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獣人騎士団長 アレス

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街道の脇を土煙を揚げ爆走してくる軍馬に、人々は道を譲る事すらできないまま、唖然と見送る。

「・・・今の」

「獣人…だったよな。」

おそらくつい最近、北の国境付近での戦を終われせてくれた英雄である、マカミ国の獣人騎士団。北の国境に向かう時の彼らは急いではいたが、この様な危機迫る勢いではなかった。一体何が起きるのか、起きているのか人々は恐怖していたが、実は爆走していた彼らは、団長のアレス以外誰も何故こんなに必死に馬を走らせているのか分かっていなかった。

「だっ団長!…どうしたんですか?」

巻き上がる砂から顔を守りながら声をかけてくる。人の耳には聞こえないかもしれないが、我々獣人それも狼の耳にははっきりと聞こえた。

主要な街を巡り、勝利の凱旋パレードに付き合いつつ、ハーデン国の首都に向かっていた。次の街ベルギア、戦場に向かう道中立ち寄った街、なんの変哲もない街のはずが、徐々に色鮮やかに、光り輝いて見えてくる不思議な感覚の街だった。なんの縁もないハーデン国に王命で仕方なく来ていたが、この街を守る為に戦うのは悪くないと思えた。
戦の中思い起こすのは、母国マカミでなくベルギアだった。一刻も早く勝利してベルギアに。そればかりが頭をよぎり、部下達も引くぐらいの勢いで敵国イベリスを退け、もう2度とベルギアに害をなさない様しっかり恐怖も植え付けてきた。まあ、ハーデン国の騎士にも植え付けてしまったかも知れないが、それはどうでもいい。

そんな恋焦がれた街ベルギアにやっと戻れる。はやる気持ちを抑えて、ベルギアは逃げも隠れもしないと言い聞かせてきた。しかし、目指すベルギアに突然現れた気配で一変する。
多分、これは、

「つがい」

獣人は、つがいしか愛せない。今まで自分にはつがいが存在しない半端者だと思っていた。戦の中に身をおき、そして、いつか朽ちて死んでいくだけの存在だと…

漏れ出た声は、小さな呟きだったが、獣人達の耳にはっきりと聞こえたらしい。

⁈ ‼︎‼︎

「えっー⁈アレス!マジですか⁈」

副団長のダルムは、今度は顔を守る事も忘れて叫んでいる。

騎士団長、副団長と役職についてから頑なに団長呼びを徹底していた奴から久々に聴いた自分の名に肩の力が抜ける。思いのほか体に力が入って、緊張していたらしい。

意識して力を抜き、気合いを入れる。

「ベルギアへ、急ぐぞ‼︎」

喜びの鬨の声をあげる獣人騎士団とは裏腹に、まさか団長につがいが現れテンションが上がっているだけとは知らない街道は恐怖と不安に包まれた。
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