1 / 168
エリザベスの訪問
1-1
しおりを挟む1521年、近隣との武力覇権の頂点に立つ大国レグランド、その北に位置する麦畑がどこまでも続く北の領土にテューリンゲン家の城は建っていた。
テューリンゲン一族は公から地方を自治する役目を仰せつかっている、所謂小さな地方貴族であった。
レグランドという大国にしては珍しく、この北の大地では貴族と農民との貧差が然程なく共に毎年訪れる冬のための拵えに協力し合う地方らしい村であった。
地方貴族テューリンゲン家にはジェーンという14の娘がその血を受け継いでいるが、世継ぎはこの少女1人という安心の出来ない悩みを抱えていた。
しかし表面上は平穏そのものと言っていい朗らかな一家と村である。
その一家の住む城の誇れる自慢は、素晴らしい庭であった。
寒いこの土地の気候にも可憐に咲き、人々の目と心を癒す様々な色合いの薔薇が植えられている。
そしてその薔薇達の気持ちを汲み取ることができるかのように1番その幹にとって綺麗な咲き方へ誘うことの出来る腕の良い庭師がテューリンゲンの城には居た。
その庭師の名はシム、23歳の青年である。
青年、シムはくすんだ栗色の毛色に、白い肌に浮く仄かなそばかす。いかにも農民らしい特徴のない素朴な男である。
彼の特異な点と言えば170半ばで身長が止まってしまったことで、180前後が男性の平均身長であった当時のレグランドの中では些か貧弱な見た目である。
だが彼の手は貧弱な見た目に反し、力強く時に器用な柔軟な手を持っていた。
元来シムは社交性を兼ね備えなかった人生の中で、この手は生きる為の道具だった。運良く薔薇の蔓を優しく強く導き、毎年綺麗な花を咲かせることが出来る手であった。
そんな庭師シムをテューリンゲン夫人はいたく可愛がっていたのだった。
15で庭師として城の中で仕事を始めたシムを自分の息子のように毎度熱心に薔薇の事や気候、土のことをシムに訪ねていた。
シムはそんな夫人を同じく慕っていた。
この自分に仕事を与えてくれたご恩も勿論のこと、なによりも純粋に植物に関心を傾けてくれる人をシムは好いていた。
しかし、一方でテューリンゲンの一人娘ジェーンはシムという男を大層煙たがっていた。
また植物に対しても興味のかけらがない少女の目には、シムが日々草をつついて遊んでいるようにしか見えないのである。
シムはそのことを悲しくは思っていたが、こちらから話しかけることをジェーンに禁じられていたためシムはぎこちないこの現状を受け入れていた。
39
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。
だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。
互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。
ハッピーエンド
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/03/02……完結
2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位
2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位
2023/12/19……連載開始
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

白銀オメガに草原で愛を
phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。
己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。
「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」
「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」
キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。
無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ
※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる