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【偲愛】-ヨーコ=マサキ-
【偲愛】第十四話「どうすればよかったんじゃ」
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結局、ワシはレイラと手を組むことにした。
向こうからしたら久しぶりに現れた後輩が、突然色んな事を喋って驚いたかもしれんな。
ただ、ワシももうなりふり構っとれん状態じゃった。正直、無理やり明るく振る舞うのでさえ辛かった。
一つ驚いたのがレイラが神通力――サイコリライトシステムを使えるようになっておったことじゃ。
サイコリライトシステムは誰しも覚醒する可能性は秘めているが、生まれつき強さと覚醒する地点が決まっておる。
特定の方向に対して、一定以上の感情が発せられた時に覚醒する。この覚醒するまでに必要な感情のエネルギーは人によって異なる。
レイラとユキナがどういう方向性の感情を、どれだけ持って覚醒したのかはわからぬが、いずれにせよ二人ともワシが過去に見た中でもかなり強力な能力じゃろう……。
もっと早くこの能力がレイラに目覚めていたら、選択肢は少し変わっていたかもしれぬな……。
あらゆるものから守る力……。小僧がルーラシードとなってからずっと必要な力じゃった……。思えば、ワシはいつも小僧に守られてばかりだったんじゃな……。
小僧が死んだことで次代のルーラシードは既に世界のどこかにおるじゃろう。それを探してレイラと出会わせて未来の分岐を作るのがワシの次の使命となったわけなのじゃろうか……。
じゃが……。少なくともその前に小僧が殺された理由だけ、それだけを知ってからにさせてくれ……。すまんな、小僧……。
お主に対する『偲』なる愛と最期まで向き合わねばな……。
◇ ◇ ◇
ワシとレイラは日本に来た。
この国は恐らく枝分かれしたワシの世界で、ワシのおった国に近いのじゃろう。似たような風習や逸話を見かけることがある。
それ故、ワシは逆にこの国へは出来るだけ来ぬようにしておる。過去はなるべく振り返りたくないからのう……。
東京タワーにユキナの気配を感じた。九尾の印を使わずともその異様な雰囲気を感じ取ることが出来た。
◇ ◇ ◇
レイラとユキナが対峙した時、ワシは何もできなかった……。
ユキナは世界の理を知っていた。それはワシと小僧しか知らないはずの知識じゃった。すなわち、それは小僧がユキナに世界の理を話したということになる。
ワシも過去に世界の理をレイラフォードに伝えたことはある。それは相手がレイラフォードであるからワシは死ななかった。
しかし、何ら関係の無いユキナに伝えてしまえば、小僧は死んでしまう……。
それを理解した上で話したということは、ユキナの言う通り小僧は本当に殺されたかったのじゃろう……。
ワシはこれまで何度か選択肢を選んできた。
どうすれば小僧を救えるか、小僧を無理やりルーラシードとして使命を果たさせるか、小僧をユキナと添い遂げさせるか。
様々な選択肢を考えてきたが、それは全て小僧が生きている――生きたいと思っているという事が前提の話じゃった……。
しかし、実際にはどうじゃ。世界を渡る旅を棄て、使命も棄て、己の命も棄てる。何一つ正解してはおらんではないか……。
レイラがユキナを刀で刺し殺す。
ユキナは自分が誰よりも小僧から愛されていたと『勝ち逃げ』を宣言する。
「ヨーコは全部知ってたの……?」
「全部……ではないわ、でも大体は……ね」
ワシは小僧のことをずっと知った気になっておっただけじゃった。
ずっとずっと隣を共に歩んできただけじゃというのに。
ただそれだけで、どうして小僧のことを最も理解していると思ってしまったのじゃろうか……。
理解したつもりになっていたというのは自らの驕りじゃろう……。
涙が止まらなかった。
レイラに見せたくないだけではない、ただただ恥ずかしくて前を向けなかったのじゃ……。
「ヨーコ、知ってたら教えて欲しいわ。ユキナは死ななければ他の世界へは行けないと言っていたけど本当なの……?」
そんなことを聞いてどうするというのじゃ……。
この並行世界の住人であるお主がどうこうできる問題ではなかろう……。
お主には関係のないこと、だから必要なこと以外は教えなかったのじゃ……。
それはワシと小僧――世界を渡る者が解決する問題だったんじゃ……。
そこにもう小僧はおらぬが……。
お主には関係ない話じゃ……。
「……じゃ」
「なに?」
「さっきのユキナを見たじゃろ! その通りじゃと言っておる! お主らは本当に人の気も知らず――」
レイラに苛立ちを覚えて顔を上げると、そこには微笑むレイラの姿があった。
「ありがとう、ヨーコ。あなたが言うなら間違いないわね」
レイラがそう言うと、ユキナの胸を貫いていた刀を抜き、刀身を持って自らの喉を貫いた。
「……レイラ!!」
次の瞬間にはレイラの返り血で髪と身体が染まってしまった。
レイラがその場で自刃するなんて想定していなかった……。
最後の最後までワシは選択肢を選び間違えて――いや、選びたくないものを最初から選択肢に入れようとしていなかった……。
立ち尽くしているワシとは違う。レイラは既に前を向いて歩きだしていた……。
これは彼女に取っては正解であり、ワシにとっては誤りの選択肢じゃった……。
結果的に小僧は苦しんでおらず、苦みを増幅させるユキナはいなくなり、苦しみの原因のレイラもおらず、全てが綺麗になった。
確かにワシが望んでおった状態にはなった……。
じゃが……。こんな終わり方は望んでおらんかった……。
「どうすれば……どうすればよかったんじゃ……【ルーラシード】……」
その瞬間に気づく。小僧の名前を……【ルーラシード】の名前を呼ぶことが出来ないことに……!
向こうからしたら久しぶりに現れた後輩が、突然色んな事を喋って驚いたかもしれんな。
ただ、ワシももうなりふり構っとれん状態じゃった。正直、無理やり明るく振る舞うのでさえ辛かった。
一つ驚いたのがレイラが神通力――サイコリライトシステムを使えるようになっておったことじゃ。
サイコリライトシステムは誰しも覚醒する可能性は秘めているが、生まれつき強さと覚醒する地点が決まっておる。
特定の方向に対して、一定以上の感情が発せられた時に覚醒する。この覚醒するまでに必要な感情のエネルギーは人によって異なる。
レイラとユキナがどういう方向性の感情を、どれだけ持って覚醒したのかはわからぬが、いずれにせよ二人ともワシが過去に見た中でもかなり強力な能力じゃろう……。
もっと早くこの能力がレイラに目覚めていたら、選択肢は少し変わっていたかもしれぬな……。
あらゆるものから守る力……。小僧がルーラシードとなってからずっと必要な力じゃった……。思えば、ワシはいつも小僧に守られてばかりだったんじゃな……。
小僧が死んだことで次代のルーラシードは既に世界のどこかにおるじゃろう。それを探してレイラと出会わせて未来の分岐を作るのがワシの次の使命となったわけなのじゃろうか……。
じゃが……。少なくともその前に小僧が殺された理由だけ、それだけを知ってからにさせてくれ……。すまんな、小僧……。
お主に対する『偲』なる愛と最期まで向き合わねばな……。
◇ ◇ ◇
ワシとレイラは日本に来た。
この国は恐らく枝分かれしたワシの世界で、ワシのおった国に近いのじゃろう。似たような風習や逸話を見かけることがある。
それ故、ワシは逆にこの国へは出来るだけ来ぬようにしておる。過去はなるべく振り返りたくないからのう……。
東京タワーにユキナの気配を感じた。九尾の印を使わずともその異様な雰囲気を感じ取ることが出来た。
◇ ◇ ◇
レイラとユキナが対峙した時、ワシは何もできなかった……。
ユキナは世界の理を知っていた。それはワシと小僧しか知らないはずの知識じゃった。すなわち、それは小僧がユキナに世界の理を話したということになる。
ワシも過去に世界の理をレイラフォードに伝えたことはある。それは相手がレイラフォードであるからワシは死ななかった。
しかし、何ら関係の無いユキナに伝えてしまえば、小僧は死んでしまう……。
それを理解した上で話したということは、ユキナの言う通り小僧は本当に殺されたかったのじゃろう……。
ワシはこれまで何度か選択肢を選んできた。
どうすれば小僧を救えるか、小僧を無理やりルーラシードとして使命を果たさせるか、小僧をユキナと添い遂げさせるか。
様々な選択肢を考えてきたが、それは全て小僧が生きている――生きたいと思っているという事が前提の話じゃった……。
しかし、実際にはどうじゃ。世界を渡る旅を棄て、使命も棄て、己の命も棄てる。何一つ正解してはおらんではないか……。
レイラがユキナを刀で刺し殺す。
ユキナは自分が誰よりも小僧から愛されていたと『勝ち逃げ』を宣言する。
「ヨーコは全部知ってたの……?」
「全部……ではないわ、でも大体は……ね」
ワシは小僧のことをずっと知った気になっておっただけじゃった。
ずっとずっと隣を共に歩んできただけじゃというのに。
ただそれだけで、どうして小僧のことを最も理解していると思ってしまったのじゃろうか……。
理解したつもりになっていたというのは自らの驕りじゃろう……。
涙が止まらなかった。
レイラに見せたくないだけではない、ただただ恥ずかしくて前を向けなかったのじゃ……。
「ヨーコ、知ってたら教えて欲しいわ。ユキナは死ななければ他の世界へは行けないと言っていたけど本当なの……?」
そんなことを聞いてどうするというのじゃ……。
この並行世界の住人であるお主がどうこうできる問題ではなかろう……。
お主には関係のないこと、だから必要なこと以外は教えなかったのじゃ……。
それはワシと小僧――世界を渡る者が解決する問題だったんじゃ……。
そこにもう小僧はおらぬが……。
お主には関係ない話じゃ……。
「……じゃ」
「なに?」
「さっきのユキナを見たじゃろ! その通りじゃと言っておる! お主らは本当に人の気も知らず――」
レイラに苛立ちを覚えて顔を上げると、そこには微笑むレイラの姿があった。
「ありがとう、ヨーコ。あなたが言うなら間違いないわね」
レイラがそう言うと、ユキナの胸を貫いていた刀を抜き、刀身を持って自らの喉を貫いた。
「……レイラ!!」
次の瞬間にはレイラの返り血で髪と身体が染まってしまった。
レイラがその場で自刃するなんて想定していなかった……。
最後の最後までワシは選択肢を選び間違えて――いや、選びたくないものを最初から選択肢に入れようとしていなかった……。
立ち尽くしているワシとは違う。レイラは既に前を向いて歩きだしていた……。
これは彼女に取っては正解であり、ワシにとっては誤りの選択肢じゃった……。
結果的に小僧は苦しんでおらず、苦みを増幅させるユキナはいなくなり、苦しみの原因のレイラもおらず、全てが綺麗になった。
確かにワシが望んでおった状態にはなった……。
じゃが……。こんな終わり方は望んでおらんかった……。
「どうすれば……どうすればよかったんじゃ……【ルーラシード】……」
その瞬間に気づく。小僧の名前を……【ルーラシード】の名前を呼ぶことが出来ないことに……!
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