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来訪者

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それからしばらく話に花を咲かせていた。

コンコン───

「あ、はぅ!?」
突然鳴り響いたノックに返事をしようとすると、ナルサさんが浮き上がって両手で私の口を塞いだ。
「しっ。
静かにして、というかあれには返事しない方が君はいい。」
ナルサさんが耳元で囁くが、正直、鼻まで塞がれているので呼吸ができない。

···さ、酸素が、欲しい···、酸素プリーズ!!!!


交通事故で命を落とし、異世界に見事転生を果たした私ことクルアはただいま酸素不足により二度目の人生を終わろうとしています。

「んー、うんー、んー!!!!」
実況している場合でなく、マジでヤバいのでナルサさんの手をどかそうとするが、なかなか離してくれない···。

「ちょ、暴れないで。静かに!」

···できるかぁ!!死ぬ、私、死ぬぞぉ!!!!
とにかく、必死に暴れる。

「···ナルサ様?
クルアちゃんには今日も会わせてもらえないの?」

その声が聞こえたとたん、私は固まった。

「お願い、クルアちゃんに会わせて。
私たちには時間が必要なの。
互いを知って理解する時間が。
私はクルアちゃんのお母様としてあの子に認めてもらいたいの。」

ドアの外から懇願する声が聞こえてくる。
けど、一体、どういうこと?
はじめて会ったときの彼女は私を憎い女の子供として見ていた記憶がある。
なのに今は、クルアちゃんのお母様として、とか意味がわからない。
だって、お母様は亡くなったけれど私は変わらず憎い女の子供のままだし。

「あんなこと言ってるけど、会いたい?」
ナルサさんが大人しくなった私を解放して言った。
私は頭を横にブンブン振った。
「じゃあ、ドアから見えないところに隠れていて。
うまく誤魔化してくるから。」
彼女はベッドがある部屋を指差して言った。
私は頷いて静かに移動を開始した。

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