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虐げられた令嬢(1)
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アメリアは馬車に乗って、バルツァー侯爵家に向かっていた。不安でいっぱいの胸中には似つかわしくない、広がる美しい青空。どうしてこんな日にこんなに晴れあがるのか、と彼女はため息をつく。
「ああ……どうしたらいいの……」
どうしたら。どうも出来やしない。自分はこのままバルツァー侯爵家に嫁ぐのだ。勿論、本当に嫁げるのであれば。
「こんなドレスで、飾り立てても……何も、わたしには……」
彼女の双子の姉であるカミラからドレスを貰ったものの、アメリアはカミラのような豊満な体つきではない。よって、胸元や腰回りがぶかぶかで、少し不格好。何故なら、アメリアは栄養が偏ったパンとスープという食事だけで日々を過ごしており、発育不良だったからだ。
それでも、若さゆえか肌には張りがあり、髪にも艶がある。それは、アメリアの嫁入りが決まって以来、父であるヒルシュ子爵が「とにかく食べろ。飲め。少しでも見栄えをよくしなければいけない」と、無理矢理彼女に物を食べさせていたからかもしれない。そのおかげか、それなりに見栄えはよくなったような気がする。だが、残念ながらと言うか、当然のようにカミラのように、大輪の花が開いているような、一目を引くほどの美貌を手には入れるには遠かった。
カミラは、ひいき目なしで見ても、誰から見ても美しかった。彼女が微笑めば多くの男性たちは虜になっていたし、何を話さなくとも座っているだけでも、薔薇の花を愛でるように人々は称賛の言葉を送った。流れる黄金の巻き毛に美しい水色の瞳。頬は柔らかなピンク色に上気して、唇はふっくらとして艶やかだ。アメリアは「本当に彼女が自分の姉なのか」といつも不思議だった。
「あら、アメリア。久しぶりに見たけど、いつ見てもあなたは陰気で貧相ね。もっと食べた方がいいわよ。食べ物を貰えたら、だけど」
そして、カミラはアメリアを見て笑う。何故なら、アメリアは「そう」ではなかったからだ。まず、双子だというのにカミラのような豊かな巻き毛ではなく、まっすぐすとんと落ちる髪。それゆえに伸びすぎた時に簡単に切り落とすことが出来たことは幸いだったが、そんなことをカミラは考えたこともないのだろう。
そして、同じ水色の瞳でも、彼女はいつも伏目がちなため、長い前髪と長いまつ毛にそれは隠されていた。そして、陽に当たらずに生活をしていたせいで、あまりに青白い肌。本当にお前たちは双子だというのに……と、この一か月、何度も何度も言われ続けてきた言葉。結局、アメリアはカミラのような華やかな美貌に近づくことすら出来なかったが、それも仕方がないことだ。
そう。あれは一か月前のこと。アメリアは離れの一室に住んでおり、いつもそこで一人で食事をとっていた。だが、その日は突然「ご当主様がお食事を共に、とのことです」と言われ、恐る恐る本館にある食事の間に足を運んだ。
ドアを開ければ、大きなテーブルに大量の料理が並んでおり、そこには父、母、そしてカミラが座っている。一体どこに自分が座れば良いのか、それもわからないアメリアはおどおどする。
「座りなさい」
父であるヒルシュ子爵が声をかける。アメリアは「どこに座れば良いでしょうか」と尋ねた。
すると、カミラが「食事の準備がされている場所に決まっているじゃない?」と呆れたように言う。なるほど、確かによく見れば、シルバーを置いてある場所がある。それは、3人から離れた、出入口に近い角の席だった。そこに座ろうとすれば、給仕の者が椅子を引く。一体何をされるのかと、不安で見上げるアメリアに
「腰をかけてください」
と彼は小声で言った。不安でいっぱいだったが、なんとか椅子に座らせてもらい、アメリアは食事と向かい合う。
(こんなたくさんのもの、食べられない……それに、何が何だかよくわからないんですもの……)
そのことをきっと両親もわかっているはずだ、と思う。そして、アメリアが食べられなくとも、彼らはなんとも思わないのだと。
「ああ……どうしたらいいの……」
どうしたら。どうも出来やしない。自分はこのままバルツァー侯爵家に嫁ぐのだ。勿論、本当に嫁げるのであれば。
「こんなドレスで、飾り立てても……何も、わたしには……」
彼女の双子の姉であるカミラからドレスを貰ったものの、アメリアはカミラのような豊満な体つきではない。よって、胸元や腰回りがぶかぶかで、少し不格好。何故なら、アメリアは栄養が偏ったパンとスープという食事だけで日々を過ごしており、発育不良だったからだ。
それでも、若さゆえか肌には張りがあり、髪にも艶がある。それは、アメリアの嫁入りが決まって以来、父であるヒルシュ子爵が「とにかく食べろ。飲め。少しでも見栄えをよくしなければいけない」と、無理矢理彼女に物を食べさせていたからかもしれない。そのおかげか、それなりに見栄えはよくなったような気がする。だが、残念ながらと言うか、当然のようにカミラのように、大輪の花が開いているような、一目を引くほどの美貌を手には入れるには遠かった。
カミラは、ひいき目なしで見ても、誰から見ても美しかった。彼女が微笑めば多くの男性たちは虜になっていたし、何を話さなくとも座っているだけでも、薔薇の花を愛でるように人々は称賛の言葉を送った。流れる黄金の巻き毛に美しい水色の瞳。頬は柔らかなピンク色に上気して、唇はふっくらとして艶やかだ。アメリアは「本当に彼女が自分の姉なのか」といつも不思議だった。
「あら、アメリア。久しぶりに見たけど、いつ見てもあなたは陰気で貧相ね。もっと食べた方がいいわよ。食べ物を貰えたら、だけど」
そして、カミラはアメリアを見て笑う。何故なら、アメリアは「そう」ではなかったからだ。まず、双子だというのにカミラのような豊かな巻き毛ではなく、まっすぐすとんと落ちる髪。それゆえに伸びすぎた時に簡単に切り落とすことが出来たことは幸いだったが、そんなことをカミラは考えたこともないのだろう。
そして、同じ水色の瞳でも、彼女はいつも伏目がちなため、長い前髪と長いまつ毛にそれは隠されていた。そして、陽に当たらずに生活をしていたせいで、あまりに青白い肌。本当にお前たちは双子だというのに……と、この一か月、何度も何度も言われ続けてきた言葉。結局、アメリアはカミラのような華やかな美貌に近づくことすら出来なかったが、それも仕方がないことだ。
そう。あれは一か月前のこと。アメリアは離れの一室に住んでおり、いつもそこで一人で食事をとっていた。だが、その日は突然「ご当主様がお食事を共に、とのことです」と言われ、恐る恐る本館にある食事の間に足を運んだ。
ドアを開ければ、大きなテーブルに大量の料理が並んでおり、そこには父、母、そしてカミラが座っている。一体どこに自分が座れば良いのか、それもわからないアメリアはおどおどする。
「座りなさい」
父であるヒルシュ子爵が声をかける。アメリアは「どこに座れば良いでしょうか」と尋ねた。
すると、カミラが「食事の準備がされている場所に決まっているじゃない?」と呆れたように言う。なるほど、確かによく見れば、シルバーを置いてある場所がある。それは、3人から離れた、出入口に近い角の席だった。そこに座ろうとすれば、給仕の者が椅子を引く。一体何をされるのかと、不安で見上げるアメリアに
「腰をかけてください」
と彼は小声で言った。不安でいっぱいだったが、なんとか椅子に座らせてもらい、アメリアは食事と向かい合う。
(こんなたくさんのもの、食べられない……それに、何が何だかよくわからないんですもの……)
そのことをきっと両親もわかっているはずだ、と思う。そして、アメリアが食べられなくとも、彼らはなんとも思わないのだと。
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