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それぞれで

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ノアの声が聞こえた気がしたけど、周りを見ても誰もいない。
まぁ、そもそもいるわけないんだけれど。

「···気のせい、だよね。」

でも、少し期待して誰もいないことにがっかりした自分がいた。

だいたい、多分ノアはあんなこと言わない。
むしろ私に守られるより、自分が守る立場を選ぶだろうな。
短い間しか一緒にいなかったけど、意外とプライドが高いところがあったし、頑固なところもあったから。
見た目が年下の私に守られるなんて嫌だろうな···。

なんだか昔を思い出して自然と笑えてしまった。

昔といえば、みんなは元気かなぁ。
たまにちーにれーこ。
今頃どうしてるんだろ。
時間軸がこっちと同じだったらもう子供とかいるんだろうな。

···そういえば、召喚された勇者は三人とも少女だったっけ。
うーん、···まさかね。


──一方幼なじみたち──

「ねぇ、ここが異世界ってことは誰か転生してたりするのかな。」
修行の休憩中、ちーが呟いた。

「確かに、チートな能力使ったり、おいしい料理でおもてなししたり、悪役令嬢に生まれ変わって王子さまとハッピーエンドになったりしてるかもね。」
たまは汗をぬぐいながら言った。
「私たちの他にも召喚された人もいるでしょうしね。」
私はコップの中に氷を作り出して飲み物を注いで二人に渡した。

「···さく、いないかな···。」
「「······。」」
俯くように両手で持ったコップを見つめながらちーが言った。
私たちは黙って様子を見ることしか出来なかった。
ちーは一番さくと付き合いが長い。
だからきっと、寂しいのでしょう。

「···いるよ、きっと!!」

たまがちーに笑いかけた。
ちーは驚いた表情でたまを見たあとにこちらを向いた。
···どうしてこちらを向くのかしら?
私は無責任なことは言いたくない。
変に期待させて、結果的に突き落とすことになるのは嫌だもの。
でも、──

「えぇ、きっといるわよ。どこかに。
魔族とこの国の戦争が終わったら探しにいけばいいわ。」

「実は、案外近くにいたりしてね。」
たまがからかうように言ったから私もちーに笑って欲しくて、

「実は大魔王のところにいたりしてね。」

って言った。
そんな私たちを見て、ちーが笑った。
「まさかね。
でも、会えたらきっとわかるよ!」


──私と幼なじみたちは、互いにフラグを立てあっていたことに気付いていないのだった──

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