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ください

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しばらくすると、ナルサさんが人が入るくらいの檻を持って戻って来た。
─さすが、小さくても魔族。
自分よりも大きな檻を持って来るなんて。
「待たせたね。」
檻を下ろすと爽やかに言った。
しかし、中身がまったく爽やかじゃなかった。
「あ、あのー、それは···?」
「ふふっ、クルアは見るのはじめてなのね。
これは、『生きた人間』よ。」
─やっぱりぃ~!!!
檻の中には傷だらけで血だらけの十代前半くらいの少女が入っていた。
「怖がらなくても大丈夫。
獣と違って急に噛みついたりしないから。」
ナルサさんが笑って言った。
─そう言う問題じゃない!!
こんなところで変な魔界要素いらないから!
「ま、まさか、この人間を石にしろとか言いま···」
「その通り!クルアちゃんは察しが良いね。
若い女の人間が手にはいったのが珍しくて買ったんだけど何やっても全然声を上げないし、反応も薄いから処分しようと思ってたんだ。
ちょうどいいから試してみなよ。
あ、石にする必要はないからね。
硬直させるくらいで良いよ。」
「まったく、気になったら衝動買いする癖がまだなおってなかったの?」
「仕方ないでしょ。珍しいと欲しくなるんだから。」
ナルサさんとお母様がまるで人間を買うことが当たり前のように話している。
いや、魔族にとってはこれが当たり前なのだろう。
─これが、これから生きていく世界の常識···。
「あらクルア、どうかしたの?」
立ち尽くす私にお母様が心配そうに聞いてきた。
「い、いやー、人間って意外と魔族と形が似ていてやりにくそうだなって思って。」
「あはは、いくら姿形が似ていても所詮下等生物だよ。」
ナルサさんがなんでもないことのように言った。
でも、その下等生物だった私としてはなんだか喧嘩を売られたような気がした。
だから──
「ナルサさん、いらないならこの子私にください。」
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