに向く」
「え……?」
「兄を殺した者たちは捕らえたが、1人は自害をし、もう1人はその自害をした公爵に頼まれただけだと言っている。そして、自害をした公爵は、兄の本妻の父親だった。よって、彼女も王族から追放されてしまうだろう。そして、それらを仕向けたのがわたしだと囁かれている」
「けれど、本当は違うのでしょう?」
それには力強く頷くアルフォンス。
「もちろん、それは違うが、こちらとしてもクーデターを起こそうとしていたのだから、そう遠くもない。何にせよ、わたしは疑われ、非難をされる立場だ。そもそも側室の子供だしな。わたしが今後出来ることは、彼の安全を守ること。そして、彼に王という立場を譲ること。それが終わって、ようやく人々からの非難は消えるだろう、というわけだ」
「非難とおっしゃいましたが、この国はあなたのお兄様が国王であることを歓迎していた、ということなのでしょうか」
「なんとも言えん。が、人は自分の利益のためならば、いくらでも人を非難することが出来る生き物だ。それに……」
アルフォンスは軽く首を傾げてエレインを見る。
「マリエン王国は大国ではあるが、無意味な血を戦で流し過ぎた。兄上が王になってから、国庫は相当財が流出しており、一部貴族たちは兄上を支持することで懐を豊かにしていた様子だ。それらを鑑みれば、わたしが即位をして最初は彼らにとっていくらか厳しいことを強いるだろうし、税収もそう簡単に下げることも出来ない。よって、より人々はわたしのことを……いや、まあ、わたしのことは良いんだ。エレイン嬢、手を」
そう言ってアルフォンスはエレインの手を掴んだ。
「アルフォンス様」
思いの他、早くアルフォンスが駆けつける。未だ、テーブルがひっくり返っている室内だったが、ソファに座ってくつろいでいた――と言うか、それ以外にどうしたらいいのかエレインにはわからなかったのだ――エレインは腰を浮かせた。
「賊は」
「先ほど、護衛騎士たちが連れて行ってくれました」
それへ、アルフォンスの後ろからバタバタと再び戻って来たランバルトが続ける。その様子を見て、エレインは「ランバルトは大変だな」と心の中で呟いた。
「離れには牢がないので、本城の地下牢に入れますが、3人ほど手当てが必要な者がいますので、先に城の医師のところへ……」
「ランバルト。今すぐそこにも立ち会え。医師に口封じされて、そうとは見せずに殺される可能性がある。3人の中にことを知っている首謀者がいるかもしらん」
「……!」
その言葉に慌ててランバルトは部屋を出ていった。まったく苦労性だ。とんだ主を持ったこと、同情をせざるを得ない……そう思いつつアルフォンスを見れば、彼の額には汗が浮かんでいる。彼もまた、彼にとっての全力でかけつけてくれたのだと気づき、ざわりと心が揺れた。
「悪かった。もう、今後はこのようなことがないようにする」
「そうですね……そうしていただけるとありがたいのですが……その、今後も、あると仮定をするならば」
アルフォンスは切り裂いたドレスの裾から出た白い足を見て、彼女の足元に跪いた。
「アルフォンス様?」
「擦りむいたのか」
「ああ、ほんの少し……えっ……」
彼女の足にそっと指を這わせるアルフォンス。エレインは驚いて足を引こうとしたが、彼の力強い手がそれを許さない。
「あっ……」
エレインは困惑の表情で「アルフォンス様」と声をかけた。
「じっとしていてくれ。薬がある」
そう言うと、アルフォンスはポケットから小さな容器を出した。自分で塗れる、とエレインは訴えたが、それを無視して彼は手早く容器の中の軟膏を手にとり、エレインの擦り傷に塗った。
「何の詫びにもならないが。早急にあなたのブレスレットを外す鍵を探させる。ごたごたしていて、まったく兄上の遺品を見ていなかったのでな……申し訳なかった」
ガーディアンの能力が使えれば、この傷もなかったのに、と彼が言いたいのだということはエレインにもわかる。彼は、跪いたままエレインを見上げている。エレインは震える声で「お立ちください」と告げたが、彼はそれを断った。
「答えを聞きたい。もう兄上の葬儀は終わった。エレイン嬢、わたしの伴侶になってくれないか」
「待って、ください……」
そんな風にはっきりと求婚をされるとは思っていなかったエレインは頬を赤らめる。情緒が追い付かない。先ほどまでここで戦って、血濡れた遺体や苦しんでいる暗殺者が横たわっていたのに。そして、今まだ血だまりが残っていて、その匂いが鼻につくというのに。そこで求婚をするなんて、頭がおかしい。
もちろん、彼からの求婚は、受け入れるしかないとは思っていた。昨晩そう腹をくくったのだが、いざ再び尋ねられれば、うまく言葉が出ない。
彼はちらりとベッドの横に立てかけてある剣を見て、生真面目に言葉を差し込んだ。
「剣が、あなたの役に立ったようでよかった」
「あっ……は、はい……ありがとうございます。素晴らしい剣ですね。とても助けられました」
その言葉を聞いて、アルフォンスは憂いの表情で軽くため息をつきながら立ち上がった。
「こんな風に役立てたかったわけではなかったのだが。エレイン嬢。大変申し訳ないのだが、やはりわたしの伴侶になって欲しい。わたしの伴侶になれば、居が移る。王妃となれば、本城の特別棟の二階に行ける。ここは、側室や愛妾のための場所で、それゆえ警備も甘い。だが、特別棟になれば今の倍は厳重になる」
「!」
「ただの側室であればこんなことは必要がないだろうが、あなたはガリアナ王国の王女でいわくつきだ。今後、もしもあなたがわたしに正妻を娶らせて側室になったとしても、ここでの暮らしが継続するわけで、今のようなことが起きる可能性は高くなる」
エレインはじっとアルフォンスを見上げて、息を整えた。それから少し意地が悪い笑みを浮かべる。
「ちょうど良い言い訳が出来たというわけですね?」
「む……」
それはアルフォンスには図星だった。が、仕方ないな、とすぐに小さく笑って
「まあそうだ。おわかりのとおり、わたしが差し向けた賊ではないが」
と正直に言うと肩を竦めた。
それから、彼はソファに座るようにエレインを促す。座った彼女の横にアルフォンスも腰を下ろした。それは、先ほどの騒動で、彼らのソファの向かい側にあるソファは、背もたれに大きく傷が入っており、使い物にならなくなったからだ。
並んで座ったことで、エレインはクリスティアンのことを思い出す。だが、アルフォンスは適切な距離をとってくれていたし、クリスティアンのように無理やり体に触れることは一切ない。彼は淡々と話を続けた。
「そうだな……ここで一つ、あなたにとって魅力的……かどうかはわからないが……」
「……?」
「あなたさえよければ、騎士団の鍛錬所で朝から鍛錬も出来る」
「えっ」
声をあげてから、エレインははっと指で唇をふさいだ。完全に無意識だったようだ。これは、良い傾向だとばかりにアルフォンスは話を続けた。
「特別棟は離れの反対側なのでな。騎士団の鍛錬所には、一階の渡り廊下から行くことが出来る。わたしは毎朝そこで鍛錬を行っているんだが……」
「……わ、わたし、が、剣を持つことを、お許しいただけると……鍛錬の場を与えていただけるのですか……?」
「勿論だ。側室として離れにいては無理だが。ああ、そのための服もこしらえなければな……動きやすい恰好が良いのだろう?」
困惑をしながらエレインは「はい……」と小声で答える。
「ならば、わたしの伴侶になってくれないか?」
「……それは……」
「これでも駄目か」
アルフォンスはため息を一つついて、エレインの隣にどっかり座った。エレインは一瞬身を竦める。それは、故マリエン国王が彼女の隣に座った時の不快感を思い出したが故なのだが、それをアルフォンスは知らない。
「あなたが何を考えているのかは、そうだな……まあ、半分ほどしかわからないが、1つだけ。きっと、国民からの非難はあなたではなくわたしに向く」
「え……?」
「兄を殺した者たちは捕らえたが、1人は自害をし、もう1人はその自害をした公爵に頼まれただけだと言っている。そして、自害をした公爵は、兄の本妻の父親だった。よって、彼女も王族から追放されてしまうだろう。そして、それらを仕向けたのがわたしだと囁かれている」
「けれど、本当は違うのでしょう?」
それには力強く頷くアルフォンス。
「もちろん、それは違うが、こちらとしてもクーデターを起こそうとしていたのだから、そう遠くもない。何にせよ、わたしは疑われ、非難をされる立場だ。そもそも側室の子供だしな。わたしが今後出来ることは、彼の安全を守ること。そして、彼に王という立場を譲ること。それが終わって、ようやく人々からの非難は消えるだろう、というわけだ」
「非難とおっしゃいましたが、この国はあなたのお兄様が国王であることを歓迎していた、ということなのでしょうか」
「なんとも言えん。が、人は自分の利益のためならば、いくらでも人を非難することが出来る生き物だ。それに……」
アルフォンスは軽く首を傾げてエレインを見る。
「マリエン王国は大国ではあるが、無意味な血を戦で流し過ぎた。兄上が王になってから、国庫は相当財が流出しており、一部貴族たちは兄上を支持することで懐を豊かにしていた様子だ。それらを鑑みれば、わたしが即位をして最初は彼らにとっていくらか厳しいことを強いるだろうし、税収もそう簡単に下げることも出来ない。よって、より人々はわたしのことを……いや、まあ、わたしのことは良いんだ。エレイン嬢、手を」
そう言ってアルフォンスはエレインの手を掴んだ。
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