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不穏

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「姫さま、おはようございます。」





私は姫さまの部屋の扉をノックした。
しかし、いつも聞こえる返事が今日は聞こえない。
不思議に思ってもう一度挨拶とノックしてみる。




「···。」




やっぱり、返事が返って来ない。
よし、入って確認しよ。なにかあったら大変だし。


「どうかされました?」


私が手を掛けたとき、後ろから声がした。
振り返れば姫さまの専属侍女であるアリアさんが立っていた。

姫さまの専属侍女は双子の姉妹である。
姉のマリア・クシューさんと妹のアリア・クシューさんである。
二人とも黒髪ににび色の瞳を持っている。
見分け方は簡単で伸ばした髪をお団子にまとめているきちっとした顔つきをしている方がマリアさん。
短い髪を小さく二つに結んでいる柔らかな顔つきをしている方がアリアさん。
ちなみに気絶した方はマリアさん。






「姫さまからの返事がないので、部屋に入ってしまおうと思いまして。」


「あら、それなら気をつけて下さい。
そうですね、扉は少し開けて一度閉めたらいいかもしれません。」


私は言われた通りに扉を少し開けて一度閉めてみる。





···不思議に思わないのかって?
何かあれば侍女さんたちの助言を信じるのが一番だって言うのをこの3ヶ月で学んだんですよ。

実際に今も───




───ヒュンッガガガッガチャガチャガチャン




ほら、扉の奥で不穏な音が聞こえる。
一体なんの音なんだろ。

私は恐る恐る扉を開いた。
すると分厚い扉の裏側に果物ナイフが刺さっていた。
足元にはスプーンにフォークやバターナイフ、ペーパーナイフや裁縫でつかう裁ちばさみや糸切りばさみなど部屋の中からある分だけ引っ張り出したであろう刃物や金属物が転がっていた。
そしてその奥には───





「あら、ひっかからなかったの?残念だわ。」





ソファーに座ってつまらなそうにあくびをする姫さまがいた。


「姫さま、朝から人を殺す気ですか?」


この状況はとてもじゃないが危なすぎる。
もしアリアさんに会わずになにも知らず開けていたら、私は避けられる自信があるが私の後ろをたまたま人が通って流れ弾が当たったら?
もし室内で姫さまになにかあって緊急時だったら?
もし私以外の誰かが開けていたら?

私はいろいろな状況を想像し姫さまに反省してもらわねばと考えた。





───考えたせいで足元がおろそかになっていた。




「リーナ、フォークやナイフなどはフェイクです!」



「え?」


と、同時に足元に糸がかかる嫌な感触。


「しまっ···!!」


剣に手を掛けた私は上に何かが飛んでくる気配を感じ剣先を当てて、ものの軌道を変えようとした。
が、変わらずにぱっくり真っ二つに割れたそれを見て私は、中身は粉だろうか、それとも水?とどちらにも備えて目を閉じた。







「あれ?なにこれ?」






頬をかすってハラハラ落ちる感覚に目を開くと、私の回りに色とりどりの紙吹雪が舞っていた。




「あははっ、引っ掛かった!後ろを見てみなさい!」


「はい?」


とりあえず後ろを振り返ると···





『専属護衛3ヶ月突破おめでとー!!』





と色とりどりの文字が壁の高い位置に貼られた紙に書かれていた。
ご丁寧に花などで装飾されたそれを見て私は呆けるしかなかった。










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