サイアイ

ガエイ

文字の大きさ
上 下
37 / 39
【偲愛】-ヨーコ=マサキ-

【偲愛】第十四話「どうすればよかったんじゃ」

しおりを挟む
 結局、ワシはレイラと手を組むことにした。

 向こうからしたら久しぶりに現れた後輩が、突然色んな事を喋って驚いたかもしれんな。

 ただ、ワシももうなりふり構っとれん状態じゃった。正直、無理やり明るく振る舞うのでさえ辛かった。

 一つ驚いたのがレイラが神通力――サイコリライトシステムを使えるようになっておったことじゃ。

 サイコリライトシステムは誰しも覚醒する可能性は秘めているが、生まれつき強さと覚醒する地点が決まっておる。

 特定の方向に対して、一定以上の感情が発せられた時に覚醒する。この覚醒するまでに必要な感情のエネルギーは人によって異なる。

 レイラとユキナがどういう方向性の感情を、どれだけ持って覚醒したのかはわからぬが、いずれにせよ二人ともワシが過去に見た中でもかなり強力な能力じゃろう……。

 もっと早くこの能力がレイラに目覚めていたら、選択肢は少し変わっていたかもしれぬな……。

 あらゆるものから守る力……。小僧がルーラシードとなってからずっと必要な力じゃった……。思えば、ワシはいつも小僧に守られてばかりだったんじゃな……。

 小僧が死んだことで次代じだいのルーラシードは既に世界のどこかにおるじゃろう。それを探してレイラと出会わせて未来の分岐を作るのがワシの次の使命となったわけなのじゃろうか……。

 じゃが……。少なくともその前に小僧が殺された理由だけ、それだけを知ってからにさせてくれ……。すまんな、小僧……。

 お主に対する『サイ』なるアイと最期まで向き合わねばな……。

◇ ◇ ◇

 ワシとレイラは日本に来た。

 この国は恐らく枝分かれしたワシの世界で、ワシのおった国に近いのじゃろう。似たような風習ふうしゅう逸話いつわを見かけることがある。

 それ故、ワシは逆にこの国へは出来るだけ来ぬようにしておる。過去はなるべく振り返りたくないからのう……。

 東京タワーにユキナの気配を感じた。九尾の印ナインズアローを使わずともその異様な雰囲気を感じ取ることが出来た。

◇ ◇ ◇

 レイラとユキナが対峙たいじした時、ワシは何もできなかった……。

 ユキナは世界のことわりを知っていた。それはワシと小僧しか知らないはずの知識じゃった。すなわち、それは小僧がユキナに世界のことわりを話したということになる。

 ワシも過去に世界のことわりをレイラフォードに伝えたことはある。それは相手がレイラフォードであるからワシは死ななかった。

 しかし、何ら関係の無いユキナに伝えてしまえば、小僧は死んでしまう……。

 それを理解した上で話したということは、ユキナの言う通り小僧は本当に殺されたかったのじゃろう……。

 ワシはこれまで何度か選択肢を選んできた。

 どうすれば小僧を救えるか、小僧を無理やりルーラシードとして使命を果たさせるか、小僧をユキナと添い遂げさせるか。

 様々な選択肢を考えてきたが、それは全て小僧が生きている――生きたいと思っているという事が前提の話じゃった……。

 しかし、実際にはどうじゃ。世界を渡る旅をて、使命もて、己の命もてる。何一つ正解してはおらんではないか……。

 レイラがユキナを刀で刺し殺す。

 ユキナは自分が誰よりも小僧から愛されていたと『勝ち逃げ』を宣言する。

「ヨーコは全部知ってたの……?」

「全部……ではないわ、でも大体は……ね」

 ワシは小僧のことをずっと知った気になっておっただけじゃった。

 ずっとずっと隣を共に歩んできただけじゃというのに。

 ただそれだけで、どうして小僧のことを最も理解していると思ってしまったのじゃろうか……。

 理解したつもりになっていたというのは自らのおごりじゃろう……。

 涙が止まらなかった。

 レイラに見せたくないだけではない、ただただ恥ずかしくて前を向けなかったのじゃ……。
 
「ヨーコ、知ってたら教えて欲しいわ。ユキナは死ななければ他の世界へは行けないと言っていたけど本当なの……?」

 そんなことを聞いてどうするというのじゃ……。

 この並行世界の住人であるお主がどうこうできる問題ではなかろう……。

 お主には関係のないこと、だから必要なこと以外は教えなかったのじゃ……。

 それはワシと小僧――世界を渡る者が解決する問題だったんじゃ……。

 そこにもう小僧はおらぬが……。

 お主には関係ない話じゃ……。

「……じゃ」

「なに?」

「さっきのユキナを見たじゃろ! その通りじゃと言っておる! お主らは本当に人の気も知らず――」

 レイラに苛立いらだちを覚えて顔を上げると、そこには微笑むレイラの姿があった。

「ありがとう、ヨーコ。あなたが言うなら間違いないわね」

 レイラがそう言うと、ユキナの胸を貫いていた刀を抜き、刀身を持って自らの喉を貫いた。

「……レイラ!!」

 次の瞬間にはレイラの返り血で髪と身体が染まってしまった。

 レイラがその場で自刃じじんするなんて想定していなかった……。

 最後の最後までワシは選択肢を選び間違えて――いや、選びたくないものを最初から選択肢に入れようとしていなかった……。

 立ち尽くしているワシとは違う。レイラは既に前を向いて歩きだしていた……。

 これは彼女に取っては正解であり、ワシにとっては誤りの選択肢じゃった……。

 結果的に小僧は苦しんでおらず、苦みを増幅させるユキナはいなくなり、苦しみの原因のレイラもおらず、全てが綺麗になった。

 確かにワシが望んでおった状態にはなった……。

 じゃが……。こんな終わり方は望んでおらんかった……。

「どうすれば……どうすればよかったんじゃ……【ルーラシード】……」

 その瞬間に気づく。小僧の名前を……【ルーラシード】のことに……!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】

階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、 屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話 _________________________________ 【登場人物】 ・アオイ 昨日初彼氏ができた。 初デートの後、そのまま監禁される。 面食い。 ・ヒナタ アオイの彼氏。 お金持ちでイケメン。 アオイを自身の屋敷に監禁する。 ・カイト 泥棒。 ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。 アオイに協力する。 _________________________________ 【あらすじ】 彼氏との初デートを楽しんだアオイ。 彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。 目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。 色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。 だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。 ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。 果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!? _________________________________ 7話くらいで終わらせます。 短いです。 途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

処理中です...