3 / 78
起章
起章 第一部 第二節
しおりを挟む
記憶の中の父の面影は、なぜかいつも曇天と重なっていた。その人が毎日、庭にある長椅子に延々と仰臥し、それを仰いでいたからかもしれない。その両目はいつだって半開きで、絶えることなく、天を覆い尽くす雲を映していた。
とはいえ、雲を見たいと望んで、上を見ていたわけではなかろう。<終末を得る物語>によると、雲の向こうには透明な碧瑠璃をした青い空と言うものが広がっているらしいが、かといって彼が望んでいたものがそれでもないことは、子ども心にも直感的に分かっていた。いや、やはり、分かっていなかった―――最初から手に入らないものを望んでいたのなら、幼いなりに己の他愛もない体験と同化させて満足し、そこで終わっていたはずだ。
そう。自分は幼子であり、歳相応に愚直だった。己の満足を追いかけることしか眼中に無く、また己の眼界に限界があることを知る由もなく、ゆえに何一つとて顧ることはない。
彼が望んでいるものを、自分も望んでみたかった。それだけで、父の<楽園>へと、踏み込んでしまったのだ。
中庭。つるりとした壁と静寂に囲まれたその庭は、草木の一本から風のひと吹きまでが女家主の支配下にあった。その中央に居ながらにして不可侵の空を見上げるということは、妻の虜へと降った彼に残された、唯一の反骨であったのか―――後に耳にした哀れみの風説を、自分はごく自然に否定した。違う。
その豪奢な長椅子は、ひとつきり、ごく自然にその庭に溶け込んでいた。ひとりだけの父も、そこへごくごく自然に溶けて、溶け残っている自分は、愚かにもひとりだけ幼なかった。
「おとうさま、ジヴィンってなぁに?」
父は視線だけを傾けて、こちらを見つめた。
長椅子に寝そべったまま、起き上がれはしない―――長年の監禁に衰えた肉体は、解放され数年を経てもなお、回復する兆しを見せなかった。自分と同じ色をした眼球が、しかしこちらに比べてあまりにも枯れたその黄緑の双眸が、彼を覗き込む娘を鈍く反射している。
父は再び、白く曇る天空へと視線を馳せた。そして娘が幾らか退屈してきた頃、吐息をどうにか声に化かしてくれた。
「今はもういない女の人だよ」
「おんなのひとなの?」
いくら幼児とはいえ、女性の名前を出して、それそのものを疑われるとは思ってもみなかったらしい。父は再度こちらをのろのろと見やって、とうに皮となり果てている頬を動かした。
「何だと、思っていたのだね?」
「まもの」
父の瞳に、はっきりと傷ついた色が浮かぶ。
そしてそれを隠すように、すぐにその上を瞼が覆った。閉じられた目に過ちを悟った頃にはもう手遅れと見えたが、それでも自分は必死に父へ理由を口走っていた。正当な根拠があることを知れば父も納得し、自分が彼へした酷いことなど、ひとつたりとなくなるはずだった。
「だって、だってね、おかあさまがいってたもの。まものは、おとうさまのうつくしいものを、みーんなさらっていっちゃったって。だからおとうさまは、からだも、こころも、ぜーんぶわるくしちゃったって」
「そうか。確かにわたしはこの有様で、今もジヴィンへの恋に囚われたまま、あの女を想いきれぬ……」
そうして父は、独白を終えた。
目が開く。独白ではなく、告白が始まる。逃げることはできない。
「キルル。覚えておくがいい。魔物は、わたしだ」
意味は理解できない。理解したふりさえできない。ただ、そこに込められ、うつろにこだましていく彼の後悔に、肌があわ立つのをとめられない。
「赤子のように、雛のように、この手は伸ばせば届くと信じていた。望むならば叶うと。そうして、果てに、これはなんだ。争い―――死して―――狂い―――呪い―――恐ろむべくは、そのすべてが今日をも犯すという事実だ! ジヴィンの死は我が子の死を齎し、愛を偽らんとした女は我が子をその番兵に仕立て上げつつあり、わたしは腐敗する時を待ちわびながら呼吸を繰り返している……」
言葉をこぼすごとに、父が遠くへ行ってしまう。せりふを遮る勇気はなかった。とにかく彼を行かせまいと、自分は必死に、彼の長髪を掴んでいた―――長椅子からこぼれるほどまで伸ばされた、自分と同じ、伝説の鳥の翼のごとき羽毛の髪を。橙に緋のメッシュが入った羽の髪は丹念に整えられ、不自然なほどにそこばかり若い。握り締めるにつれてしゃきり、しゃきりと羽が軋んで、この世で唯一の美しい音を奏でた。まるで頭髪という寄生虫の滋養にされつくした宿主のようだと今なら皮肉のひとつも思いつくが、その時はただただ幼い掌は汗ばみ、父の羽を湿らせているだけだった。それで繋ぎとめられたのか、単に呼吸が続かなくなったのか……とにかく父の言葉は、そこでいったん途切れた。が。
「ジヴィンは何―――と、訊いておったね? キルル」
そしてその人は、そうやって、最期のとどめを刺すために囁き始める。
「人知の及ばぬ、アーギルシャイアだ」
父は、自虐した。
「それ以外に、何と言えよう? こうやって未だに、一国を瓦解させかけた魔物を、苛んでやまないのだから」
―――今になって、気づくことはある。
父は空を見る。誰も見ることの叶わぬ蒼穹を。そしてそうすることで、混同しようとしていたのだ―――最初から望めぬものと、二度と望めぬものとを。今の自分が、そうであるように。
父が泣いていると、今なら、知っていた。
□ ■ □ ■ □ ■ □
知っていたとして、もはや慰みなどありはしない。こぼれた涙が瞳へ返らぬように、過ぎた日々も戻りはしない。だとしても、一縷の願いが向かう先は、そこしかない。
陰気な願いに蹴りをつけて、キルルは目を開けた。見えてくるのはもうお馴染みの、王城の贅沢な一室にあつらえられた見目麗しい寝台の天蓋であり、いつもの通りにこちらの願いを粉砕してくれる。もったりとしたひらひらのフリル細工が、自分はもう王家として生きるしかないのだと、視覚から突きつけてくる―――
馬鹿でかい窓から横殴りに差し込んでくる陽光の中で、そのまましばらく夢に酔っぱらったまま、呆然と脱力しておく。王城に来てからは、そうしておいたほうがむしろ支障がなかった。侍女たちが、自分がそうあるべく、すべてを設えてくれる。持ち込んだ質屋を、それだけで破産させかねない服。消化するよりも芸術的イミテーションとしてのほうがよほど他者を喜ばせるであろう料理。爪の先ほどの大きさで市民生活の半年を賄えるという鮮毛羽模様の香樹で造られた水差しと桶は、湯を受けるほどにかぐわしい芳香をたゆたわせる。着替えも食事も洗面も、自分が手を貸す必要はない―――つまりデューバンザンガイツとは、とてつもなく優秀な工場なのだ。どれほど貧相な材料さえ、ベルトコンベアに乗りさえすれば、王家に早変わりする。何の問題もありはしない。
「姫が―――お目覚めになりました!」
「早く、殿下のお耳に、お早く……」
なにやら今日は、手間取っているらしい。が、大した問題ではなかろう。侍女は、工場の従業員だ。材料は、従業員に手を貸せはしない。侍女―――
ふと気づいて、キルルは上半身のばねだけで起き上がった。
えらく弾力の無いマットレスに、つっかえさせた手さえ沈みかけるため、その姿勢を保ち続けるのも苦労する。妙な競技のコートのようにずるずると広がった寝台から見えるのは、当たり前だが室内の風景だった。見るほどに遠近感が狂っているとしか思えなくなる広大な部屋には、家具なのかお飾りなのかわからない品物がちょこちょこと散りばめられ、そういったものよりは幾らか用途がはっきりしている侍女たちもやはり散りばめられている。
枕元……えらく遠いが、枕元には違いなかろうそこに控えていた侍女頭が、なにやら慌てたように寝台へ戻るよう示してくるが、キルルは無視し―――相手との距離を考えれば、合図を見落としたと言い張っても勝算がある―――人数を数えた。足りない。
「今、いつ? この日差し―――お昼よね?」
と、口にして気付く。
「なんで寝てたのに、天蓋が上がってるのよ? あたしが寝ては下ろし起きては上げてたご大層なプロ根性はどうし―――」
そこまで口にして、さらに気付く。
キルルからの急な問いかけに、侍女らは恐懼して体を床に伏せていた。しまった、喋る前に、それを示す手信号―――お上品に言うところの、宮廷儀礼―――を忘れていた。歯噛みする頃にはもう遅い。十二人を数える彼女らは瞬間に卒倒したかのような素早さで床にひれ伏して、広々とした部屋にてんでばらばらその身をちぢこませていた。彼女らの指先は、緊張からくる力みそのまま床に押し付けられて、真っ白く震えている。それはタイルを満たす千獣王の脈模様と相まって、そういった一種の作品であるかのような場違いな印象をキルルに抱かせた。
舌打ちしたい気分ではあったが、そんなことをすれば、彼女らのひとりかふたりは窓をつきやぶって身投げするだろう―――少なくとも、自分の寝床が一階にない今はすべきでない。予想にくたびれながら、とにかくキルルは言葉を続けた。
「ええと。さっきの質問は無しで、これにだけ答えて。今がお昼なら、なんでここにイーニアがいないの?」
その侍女の姿が勤務時間にもかかわらず確認できないのは、おかしなことだった―――イーニア・ルブ・ゲインニャは巻き髪に泣きぼくろが愛らしい、痩せた少女である。その名の綴りのとおり貴族だったが、本来は城仕えにもなれないような末端の生まれで、行儀見習いとしてではなく稼ぎを目当てにここへ来たらしい。当然として、他の侍女からそれとなく見下されていた。彼女らにすれば、当然に違いない。整っていない指の皮とげ、艶のない毛先、不慣れな行儀―――
なによりも、どれだけ面の皮を取り繕ったところで、隠しきれない部分が残されている少女。それを最も、キルルは好んでいた。
(もしかして、いい気になりすぎたかしら)
嫌な想像が胸をよぎる。翼の頭衣になんと恐れ多い、とおののく少女をなだめすかし、数日前になってやっとこさ、その蜂蜜のように明るい色のふわふわした髪をくしけずるところまでこぎ着けたというのに―――
(その時調子に乗って、今度はお互いのおやつを食べあいっこしましょって言ったのがバレたんだわ)
露見してしまったのならば、過度の寵愛だなんだと、面倒なことになったのは予想がつく。そしてそれを片付けるならば、イーニアを解雇するのが最も簡単だということも。
口止めされているのか、イーニアについて、侍女頭は答えてこない―――が、答えてきた声はあった。
「つい先ほど、体調を崩したとのことで診察させたところ、静養を要するとの診断でしたので、実家に帰しました。欠員は補充いたしましたので、小姉君に係る万事は滞りないかと」
それは想定された言い訳だった―――にもかかわらず驚いてしまったのは、その人物が返事をしてくるなど、まったくの想定外だったからだ。
その、彼―――遠くにある部屋の扉からゆるりと歩み入ってくる姿は、漂う物腰に対して、あまりにも若い。自分と同じ黄緑の瞳、同じ白い肌、髪の色も同じく橙と緋色、年齢も同じ十五歳。ただし、その鋭く整った相好から一秒たりとも抜けぬ沈着と、調えられて膝にまで至らんという長さの羽の頭髪の異様なまでの美しさが、彼と自分を双子と称すにはあまりにも大きな壁となっていた。
「イヅェン……」
呼びかけながら思わず、寝巻き姿を隠すよりも先に、坊主に近い自分の頭に手をやってしまう―――キルルの髪は切り口をなくすため、城へ移り住んだ際に全て抜かれていた。今になってどうにか少し生えてきたが、未だに毛先はろくに開花しておらず、緋色と橙色が混じった珍妙な坊主頭に近い。生まれたときから、羽の髪を―――翼の頭衣を保ってきた弟が目の前に来ると、改めてその無様さを突きつけられたような気分にさせられた。が。
「小姉君、お加減はいかがですか? 茶会の作法を手習いしておられた折、お倒れになられたのです。覚えておいでで?」
そんなこちらの悪足掻きなど涼しい顔で受け流し、イヅェンはあっさりと寝台まで間合いをつめた。ため息をつき、うなるようにして嫌味を吐いておく。
「作法は覚えてないけど、気分はすっきりしたものよ。寝起きに冷血な弟の鉄面皮なんて、蒸しタオルよりよっぽど目が覚めるわ。ありがと。さっすが、イヅェン・ア・ルーゼ後継第三階梯」
「それは結構。ならば、すぐに火急の件に入りましょう。しばし、お耳を拝借させていただきたい」
信じられず、キルルは顔を跳ね上げた。
「顔を拭く時間くらいちょうだいよ!」
「何故です? 蒸しタオルより余程目が覚めたのでしょう?」
「……そうだったわね」
そうだった。こいつはこんな男だ。げんなりと弟の気性を再確認し、彼女は、せめて寝巻きの襟だけは正した。寝台にへたり込んだまま、髪をかき上げる。すっかり軽くなったその感触が、指先にさみしい。
「で、何よ? 一応断っておくけど、もうこれ以上、勉強時間は増やせないわよ。まあ、あたしが王家に相応しい知識教養の吸収どころか、王家としての生活そのものにさえおっついていないのは、あたしのスケジュール管理してるあんたが一番把握してるでしょうけど」
イヅェンはこちらへ視線を留めたまま、左手だけを背後へ差し伸べた。あの指の形と手首の捻りの組み合わせは、『これから話しかける』を下級身分に示したかたちだったか―――当たっていたらしく、弟用の椅子を彼の背後に添えた侍女頭を筆頭に、王家の言葉を受け賜る準備として全員が一斉に屈身し、腰を中心に体を低くする。イヅェンは、そして、
「下がるがいい」
それで充分だった。自分たち二人を残して、ほか全員が一斉に部屋の外へさざなみのように引いていく。いつも自分がぱっぱと手を振りつつ「ねーちょっと一人になりたいからどっかいってよ」と言った時に彼女らがもらした異様な動揺は微塵とない。やはり王城の侍女は、王家の者に従うようにしつけられている。
(だから、イヅェンの言うことには戸惑わないんだわ)
当の弟はこちらを見詰めたまま、見えない背後に用意された椅子を確かめもせず、だが確かにそこへと腰かけた。当然とばかり、侍女らが本当に立ち去ったのか、振り向いてみることさえない。彼にしてみれば、キルルがそれらの必要性を思いついていることさえ、王家の恥部と捉えるだろう―――彼にとって、彼自身が王家である以上、侍女程度の者共が命を違えるなどありえるはずがないのだから。
氏より育ちとはこのことだ―――同じ腹で臍の緒を絡めて育ち、ア・ルーゼの綴りを同じく有しているとは言え、自分は弟のように母の偏愛の元で王家として成長してきたわけではない。その結果が今になって、後継第三階梯として全く違和感なく王責を全うしていくイヅェン・ア・ルーゼと、こうやってベッドで途方にくれるただの赤毛女の差を生んでいる。
イヅェンはそんなこちらにはお構い無しに、淡々と口を開いた。
「単刀直入に申し上げましょう、小姉君。姉君が生きておいでである可能性があります」
それは―――
何の前置きもなく言われるにしてはあまりに突飛で、急には理解できなかった。単に阿呆のように鸚鵡返ししようにも、含まれる意味が重すぎて、重圧負けした声門は微動だにできない。かといって呑み込こんでしまうには大きすぎ、キルルはひたすらそこにわだかまった不快感に眉根を寄せた。
弟は配慮なく、ただただ無感情に説明を連ねていく。
「翼の頭衣を冠すならば、玉座の後継第一階梯。冠さぬならば、父王と魔物との忌み子。不本意ながら、我々の異母姉。どのように呼ばれても構いませんが、その女性のことです」
「一体、どういう―――?」
「現王ヴェリザハー・ア・ルーゼ。つまり我々の父上は、母上を娶る以前にジヴィンと言う名の魔物に魅入られ、子を成すほどに毒されました」
ようやっと捻り出したキルルの言葉を待たず、イヅェンは分かりきった口上を開始した。
「それは、当時の王座に在りしア族ルーゼ家ザシャが子息であり、翼の頭衣を冠する身として、決して犯してはならぬ大罪―――【血肉の忠】への背約です。先代国王たる祖父ザシャ・ア・ルーゼは、彼を魔物に抗えぬまでに血統が弱体化している状態と判断し、階梯地位から放逐されました。そして、魔物の毒気が抜けるまでの長き期間、療養を施すに至ったのです」
「……王子と平民の身分違いの恋に、実の息子の幽閉でカタをつけただけじゃないの」
「どのような表現でもご随意に。続けてよろしいですか?」
「ああもう! どっちが魔物よ、この冷血!!」
怒鳴る。次いで、適当に寝台に拳を叩きつけて睨みつけるが、相手は表情どころか組んだ足の先を動かしさえしなかった―――どころか、気色悪いほどすんなりその打撃を吸収したマットレスの感触が、どこ吹く風といった弟の風体を自分へ具体的に知らしめているようにすら感じ、彼への致命打を見つけるより先に感情が噴出してしまう。
「最期はね! ジヴィンは身を隠しきれず、ついにおじい様の手下に殺されたって言うじゃない―――生きたままお腹を割かれて、赤ちゃんを引きずり出されて! その話を聞いてもまだ、あんたはそんな冷たいことが言えるっていうの!?」
「王家に在る者が温情を掛けるべきは国民と我が血肉であって、魔物はその範疇にありません。どうか王位の後継者として、翼の頭衣のお自覚を、小姉君―――続けます」
今はその羽が生えちゃいないわよと皮肉を言わせる暇も与えず、イヅェンは言葉を継いだ。
「王家をたぶらかすほどの魔力を持っていたとはいえ、ジヴィンはしょせん、穢らわしい魔物に過ぎません。その子も、また同様。母もろとも、ヴェリザハーよりきたる翼の頭衣の聖なる血筋に討たれ、滅されてしまって当然。しかしここで、逆説を鑑みないわけにもまいりません―――つまり胎児こそ、我が国の後継第一階梯たりうる紅蓮の如き翼の頭衣であり、魔物は産み月が近くなるにつれ、子の聖なる血に内側から食い破られたのではないか、と」
わずかながら自分自身でその可能性を吟味するかのように、イヅェンは言葉に間を含ませた。
「現時点において、魔物の胎児の遺骸―――とされるものに、翼の頭衣は確認されずじまいです。そして、児は翼の頭衣を冠する女児であるとの風説が、今も流布したまま……これがどういう事であるか、お分かりですね?」
「でもそれは、ただの噂だったでしょう。実際、お父様が王になってから、お姉ちゃんを探すようにって勅令を出したけど、見つかりやしなかったじゃない」
「その通り。父王の勅令に従った者の中には」
含みを持たせる言い方に、キルルは更に深く鼻頭に皺を寄せた。それはすぐに、次の弟の言によって解消されたのだが―――
「小姉君。最近になり、本物の翼の頭衣の、他国への密売が確認されました」
思わず息を呑み……そして、それを鼻孔から吐き出す。それで、どうにか鼻で笑い飛ばしたように聞こえてくれと願いながら、キルルは唇を曲げた。冷や汗の浮かびかけた鼻の下のくぼみのむずがゆさに、妙に苛立ちながら。
「―――本物の? まさか。有り得ないわ」
口先の否定を裏切って、キルルの視線は、弟の頭から垂れる長い羽毛に向かっていた。日の光を吸い込んでは、絢爛と輝くべくそこに在る。あたかも王家の後光のような―――
キルルの眼球から内心を読み取ったのだろう。髪の燐光を携たまま、イヅェンは僅かに頷くことで、姉に同意した。
「本来は、悔踏区域に住まう有翼亜種しか持ち得ない、伝説の鳥類の羽のごとき頭髪……そして、そこより紡ぎ出される、この至高の音響。我々はそれを人間種族であるにも関わらず、有しています。しかも、連中とは異なる、炎のような緋と橙の色合いで―――」
彼はつと、指先で、襟元に流れていた一枚の羽の先端をさすった。精緻に整えられている弟の羽毛は、それだけであの音―――しゃきり、という清らかな響きで空間を愛撫する。紅蓮の如き翼の頭衣にのみ許された、鼓膜の至福だった。
「人に呼ばれるならば、紅蓮の如き翼の頭衣と称される、この髪。これは我が国の玉座の後継の証であり、貴族の中でも特別な地位に在る王族における王家・直系・傍系を正し、【血肉の約定】を成す根幹でもあります」
王族の中で翼の頭衣を持つ者は、その生誕順に王位継承義務を負い、階梯順位としてその位を表現される。順位を持つ者は須く『王家』に連なり、その子で羽を持たねば『直系』、更に混血が進めば『傍系』となる。キルルはその程度の理解しかしていなかったが、そこに占める羽の重要性は身にしみて知っていた―――そのせいで、王位なんぞ知ったことではなかった自分が、後継第二階梯……姉が未確認である今、事実上の次の王位継承者などという立場に急に持ち上げられたのだから、それも当然だったが。
彼女より余程王にふさわしい優雅さで、イヅェンがゆるりと足を組み替えた。
「有翼亜種のそれを着色した贋物も含めると、鳥類の羽根のやり取りは、珍しくとも一切ないものでもありません。現に我が国土に含む悔踏区域から、輸出品のひとつとして交易され、その仲介料は国益の重要な部分を占めています。しかし、我々の翼の頭衣をそれらと混同してはなりません。我らが炎の羽毛は、到底値段などつけられぬ国宝であり、記録されている限り、本物の第三者への受け渡しは過去一度も行われていません。贋物の受け渡しについては事実数まで把握し切れていないのが実情ですが、姿かたちは似せれども、この翼の頭衣の音響までを複製することは不可能―――」
「偽物は不純物を染み込ませるせいで音はしないし、したとしても耳障り! 大体にして染める過程で痛んじゃうから、うねってしまって直毛にならない!」
イヅェンのせりふに中座を強制し、キルルは更に断言を継いだ。
「だからこそ、本物が密売されるなんてありえないわ」
「いかにも。我らが現在の王家―――父王陛下、小姉君、わたしからは、絶対に」
つまり、現在の王家に招かれていない翼の頭衣を冠する人物―――姉が、今の生死はどうあれ、売り物になるほど髪が整うまで、確かに存在していたということになる。しかもなにやら、羽根を売りさばいて金を儲けることができる上流階級者が、そのために王の勅命にさえ背くという、とんでもなくきな臭い場所で。
キルルはうめいてかぶりを振った。弟が遠まわしに告げていることは分かった。だが、だからといってそれをどうにかする過程の中に、自分への役割があたえられているとは到底考えられなかった―――少なくとも自分なら、上流階級社会に無知で無能で、弟のおんぶ抱っこでやっとかっと毎日をしのいでいる奴に、期待などしない。
よって正直に、キルルは疑問の声を上げた。
「だから、あたしにどうしろっていうのよ。単刀直入に言うんじゃなかったの? さっさとそうしてよ」
「父王のお加減はよろしくない。玉座の後継が取り沙汰されかねないこの時期に、後継第一階梯と目される姉君に関する不確定要素は、除かれるにこしたことはありません」
「分かってるわよ。だから―――」
「旗司誓の元へお行きになられてください」
「は?」
疑問が悲鳴に変わるまでもなく、イヅェンの解説がそれを均した。
「そうせよと命じられたとおり、単刀直入に申し上げたまで。小姉君へは、【血肉の約定】に則り、悔踏区域外輪に住む旗司誓<彼に凝立する聖杯>の元へ、幾日かにわたりご滞在召されるようお願い申し上げる」
「アブフ・ヒルビリ?」
聞いても、全く訳がわからない。しかし相手は、単刀直入にという階梯上位者の命に従った以上の義理を果たすつもりはないらしい。イヅェンは、それ以上のフォローも何も口にすることはなかった。
かといって、降りかかるのが自分の身となれば、これを黙視することなどできやしない―――反射的に思い出したことから確認を取ろうとして、とりとめないせりふがあふれてくる。
「アブフ・ヒルビリって、神話に出てくる、彼に凝立する聖杯の古語読みでしょ。【血肉の約定】は創国録にある一章で、旗司誓は悔踏区域の周りに住んでる何でも屋だし……」
「詳しい事は、道中に護衛官よりお聞きになられてください。司左翼より選任しました。総括者と小姉君は面識がありませんので、この場をお借りして紹介させていただきます。ヴァシャージャー、参れ」
「ちょっ……冗談でしょ、あたしまだ着替えどころか……!」
叫ぶ、のだが。
あと自分が成功したことといえば、必死に布団をかぶって寝起きの様を隠すくらいだった。イヅェンの命令を挫くことはできなかったため、とうに壮年の男が入室を済ませているのも受け入れるしかない。
その身に纏う緋色を基調とした軍服は、王城たるデューバンザンガイツへ招かれるには軽装といっていいものだったが、肩口から上半身をまたいで刺繍された国旗と軍旗のモチーフが、そのイメージを重厚な礼服へと昇華させている。なによりそれには、その男のかもしだす雰囲気が大いに影響していることは明らかだった―――イヅェンの背後で歩みをとめた彼の顔面に二本、唇の端からも一本、大きく傷痕が走っている。八年前の戦争で負ったのか、それは引きつって白くなっていた。髪を長く伸ばして下ろしたままにすることでそれを隠しているつもりなのだろうが、正直かなり目立っていることに、当人が気づいていないはずはなかろう。だが、そこを見るキルルに対して、相手の黒瞳に何らかの感情が浮かんだ気配はない。
イヅェンの手で示された合図に則り、その男が騎士の礼を取って、膝を床へつけた。伏せられた顔と比較した肩幅から、相手が意外に細身であることに気づく。
が、どうでもいいことだった。イヅェンの機械的な紹介も、その騎士―――ヴァシャージャーとやらの、黒髪の影から発せられる大仰な挨拶すら。
「これが、現在の唯任左総騎士に座す者です。その称号の通り、我が国の武力の双肩を成す司右翼・司左翼のうち、司左翼を取りまとめる任についています。ヴァシャージャー、小姉君への礼節を許す」
「は―――お初お目にかかる、キルル・ア・ルーゼ後継第二階梯。まずは、我が部下より紅蓮の如き翼の頭衣の護衛に預かる者を選出させていただける、この恐悦至極こそお伝えしたく存じます。この身は、ヴァシャージャー家が当主、名を―――」
「ああそう。もう分かった。分かったから……」
と、キルルは声にしていた。
無礼でもないせりふを遮るというあるまじき展開に言葉を呑んだ二人を尻目に、キルルは必死に呼吸を整えた。手で押さえている胸元が、大袈裟に上下する―――薄い寝巻きと、寝具越しに。洗ってすらいない顔をこすると、頬に張り付いていた髪が手の甲にこびりついている。
正直にキレて、キルルはぎりぎり保っていた外面を投げ出した。
「ちょっとはレディの扱いを学んでから出直してきなさい、この朴念仁ズ!!」
とはいえ、雲を見たいと望んで、上を見ていたわけではなかろう。<終末を得る物語>によると、雲の向こうには透明な碧瑠璃をした青い空と言うものが広がっているらしいが、かといって彼が望んでいたものがそれでもないことは、子ども心にも直感的に分かっていた。いや、やはり、分かっていなかった―――最初から手に入らないものを望んでいたのなら、幼いなりに己の他愛もない体験と同化させて満足し、そこで終わっていたはずだ。
そう。自分は幼子であり、歳相応に愚直だった。己の満足を追いかけることしか眼中に無く、また己の眼界に限界があることを知る由もなく、ゆえに何一つとて顧ることはない。
彼が望んでいるものを、自分も望んでみたかった。それだけで、父の<楽園>へと、踏み込んでしまったのだ。
中庭。つるりとした壁と静寂に囲まれたその庭は、草木の一本から風のひと吹きまでが女家主の支配下にあった。その中央に居ながらにして不可侵の空を見上げるということは、妻の虜へと降った彼に残された、唯一の反骨であったのか―――後に耳にした哀れみの風説を、自分はごく自然に否定した。違う。
その豪奢な長椅子は、ひとつきり、ごく自然にその庭に溶け込んでいた。ひとりだけの父も、そこへごくごく自然に溶けて、溶け残っている自分は、愚かにもひとりだけ幼なかった。
「おとうさま、ジヴィンってなぁに?」
父は視線だけを傾けて、こちらを見つめた。
長椅子に寝そべったまま、起き上がれはしない―――長年の監禁に衰えた肉体は、解放され数年を経てもなお、回復する兆しを見せなかった。自分と同じ色をした眼球が、しかしこちらに比べてあまりにも枯れたその黄緑の双眸が、彼を覗き込む娘を鈍く反射している。
父は再び、白く曇る天空へと視線を馳せた。そして娘が幾らか退屈してきた頃、吐息をどうにか声に化かしてくれた。
「今はもういない女の人だよ」
「おんなのひとなの?」
いくら幼児とはいえ、女性の名前を出して、それそのものを疑われるとは思ってもみなかったらしい。父は再度こちらをのろのろと見やって、とうに皮となり果てている頬を動かした。
「何だと、思っていたのだね?」
「まもの」
父の瞳に、はっきりと傷ついた色が浮かぶ。
そしてそれを隠すように、すぐにその上を瞼が覆った。閉じられた目に過ちを悟った頃にはもう手遅れと見えたが、それでも自分は必死に父へ理由を口走っていた。正当な根拠があることを知れば父も納得し、自分が彼へした酷いことなど、ひとつたりとなくなるはずだった。
「だって、だってね、おかあさまがいってたもの。まものは、おとうさまのうつくしいものを、みーんなさらっていっちゃったって。だからおとうさまは、からだも、こころも、ぜーんぶわるくしちゃったって」
「そうか。確かにわたしはこの有様で、今もジヴィンへの恋に囚われたまま、あの女を想いきれぬ……」
そうして父は、独白を終えた。
目が開く。独白ではなく、告白が始まる。逃げることはできない。
「キルル。覚えておくがいい。魔物は、わたしだ」
意味は理解できない。理解したふりさえできない。ただ、そこに込められ、うつろにこだましていく彼の後悔に、肌があわ立つのをとめられない。
「赤子のように、雛のように、この手は伸ばせば届くと信じていた。望むならば叶うと。そうして、果てに、これはなんだ。争い―――死して―――狂い―――呪い―――恐ろむべくは、そのすべてが今日をも犯すという事実だ! ジヴィンの死は我が子の死を齎し、愛を偽らんとした女は我が子をその番兵に仕立て上げつつあり、わたしは腐敗する時を待ちわびながら呼吸を繰り返している……」
言葉をこぼすごとに、父が遠くへ行ってしまう。せりふを遮る勇気はなかった。とにかく彼を行かせまいと、自分は必死に、彼の長髪を掴んでいた―――長椅子からこぼれるほどまで伸ばされた、自分と同じ、伝説の鳥の翼のごとき羽毛の髪を。橙に緋のメッシュが入った羽の髪は丹念に整えられ、不自然なほどにそこばかり若い。握り締めるにつれてしゃきり、しゃきりと羽が軋んで、この世で唯一の美しい音を奏でた。まるで頭髪という寄生虫の滋養にされつくした宿主のようだと今なら皮肉のひとつも思いつくが、その時はただただ幼い掌は汗ばみ、父の羽を湿らせているだけだった。それで繋ぎとめられたのか、単に呼吸が続かなくなったのか……とにかく父の言葉は、そこでいったん途切れた。が。
「ジヴィンは何―――と、訊いておったね? キルル」
そしてその人は、そうやって、最期のとどめを刺すために囁き始める。
「人知の及ばぬ、アーギルシャイアだ」
父は、自虐した。
「それ以外に、何と言えよう? こうやって未だに、一国を瓦解させかけた魔物を、苛んでやまないのだから」
―――今になって、気づくことはある。
父は空を見る。誰も見ることの叶わぬ蒼穹を。そしてそうすることで、混同しようとしていたのだ―――最初から望めぬものと、二度と望めぬものとを。今の自分が、そうであるように。
父が泣いていると、今なら、知っていた。
□ ■ □ ■ □ ■ □
知っていたとして、もはや慰みなどありはしない。こぼれた涙が瞳へ返らぬように、過ぎた日々も戻りはしない。だとしても、一縷の願いが向かう先は、そこしかない。
陰気な願いに蹴りをつけて、キルルは目を開けた。見えてくるのはもうお馴染みの、王城の贅沢な一室にあつらえられた見目麗しい寝台の天蓋であり、いつもの通りにこちらの願いを粉砕してくれる。もったりとしたひらひらのフリル細工が、自分はもう王家として生きるしかないのだと、視覚から突きつけてくる―――
馬鹿でかい窓から横殴りに差し込んでくる陽光の中で、そのまましばらく夢に酔っぱらったまま、呆然と脱力しておく。王城に来てからは、そうしておいたほうがむしろ支障がなかった。侍女たちが、自分がそうあるべく、すべてを設えてくれる。持ち込んだ質屋を、それだけで破産させかねない服。消化するよりも芸術的イミテーションとしてのほうがよほど他者を喜ばせるであろう料理。爪の先ほどの大きさで市民生活の半年を賄えるという鮮毛羽模様の香樹で造られた水差しと桶は、湯を受けるほどにかぐわしい芳香をたゆたわせる。着替えも食事も洗面も、自分が手を貸す必要はない―――つまりデューバンザンガイツとは、とてつもなく優秀な工場なのだ。どれほど貧相な材料さえ、ベルトコンベアに乗りさえすれば、王家に早変わりする。何の問題もありはしない。
「姫が―――お目覚めになりました!」
「早く、殿下のお耳に、お早く……」
なにやら今日は、手間取っているらしい。が、大した問題ではなかろう。侍女は、工場の従業員だ。材料は、従業員に手を貸せはしない。侍女―――
ふと気づいて、キルルは上半身のばねだけで起き上がった。
えらく弾力の無いマットレスに、つっかえさせた手さえ沈みかけるため、その姿勢を保ち続けるのも苦労する。妙な競技のコートのようにずるずると広がった寝台から見えるのは、当たり前だが室内の風景だった。見るほどに遠近感が狂っているとしか思えなくなる広大な部屋には、家具なのかお飾りなのかわからない品物がちょこちょこと散りばめられ、そういったものよりは幾らか用途がはっきりしている侍女たちもやはり散りばめられている。
枕元……えらく遠いが、枕元には違いなかろうそこに控えていた侍女頭が、なにやら慌てたように寝台へ戻るよう示してくるが、キルルは無視し―――相手との距離を考えれば、合図を見落としたと言い張っても勝算がある―――人数を数えた。足りない。
「今、いつ? この日差し―――お昼よね?」
と、口にして気付く。
「なんで寝てたのに、天蓋が上がってるのよ? あたしが寝ては下ろし起きては上げてたご大層なプロ根性はどうし―――」
そこまで口にして、さらに気付く。
キルルからの急な問いかけに、侍女らは恐懼して体を床に伏せていた。しまった、喋る前に、それを示す手信号―――お上品に言うところの、宮廷儀礼―――を忘れていた。歯噛みする頃にはもう遅い。十二人を数える彼女らは瞬間に卒倒したかのような素早さで床にひれ伏して、広々とした部屋にてんでばらばらその身をちぢこませていた。彼女らの指先は、緊張からくる力みそのまま床に押し付けられて、真っ白く震えている。それはタイルを満たす千獣王の脈模様と相まって、そういった一種の作品であるかのような場違いな印象をキルルに抱かせた。
舌打ちしたい気分ではあったが、そんなことをすれば、彼女らのひとりかふたりは窓をつきやぶって身投げするだろう―――少なくとも、自分の寝床が一階にない今はすべきでない。予想にくたびれながら、とにかくキルルは言葉を続けた。
「ええと。さっきの質問は無しで、これにだけ答えて。今がお昼なら、なんでここにイーニアがいないの?」
その侍女の姿が勤務時間にもかかわらず確認できないのは、おかしなことだった―――イーニア・ルブ・ゲインニャは巻き髪に泣きぼくろが愛らしい、痩せた少女である。その名の綴りのとおり貴族だったが、本来は城仕えにもなれないような末端の生まれで、行儀見習いとしてではなく稼ぎを目当てにここへ来たらしい。当然として、他の侍女からそれとなく見下されていた。彼女らにすれば、当然に違いない。整っていない指の皮とげ、艶のない毛先、不慣れな行儀―――
なによりも、どれだけ面の皮を取り繕ったところで、隠しきれない部分が残されている少女。それを最も、キルルは好んでいた。
(もしかして、いい気になりすぎたかしら)
嫌な想像が胸をよぎる。翼の頭衣になんと恐れ多い、とおののく少女をなだめすかし、数日前になってやっとこさ、その蜂蜜のように明るい色のふわふわした髪をくしけずるところまでこぎ着けたというのに―――
(その時調子に乗って、今度はお互いのおやつを食べあいっこしましょって言ったのがバレたんだわ)
露見してしまったのならば、過度の寵愛だなんだと、面倒なことになったのは予想がつく。そしてそれを片付けるならば、イーニアを解雇するのが最も簡単だということも。
口止めされているのか、イーニアについて、侍女頭は答えてこない―――が、答えてきた声はあった。
「つい先ほど、体調を崩したとのことで診察させたところ、静養を要するとの診断でしたので、実家に帰しました。欠員は補充いたしましたので、小姉君に係る万事は滞りないかと」
それは想定された言い訳だった―――にもかかわらず驚いてしまったのは、その人物が返事をしてくるなど、まったくの想定外だったからだ。
その、彼―――遠くにある部屋の扉からゆるりと歩み入ってくる姿は、漂う物腰に対して、あまりにも若い。自分と同じ黄緑の瞳、同じ白い肌、髪の色も同じく橙と緋色、年齢も同じ十五歳。ただし、その鋭く整った相好から一秒たりとも抜けぬ沈着と、調えられて膝にまで至らんという長さの羽の頭髪の異様なまでの美しさが、彼と自分を双子と称すにはあまりにも大きな壁となっていた。
「イヅェン……」
呼びかけながら思わず、寝巻き姿を隠すよりも先に、坊主に近い自分の頭に手をやってしまう―――キルルの髪は切り口をなくすため、城へ移り住んだ際に全て抜かれていた。今になってどうにか少し生えてきたが、未だに毛先はろくに開花しておらず、緋色と橙色が混じった珍妙な坊主頭に近い。生まれたときから、羽の髪を―――翼の頭衣を保ってきた弟が目の前に来ると、改めてその無様さを突きつけられたような気分にさせられた。が。
「小姉君、お加減はいかがですか? 茶会の作法を手習いしておられた折、お倒れになられたのです。覚えておいでで?」
そんなこちらの悪足掻きなど涼しい顔で受け流し、イヅェンはあっさりと寝台まで間合いをつめた。ため息をつき、うなるようにして嫌味を吐いておく。
「作法は覚えてないけど、気分はすっきりしたものよ。寝起きに冷血な弟の鉄面皮なんて、蒸しタオルよりよっぽど目が覚めるわ。ありがと。さっすが、イヅェン・ア・ルーゼ後継第三階梯」
「それは結構。ならば、すぐに火急の件に入りましょう。しばし、お耳を拝借させていただきたい」
信じられず、キルルは顔を跳ね上げた。
「顔を拭く時間くらいちょうだいよ!」
「何故です? 蒸しタオルより余程目が覚めたのでしょう?」
「……そうだったわね」
そうだった。こいつはこんな男だ。げんなりと弟の気性を再確認し、彼女は、せめて寝巻きの襟だけは正した。寝台にへたり込んだまま、髪をかき上げる。すっかり軽くなったその感触が、指先にさみしい。
「で、何よ? 一応断っておくけど、もうこれ以上、勉強時間は増やせないわよ。まあ、あたしが王家に相応しい知識教養の吸収どころか、王家としての生活そのものにさえおっついていないのは、あたしのスケジュール管理してるあんたが一番把握してるでしょうけど」
イヅェンはこちらへ視線を留めたまま、左手だけを背後へ差し伸べた。あの指の形と手首の捻りの組み合わせは、『これから話しかける』を下級身分に示したかたちだったか―――当たっていたらしく、弟用の椅子を彼の背後に添えた侍女頭を筆頭に、王家の言葉を受け賜る準備として全員が一斉に屈身し、腰を中心に体を低くする。イヅェンは、そして、
「下がるがいい」
それで充分だった。自分たち二人を残して、ほか全員が一斉に部屋の外へさざなみのように引いていく。いつも自分がぱっぱと手を振りつつ「ねーちょっと一人になりたいからどっかいってよ」と言った時に彼女らがもらした異様な動揺は微塵とない。やはり王城の侍女は、王家の者に従うようにしつけられている。
(だから、イヅェンの言うことには戸惑わないんだわ)
当の弟はこちらを見詰めたまま、見えない背後に用意された椅子を確かめもせず、だが確かにそこへと腰かけた。当然とばかり、侍女らが本当に立ち去ったのか、振り向いてみることさえない。彼にしてみれば、キルルがそれらの必要性を思いついていることさえ、王家の恥部と捉えるだろう―――彼にとって、彼自身が王家である以上、侍女程度の者共が命を違えるなどありえるはずがないのだから。
氏より育ちとはこのことだ―――同じ腹で臍の緒を絡めて育ち、ア・ルーゼの綴りを同じく有しているとは言え、自分は弟のように母の偏愛の元で王家として成長してきたわけではない。その結果が今になって、後継第三階梯として全く違和感なく王責を全うしていくイヅェン・ア・ルーゼと、こうやってベッドで途方にくれるただの赤毛女の差を生んでいる。
イヅェンはそんなこちらにはお構い無しに、淡々と口を開いた。
「単刀直入に申し上げましょう、小姉君。姉君が生きておいでである可能性があります」
それは―――
何の前置きもなく言われるにしてはあまりに突飛で、急には理解できなかった。単に阿呆のように鸚鵡返ししようにも、含まれる意味が重すぎて、重圧負けした声門は微動だにできない。かといって呑み込こんでしまうには大きすぎ、キルルはひたすらそこにわだかまった不快感に眉根を寄せた。
弟は配慮なく、ただただ無感情に説明を連ねていく。
「翼の頭衣を冠すならば、玉座の後継第一階梯。冠さぬならば、父王と魔物との忌み子。不本意ながら、我々の異母姉。どのように呼ばれても構いませんが、その女性のことです」
「一体、どういう―――?」
「現王ヴェリザハー・ア・ルーゼ。つまり我々の父上は、母上を娶る以前にジヴィンと言う名の魔物に魅入られ、子を成すほどに毒されました」
ようやっと捻り出したキルルの言葉を待たず、イヅェンは分かりきった口上を開始した。
「それは、当時の王座に在りしア族ルーゼ家ザシャが子息であり、翼の頭衣を冠する身として、決して犯してはならぬ大罪―――【血肉の忠】への背約です。先代国王たる祖父ザシャ・ア・ルーゼは、彼を魔物に抗えぬまでに血統が弱体化している状態と判断し、階梯地位から放逐されました。そして、魔物の毒気が抜けるまでの長き期間、療養を施すに至ったのです」
「……王子と平民の身分違いの恋に、実の息子の幽閉でカタをつけただけじゃないの」
「どのような表現でもご随意に。続けてよろしいですか?」
「ああもう! どっちが魔物よ、この冷血!!」
怒鳴る。次いで、適当に寝台に拳を叩きつけて睨みつけるが、相手は表情どころか組んだ足の先を動かしさえしなかった―――どころか、気色悪いほどすんなりその打撃を吸収したマットレスの感触が、どこ吹く風といった弟の風体を自分へ具体的に知らしめているようにすら感じ、彼への致命打を見つけるより先に感情が噴出してしまう。
「最期はね! ジヴィンは身を隠しきれず、ついにおじい様の手下に殺されたって言うじゃない―――生きたままお腹を割かれて、赤ちゃんを引きずり出されて! その話を聞いてもまだ、あんたはそんな冷たいことが言えるっていうの!?」
「王家に在る者が温情を掛けるべきは国民と我が血肉であって、魔物はその範疇にありません。どうか王位の後継者として、翼の頭衣のお自覚を、小姉君―――続けます」
今はその羽が生えちゃいないわよと皮肉を言わせる暇も与えず、イヅェンは言葉を継いだ。
「王家をたぶらかすほどの魔力を持っていたとはいえ、ジヴィンはしょせん、穢らわしい魔物に過ぎません。その子も、また同様。母もろとも、ヴェリザハーよりきたる翼の頭衣の聖なる血筋に討たれ、滅されてしまって当然。しかしここで、逆説を鑑みないわけにもまいりません―――つまり胎児こそ、我が国の後継第一階梯たりうる紅蓮の如き翼の頭衣であり、魔物は産み月が近くなるにつれ、子の聖なる血に内側から食い破られたのではないか、と」
わずかながら自分自身でその可能性を吟味するかのように、イヅェンは言葉に間を含ませた。
「現時点において、魔物の胎児の遺骸―――とされるものに、翼の頭衣は確認されずじまいです。そして、児は翼の頭衣を冠する女児であるとの風説が、今も流布したまま……これがどういう事であるか、お分かりですね?」
「でもそれは、ただの噂だったでしょう。実際、お父様が王になってから、お姉ちゃんを探すようにって勅令を出したけど、見つかりやしなかったじゃない」
「その通り。父王の勅令に従った者の中には」
含みを持たせる言い方に、キルルは更に深く鼻頭に皺を寄せた。それはすぐに、次の弟の言によって解消されたのだが―――
「小姉君。最近になり、本物の翼の頭衣の、他国への密売が確認されました」
思わず息を呑み……そして、それを鼻孔から吐き出す。それで、どうにか鼻で笑い飛ばしたように聞こえてくれと願いながら、キルルは唇を曲げた。冷や汗の浮かびかけた鼻の下のくぼみのむずがゆさに、妙に苛立ちながら。
「―――本物の? まさか。有り得ないわ」
口先の否定を裏切って、キルルの視線は、弟の頭から垂れる長い羽毛に向かっていた。日の光を吸い込んでは、絢爛と輝くべくそこに在る。あたかも王家の後光のような―――
キルルの眼球から内心を読み取ったのだろう。髪の燐光を携たまま、イヅェンは僅かに頷くことで、姉に同意した。
「本来は、悔踏区域に住まう有翼亜種しか持ち得ない、伝説の鳥類の羽のごとき頭髪……そして、そこより紡ぎ出される、この至高の音響。我々はそれを人間種族であるにも関わらず、有しています。しかも、連中とは異なる、炎のような緋と橙の色合いで―――」
彼はつと、指先で、襟元に流れていた一枚の羽の先端をさすった。精緻に整えられている弟の羽毛は、それだけであの音―――しゃきり、という清らかな響きで空間を愛撫する。紅蓮の如き翼の頭衣にのみ許された、鼓膜の至福だった。
「人に呼ばれるならば、紅蓮の如き翼の頭衣と称される、この髪。これは我が国の玉座の後継の証であり、貴族の中でも特別な地位に在る王族における王家・直系・傍系を正し、【血肉の約定】を成す根幹でもあります」
王族の中で翼の頭衣を持つ者は、その生誕順に王位継承義務を負い、階梯順位としてその位を表現される。順位を持つ者は須く『王家』に連なり、その子で羽を持たねば『直系』、更に混血が進めば『傍系』となる。キルルはその程度の理解しかしていなかったが、そこに占める羽の重要性は身にしみて知っていた―――そのせいで、王位なんぞ知ったことではなかった自分が、後継第二階梯……姉が未確認である今、事実上の次の王位継承者などという立場に急に持ち上げられたのだから、それも当然だったが。
彼女より余程王にふさわしい優雅さで、イヅェンがゆるりと足を組み替えた。
「有翼亜種のそれを着色した贋物も含めると、鳥類の羽根のやり取りは、珍しくとも一切ないものでもありません。現に我が国土に含む悔踏区域から、輸出品のひとつとして交易され、その仲介料は国益の重要な部分を占めています。しかし、我々の翼の頭衣をそれらと混同してはなりません。我らが炎の羽毛は、到底値段などつけられぬ国宝であり、記録されている限り、本物の第三者への受け渡しは過去一度も行われていません。贋物の受け渡しについては事実数まで把握し切れていないのが実情ですが、姿かたちは似せれども、この翼の頭衣の音響までを複製することは不可能―――」
「偽物は不純物を染み込ませるせいで音はしないし、したとしても耳障り! 大体にして染める過程で痛んじゃうから、うねってしまって直毛にならない!」
イヅェンのせりふに中座を強制し、キルルは更に断言を継いだ。
「だからこそ、本物が密売されるなんてありえないわ」
「いかにも。我らが現在の王家―――父王陛下、小姉君、わたしからは、絶対に」
つまり、現在の王家に招かれていない翼の頭衣を冠する人物―――姉が、今の生死はどうあれ、売り物になるほど髪が整うまで、確かに存在していたということになる。しかもなにやら、羽根を売りさばいて金を儲けることができる上流階級者が、そのために王の勅命にさえ背くという、とんでもなくきな臭い場所で。
キルルはうめいてかぶりを振った。弟が遠まわしに告げていることは分かった。だが、だからといってそれをどうにかする過程の中に、自分への役割があたえられているとは到底考えられなかった―――少なくとも自分なら、上流階級社会に無知で無能で、弟のおんぶ抱っこでやっとかっと毎日をしのいでいる奴に、期待などしない。
よって正直に、キルルは疑問の声を上げた。
「だから、あたしにどうしろっていうのよ。単刀直入に言うんじゃなかったの? さっさとそうしてよ」
「父王のお加減はよろしくない。玉座の後継が取り沙汰されかねないこの時期に、後継第一階梯と目される姉君に関する不確定要素は、除かれるにこしたことはありません」
「分かってるわよ。だから―――」
「旗司誓の元へお行きになられてください」
「は?」
疑問が悲鳴に変わるまでもなく、イヅェンの解説がそれを均した。
「そうせよと命じられたとおり、単刀直入に申し上げたまで。小姉君へは、【血肉の約定】に則り、悔踏区域外輪に住む旗司誓<彼に凝立する聖杯>の元へ、幾日かにわたりご滞在召されるようお願い申し上げる」
「アブフ・ヒルビリ?」
聞いても、全く訳がわからない。しかし相手は、単刀直入にという階梯上位者の命に従った以上の義理を果たすつもりはないらしい。イヅェンは、それ以上のフォローも何も口にすることはなかった。
かといって、降りかかるのが自分の身となれば、これを黙視することなどできやしない―――反射的に思い出したことから確認を取ろうとして、とりとめないせりふがあふれてくる。
「アブフ・ヒルビリって、神話に出てくる、彼に凝立する聖杯の古語読みでしょ。【血肉の約定】は創国録にある一章で、旗司誓は悔踏区域の周りに住んでる何でも屋だし……」
「詳しい事は、道中に護衛官よりお聞きになられてください。司左翼より選任しました。総括者と小姉君は面識がありませんので、この場をお借りして紹介させていただきます。ヴァシャージャー、参れ」
「ちょっ……冗談でしょ、あたしまだ着替えどころか……!」
叫ぶ、のだが。
あと自分が成功したことといえば、必死に布団をかぶって寝起きの様を隠すくらいだった。イヅェンの命令を挫くことはできなかったため、とうに壮年の男が入室を済ませているのも受け入れるしかない。
その身に纏う緋色を基調とした軍服は、王城たるデューバンザンガイツへ招かれるには軽装といっていいものだったが、肩口から上半身をまたいで刺繍された国旗と軍旗のモチーフが、そのイメージを重厚な礼服へと昇華させている。なによりそれには、その男のかもしだす雰囲気が大いに影響していることは明らかだった―――イヅェンの背後で歩みをとめた彼の顔面に二本、唇の端からも一本、大きく傷痕が走っている。八年前の戦争で負ったのか、それは引きつって白くなっていた。髪を長く伸ばして下ろしたままにすることでそれを隠しているつもりなのだろうが、正直かなり目立っていることに、当人が気づいていないはずはなかろう。だが、そこを見るキルルに対して、相手の黒瞳に何らかの感情が浮かんだ気配はない。
イヅェンの手で示された合図に則り、その男が騎士の礼を取って、膝を床へつけた。伏せられた顔と比較した肩幅から、相手が意外に細身であることに気づく。
が、どうでもいいことだった。イヅェンの機械的な紹介も、その騎士―――ヴァシャージャーとやらの、黒髪の影から発せられる大仰な挨拶すら。
「これが、現在の唯任左総騎士に座す者です。その称号の通り、我が国の武力の双肩を成す司右翼・司左翼のうち、司左翼を取りまとめる任についています。ヴァシャージャー、小姉君への礼節を許す」
「は―――お初お目にかかる、キルル・ア・ルーゼ後継第二階梯。まずは、我が部下より紅蓮の如き翼の頭衣の護衛に預かる者を選出させていただける、この恐悦至極こそお伝えしたく存じます。この身は、ヴァシャージャー家が当主、名を―――」
「ああそう。もう分かった。分かったから……」
と、キルルは声にしていた。
無礼でもないせりふを遮るというあるまじき展開に言葉を呑んだ二人を尻目に、キルルは必死に呼吸を整えた。手で押さえている胸元が、大袈裟に上下する―――薄い寝巻きと、寝具越しに。洗ってすらいない顔をこすると、頬に張り付いていた髪が手の甲にこびりついている。
正直にキレて、キルルはぎりぎり保っていた外面を投げ出した。
「ちょっとはレディの扱いを学んでから出直してきなさい、この朴念仁ズ!!」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
変態の烙印 ーー平凡男子の無茶ブリ無双伝ーー
おもちさん
ファンタジー
■あらすじ……
凄く雑な流れで同じ世界へと転生した青年レイン。
また同じく雑に、世界の命運をフワッとしたノリで託される。
しかし、彼にとって一番の問題は、別の国に転生したことでも、命がけの戦闘でもない。
本来なら味方となるはずの、彼を取り巻く街の人たちとの軋轢だった。
ブラッシュアップしての再投稿です。
エブリスタでも掲載中です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
異世界国盗り物語 ~野望に燃えるエーリカは第六天魔皇になりて天下に武を布く~
ももちく
ファンタジー
天帝と教皇をトップに据えるテクロ大陸本土には4つの王国とその王国を護る4人の偉大なる魔法使いが存在した
創造主:Y.O.N.Nはこの世界のシステムの再構築を行おうとした
その過程において、テクロ大陸本土の西国にて冥皇が生まれる
冥皇の登場により、各国のパワーバランスが大きく崩れ、テクロ大陸は長い戦国時代へと入る
テクロ大陸が戦国時代に突入してから190年の月日が流れる
7つの聖痕のひとつである【暴食】を宿す剣王が若き戦士との戦いを経て、新しき世代に聖痕を譲り渡す
若き戦士は剣王の名を引き継ぎ、未だに終わりをしらない戦国乱世真っ只中のテクロ大陸へと殴り込みをかける
そこからさらに10年の月日が流れた
ホバート王国という島国のさらに辺境にあるオダーニの村から、ひとりの少女が世界に殴り込みをかけにいく
少女は|血濡れの女王《ブラッディ・エーリカ》の団を結成し、自分たちが世の中へ打って出る日を待ち続けていたのだ
その少女の名前はエーリカ=スミス
とある刀鍛冶の一人娘である
エーリカは分不相応と言われても仕方が無いほどのでっかい野望を抱いていた
エーリカの野望は『1国の主』となることであった
誰もが笑って暮らせる平和で豊かな国、そんな国を自分の手で興したいと望んでいた
エーリカは救国の士となるのか?
それとも国すら盗む大盗賊と呼ばれるようになるのか?
はたまた大帝国の祖となるのか?
エーリカは野望を成し遂げるその日まで、決して歩みを止めようとはしなかった……
君へ捧ぐ献身
坂本雅
ファンタジー
マーリャは地方都市より更に田舎の農村・リジー村で暮らす粉挽き小屋の娘。
水を運び、作物を育て、家畜の世話を焼くごく普通の農民として暮らしていた。
都市に越したり、旅に出て命をかけたりする気にはなれない。現在の安定した暮らしを維持すればそれで良い。
一生に一度の成人の儀を終えれば村に帰り、そのまま永住するはずだった。
だが徐々に身体が変調をきたし、人間にはない鱗や牙が生え始める。
優れた薬師だった旅の神父ジョサイアの協力を得て儀式当日まで耐え抜くも、彼もまた裏を持つ者だった。
これは平々凡々を願う主人公が安らかな生活を送りながら、
後にその生まれを否定され、自分の在り方を探す物語。
毎週日曜日更新予定です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる