私は幸せになった

satomi

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〇月×日 我が家に双子の女児が生まれた。きっと妻に似て器量よしの美女になるに違いない。俺は可愛い娘達とキレイな妻に囲まれてなんて幸せなのだろう!

「まぁ、旦那様ったら恥ずかしいですわ。子供たちはまだ目も開いていないのに」

「いや、俺と君の子だ。可愛いに決まっている!」

×月△日 何てことだろう?双子のうちの片方が…オッドアイ。なんて不吉なのだろう?確か妻の高祖父が西の国の人だったと聞いたことがあるが、先祖返りだろうか?中途半端な。

「旦那様…。申し訳ありません。私が至らずに…」

「君のせいじゃないよ。さてこの子だが…我が家にはふさわしくないと私は思うんだ」

「捨てるのですか?」

「そんな非人道的な事はしないよ。ただ…妓楼に売ろうと思う。珍しいから高く売れるだろう。そのお金で残ったこの子に存分に贅沢をさせてやろうじゃないか?」

「そうね。不吉でこの家にはふさわしくないもの。そして残ったこの子に全部の愛情を注ぎましょう?」



このようにして、私は妓楼に売られた。元の家は伯爵家で家名は覚えていない。赤子だったし。
赤子の時はここの妓楼の遊女の方々に支えられて生きのびてきたが、10才を過ぎたころからか妓楼では、体を売ることが出来るようになるまで、見習いとしてあらゆる稽古事をした。そこらの貴族よりもよっぽど教養・マナー・所作ができるようになっていたと思う。


14才になって初めて自分がお客をとることになった。ひどく緊張したのを覚えている。お客様は、この国の加賀見公爵様。
公爵様に最初のお客になっていただくのだから、光栄な事、些細なミスも許されないと妓楼の経営者からは言われた。

加賀見様に舞いをお見せする時にも、目の端に布団が見えて緊張してしまい、持っていた扇子を落としてしまう始末。
ミスをしてしまった…。お気を悪くされただろうか?
しかし加賀見様は気にせずにいてくれた。


それからも加賀見様は私ばかりを指名し、私はこの妓楼でもトップクラスの遊女となった。
「私は楓の君(私の事)を身請けしたいと思うんだ。君を正妻に据えたいと考えている」

「元・遊女が公爵夫人になれるんでしょうか?」

「君の所作は美しい。教養もマナーも申し分ない。遊女というが、私以外の男と寝たことは?」
直接的な質問に驚いたが、私は首を横に振った。髪飾りの音がシャラシャラ鳴った。この髪飾りも加賀見様が下さったもので、私には申し訳ないほど良い品だ。

「それなら問題ないだろう?琴とか他の和楽器もできるんだろう?そんな芸事が出来る令嬢は探す方が難しい」



そして18才の春、私は加賀見様の元へと嫁ぐこととなった。
婚姻の儀の時、実の父親と母親だという人を見た。何かこちらを見てコソコソと何かを言っている。

「加賀見様!大変でございます。こちらの女性はおそらく我が娘のようです」

「ほう、我が娘だと言う娘を妓楼に売ったのだな?」
流石に何も言えないようです。

「ゆ…誘拐されたのです。双子の片割れ。もう一人の片割れが我が家におります。オッドアイの遊女をしていたような娘ではなく、もう一人の確実な片割れの方と婚姻してはいかがでしょうか?」

「そうきたか。そこまで言うのならば、その片割れとやらは当然・・舞いはできるのだろうな?書は?華道は?琴は?その他、教養にマナーも完璧なんだろうな?」
何も言えなかったのだろうか?
愛情の注ぎ方がおかしかったのだろう。大変ワガママな子に育ったので、教養もないのでは?マナーはなんとかだろうけど、その他の勉強というものは嫌がった令嬢か?そのような令嬢の話を妓楼で見習いをしていた時に耳にしたことがある。

「申し訳ありません。我が娘では至らぬところばかりです」
実の父という人は唇を噛んだ。

「オッドアイは不吉だというが、その根拠はどこにある?私は彼女の瞳が好きなんだ。真っ直ぐに見据えてくる。正直な感じがする。そう、貴殿とは異なる」

「しかし!元・遊女という女性は公爵夫人に相応しいとは私は思いません」

「彼女が肌を重ねたのは私だけだが?それでも遊女という職業を偏見の目で見るのか?遊女とはいうが、彼女たちは生きるために体を売っている。それは産まれた境遇がわるかったのも一因だ。貴殿は“娘”だと主張するが、妓楼に売ったではないのか?産まれた境遇の良い女児を。不吉だという根拠も特にわからずに」

実の父という人は私が公爵様の所に嫁ぐということが気に入らないようだ。

「貴殿は侯爵だったな。不幸になるからと捨てたはずの娘がこうして自分よりも爵位の高い人間に嫁ぐという事が気に入らないのだな?器が小さいな」

あ、なるほど。それで、色々つっかかるのか。妓楼で不幸になってると思った私が、よりにもよって公爵様に嫁ぐなんて、今後頭を下げなければならないなんて、苦痛なんだろう。確かに器が小さいと私は思ってしまう。
妓楼で見習いをしてきた時に様々な殿方を拝見する事があったが、器が小さい人物はそんなにいなかった。

「そういえば、貴殿は誘拐されたと言っていたが…誘拐されたと言っていたわりに、捜索願は出ていただろうか?実の名前は?そもそも、籍がなかったんだよなぁ」

「…」

「妓楼に捨てて、死んだことにしたのか?赤の他人扱い?この娘ではなく、今育てている娘をまず推したからな。この娘との再会を喜ぶとかなかったし?」

「…」

公爵様、この人はそんなに言い負かすほどの価値のある人間ではありません。もう放っておきましょう。そのうち自滅するでしょう。今回の事が社交界に出て、社交界でも大変噂になるでしょうね。


「さぁ、邪魔が入ったがめでたい席だ!ぱーっと飲み明かそう!!おっと、俺はこの新婦と甘い夜を過ごすがね!」

「「いよっ、色男!」」

そうなんだよねぇ。ここで見るとよくわかる。公爵様はイケメンと呼ばれる人種なんだろう。妓楼にいる時は妓楼の中しか見たことがないから、知り得なかった世界だ。
世の中には多くの殿方がいるんだなぁ。

確かに加賀見様は今まで拝見した殿方の中でも相当イケメンではあるが、どうやら断トツのようだ。なるほど、実の父という人が嫌がるわけもこれなんだろう。可愛い我が子を差し置いて、捨てたはずの私が‘イケメンで爵位の高い’加賀見様の元に嫁ぐという事が屈辱的なのだろう。


夜も更け、二人だけで過ごす夜がやってきた。特に感慨深いものはない。今までとさして変わらないから。
「ところで、楓の君というのは妓楼での呼び方で、君の本名はないのだろう?何と呼ぼうか?」

「問題はそこなのですね。楓とでもお呼びください。私はこの名前を気に入っています」

「ではそうしよう」

これからは名前が特別なものとなって、夜が更けていった。

名前が決まって、加賀見様に呼ばれるだけでドキドキした。不思議だ。
加賀見様も「自分は今後楓に昇悟と呼ばれたい」と、言われ、私は昇悟さんと呼ぶことにした。


翌朝
「おはようございます、昇悟さん。本日のご予定は?」
私は正座で三つ指をそろえお辞儀をして挨拶をした。何故か昇悟さんは驚いている。

「あー、和室に布団で寝てるからだなぁ。うちも洋間でベッドで寝ようと思うんだがどう思う?」

「昇悟さんが仰る通りに…」

「うーん、そうじゃないんだよなぁ。楓、自分の意見をはっきり持つことが大事だ。もしも俺が楓を手放すって言ってもいいのか?」

「あ、それは嫌です」

「そうそう、そういう風に自分の意見を持ってる方が魅力的だよ。今日の俺の予定?うんとねー。確か王宮に行って事務仕事かな?」

「定時に帰ってこられます?」

「多分」

「では、夕飯をお作りしてお待ちしていますね」

昇悟さんは就業のためのスーツに着替えた。いつも和服ばかり見ていたし、昨夜も和服だったので、新鮮。
私は着物以外を着たことがない。
「どうした?」

「スーツ姿の昇悟さんが素敵だと見惚れていたのです」
私は正直に言った。

「そうか?そうだ!今度、楓の洋装も見てみたい!買い物に一緒に出かけよう!」
やはりそうなるのか。でも昇悟さんとお揃いになるようでちょっと嬉しい。昇悟さんの照れ隠しかなぁ?なんかお顔が赤いし。

「世間では結婚指輪というものが流行ってるようだ。お互いの瞳の色の石を使った指輪をするそうだ。俺は石が2つだなぁ♪」
なんか浮気者みたいに見えないかな?私がオッドアイだと知らなかったら浮気者とか思うかも。

公爵というのは王宮でも仕事があるのか…大変だなぁ。家でも仕事があるみたいだし。私にできることないかなぁ?


夕飯…作るとは言ってみたものの。作り方、わからない。

私が困っていると、公爵家の使用人の方が料理を教えてくれるそうだ。
「本来は公爵夫人というのは料理をしないものなのですが、公爵様が楽しみにしているようですので、お教えいたします。時間がかかるものから取り掛かるのがよいかと存じます。まずは炊飯でしょうか?お米を炊くのは時間がかかるものなのです」

それから私は料理の仕方を教えてもらい、まずは自分の昼食を作った。

夕食は私のみの力で作ろうと思う。献立から全て。


私が初めて自分だけで作った料理たちを食卓に並べると、心なしか茶色い。焦げた匂いも充満しているよう。
換気扇のスイッチを入れ忘れた。

「スイマセン。料理、初めてで…」

「楓の初めての料理を食べれるなんて光栄だよ」
そう言って加賀見様は完食してくれた。体調を崩さないか心配してしまう。料理…、しっかり勉強しよう。

私の料理の腕はメキメキと上がったようで、今では加賀見様…じゃなくて昇悟さんのお墨付きももらった。たまに失敗するけど、8割がた成功するのでOKだろう。と思いたい。食卓の上が茶色になるようなことはない。

デートというのかな?もう結婚してしまっているけど。
二人で指輪を買いに行った。
私は昇悟さんの瞳の色。オニキスがついた指輪を。昇悟さんは私の瞳の色黒と青みががった緑かな?のもの。えーと私とお揃いと言って、オニキスと青みがかった緑ということで翡翠のついた指輪をオーダーした。

さすがに、すぐにあるものではなく、石を私達が選び、サイズを計り、後日手に入るらしい。
実物は公爵家に届けてもらうようだ。

「あとは、ほら楓の洋装を見てみたいんだ。洋服店に行こう♪」

と、強引に連れていかれた。私に似合うのだろうか?

「俺の妻だ」と、昇悟さんが店の人に紹介した。
その一言で、「まぁ、お美しい奥方と結婚したのですね!おめでとうございます!」
と、店の方々からお祝いの言葉をかけていただいた。

お美しいなどと恥ずかしい。
「えーと、昇悟さんがたまには洋装の私の姿も見たいようで…」
と、私は正直に言った。

「まぁまぁ、加賀見様も奥方様はお美しいから、そのような事を仰ったのですね?任せて下さい!店の名に懸けてコーディネートして見せます!!」
そのあとは着せ替え人形のように、色々着せ替えさせられた。
昇悟さんは「どれも似合うから、全部公爵家に届けておいてほしい」と、仰った。
2・3着だと思ったのに…。

「昇悟さんは洋服を買い求められないんですか?」

「俺は今まで結構買ったからなぁ」

「公爵様!世の中には流行というものがあるのですよ?今はこのスタイルが流行っております。公爵様が昔買われた服はまだまだお似合いですが、時代遅れなんです!」
そんなのがあるのか…。洋服って難しい。
今日の昇悟さんは和装(それもお似合い)ですけど、流行りの物をお召しになるのかぁ…。

その後、昇悟さんも着せ替え人形となり、
「楓はどれがいいと思う?」と聞かれた。
正直、どれもお似合いで一番が選べない…。
「えーと、正直に本当にどれもお似合いだったので、一番いいものが選べなくて困っております」
と答えた。
すると、昇悟さんは衝撃の「今までの全部公爵家に送っておいて」発言を…。私が思う金額よりも高そうだけど、いいのかな?
二人の服でかなりの額を消費したと思うケド、いいのかな?


「さぁ、次はさっきの店員さんオススメのカフェに行ってみよう」
と、昇悟さんは言う。いつの間にそんな話をしてたのだろう?私が着せ替え人形だった時かな?
「ここではカフェオレというのが流行っているらしい」
と、昇悟さんに言われた。
食べ物にも流行があるんだ。料理の勉強も難しくなったなぁ。と思う。

「楓、疲れていないか?」
昇悟さんと二人でカフェのオープンテラスにいる。道行く人が振り返る。昇悟さんイケメンだもんね。私も誇らしい気持ちでいっぱいになる。

「カフェで座って休んでいるから平気です。それより、やはり昇悟さんは人気者ですね。道行く人が振り返りますよ」

「ここまで無自覚なのもなぁ。俺達さっきの店から洋装だろう?洋装の楓は相当の美人なんだよ。それで振り返るんだけど。無自覚なんだなぁ…」
そうかなぁ?昇悟さんを見てると思ったのに。

「あー、外のテラスじゃなくて中にすればよかった。楓をあんまり見せたくないなぁ」
??どういう事だろう、私にはわからない。

「そう言えば、今度国王が楓に会ってみたいって言ってた。国王も最愛の第3王女を嫁に出して傷心なんだよ」
そうなんだ。妓楼では王家の話は出なかったから初めて聞いた。国王は第3王女を溺愛してたのか…。
「一応大きな商会の一人息子の所に嫁いだみたいだけど…」
へぇ。としか私は言えない。王家など別世界の話。

「楓を国王が気に入らないか俺は心配だよ。養女にするとか言い出したら、俺はどうすればいいんだ?」

「既婚者です。って断ることはできないの?」

「そうだな、既婚者だよな。楓を娘にしたところで、楓の後見人になるだけだし、そう今と変わらないか!」
いえ、私の後見人が国王って…。


国王との謁見の日がやってきた。私はこの間の昇悟さんとのデートで買って頂いた中でも高価だと思われるものを着て、登城した。昇悟さんはいつもの通勤スタイル(流行のものになってカッコよさが2割増し♡)だ。

「ほう、其方が楓殿か。加賀見から話はよく聞いている。大変優れていて、美しい奥方だと」

「恐れ入ります」

「面をあげよ」との命があったので、私は顔を上げて、国王のご尊顔を初めて見た。ありがたや~。

「こ…これは、加賀見よ。お主の奥方を儂の養子にしてはダメか?」
昇悟さんが危惧していた通りの状態になった。

「国王、恐れながら彼女は既婚者なので共に暮らすとかは陛下の夢物語ですよ?」

「むむむ、では彼女の後見人ではどうだ?今の後見人は誰だ?」
誰だろう?昇悟さん?妓楼の経営者?誰なんだろう??

「あ、それならば問題ないですね」

「あと、楓殿には月に1度くらいは顔を見せて欲しいなぁ」
国王におねだりされた。元・平民みたいな私に断るほど心臓は強固ではないので、絆された。後で昇悟さんに怒られるかな?登城する度に新しい服を買わないとなぁ。

「それでは、国王が楓の後見人という事で。では失礼いたします。楓、帰るぞ」
いいのかなぁ?と思ったけど、その場は昇悟さんに従って帰ることにした。城でのマナーとか知らないし。


私の後見人が国王になったことも、実の父と母という人たちには気に入らないようです。しかし、後見人は国王なので、下手に私に手を出すと、痛い目を見るのは向こうです。

そう言えば、最近私は目について言われることが少ないと思いました。
オッドアイとか見た目に偏見を持っているのは少数派なんでしょうか?実の父と母も?
洋服を買う時も目の事は何も言われなかったし、国王も全く気にしていなかったようだし。
ん?双子ならば私の片割れの子も国王が後見人になってくれるんじゃないだろうか?と昇悟さんに話した。

「楓、そうではない。見た目はもとより、滲み出る教養の深さとか所作の感じが国王に気に入られたんだろう。だから、いくら見た目が同じでも教養がないようでは国王は何も思わないだろう。重要な要素に所作もあったんだろうな。なにしろ、第3王女が手元にいなくて悲しいところだからなぁ」

そうか、私は第3王女の代わりみたいなものか。それは心して国王にお会いするべきだと私は思った。
「国王は、第3王女の代わりとか思ってないだろうね。むしろ第4王女みたいな?」
はぁ?私が王女?それはないない!
でも、私が王女様だと昇悟さんは王子様か。昇悟さんが王子様はありだなぁ。
などと私は思うのです。

それから、月に1度は国王に謁見するようになった。
話すことは、私の日常なんだけど、そんなのでいいのかな?もっと面白い話の方がいいのでは?と思ってしまう。

「時に楓。気のせいか、顔色が悪いぞ。帰りにでも王宮の医師に診てもらうといい」
それはどこに行けばいいのだろう?
わからないので、とりあえず昇悟さんが働いている場所を教えてもらい、昇悟さんに案内してもらうことにした。


昇悟さんに、国王に王宮の医師に診てもらうように言われたけど、場所がわからないからついてきてほしいと告げ、ついてきてもらう事にした。
昇悟さんは今こなしている仕事を部下(といっても多分昇悟さんより年上の方)におしつけるようなかたちで私につきあってくれた。

「国王、よく楓の事見てるんだな。ちょっと悔しいぞ。俺が一番だと思ってるのに!」
国王に嫉妬してくれたのかな?嬉しいです!


医務室で言われた。「おめでとうございます!ご懐妊です!!」
一瞬二人とも思考が固まってしまった。
そのあとで喜びが押し寄せた。
「そうか。俺、父親になるのか…」
実の父という人とかに知らせる必要はないだろう。むしろ、この喜びを察知した国王すごいなぁ…。
そっかぁ、私も母親かぁ。子供ができるような行為自体はもう4年くらい続いてるのよね。
ただ避妊は昇悟さん頼みだったケド。(遊女の頃は客にそのような要求はできないもの)

「国王に知らせたほうがいいわよね?」
「そうだな、国王のおかげでわかったようなもんだし?」

私たち二人で謁見の間に戻り、国王に報告した。

「はははっ、やはりなぁ。加賀見の溺愛ぶりをみるとそうだろうとは思ったけどなぁ。なんだかお爺ちゃんになる気分だ」
もう、王女達が子供を産んでいらっしゃるし、今更だろうと思う。
「国王、今更でしょう?王女達がお孫様達を産み遊ばしているでしょうに…」
言うには、気分が違うらしい。どう違うのだろう??


公爵家では急ぎ、子供のための部屋を用意。
使用人も用意。準備が着々と進んでいく。

「あのー、まだ妊娠数週間目なんですけど?」
と、私が言ってもノンストップで準備は進む。

子供の性別が不明のため、男女両方の物が揃えられた。片方無駄になるのか…。心が痛い。


そうこうしているうちに臨月となった。
子供の性別については秘匿する主義の先生らしいので未だに性別不明。
ただ、ものすごく重い。お腹で大きく育っている。健康なのはいいが、出産で私の命が危ない。

そんなことを考えている時に限っての破水…。
公爵家、強いな。出産の為の部屋まで用意されている。
私はそこで出産に臨んだ。

超痛いけど、産まねば痛みは続く。と痛みとの闘い。
このまま死ぬんだろうか?と何度思ったことだろう?
「ギャー」
あ、出た。解放されるんだ、良かった。
「奥様!気を抜いてはいけません!もう一人入っています!」
マジか?痛みとの闘いからの解放はまだのようだ。
「ギャー」
もう終わりよね?休みたい。疲れた…。

「奥様!おめでとうございます!男の子と女の子の双子ですよ。お二人とも生まれてすぐだというのに、麗しい雰囲気を纏っていらっしゃいます」
男の子と女の子の双子…。道理で重かったわけだ。他の情報はどうでもいい。今は疲れたから、眠らせて…。
「楓―!!」
昇悟さん?!
「お疲れ♡男の子と女の子の双子。がんばってくれてありがとう」
うん、だから疲れてるから眠らせて?
「名前はどうする?」
寝てる間に勝手に決めて下さい。マジで眠い…。
私はコトきれるように眠りについた。ようやくの睡眠。なんて心地よいんだろう?
「楓―――――!!」
と、私を揺さぶる昇悟さんがいなければ。

「恐れながら、旦那様。奥様は非常にお疲れです。ゆっくりお休みしていただこうと臣下一同思っているのですが…」
それでやっと昇悟さんは自分は私を苦しめているという事に気づいたようで。

それから私は2日2晩ずっと寝ていた。
私が起きた時には名前が決まっていた。2日も名前がなきゃ不便だもんね。
男の子は誠(まこと)、女の子は桜花(おうか)

遺伝ってすごいな。誠の両目が私の何とも言えない色、もう緑色でいいか。だったんだよね。
桜花の両目は黒。
男女の双子は全く違うというのは本当だなぁ?
どっちが数分年上になるのかしら?誠?桜花?

使用人の話によると、五分五分で正直どっちでもいいやと思ってしまう。
でもほら、戸籍とかあるからね?
昇悟さんの話だと誠の方が年上にあたるらしい。
昇悟さんを信じて戸籍を出そう。兄妹っと。


久しぶりに国王に謁見した。双子は使用人に預けた。二人とも手のかからない良い子です☆

「加賀見から聞いたぞお疲れ様だったな。して、双子は?」
「今日は家の使用人に預けてきておりますが?」
「なんじゃー。儂だって会いたかったのに」
そうだったのか!!
「うちの双子でよければいくらでも連れて来ます。次回謁見する時には必ずや連れて来ますね!」
「必ずだぞ!」
国王が必死だなぁ。きっと親バカ炸裂昇悟さんに色々双子について聞いてるんだろうなぁ。



男女の双子だったので、準備していたものが全く無駄にならなくてよかった。
双子が生まれてからというもの、昇悟さんは毎日欠かさず定時に帰宅するようになった。
双子と同時にバカ親も生んだみたい…。
「だー」
「あー」
昇悟さんが帰宅時に発した言葉とういうか音?
「楓、!聞いたか?双子が俺に「おかえり」と言っているぞ?」
あれが「おかえり」に聞こえるなら、病院に行った方がいい。というのは心の中にしまっておこう。

「あぁ、お腹すいたの?さっきも授乳したんだけどなぁ?」
そう言い、私は母乳を二人に与えた。
通常貴族なら乳母に育てられるものだが、私はできる限り自分で育てたい。と昇悟さんに伝えた。

「あ、今日も俺が二人をお風呂に入れる!」
と、昇悟さんも育児に取り組んでくれる。というか逆にやる気だ。出せるものなら、母乳も出したいのではないのではないだろうか?というくらい二人を溺愛している。

せっかくベッドを購入したが、二人でラブラブすることはない。
数時間おきに双子が授乳やらオムツ交換やらで起こすので、二人で疲労困憊である。
夜くらい使用人の手を借りてもいいかな?と思うけど、昇悟さんは「夜こそ育児の醍醐味!」と言う。言っている意味が分からない。
でも…一人で頑張るより助かってるかな。…双子だし。


そうこういってるうちに二人とも、婚約適齢期というのか?貴族ではそうなのか?10才になりました。
毎日のように、肖像画付きの釣り書が届きます。絶対本人じゃないだろう?って絵だけど?

国王も昇悟さん同様に二人を溺愛している。特に桜花。「嫁にやらん!」と言っている。
一生独身の娘?それはそれで可哀そうだよ?
誠には権力という権力を使って、いい婚約者をあてがおうとしている。
有難いんだけど。微妙だなぁ…。二人とも恋愛結婚してほしいなぁ。と思う母なのです。

「母上!どうして俺の瞳は母上の片方の目のように緑色なのでしょう?」
ついにその件について誠に問い詰められたかぁ。

「誰かになんか言われたの?その眼の色イヤかなぁ?母様はその緑色好きよ?」

「周りで一人だけなので、仲間外れの気分なのです。桜花すら黒い瞳ですよね?」
みんなと一緒がいい年頃なのかぁ。

「そんなことで悩んでいたの?もし、瞳の色が黒色で、手足が他の人よりも長かったら?背が高かったら?どうかしら?それでも他のみんなと同じがいいかな?」

「長さは違いがあります!眼の色は顕著に黒は黒!」

「そうかな?よく見てごらん?黒い子でもちょっと灰色に近かったりするのよ?誠が緑色で目立ってるから、ターゲットにされていないだけ。多分誠の瞳の色が桜花と同じだったら少し黒色より瞳の色が薄い子がターゲットになるはずよ?
瞳の色でなんか言われたんでしょ?母上はオッドアイって珍しい形だから、実の両親には捨てられたわ。父上が救ってくれたのよ?
あ、そんな惚気じゃなくて瞳の色の話だったわね。母様の母様の高祖父が西の国の出身という話を聞いたことがあるわ。その隔世遺伝じゃないかしら?イジメ?
そうねぇ「いいだろ、俺の瞳には他のやつらには見えないものも見えるんだ」とか嘯いたら?嘘だけど、このくらいゆるされるわよ。例に挙げるなら桜花の下着の色とか?桜花に怒られるかしら?」

「母様、要するに緑色に悪気はないし、それはそれなりにいいところもあると言いたいのですか?」

「あ、そうそう。いいところはどこなのかわからないけど、少なくとも西の方では誠みたいな瞳の色が自然で逆に黒い方が珍しいんじゃないかなぁ?行ったことないけど。だから、気にすることないと思うんだけど?」

「うん。俺、もうちょっと大きくなったら西の方に行こうかな?」

「それもアリじゃないかな?」
などと、母息子で会話しているとも知らずに、国王と昇悟さんは婚約者探しに必死になっていた。


その日の夜、昇悟さんに「誠が将来西の方に行こうかな?って話てた」って話をした。
「俺と国王が必死に誠にふさわしい婚約者を探そうとしているのに…」
と言われた。

「私は…二人には恋愛結婚をしてほしいと思ってるんだけどなぁ」
と、言っておいた。

多分、誠は西の方で出会いがありそうだけど、桜花は?
国王の所につかまりそうだから、そのあたりの騎士とかかなぁ?

二人とも恋愛結婚だといいんだけど。


さらに年月を重ね双子は17才になり、誠は西の方へと一人で旅立った。
「手紙寄越しなさいよ~」と、私は言った。他にもいっぱい言いたかったけど、とりあえずのところこれだけ。

桜花は国王につかまった。もともとできる子だけど、その頭脳を国のために使うようにということで今は宰相補佐かな?昇悟さんより上のポストじゃないの?とか思ってしまう。
二人(桜花と昇悟さん)とも王宮勤めとなった。

やはり、桜花は近衛騎士の方と恋に落ちたようでなにより。恋愛結婚を望む私には朗報。昇悟さんの仕事中、気が気ではないらしい。

誠も西の方で出会いがあったようで、そのことを報告するような手紙が届いた。やはり西の方では瞳の色を気にしなくていいから気がラクらしい。


私は家族4人が幸せならばそれでいい。と思う。




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