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エリザベスの訪問
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しおりを挟むシムは嬉しかった。
偶然にも今日の終わりにまたカスパルと話すことが出来た。
まさにああすれば良かったこういえば良かったと思ったことを、カスパルに伝えることが出来た。
きちんと声も出た。
目も見れた。
そして見た目の威圧感と自分の想像で膨れ上がっていた恐怖心で直視出来なかったカスパルは、怖い人間ではなかったことに気づけたことが何より嬉しかった。
シムの話を快く了承してくれ、頭を撫で、これがシムという人間だと認識した上で笑いかけてくれた。
実はとても人懐こく太陽の様な人間だった。そう気づけて嬉しかった。
そのことにシムは感動していた。
人を知ることを今までしてこなかったシムにとって初めての感覚だった。
しかしあまり表情に出ないシムは、端から見れば厨房の隅で真顔で座り込んでいる様に見えるので、召使い達は気を使って話しかけずにいる。
「なあ…今日シムなんかあったの?」
「知らない…庭に一日いたみたいだし、疲れたんじゃないかしら?」
シムは無表情の中では色んな感情が目紛しく激動していることが多々あるのだが、対人能力の劣るシムは表情も自在にならなかった。
「それじゃあいただきまーす!」
十数人の声が厨房に響く。
ローストビーフうめー!など今夜の夕飯を皆がさっそく盛り上がる。
シムもそれは例外ではなく、たまにしか食べることの出来ないきらきらとした食事に口の中が感動していた。
その時横から伸びてきた手で腕を力強く握られ思わずフォークを落としそうになった。
「あ、アベルさん!」
馬引の男、アベルはにやにやしながら腕をぐにぐにとまさぐる。
「何だお前、昼も食わないくせに意外と筋肉は結構あるんだな~」
細いけど、と付け足す。
シムはそれを嫌がり腕を振りほどこうとする。
「当たり前、ですよ…
え?あのパン、アベルさんが?」
そう言われてみれば今日レンガに冷たくなっていたパンが置かれていて、誰かの忘れ物かと思っていたことを思い出した。
やっぱり聞こえてなかったか…と深いため息をしてアベルは馴れ馴れしそうにシムの方に腕を回す。
「ちゃんと人並みの時間の使い方しろよー?
お前すぐ自分も植物みたいな雰囲気で庭から帰ってこねえから」
あはは、と周りの召使いがアベルの言葉に笑いながらご飯をかき込んだ。
シムもつられて口角を上げた。
アベルなりに根気詰めすぎるなと言ってくれているのだろう、アベルなりの不器用な心遣いにシムはとても温かい気持ちになる。
「アベルさん、ありがとう」
シムは恥ずかしくてとてもアベルを見ながらはできなかったものの、自分の持つフォークを見つめながら呟いた。
アベルは嬉しそうににししと笑った後、何の礼だよ!とばしっと背中を叩く。
シムは軽くむせながらもやかましい人は嫌いではないと思う。
いつもよりも会話が楽しいと思えるのも今日カスパルとのあの件が自分の心を柔らかくしているのかもしれない、と感じたのであった。
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