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12話 クラリネットと壊れちゃった水晶

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「10月は吹奏楽の季節‼」
 そう言って、颯爽と鴻上先輩は現れた。
「リョウ君、吹奏楽のコンクールに助っ人で参加して‼」
――リョウってなんか吹奏楽の楽器出来るのか?
「仕方ありませんね、今回だけですよ。楽器は何ですか?曲目は?」
「リョウ君、何の楽器の経験あるの?」
「なんにもないですよ」
――事実だろう
「とにかく!部室に放課後来てね‼」
――これもハルカへのアピールだろうが、すさまじいな。リョウは何か楽器出来ただろうか?俺が知るかぎりはない‼皆無‼

 放課後に吹奏楽部の部室へ行った。例の如く、俺も。
「ようこそ、リョウ君‼…その男子は誰?」
「あー彼は俺がホームステイしてる家の人で、あとクラスメートでもある最上翔です。何か文化の違いで戸惑ったりが嫌だったので、付き添ってもらいました」
「せっかくなので、移動の際の楽器の荷物持ちとかします。雑用として置いてください。よろしくお願いします」
――『力持ち』とか言われる前に自分から先に言っておいた。
「何がうまくできないから、とりあえず試しに色々吹いてみて‼」
――畜生!全部プロ級だよ。本読んだんだな、吹奏楽関係の本を大量に‼女子は目が♡だよ、鴻上先輩を除いて
「何でも出来るじゃない‼しかもすごく上手‼これならソロパート任せられるわ」
――ハルカに存分にアピールしてくれ
「そうねぇ、曲目は『ホルスト作曲・組曲惑星より木星』にしましょ。リョウ君の楽器はクラリネット‼パートリーダーもしてもらうわ。クラのソロが目立つように編曲もして…あー忙しい♪」
――リョウ…がんばー
「俺は練習すればすぐ出来るんだけどさぁ、パートリーダーだろ?クラのメンバーみんなできないとだからしばらく放課後は吹奏楽部だな」
「わかった。俺はバイトに専念するよ。お互い頑張ろうぜ」

 そして、本番。
――すげーな。色んな制服の色んな女子がいる。
「翔!今日はリョウ君の応援でしょ‼」
――きっとこの中にも他校でリョウのファンがいるんだろうな。男とかも…?リョウのせいで俺の脳みそが腐る……
「リョウな。クラリネットでソロあるんだと」
「へぇ、すごいねぇ。クラも出来るんだ」
――はーい、何でも出来まーす
 ソロは…またしても黄色い声援が邪魔をしてあんまり聞こえなかったが、クラリネットを立って持ち、ソロを演奏する姿はかっこいいと俺も思った。
「あ、見つけた!ハルカと翔‼俺どうだった?」
――また俺の名前が後。いいんだけどさ、あからさまで
「うんとねーリョウ君のファンの黄色い声援であんまり聞こえなかったけど、振る舞いっていうのかな?姿がかっこよかったよ。さすが王子って感じ。今、私の高校でリョウ君『王子』って呼ばれてるの」
――実際王子だよ…
「一応俺も同意見な。ところで帰りは雑用あるんだろ?」
「うーん、パスしちゃおうか。3人でこのまま帰っちゃおうよ。あ、楽器は置いてくる」
――へぇ、3人でねぇ。と、思ったその時
「リョウくーん」
「あ、ママ⁇」
――マジかよ?母さん来てたのかよ?
「リョウ君、かっこよかった。パパには負けるけど!」
「知ってる。ママはパパが一番ってこと」
「イヤだぁ、こんな公共の場で‼」
――むしろ日々恥ずかしい言動を家の中で繰り広げてる
「この後、どうしようか?3人で抜ける予定だったけど、ママが」
「じゃあ、うちでパーティーしましょ。リョウ君が素敵な演奏をした記念よ!ちゃんと録画してあるんだから‼あとでみんなで見ましょうね‼」
――またあの猟奇的な声援を聞くのか…


「オッス、ただいま。リョウのコンサートどうだったんだ?」
「あぁ、まさにリョウのためのコンサート。黄色い声援でリョウの演奏はほぼ聞こえなかったよ」
「さぁー、みんなでリョウ君の演奏聞きましょ‼」
――演奏というか、女子の黄色い声援だ
 見れば見るほど立ち振る舞いというのか?確かにかっこいいな。
「やっぱり、リョウ君の演奏の音は録画でも入ってないですね。期待してたんですけど」
「ハルカが望むならいつでも演奏するよ」
――なんか親父みたいだ…。リョウ、クラリネット持ってないだろ?どうするんだ?
「リョウ、クラリネット持ってたのか?」
 そう俺が聞くと
「バイトでも何でもするさ。カットモデルっていくらくらい稼げるんだろう?いっそモデルって手もあるよな…」
――やめてくれ。家の前の人だかりがますます増えてしまう
「親父のとこでバイトにしておけよ。あとカットモデルな」
「俺の事務所でバイトなら後払いでもいいぞ、その代わりこき使うが」
「それでいきましょう‼」
 などと話していたのに、あっさりと吹奏楽部が貸してくれた。2日だけだけど。
「ハルカに連絡取らなきゃ。なにせ2日だけだからな」
「あー、うちの人間も演奏聞きたい。ハルカだけじゃなくケチケチしないで家族にも聞かせろよ」
――俺が聞きたかった。そしてまたパーティーの予感…


――予感的中
「リョウ君、初コンサートde初ソロ記念パーティーよ~!そして、実はローストチキン・秋バージョンを作っちゃいました~‼パーティーの他の料理はほとんどハルカちゃんが準備してくれたの~」
――というか、何故秋にローストチキン?そしてバーベキュー…下ごしらえって野菜切ったりか?
「へぇ、ハルカって料理得意なの?」
「野菜切るくらいは出来るわよ‼昔からアヤメさんの手伝いしてるし」
――ハルカの料理…カレーとかか?…レトルトの
「ところで、母さん。ローストチキンのチキンの中に何入れたんだ?」
「食べてからのお楽しみよ、それは。ピーマンは入れてないから安心して」
――まぁ、とりあえず安心かな?
「アヤメ、これは極めて重要なことだ。間違っても、君の愛は入ってないだろうね?」
「もう、銀ってば。私の愛は銀にだけよ。料理は愛情っていうけど、あくまで情ね。愛は銀、あなただけよ」
――バカップルが近所迷惑だ。
「俺、あとで家の中でクラ演奏しますね、近所に響くと迷惑がかかるので」
「さぁ、皆で食べましょ~‼ケルリンにはほら、生肉よ‼」
――予想外に異常な喜びっぷり。尻尾の振り具合が半端ない
「骨付きの肉の方がいいのか?ファストフードのは調理済みだからなぁ」
「骨付きの方が食べ応えはありますね」
――こんな住宅街で狩りできないもんな。入手が困難だ
「あら、ケルリン。骨付き肉の方がいいの?普段でもお店にあるか、今度お店の人に聞いてみるわね」
「かたじけない」
――武士かよ

家の中でリョウによるクラリネットの演奏が始まった。
「えーと、コンサートでの曲はそのままだとクラリネットパートなので、クラリネットでうーん何吹こう?」
――考えてなかったのかよ‼
「リクエストはありますか?」
「J-POPっていいのかなぁ?」
「その場で頑張って即席編曲します‼」
「秋だからなぁ…。ってこっちは演奏聞ければなんでもいいんだよ‼」
――逆ギレの観客。というか曲くらい決めてるもんだと思ってた。まさかハルカが好きな曲を演奏しようとかか?
「私は面白いから、運動会でよくかかる『天国と地獄』が聞きたい‼クラリネットのソロだとどうなるのか興味あるー」
――リョウは小学校未経験だから『運動会でよくかかる』というのがよくわからないのでは?と思ったが無駄な考えだった
「え?あれでいいの?」
――クラッシックから何から音楽聞きまくったのか?音楽覚えまくりなのか?どんなリクエストにも対応が出来るように
 そして、リョウは完璧に演奏した。音は何というか、優美でしなやか。でも頭の中では運動会の情景がチラホラ。…何故だろう?アナウンスまで。もちろんリョウの演奏姿もかっこよかった。
「へぇ、演奏者が違うと違う曲に聞こえるもんなのね」
――同じ曲だよ。よかったな、リョウ
「明日にはこのクラリネット、返さなきゃいけないんだけどね」
「そうなの?借り物だったの?」
――借り物だったの
「ハルカが望むならマイクラリネット買うよ」
「いいよー。だって、楽器って高価でしょ?そんな買い物をさせるわけにいかないって!」
――うーんリョウの発言が親父に似てきたのはどうすればいいんだ?ハルカが鈍くてよかった。バカップル2号が誕生でもしたらこっちはたまったもんじゃない
「クラリネット、買おうかな?」
 リョウがつぶやいた横で、ハルカはうちのバカップル両親と話していた。
「私は楽器だとやっぱりヴァイオリンの音が好きだなぁ」
――どうする、リョウ?クラリネットもヴァイオリンも高価だ
「ヴァイオリンは初心者だとものすごい音するのよね、確か。こうノコギリとか爪でガラスをひっかくみたいな」
「そうだなぁ、俺は楽器はそうだなぁ、アヤメかなぁ?」
「アヤメさんは楽器ですか?」
「まぁ、俺には最高の楽器だな」
「んもう、銀♡」
「いつも、ラブラブですねー」
――止めろよ、ほっとくとかアリか?
「どうするんだ、リョウ。ヴァイオリンを買うのか?」
「そうだねー、できるだけ彼女の好みに近づきたいから」
――こっちは一人で止まらない

 @玄関
「今度は何だ?吹奏楽コンクールでクラリネットのソロをリョウが‼動画はあるんだろうな!」
――どっちかというと、早く水晶で自分で見ろよ。と思う
「久しぶりです~、リョウ君の雄姿は私がキッチリ録画しました‼」
「有能な母君だな」
――録画の有無でそこまで?
「何回見てもクラの音は聞こえないなぁ。姿はかっこいいと思います」
――面倒な王だよ
「音が聞きたいなぁ」
「それはワガママってもんですよ‼」
 と玄関をリョウが閉めた。リョウはクラの音を王じゃなくてハルカに聞かせたいんだから当然と言えば当然の行動だ。
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