テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

文字の大きさ
上 下
4 / 168
エリザベスの訪問

1-4

しおりを挟む






シムは暖かいお茶に視線を落として、夫人の話を黙って聞く。
美味しい紅茶に映る自分は髪の毛もストレートではなく、つくづく冴えない見た目だなと自分を見て思った。


「…そういうことだから、次の視察には私達の今後がかかっているから協力して欲しいの。
分かってくれるわね。」


話はこうである。
ジェーンはこの訪問で嫁に行ける先若くは婿養子を捜す、"その邪魔にならないようにする"こと。
そしてシムの大切な庭が恋の場に使われたとしても快く明け渡してほしいという事。

シムは大切な庭が使われる事を嫌だとは全く感じてはいないが、シムはジェーンお嬢様を少し可哀相に思っていた。

まだ14という歳で家を守る事を任されることは恐らくとても辛いことだ。
シムはこの8年間ただ庭と向き合ってきた。
一般庶民からは想像出来ない重圧や期待を背負っているであろうジェーンはなんて強い人間なんだろうと想像する。

自分の子どもにそのような重責を押し付けなければならないこの夫人もきっと苦しいのかもしれない。
家族のいないシムにとってどれも想像の域を超えることができないが、とても不器用な関係のように思えた。

「俺の庭を、未来のお婿様にも、気に入ってもらえたら嬉しいです」

夫人を気遣い口に出た言葉に、夫人は何とも言いがたい複雑な顔をした後俯き「そうね」と微笑んだ。


「あなたもね、宮廷からの訪問が続く1週間は表に出ていてほしいの。
庭のことを聞かれたら、ぜひたくさん教えてあげてほしいから。」

シムは一瞬目を見開き、すぐに顔をこわばらせた。
貴族たちの会話に自分が到底混ざれる訳が無い。

人様の前に立てる服は一枚だってない、何よりこのような風貌のちんけな男が表になど出たらテューリンゲン夫妻の顔に泥を塗りかねない。

「…俺は…遠慮します、話すのは得意では、ないです。それにこんな見た目、なので」

俯くシムに夫人は優しく微笑みシムを見つめる。

「そんなこと言わないでちょうだいよシム。
旅をしてわざわざここまで皆さんはいらしてくれるのよ。
庭を見たら心を癒されるわきっと。
なにより庭と一緒に、あなたも誇りなの。」

その言葉におずおずと夫人を見つめ返す。

まだ納得は仕切れていないものの、誇りと言ってもらったことに胸が温まる。
夫人の優しく包むような笑顔にはい…と小さく頷いた。

シムはとても緊張していた。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

俺は今猛烈にみんなの役に立っている!

HaM
BL
何の取り柄もない俺がある時回復役の素質がある事がわかった。俺は人の役に立ち、みんなから必要とされる今の役目を誇りに思っているんだ!ーーーー総受け傾向のギャグ風味な感じです。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...