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それまでの経緯
しおりを挟む「さて、それじゃ君を迎えにいくまでの経緯を話そうか。」
食事が終わり、一息ついたところでグレンさんが切り出した。
「まず初めに、君は今城から追われる身になっていて、魔界にいるのは非常にまずい。」
「···そうですか。」
「まあ、驚くのも無理はな···え?
受け入れるの早すぎない?」
「地下から脱出って時点で予測はしていたので。
むしろ、数日で帰れるよって言われた方が驚きです。」
大魔王の妻であるステラ様を殺しかけたのだから牢に入れられるのは当たり前で、平魔族だったら即死刑だろう。
「相変わらず、頭の回転が速いというか···。
まぁいいや。
それで、君が牢に入れられてからの話をするけど···」
それから聞いた話を説明すると、
私が牢に入れられたあとステラ様は大魔王に報告したらしい。
それで、約一週間の審議の結果私は死刑ということになった。
それを知ったグレンさんは私を牢から解放し魔界から逃がす計画を立ててただいま実行中というわけだ。
いろいろ突っ込みどころがあるけど、簡単いうとこんな感じ。
「···ナルサさんは?」
「すまないが、ナルサ様は···」
グレンさんが視線を落とした。
ああ、やっぱり。
私はナルサさんを殺しちゃったんだ···。
あんな状態で助かってるわけないもの。
「だが、無事だったとしても彼女も罰せられていただろう。」
「どうして···!?」
「ステラ様は、『ナルサ様のせいで』君がおかしくなった、と報告したから。
おそらく、上層部は今ナルサ様の部屋を調べているだろうな。」
「そんな、だってナルサさんは私を守ってくれただけなのに。
おかしくなったのは私なのに···」
私はつい椅子から立ち上がってしまった。
ステラ様を庇ったのはナルサさんなのに、どうしてあの人はそんなことが言えるんだろう。
「···クルア姫、答えたくなかったらいいんだけれど···」
「なんですか?」
「···その、おかしくなった、ってどんな風にだったのかと思って。」
グレンさんが言いにくそうに聞いてきた。
「どんな風に、ですか···。」
私はあのときのことを思い出す。
どんな風に、あのときは何も分かろうとしないステラ様に苛立った。
それで、
···いや、その前に···
「ステラ様を見たとき、なんだか心の深いところで重い鉛みたいなものが動いた気がしたんです。
それから、彼女と話しているとだんだん苛立ってきてしまって体が熱くなってきて···」
そう、あのときなんだか体が暑かった。
熱がぶり返したと思った程に。
「だんだん、周りの音がよく聞こえなくなったんです。
でも、ステラ様の甲高い声はうるさい程に聞こえてきて、それで耐えきれなくなった私は···
ああ、そうだ。
私は『消えてしまえ』って···」
「クルア姫、もういいよ。
辛いことを聞いてごめん。」
気付かずに下がっていた顔を上げると、グレンさんが申し訳なさそうにしていた。
「いえ、大丈夫で···」
「大丈夫じゃないだろ。
俺が聞いといてなんだけど泣きながら言われても信じられるわけないよ。」
え、泣いて···?
私は自分の頬を触れてみた。
指が滴に触れて小さく濡れる感触がした。
「え?」
──私には泣く資格はない──
わかっているけど、一筋頬を伝った涙は止まることなくいくつもの筋を作り、ダメだってわかっているのに嗚咽が漏れだして、気が付けば小さな子どものように声を上げて泣いていた。
グレンさんは、何度も何度も辛かったな、大変だったなと頭を撫でながら抱き締めてくれた。
あとから、兄がいたらきっとこんな感じなんだろうな、とどこか他人事のように思った。
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