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結章
結章 第五部 第二節
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(……まあ、おっかしい面子ではあるんだよな)
走る車中にて。ふとシゾーは、他人事さながら、それに気づいた。
行きのメンバーとて、奇妙は奇妙だった。外から見れば、違和感のない純潔貴族と下僕と高級娼婦だったとしても、内側から覗いてみれば、ただ奇天烈一穴に集った狢が三匹という度し難い取り合わせだった―――だから今の状況も、見様によっては、ほとほと面妖な顔ぶれと言えた。内側から自分なりに見るなら、自分と同席に着いているふたりは、どちらも女であり、上司であり、年上であり、いけ好かず、扱いづらいので使われている方がこちらへの害が減らせるという身も蓋もない性格難があるついでに、そういったどれもこれもが別にどうでもいいと思えてくるしかなくなる連中だ。客観的にはどうだろう? 外側から……つまりは、一般的な見地からしてみたら―――
(弩級だよな)
順当な評価に、シゾーはこっそりと頷いた。
まず弩級なことに、紅蓮の如き翼の頭衣を肩丈あたりでザンバラにした後継階梯階位第一位と目される女が、羽の奥にある面の皮で練り上げ続けている苛々をモロ出しにしたヤクザ面から、やわにしたって頼りねえったらありゃしねえとか口汚いいちゃもんをつけまくりつつ、お着せにされた白いシャツとズボンのあちこちを摘んでは捩って皺を寄せている―――のみにおさまらず、そのけんつくは、貧乏ゆすりする都度己の室内履きに飛び火して、憤懣の火に油を注いでいた。乱暴にぶった切られた羽。生き残っていた国王の婚外子―――蛇足するなら、死んだはずの英雄たる旗司誓、霹靂。次期王としてあるまじき下品と下賤。どれをとっても弩級だ。だがシゾーにとっては、全部が全部ひっくるめて、幼馴染みでしかない。
だがしかし、どの弩級からもあっさり身を躱して、もはやしっとりと疑問を投げかけてくるだけの微笑で目許を弛めているだけの娼婦の方が、それを上回って弩級だ。動揺もなく、驚嘆もなく、結い上げた黒髪がよく映える豪奢なドレス姿に嫣然とした余裕を包んで、飼い猫の尻尾の揺らめきでも見届けるような、面白がる瞳をしている。弩級過ぎる弩級だろう。だがシゾーにとっては、全部が全部ひっくるめて、ペルビエでしかない。
彼自身はどうだろう? 誰から見れば、どう見えるのだろうか? まずは疲れている。ならば、顔つきも相応に老け込んでいるだろう。王冠城に置いてきぼりにしてきた一から十までの事案に、ひとまずはうまくいったと判断していいものかどうか懸念してもいるので、老け顔に余計な皺を幾つか足してしまっていたかもしれない。どの補填にもなるまいし格好つけたわけでもないが、とりあえず解れていたオールバックをこめかみから後ろ頭へ撫でつけ直して、薄汚れた正装からなおざりにでも埃をはたき、嘆息する。
まさか本当にその仕草に、格好つけやがってと目くじらを立てたはずもなかろうが。幼馴染み―――シヴツェイアでもあり、ザーニーイでもあり、<彼に凝立する聖杯>の屋号を上げる旗司誓にて古馴染みとなってしまったそいつが、ぶっきらぼうに口火を切ったのは、まさしくその時だった。真横、長椅子の上で両肘を両腿に乗せた前傾姿勢で、こちらへメンチでも切るように、ぎろりと斜視を上げてくる。
「さてと。こうなったら引き続き、箱庭からおん出てやらにゃあなるめぇよ」
「そりゃそうでしょ」
げんなりと同意し、横目をくれてやる仕草で先を促す―――相手のその、まず間違いなく八つ当たりコミの、険のある目付きについては受け流して。
だから幼馴染みも、依怙地に不機嫌になっているというわけでもあるまい―――そうだ、こうやっていちいち食い下がってやらないと真面に相手にならないのもこいつらの共通項だ―――が、口を衝いた声音は、しつこく邪険を垂れ流していた。
「カスみてぇな案から潰していくか。その一。この馬車を乗っ取り、俺らと馬車馬以外を捨てて、その馬でトンズラかます」
「よりにもよってマジでカス案から来るこたぁないのに来ますかンっとにアンタって人は」
「だよな。真夜中とは言え、お国のお膝元だ。捨てた時点で足がつく」
「つーか、あんた今の自分の見てくれ忘れてんじゃねーでしょうね。こんなのが大っぴらに馬なんか駆ったりしたら、どんな寝ぼけ眼だって根こそぎ引ん剥いちゃいますってえの」
「言えた口かってんだ。てめぇこそ、馬子にも衣裳をまるまる体現しやがって。そのうえ馬とか。馬の上に馬子。馬鹿上回る馬馬。ぷっ」
「うっああ殴りてー」
「ひとまずは。そのうち王冠のドンパチが襟から裾まで延焼するだろうから、いったん身を隠して焼け野原になるのをやりすごすか騒ぎに乗じるか見極めた頃合いに、変装したのち行動に移るってのが無難なとこ―――」
「カス案とは言え。僭上に乗っけてくれた相手を前に、ずげずけと抜かしてくれるじゃないか。この坊やどもは」
と。
矢継ぎ早な応酬に、半眼で割り込んできたのは、ペルビエ―――ペルビエでしかなく、ペルビエだからこそ、とうにペルビエ・シャムジェイワとして君臨する娼婦だった。やり取りの無遠慮さについては小言を刺しただけで気が済んだらしく、彼女は言いざしから咎める針をすんなり引っ込めるなり、おっとりとした空気感を復活させて、男の胸板にでもしなだれるように長椅子へと寛いでみせる。そして、やはり男に向けるような含みある笑みに、含みあるせりふを食んできた。
「まぁいい。ついでだ。そいつもオマケに大目に見よう」
「ついでの、おまけ?」
「興が乗った、ってことさね」
目をぱちくりさせて繰り返したシゾーに、彼女は後を続けた。さらっと。
「このエラそげな嬢ちゃんに、目にモノ見せてやりたくなった」
そして、あとは終わるまで続いた。どこまでも、さらっと。
とんでもないことであっても。超弩級のことであろうとも。ペルビエだから。
「これから、あたしが全面的にアンタらの脱出劇に協力してやろう」
「は?」
とまあ、幼馴染み―――羽のせいか服装のせいか因縁ある黒歴史のせいか、内心どう呼んだものか保留にしている―――が、分かりやすい疑問符に語尾を上げたりしたとしても。ペルビエは、どうであれ止まらない。
「どうせ乗り掛かった舟さ。泥舟だろうが宝船だろうが知ったこっちゃない。まさか拒めるなんて思っちゃいないだろう?」
となると、シゾーに選択権はなかった。
対面席のペルビエに向かって、ぺこりと頭を下げる。
「なにとぞネンゴロによろしくお願いします」
「はあ!?」
語尾を上げるどころか裏返しにして、幼馴染みが掴みかかってきた。シゾーが頭ごと下げている襟首に飛びつくや否や、癪に障ったと露骨に顔に描いてある悪漢面―――やっぱザーニーイさんでしかねーよなー ―――で、がっくんがっくん振り回しにかかる。
「シゾーてめーナニほざきやがんだ!? さっきから黙って聞いてりゃすんなりペコペコと! 俺にだってそこまでへりくだったこと無ぇくせして!」
「あらヤキモチ」
「違っげぇよ黙ってろ外野! 違うって言えコラ内野!」
「なんで僕が」
横手からのペルビエの茶々に、ますます幼馴染み―――なのに羽シャキシャキ鳴らしてる女だからなぁ―――は、いきり立ってくれたが。抵抗するだけ長引くし、正装の痛み具合などとっくに気に掛けるレベルから外れているので、がっくんがっくんされるがまま、厭きて放り出されるのを待つ。やはり短気に十秒と保たず、けっと唾棄する仕草でシゾーに見切りをつけると、彼女はこちらを放り出した両腕を胸の上で組んで……その胸倉を陣取っている乳房の感触を覿面に味わってしまったらしく、ぎょっと厄払いでもする顔つきと手つきで腕を左右に払う。頭に巻いて三角巾にしたシゾーのポケットチーフがもっと大きかったなら、晒しがわりにしようとしたに違いない。
(んっとにマジで。この人ときたら)
こちらも物思いに蹴りをつけて、身じろぎがてら座り直したシゾーは、改めてペルビエを見やった。彼女は、こちら二人のすったもんだから、何を感じ取ったものか―――あるいは何を予感してか、高揚めく瞳にて、そのハシバミ色をどことなく底光りさせているが。
一応、食い下がってみる。そっと片手なんぞ顔の横まで上げつつ、眉を下げて。
「でも……正直、こう言っちゃアレだけど。本当に、そこまでペルビエにしてもらう理由はないよ」
「あたしにゃある。アンタのこたぁ知らんから、テキトーに納得しとくれ」
と。返された断言に加えて、
「まさか拒めるなんて思っちゃいないだろう?」
本日二度目の念押しを食らい、ぐうの音も出なくなった。その隙に、致命打を打ちこまれた―――と気付いた頃には、もう遅い。それはそれは美しい、破格の咲みに見惚れていた。
数瞬か……数秒か。綻ぶ花よりも魅力的に、綻ぶ花には在り得ない中毒性を予期せずにはおれない妖艶さを馨せて……なおかつ、それくらいに分析が踏み込む頃には、ひけらかされた犬歯の鋭さの破格加減の方に不吉が過ぎるという―――要は、気付いた時には遅かったのだ。
その歯列を唇の中へ隠して、疼く眼光をなやましげに目蓋の奥にしまうと、ペルビエがぶつぶつと独りごちる。
「さぁて、帰ったら楽し―――忙しくなるねえ♪」
さらには薄っすらと、鼻歌まで漂い始めた。鼻歌? 呪文だとしてもおかしくないし、前者と後者のどちらがマシなのか……それすら分かったものではない。としても。
隣席にて。ぎょっと背筋を聳やかした幼馴染みが、ひくひくと呻くのが聞こえた。
「……なんだこの……デデ爺みてぇな女は」
「ペルビエ」
「名前なんざ、どーだっていいんだよ……デデ爺みてえなんだから」
「ならどーであれ逆らえねーでしょが。分かんねえ奴。分かれ」
「分かってたまっか……デデ爺だぞ」
似たり寄ったりの雰囲気に、もったりと浸って―――浸かり終えて。
それほどの時間も置かずに、馬車は停車した。カーテンは終始閉ざされたままだったが、ペルビエがあえて御者に指示を出したということもなかったので、到着した先は見当がついている。幼馴染みは不審そうとも不信そうとも取れる仏頂面をしているが、説明するより見てもらった方が手っ取り早いだろう。外側から御者の手によって、馬車横腹のドアが開かれる―――用意された昇降段を降り、シゾーから車外に出た。地面に立つと、注意を向けていた足元から、目線を上げる。
見えてくるのは、玄関―――ただし、絵画から抜け出てきたような美観だ。柱。大扉。扉の引手から蝶番に掛けて施された彫琢と象眼は際立って魅力的で、ほんのりと差された色彩は少女の頬のように色づいており、燈明の明かりを受けた陰影の濃淡すら艶っぽく目に映らせる。その中へ降り立つと、ペルビエの物腰と容姿が、なおきりっと整えられた……空気を引き締めた、とでも言おうか。やはり女城主である。迎えに出てきていた御用聞きはひとりだったが、黒子役を弁えた物静かな所作で、しずしずと館奥へ招いてくれる。
(趣が違うってやつだよな。デューバンザンガイツとは)
牽制する荘厳さには漂うことのない豊満な色香に誘われる心地で、シゾーはペルビエに続いてシャムジェイワ館へと踏み込んだ。矢先、
「なんだここ。甘ニガくっせえ。なに腐らせやがった?」
馬鹿げた感想につま先を挫かれて背後を振り向くと、やはり馬鹿面の真ん中で小鼻を掻きがてら追い付いてきた馬鹿な幼馴染みへと、心底シゾーは呆れ果てた。どうにか二人して歩調を回復させながら、盛大にため息を吐く。
「くっせえのはあんたの方だっつーの。砂臭い」
「ああ?」
「あンのですけど。ここはシャムジェイワ館なんですよ。高級娼婦館です。こーきゅーしょーふかん」
落としてしまっていた肩を上げ、少しでも堂々と言い聞かせる。ちらと目を前方へ戻すと、ペルビエも御用聞きも気分を害した様子すらなく廊下を進んでいた―――段通の上を行くに相応しい、しゃなりしゃなりとした優雅な足取りで。
(それに比べて、)
と、生みの親より以下略を絵に描いたような幼馴染みにひと睨みをくれてから、説教を続ける。
「あんたが想像するよーなアバズレの塒や貧相なハッテンバたぁ、ここは一切合切違う―――美術館でもあるし、博物館でもあるし、社交場でもある。入場料を取るとこからして違うんです」
「取らなかったじゃねえか。誰も。今」
「今は、あんたが僕らと一緒だから」
「……なんでナチュラルにお前まで別格になってんだ?」
気に食わないところに考えごとまで付け足され、ぶちぶちと幼馴染みは唐変木な腐り方をしていくだけだ。百聞は一見に如かずだと思っていたが、通りすがりに設えられた絵画を見ようが花器を見ようが、興味なさげに軽蔑しては、つっけんどんに鼻を鳴らしている。粗忽なことこの上ない、ふてぶてしく厚い おめおめとした面構えをひっさげながら。
その態度の逐一が、前を行くペルビエの耳に拾えないはずもない……こと悪態とくれば、悪意より如実に相手へと肌触りを伝えてしまうものだ。もはや失礼を超えて失笑ものとなっているとしか思えなかったが、それでもシゾーは―――その片耳を抓るように引っ張ってやりたいのを我慢して―――反らして立たせた片手をメガホンに、こっそりと吹聴を重ねた。
「ここは、踏み込むだけで価値がある空間なんですよ―――集う人も、品も。その臭い臭い言ってるオ砂場育ちの天狗鼻には分からないだろーけどな、この残り香を味わうためだけに入場してくる奴だっているくらいのところなんですよ」
「はあ? 誰だそいつ。連れて来いよ。煙草知らねえだろ。一献献上の月見がてら一服やって、邪魔な三雲を紫煙で飾ってみろや。こんなとこ篭るより、よっぽど気分イイぜ」
「お黙り。恥ずかしいったらないよ、素人」
すう―――、と。
自然に会話の穂先をペルビエに持っていかれてしまう。いつしか彼女は、歩を止めていた。余所見をしていたシゾーがそれを数歩追い抜いて立ち止まる頃には、幼馴染みとペルビエが真っ向から対峙する構図となっている。
(ヤバい)
直感する。女たちのどちらがヤバい、という意味ではない……どちらも同じくらいヤバい女どもから とばっちりを食わされるのは、いつだって男と相場が決まっている。
思わず、主人に従いその場に留まっている御用聞きを振り返るが、彼は無表情に無感情な双眸を伏し目がちにして佇んでいるだけだ。その一瞬、死角となったシゾーの裏っ側で、
「てめえ。言うに事欠いて、素人たぁどういうこった?」
と、幼馴染みの声が尖る―――それが聞こえた。しかも、敢えて言及するなら……
「お前さん、旗司誓なんだろう?」
との、ペルビエの売り言葉に買い言葉は、尖ってはいなかった―――研ぎ澄まされていた。
殺傷力の優劣など言うに及ばず、不意打ちを食らった幼馴染みは、たじろがされたことに怯んだように見えた。表向きは取り繕ったように見せかけているものの、ペルビエに一瞥を留めた眼光はついさっきよりも揺らいで、熱をぼかしている。こうしてふたり並んでみると、履いている靴の違いも手伝って、ペルビエの方が背が高かった。ピンとくる。
(あ。苦手な角度)
記憶と思い出の合致は、幼馴染みの方が骨身に沁みていたに違いない……腰に両手を突いて大上段から叱りつけてくるシザジアフにしょげかえりながらも、それを見返すしかない、すごすごとしたへっぴり腰だ。
ペルビエは、片手に摘まんだ、火の入っていない煙管―――馬車から持ってきていたらしい―――の頭を、教鞭でも打つかのようにもう一方の掌にぱしんと叩きつけた。まるきり女教師が悪童を取り締まる風体で、そのまま畳み掛ける。
「仕事を任された時、ちょっと腕に覚えがあるだけの半人前が出しゃばってきたら、どうするね?」
「……準備体操がてら、減らず口を二度と叩けねえまでこてんぱんにノしてから、本業に取り掛かる」
「そうだね。それがプロだ。だからここでは、お前さんが黙る側だ。従いな。あたしはペルビエ・シャムジェイワ。当代随一の遊女だよ」
ぴしゃりと言い遂げた。即座に、相手の反応も見ずにペルビエは、くるりとシゾーへ向き直る。
そして一転して声色を落ち着かせると、その計算高い口調と真逆に悪戯っぽくした目をらんらんとさせながら、溌剌と告げた。
「下僕に扮していたアンタはともかく、キアズマの花をしていたこのペルビエは有名人だからね。そろそろ先遣隊の捜査の手が届くだろう。逆に、この一波さえ掻い潜れば、大潮が引いてまた寄せるまで隙間が開く。それは、アンタらが箱庭を脱出するには充分な時間だ。火蓋を切ってやろうじゃないの―――あたしらシャムジェイワ一門かけての、国をも出し抜くひと芝居さ!」
そうだ。告げた。幕開けを告げた。ただし、シゾー相手にではなく……もっと大きなものを手玉に取ると宣言したのだ、彼女は。天下か。時代か。まあ……そんなようなものだろうが。
眩暈がした―――くらくらと上下を見失って、吐くものもないのに胸が満杯過ぎるような、こんな悪酔いの感覚を覚えるのは久しぶりだった。酒には懲りている。女にも、まあ懲りた方だと思っていた。だのに、懲りない奴に巻き込まれて人生を棒に振ることについては、性懲りもなく耐性がついてしまっていた。
幼馴染みはと言うと、血の気を引かせた仰天面をひくつかせて、棒になった手足を突っ張らせていた。目蓋どころか、鼻の穴から毛穴まで開かせて棒立ちになっている素っ頓狂っぷりは見物ではあったが、さすがに闊歩を再開させたペルビエに追従しようとしたシゾーの素振りに、はっと正気を取り戻したらしい。ただし、こちらの隣へやってくる頃には、正気のせいで成り行きの尋常の無さを気取りもしたようで、とぼとぼとした足取りにお似合いのびくびくした口ぶりで、ちょんちょんこちらの袖口など引きつつ、ぎくしゃくと相談してくる。
「シゾー……なんでか俺、デデ爺がジンジルデッデになる前って、あんなのだったみてーな気ぃしてたまんねえぞオイ……しこたま べらぼうなことされるんじゃねえか、俺ら……キアズマがどうしたとかってのも、なんのこった? ……」
「……『我が人生に一片の悔い無し』って言いなさい」
「へ?」
「いーから言え」
「お。おう。『我が人生に一片の悔い無し』。って。何でだ?」
「用意しとけば叫べるだろ断末魔に」
「あるわ悔い! 無かったとしても今できたわ! 言ってんじゃねえよ俺! シゾーごときに! クソ俺!」
歩いているというのに頭を抱えて地団駄を踏み出した幼馴染みの器用さを感じながらも、尻目に引っ掛ける意気すらもないまま、しずしずとペルビエに付いて行く。
そうして案内されたのは、なんというか……女の花園だった。容積としては大部屋だ。化粧室とも衣装室とも言えたし、談話室でも暇つぶしコーナーでもあるようだった。部屋の奥の卓で、身支度を終えただけ―――つまり客のいない―――の娼婦がふたり、つまらなそうに視線を落としていた手元のカードから顔を上げる。それより先に、ドアを開けた御用聞きに続いて入室してきたペルビエに、わあっと歓声が上がる方が早かった。壁の鏡で紅を整えたばかりの唇に笑顔を咲かせて、あるいは他愛もない噂話に花を咲かせていた唇を不思議そうに尖らせて、めいめいに振り返っては声を上げてくる。娼婦だけで、ざっと二十人か……その他もろもろの係役まで数えるならその倍か。もっと多いか。
「きゃあ! なになに?」
「どうなさったの? お館様」
「あ。御用達の色男はっけーん♪」
反射的に、最後の掛け声に向けてペルビエの後ろからひょこっと首を出して笑いかけつつ手を振ってやると、黄色い声がちらほら素直に返ってくる。娼婦としてのパフォーマンスに付き合ってやるのも、下働きの役割だ……更に言うなら、その軽薄さを注意することで立場を知らしめるのはペルビエの役割だ。分かっちゃいない素人―――ペルビエ曰く―――だけが爪弾きに遭い、爪弾き者らしくシゾーの背後で険悪な文句を垂れていたようだが、肘を掴んで部屋の中へ引きずり込むとそれも途絶える。
ふたりを置いて奥へ進んだペルビエだけが、まわりの女―――娼婦もいるが係役も混ざっている―――に訳知り顔でふた言三言と言いつけてから、御用聞きも含めた大勢と話し込み始めた。内容は聞き取れない……と言うか、じろじろあけすけにシゾーらを中心に輪を描いて取り囲みだしていた衆目を押しのけて入れ替わった十名ばかりの女どもに包囲されては、それどころではない。との回りくどい言い訳を抜きにするなら、それどころではなくなっていく幼馴染みを見ていると……胸がすく。
幼馴染みはシゾーを盾にやりすごそうとの算段だったようだが、あっと言う間に数人がかりで引き剥がされて、ペルビエが行ったのとは反対側の部屋の奥へ連れ込まれてしまった―――と言うより、誘導されてしまっていることに、当人が気付いていなかった。つまりは、これも素人だ。女に手をあげるのは沽券に関わると顔に書いてあったので、なおさら娼館者らには扱いやすかったろう。幼馴染みは、やってくる手を振り払って間合いを保ったり、肩を払っていなしたりと足掻いていたが、相手は多勢に無勢を生かして盲点には必ず誰かが潜む図式で次々と幼馴染みの身体へ指先を触れさせていく。触れた指先は絡む指となり、絡む指から握る掌となる―――接触そのものに鈍麻させられると、接触した回数や濃度のような知覚など、なし崩しに失ってしまうものだ。幼馴染みも、さすがに掴まれた腕の長袖を捲られたり、胴から臍まわりを摩られ始めたあたりから、そこはかとない恐怖を味わいだしたようだった。むんずと腰つきから尻の肉付きまで確認されて悲鳴を上げる頃には、がむしゃらの形相をすっかり慌てふためかせて、手当たり次第に検分してくる者どもに総毛立だっている。
当の者ども―――特に娼婦ときたら、最初こそ遊び半分で金切り声を発する盛り上がりを見せたものの、あとは経時的に淡泊な落胆しか見せやしなかったので、その温度差がまた幼馴染みの遮二無二に発破をかけていくのだが。まあこれも、どうしようもない。
「げ。腹筋割れてるー」
「ゲェたぁ何だゲェたぁコラ!」
「うっわチンピラ」
「痴女よりマシだ離れろ放しやがれ退いてろスベタどもぁ!」
「ちょいと、女の子がどうやったらここまでコチコチごつごつのスジっ張りになれるってんだい!? 放し飼いの犬っころの方が、まだやわらかいよ!」
「ああそうかい! 毎晩のよーに煮て食ってるヤマンバときたら流石だなぁつんつんチラ見でヒトサマの肉質まで見抜く千里眼をお持ちってか! 勉強になったわアリガトウよ俺が飼う時はちゃんと繋いどくから今夜くらい愛用の鍋磨いてクソして寝てろ! 枕元でチンチンしてる半透明のワン公にゃあシカトこいてイイ夢見とけ!」
「顔だけにしたって、幻滅させてくれるにも程があるわ……なに、この棍棒みたいな手足。関節が浮いてるだけならまだしも、手なんかマメに胼胝だらけだし。膝小僧なんて黒ずんじゃって」
「足なんか蹴りが届く長さで生えてりゃいいだろが! しししシゾーなんとかしやがれ女の扱いなんざテメーの領分―――!」
そうして幼馴染みが怒声ごと振り向いてきたのが、ちょうど立ちんぼのシゾーが全裸に剥かれ終えたタイミングだったので。
まあ、懲りないこいつとは真逆に、これっぽっちも誰にも抵抗していなかった手前、先に脱がされてしまっただけなのだが。まあ、間が悪かったは悪かった。
「えーっと、」
と、なんとなく口にしたはいいものの、悪いのは間であってシゾー自身ではないので謝罪するのもあべこべだし、だからといって尻切れトンボに無言となるのも気まずい。ついでに、目ン玉を点にするどころか頭の中までテンに埋め尽くされていること疑いない真っ白けなお頭に、丸出しにされた腹の縫い目について経緯を解説したところで記憶に残るとも思えないし、となると話題にする意味もない。
なので、どうでもいいことを断っておく。髪を結わえていた紐すら取られて、ぱさぱさと雪崩れてきた黒髪の隙間から。
「あの。慣れっこになってみると、そんな悪くもないし、いいとこもあるんですってば。実際。やっぱ。こういうの」
反応はない。返事が返ってくるどころか、聞こえている風でもなかったが。
シゾーは、聞かれていない言葉を語りかけた。厭味ではあったが……こんな時になって、もう卑怯臭くなくなってしまった皮肉を。
「今まで食わず嫌いしてきたアンタが悪い。往生際です。往生なさい」
その辺で、手を引っ張られるまま移動したので、シゾーのアクションに対する幼馴染みのリアクションは分からなくなった。
幼馴染みを囲うシーンの移り変わりについては、推知できるところではある。忘我の淵を流離っている合間に、これ幸いとてきぱき脱がしにかかられていたので、今頃は赤裸にされてしまっているはずだ。
ただし、リアクションの範疇と言っていいものか、微妙ではあるものの―――こちらを後追いするような震え声は、漸うシゾーの耳に届いた。おずおずと戦慄いた、独り言が。
「……往生する、のか?」
「「「いっ・せーの・―――!!」」」
命乞いすらゆるしはしなかった掛け声の重合が、いぎたない大絶叫の引き金を引いた。
走る車中にて。ふとシゾーは、他人事さながら、それに気づいた。
行きのメンバーとて、奇妙は奇妙だった。外から見れば、違和感のない純潔貴族と下僕と高級娼婦だったとしても、内側から覗いてみれば、ただ奇天烈一穴に集った狢が三匹という度し難い取り合わせだった―――だから今の状況も、見様によっては、ほとほと面妖な顔ぶれと言えた。内側から自分なりに見るなら、自分と同席に着いているふたりは、どちらも女であり、上司であり、年上であり、いけ好かず、扱いづらいので使われている方がこちらへの害が減らせるという身も蓋もない性格難があるついでに、そういったどれもこれもが別にどうでもいいと思えてくるしかなくなる連中だ。客観的にはどうだろう? 外側から……つまりは、一般的な見地からしてみたら―――
(弩級だよな)
順当な評価に、シゾーはこっそりと頷いた。
まず弩級なことに、紅蓮の如き翼の頭衣を肩丈あたりでザンバラにした後継階梯階位第一位と目される女が、羽の奥にある面の皮で練り上げ続けている苛々をモロ出しにしたヤクザ面から、やわにしたって頼りねえったらありゃしねえとか口汚いいちゃもんをつけまくりつつ、お着せにされた白いシャツとズボンのあちこちを摘んでは捩って皺を寄せている―――のみにおさまらず、そのけんつくは、貧乏ゆすりする都度己の室内履きに飛び火して、憤懣の火に油を注いでいた。乱暴にぶった切られた羽。生き残っていた国王の婚外子―――蛇足するなら、死んだはずの英雄たる旗司誓、霹靂。次期王としてあるまじき下品と下賤。どれをとっても弩級だ。だがシゾーにとっては、全部が全部ひっくるめて、幼馴染みでしかない。
だがしかし、どの弩級からもあっさり身を躱して、もはやしっとりと疑問を投げかけてくるだけの微笑で目許を弛めているだけの娼婦の方が、それを上回って弩級だ。動揺もなく、驚嘆もなく、結い上げた黒髪がよく映える豪奢なドレス姿に嫣然とした余裕を包んで、飼い猫の尻尾の揺らめきでも見届けるような、面白がる瞳をしている。弩級過ぎる弩級だろう。だがシゾーにとっては、全部が全部ひっくるめて、ペルビエでしかない。
彼自身はどうだろう? 誰から見れば、どう見えるのだろうか? まずは疲れている。ならば、顔つきも相応に老け込んでいるだろう。王冠城に置いてきぼりにしてきた一から十までの事案に、ひとまずはうまくいったと判断していいものかどうか懸念してもいるので、老け顔に余計な皺を幾つか足してしまっていたかもしれない。どの補填にもなるまいし格好つけたわけでもないが、とりあえず解れていたオールバックをこめかみから後ろ頭へ撫でつけ直して、薄汚れた正装からなおざりにでも埃をはたき、嘆息する。
まさか本当にその仕草に、格好つけやがってと目くじらを立てたはずもなかろうが。幼馴染み―――シヴツェイアでもあり、ザーニーイでもあり、<彼に凝立する聖杯>の屋号を上げる旗司誓にて古馴染みとなってしまったそいつが、ぶっきらぼうに口火を切ったのは、まさしくその時だった。真横、長椅子の上で両肘を両腿に乗せた前傾姿勢で、こちらへメンチでも切るように、ぎろりと斜視を上げてくる。
「さてと。こうなったら引き続き、箱庭からおん出てやらにゃあなるめぇよ」
「そりゃそうでしょ」
げんなりと同意し、横目をくれてやる仕草で先を促す―――相手のその、まず間違いなく八つ当たりコミの、険のある目付きについては受け流して。
だから幼馴染みも、依怙地に不機嫌になっているというわけでもあるまい―――そうだ、こうやっていちいち食い下がってやらないと真面に相手にならないのもこいつらの共通項だ―――が、口を衝いた声音は、しつこく邪険を垂れ流していた。
「カスみてぇな案から潰していくか。その一。この馬車を乗っ取り、俺らと馬車馬以外を捨てて、その馬でトンズラかます」
「よりにもよってマジでカス案から来るこたぁないのに来ますかンっとにアンタって人は」
「だよな。真夜中とは言え、お国のお膝元だ。捨てた時点で足がつく」
「つーか、あんた今の自分の見てくれ忘れてんじゃねーでしょうね。こんなのが大っぴらに馬なんか駆ったりしたら、どんな寝ぼけ眼だって根こそぎ引ん剥いちゃいますってえの」
「言えた口かってんだ。てめぇこそ、馬子にも衣裳をまるまる体現しやがって。そのうえ馬とか。馬の上に馬子。馬鹿上回る馬馬。ぷっ」
「うっああ殴りてー」
「ひとまずは。そのうち王冠のドンパチが襟から裾まで延焼するだろうから、いったん身を隠して焼け野原になるのをやりすごすか騒ぎに乗じるか見極めた頃合いに、変装したのち行動に移るってのが無難なとこ―――」
「カス案とは言え。僭上に乗っけてくれた相手を前に、ずげずけと抜かしてくれるじゃないか。この坊やどもは」
と。
矢継ぎ早な応酬に、半眼で割り込んできたのは、ペルビエ―――ペルビエでしかなく、ペルビエだからこそ、とうにペルビエ・シャムジェイワとして君臨する娼婦だった。やり取りの無遠慮さについては小言を刺しただけで気が済んだらしく、彼女は言いざしから咎める針をすんなり引っ込めるなり、おっとりとした空気感を復活させて、男の胸板にでもしなだれるように長椅子へと寛いでみせる。そして、やはり男に向けるような含みある笑みに、含みあるせりふを食んできた。
「まぁいい。ついでだ。そいつもオマケに大目に見よう」
「ついでの、おまけ?」
「興が乗った、ってことさね」
目をぱちくりさせて繰り返したシゾーに、彼女は後を続けた。さらっと。
「このエラそげな嬢ちゃんに、目にモノ見せてやりたくなった」
そして、あとは終わるまで続いた。どこまでも、さらっと。
とんでもないことであっても。超弩級のことであろうとも。ペルビエだから。
「これから、あたしが全面的にアンタらの脱出劇に協力してやろう」
「は?」
とまあ、幼馴染み―――羽のせいか服装のせいか因縁ある黒歴史のせいか、内心どう呼んだものか保留にしている―――が、分かりやすい疑問符に語尾を上げたりしたとしても。ペルビエは、どうであれ止まらない。
「どうせ乗り掛かった舟さ。泥舟だろうが宝船だろうが知ったこっちゃない。まさか拒めるなんて思っちゃいないだろう?」
となると、シゾーに選択権はなかった。
対面席のペルビエに向かって、ぺこりと頭を下げる。
「なにとぞネンゴロによろしくお願いします」
「はあ!?」
語尾を上げるどころか裏返しにして、幼馴染みが掴みかかってきた。シゾーが頭ごと下げている襟首に飛びつくや否や、癪に障ったと露骨に顔に描いてある悪漢面―――やっぱザーニーイさんでしかねーよなー ―――で、がっくんがっくん振り回しにかかる。
「シゾーてめーナニほざきやがんだ!? さっきから黙って聞いてりゃすんなりペコペコと! 俺にだってそこまでへりくだったこと無ぇくせして!」
「あらヤキモチ」
「違っげぇよ黙ってろ外野! 違うって言えコラ内野!」
「なんで僕が」
横手からのペルビエの茶々に、ますます幼馴染み―――なのに羽シャキシャキ鳴らしてる女だからなぁ―――は、いきり立ってくれたが。抵抗するだけ長引くし、正装の痛み具合などとっくに気に掛けるレベルから外れているので、がっくんがっくんされるがまま、厭きて放り出されるのを待つ。やはり短気に十秒と保たず、けっと唾棄する仕草でシゾーに見切りをつけると、彼女はこちらを放り出した両腕を胸の上で組んで……その胸倉を陣取っている乳房の感触を覿面に味わってしまったらしく、ぎょっと厄払いでもする顔つきと手つきで腕を左右に払う。頭に巻いて三角巾にしたシゾーのポケットチーフがもっと大きかったなら、晒しがわりにしようとしたに違いない。
(んっとにマジで。この人ときたら)
こちらも物思いに蹴りをつけて、身じろぎがてら座り直したシゾーは、改めてペルビエを見やった。彼女は、こちら二人のすったもんだから、何を感じ取ったものか―――あるいは何を予感してか、高揚めく瞳にて、そのハシバミ色をどことなく底光りさせているが。
一応、食い下がってみる。そっと片手なんぞ顔の横まで上げつつ、眉を下げて。
「でも……正直、こう言っちゃアレだけど。本当に、そこまでペルビエにしてもらう理由はないよ」
「あたしにゃある。アンタのこたぁ知らんから、テキトーに納得しとくれ」
と。返された断言に加えて、
「まさか拒めるなんて思っちゃいないだろう?」
本日二度目の念押しを食らい、ぐうの音も出なくなった。その隙に、致命打を打ちこまれた―――と気付いた頃には、もう遅い。それはそれは美しい、破格の咲みに見惚れていた。
数瞬か……数秒か。綻ぶ花よりも魅力的に、綻ぶ花には在り得ない中毒性を予期せずにはおれない妖艶さを馨せて……なおかつ、それくらいに分析が踏み込む頃には、ひけらかされた犬歯の鋭さの破格加減の方に不吉が過ぎるという―――要は、気付いた時には遅かったのだ。
その歯列を唇の中へ隠して、疼く眼光をなやましげに目蓋の奥にしまうと、ペルビエがぶつぶつと独りごちる。
「さぁて、帰ったら楽し―――忙しくなるねえ♪」
さらには薄っすらと、鼻歌まで漂い始めた。鼻歌? 呪文だとしてもおかしくないし、前者と後者のどちらがマシなのか……それすら分かったものではない。としても。
隣席にて。ぎょっと背筋を聳やかした幼馴染みが、ひくひくと呻くのが聞こえた。
「……なんだこの……デデ爺みてぇな女は」
「ペルビエ」
「名前なんざ、どーだっていいんだよ……デデ爺みてえなんだから」
「ならどーであれ逆らえねーでしょが。分かんねえ奴。分かれ」
「分かってたまっか……デデ爺だぞ」
似たり寄ったりの雰囲気に、もったりと浸って―――浸かり終えて。
それほどの時間も置かずに、馬車は停車した。カーテンは終始閉ざされたままだったが、ペルビエがあえて御者に指示を出したということもなかったので、到着した先は見当がついている。幼馴染みは不審そうとも不信そうとも取れる仏頂面をしているが、説明するより見てもらった方が手っ取り早いだろう。外側から御者の手によって、馬車横腹のドアが開かれる―――用意された昇降段を降り、シゾーから車外に出た。地面に立つと、注意を向けていた足元から、目線を上げる。
見えてくるのは、玄関―――ただし、絵画から抜け出てきたような美観だ。柱。大扉。扉の引手から蝶番に掛けて施された彫琢と象眼は際立って魅力的で、ほんのりと差された色彩は少女の頬のように色づいており、燈明の明かりを受けた陰影の濃淡すら艶っぽく目に映らせる。その中へ降り立つと、ペルビエの物腰と容姿が、なおきりっと整えられた……空気を引き締めた、とでも言おうか。やはり女城主である。迎えに出てきていた御用聞きはひとりだったが、黒子役を弁えた物静かな所作で、しずしずと館奥へ招いてくれる。
(趣が違うってやつだよな。デューバンザンガイツとは)
牽制する荘厳さには漂うことのない豊満な色香に誘われる心地で、シゾーはペルビエに続いてシャムジェイワ館へと踏み込んだ。矢先、
「なんだここ。甘ニガくっせえ。なに腐らせやがった?」
馬鹿げた感想につま先を挫かれて背後を振り向くと、やはり馬鹿面の真ん中で小鼻を掻きがてら追い付いてきた馬鹿な幼馴染みへと、心底シゾーは呆れ果てた。どうにか二人して歩調を回復させながら、盛大にため息を吐く。
「くっせえのはあんたの方だっつーの。砂臭い」
「ああ?」
「あンのですけど。ここはシャムジェイワ館なんですよ。高級娼婦館です。こーきゅーしょーふかん」
落としてしまっていた肩を上げ、少しでも堂々と言い聞かせる。ちらと目を前方へ戻すと、ペルビエも御用聞きも気分を害した様子すらなく廊下を進んでいた―――段通の上を行くに相応しい、しゃなりしゃなりとした優雅な足取りで。
(それに比べて、)
と、生みの親より以下略を絵に描いたような幼馴染みにひと睨みをくれてから、説教を続ける。
「あんたが想像するよーなアバズレの塒や貧相なハッテンバたぁ、ここは一切合切違う―――美術館でもあるし、博物館でもあるし、社交場でもある。入場料を取るとこからして違うんです」
「取らなかったじゃねえか。誰も。今」
「今は、あんたが僕らと一緒だから」
「……なんでナチュラルにお前まで別格になってんだ?」
気に食わないところに考えごとまで付け足され、ぶちぶちと幼馴染みは唐変木な腐り方をしていくだけだ。百聞は一見に如かずだと思っていたが、通りすがりに設えられた絵画を見ようが花器を見ようが、興味なさげに軽蔑しては、つっけんどんに鼻を鳴らしている。粗忽なことこの上ない、ふてぶてしく厚い おめおめとした面構えをひっさげながら。
その態度の逐一が、前を行くペルビエの耳に拾えないはずもない……こと悪態とくれば、悪意より如実に相手へと肌触りを伝えてしまうものだ。もはや失礼を超えて失笑ものとなっているとしか思えなかったが、それでもシゾーは―――その片耳を抓るように引っ張ってやりたいのを我慢して―――反らして立たせた片手をメガホンに、こっそりと吹聴を重ねた。
「ここは、踏み込むだけで価値がある空間なんですよ―――集う人も、品も。その臭い臭い言ってるオ砂場育ちの天狗鼻には分からないだろーけどな、この残り香を味わうためだけに入場してくる奴だっているくらいのところなんですよ」
「はあ? 誰だそいつ。連れて来いよ。煙草知らねえだろ。一献献上の月見がてら一服やって、邪魔な三雲を紫煙で飾ってみろや。こんなとこ篭るより、よっぽど気分イイぜ」
「お黙り。恥ずかしいったらないよ、素人」
すう―――、と。
自然に会話の穂先をペルビエに持っていかれてしまう。いつしか彼女は、歩を止めていた。余所見をしていたシゾーがそれを数歩追い抜いて立ち止まる頃には、幼馴染みとペルビエが真っ向から対峙する構図となっている。
(ヤバい)
直感する。女たちのどちらがヤバい、という意味ではない……どちらも同じくらいヤバい女どもから とばっちりを食わされるのは、いつだって男と相場が決まっている。
思わず、主人に従いその場に留まっている御用聞きを振り返るが、彼は無表情に無感情な双眸を伏し目がちにして佇んでいるだけだ。その一瞬、死角となったシゾーの裏っ側で、
「てめえ。言うに事欠いて、素人たぁどういうこった?」
と、幼馴染みの声が尖る―――それが聞こえた。しかも、敢えて言及するなら……
「お前さん、旗司誓なんだろう?」
との、ペルビエの売り言葉に買い言葉は、尖ってはいなかった―――研ぎ澄まされていた。
殺傷力の優劣など言うに及ばず、不意打ちを食らった幼馴染みは、たじろがされたことに怯んだように見えた。表向きは取り繕ったように見せかけているものの、ペルビエに一瞥を留めた眼光はついさっきよりも揺らいで、熱をぼかしている。こうしてふたり並んでみると、履いている靴の違いも手伝って、ペルビエの方が背が高かった。ピンとくる。
(あ。苦手な角度)
記憶と思い出の合致は、幼馴染みの方が骨身に沁みていたに違いない……腰に両手を突いて大上段から叱りつけてくるシザジアフにしょげかえりながらも、それを見返すしかない、すごすごとしたへっぴり腰だ。
ペルビエは、片手に摘まんだ、火の入っていない煙管―――馬車から持ってきていたらしい―――の頭を、教鞭でも打つかのようにもう一方の掌にぱしんと叩きつけた。まるきり女教師が悪童を取り締まる風体で、そのまま畳み掛ける。
「仕事を任された時、ちょっと腕に覚えがあるだけの半人前が出しゃばってきたら、どうするね?」
「……準備体操がてら、減らず口を二度と叩けねえまでこてんぱんにノしてから、本業に取り掛かる」
「そうだね。それがプロだ。だからここでは、お前さんが黙る側だ。従いな。あたしはペルビエ・シャムジェイワ。当代随一の遊女だよ」
ぴしゃりと言い遂げた。即座に、相手の反応も見ずにペルビエは、くるりとシゾーへ向き直る。
そして一転して声色を落ち着かせると、その計算高い口調と真逆に悪戯っぽくした目をらんらんとさせながら、溌剌と告げた。
「下僕に扮していたアンタはともかく、キアズマの花をしていたこのペルビエは有名人だからね。そろそろ先遣隊の捜査の手が届くだろう。逆に、この一波さえ掻い潜れば、大潮が引いてまた寄せるまで隙間が開く。それは、アンタらが箱庭を脱出するには充分な時間だ。火蓋を切ってやろうじゃないの―――あたしらシャムジェイワ一門かけての、国をも出し抜くひと芝居さ!」
そうだ。告げた。幕開けを告げた。ただし、シゾー相手にではなく……もっと大きなものを手玉に取ると宣言したのだ、彼女は。天下か。時代か。まあ……そんなようなものだろうが。
眩暈がした―――くらくらと上下を見失って、吐くものもないのに胸が満杯過ぎるような、こんな悪酔いの感覚を覚えるのは久しぶりだった。酒には懲りている。女にも、まあ懲りた方だと思っていた。だのに、懲りない奴に巻き込まれて人生を棒に振ることについては、性懲りもなく耐性がついてしまっていた。
幼馴染みはと言うと、血の気を引かせた仰天面をひくつかせて、棒になった手足を突っ張らせていた。目蓋どころか、鼻の穴から毛穴まで開かせて棒立ちになっている素っ頓狂っぷりは見物ではあったが、さすがに闊歩を再開させたペルビエに追従しようとしたシゾーの素振りに、はっと正気を取り戻したらしい。ただし、こちらの隣へやってくる頃には、正気のせいで成り行きの尋常の無さを気取りもしたようで、とぼとぼとした足取りにお似合いのびくびくした口ぶりで、ちょんちょんこちらの袖口など引きつつ、ぎくしゃくと相談してくる。
「シゾー……なんでか俺、デデ爺がジンジルデッデになる前って、あんなのだったみてーな気ぃしてたまんねえぞオイ……しこたま べらぼうなことされるんじゃねえか、俺ら……キアズマがどうしたとかってのも、なんのこった? ……」
「……『我が人生に一片の悔い無し』って言いなさい」
「へ?」
「いーから言え」
「お。おう。『我が人生に一片の悔い無し』。って。何でだ?」
「用意しとけば叫べるだろ断末魔に」
「あるわ悔い! 無かったとしても今できたわ! 言ってんじゃねえよ俺! シゾーごときに! クソ俺!」
歩いているというのに頭を抱えて地団駄を踏み出した幼馴染みの器用さを感じながらも、尻目に引っ掛ける意気すらもないまま、しずしずとペルビエに付いて行く。
そうして案内されたのは、なんというか……女の花園だった。容積としては大部屋だ。化粧室とも衣装室とも言えたし、談話室でも暇つぶしコーナーでもあるようだった。部屋の奥の卓で、身支度を終えただけ―――つまり客のいない―――の娼婦がふたり、つまらなそうに視線を落としていた手元のカードから顔を上げる。それより先に、ドアを開けた御用聞きに続いて入室してきたペルビエに、わあっと歓声が上がる方が早かった。壁の鏡で紅を整えたばかりの唇に笑顔を咲かせて、あるいは他愛もない噂話に花を咲かせていた唇を不思議そうに尖らせて、めいめいに振り返っては声を上げてくる。娼婦だけで、ざっと二十人か……その他もろもろの係役まで数えるならその倍か。もっと多いか。
「きゃあ! なになに?」
「どうなさったの? お館様」
「あ。御用達の色男はっけーん♪」
反射的に、最後の掛け声に向けてペルビエの後ろからひょこっと首を出して笑いかけつつ手を振ってやると、黄色い声がちらほら素直に返ってくる。娼婦としてのパフォーマンスに付き合ってやるのも、下働きの役割だ……更に言うなら、その軽薄さを注意することで立場を知らしめるのはペルビエの役割だ。分かっちゃいない素人―――ペルビエ曰く―――だけが爪弾きに遭い、爪弾き者らしくシゾーの背後で険悪な文句を垂れていたようだが、肘を掴んで部屋の中へ引きずり込むとそれも途絶える。
ふたりを置いて奥へ進んだペルビエだけが、まわりの女―――娼婦もいるが係役も混ざっている―――に訳知り顔でふた言三言と言いつけてから、御用聞きも含めた大勢と話し込み始めた。内容は聞き取れない……と言うか、じろじろあけすけにシゾーらを中心に輪を描いて取り囲みだしていた衆目を押しのけて入れ替わった十名ばかりの女どもに包囲されては、それどころではない。との回りくどい言い訳を抜きにするなら、それどころではなくなっていく幼馴染みを見ていると……胸がすく。
幼馴染みはシゾーを盾にやりすごそうとの算段だったようだが、あっと言う間に数人がかりで引き剥がされて、ペルビエが行ったのとは反対側の部屋の奥へ連れ込まれてしまった―――と言うより、誘導されてしまっていることに、当人が気付いていなかった。つまりは、これも素人だ。女に手をあげるのは沽券に関わると顔に書いてあったので、なおさら娼館者らには扱いやすかったろう。幼馴染みは、やってくる手を振り払って間合いを保ったり、肩を払っていなしたりと足掻いていたが、相手は多勢に無勢を生かして盲点には必ず誰かが潜む図式で次々と幼馴染みの身体へ指先を触れさせていく。触れた指先は絡む指となり、絡む指から握る掌となる―――接触そのものに鈍麻させられると、接触した回数や濃度のような知覚など、なし崩しに失ってしまうものだ。幼馴染みも、さすがに掴まれた腕の長袖を捲られたり、胴から臍まわりを摩られ始めたあたりから、そこはかとない恐怖を味わいだしたようだった。むんずと腰つきから尻の肉付きまで確認されて悲鳴を上げる頃には、がむしゃらの形相をすっかり慌てふためかせて、手当たり次第に検分してくる者どもに総毛立だっている。
当の者ども―――特に娼婦ときたら、最初こそ遊び半分で金切り声を発する盛り上がりを見せたものの、あとは経時的に淡泊な落胆しか見せやしなかったので、その温度差がまた幼馴染みの遮二無二に発破をかけていくのだが。まあこれも、どうしようもない。
「げ。腹筋割れてるー」
「ゲェたぁ何だゲェたぁコラ!」
「うっわチンピラ」
「痴女よりマシだ離れろ放しやがれ退いてろスベタどもぁ!」
「ちょいと、女の子がどうやったらここまでコチコチごつごつのスジっ張りになれるってんだい!? 放し飼いの犬っころの方が、まだやわらかいよ!」
「ああそうかい! 毎晩のよーに煮て食ってるヤマンバときたら流石だなぁつんつんチラ見でヒトサマの肉質まで見抜く千里眼をお持ちってか! 勉強になったわアリガトウよ俺が飼う時はちゃんと繋いどくから今夜くらい愛用の鍋磨いてクソして寝てろ! 枕元でチンチンしてる半透明のワン公にゃあシカトこいてイイ夢見とけ!」
「顔だけにしたって、幻滅させてくれるにも程があるわ……なに、この棍棒みたいな手足。関節が浮いてるだけならまだしも、手なんかマメに胼胝だらけだし。膝小僧なんて黒ずんじゃって」
「足なんか蹴りが届く長さで生えてりゃいいだろが! しししシゾーなんとかしやがれ女の扱いなんざテメーの領分―――!」
そうして幼馴染みが怒声ごと振り向いてきたのが、ちょうど立ちんぼのシゾーが全裸に剥かれ終えたタイミングだったので。
まあ、懲りないこいつとは真逆に、これっぽっちも誰にも抵抗していなかった手前、先に脱がされてしまっただけなのだが。まあ、間が悪かったは悪かった。
「えーっと、」
と、なんとなく口にしたはいいものの、悪いのは間であってシゾー自身ではないので謝罪するのもあべこべだし、だからといって尻切れトンボに無言となるのも気まずい。ついでに、目ン玉を点にするどころか頭の中までテンに埋め尽くされていること疑いない真っ白けなお頭に、丸出しにされた腹の縫い目について経緯を解説したところで記憶に残るとも思えないし、となると話題にする意味もない。
なので、どうでもいいことを断っておく。髪を結わえていた紐すら取られて、ぱさぱさと雪崩れてきた黒髪の隙間から。
「あの。慣れっこになってみると、そんな悪くもないし、いいとこもあるんですってば。実際。やっぱ。こういうの」
反応はない。返事が返ってくるどころか、聞こえている風でもなかったが。
シゾーは、聞かれていない言葉を語りかけた。厭味ではあったが……こんな時になって、もう卑怯臭くなくなってしまった皮肉を。
「今まで食わず嫌いしてきたアンタが悪い。往生際です。往生なさい」
その辺で、手を引っ張られるまま移動したので、シゾーのアクションに対する幼馴染みのリアクションは分からなくなった。
幼馴染みを囲うシーンの移り変わりについては、推知できるところではある。忘我の淵を流離っている合間に、これ幸いとてきぱき脱がしにかかられていたので、今頃は赤裸にされてしまっているはずだ。
ただし、リアクションの範疇と言っていいものか、微妙ではあるものの―――こちらを後追いするような震え声は、漸うシゾーの耳に届いた。おずおずと戦慄いた、独り言が。
「……往生する、のか?」
「「「いっ・せーの・―――!!」」」
命乞いすらゆるしはしなかった掛け声の重合が、いぎたない大絶叫の引き金を引いた。
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