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Episode11 熱籠もり

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 僕たちは、出逢いのきっかけがあんなだったからか。

 付き合ってもう何ヶ月も経つのに、佐々は、手繋ぎとハグ以上のことをして来ない。

( 僕から誘うべきだよなぁ)

 正直、僕は佐々にもっと触れたい。

 キスがしたい。願うことなら、その先だって。

(夜の公園での一回しか、キスもしてない……)

 付き合い出す時にしたそれを。思い出すだけで、僕の身体はすぐ落ち着かなくなる。

(淫乱だとか思われるかな?)

 極端に友だちが少ないせいで、同年代の奴らが持つ。そこら辺の尺度が解らない。

 あと一週間で夏休み。突入してしまえば、佐々と会う機会はグッと少なくなるはずだ。

(せめて遊びにだけでも誘わないと)

 商店通りを学校終わりに歩きながら、車道側に立つ佐々の顔を盗み見る。

「夏休みさ。秋は行きたいところとかあるか?俺、取り敢えずちゃちゃっと宿題だけ片して、あとはパーーっと遊びたいなと思ってんだけど」
『僕も宿題は先にやる派』
「マジで?!なら一緒にやろうぜ。図書館とか行ってさ」

(図書館か……どうせ佐々と過ごせるなら、二人きりだといいのにな)

 考えが後ろ向きなせいか。僕は下を向いていたようで、

「秋。前向けよ。危ねーぞ?」

 言われて顔を上げたら、佐々の顔が間近にあった。

「っ!」
「何考えてた?」

 真剣な表情が目に入る。

『別に何も』
「言え。俺が知りたいから」
「………………」

(そう言われると断りづらい)

 解ってて、きっと佐々は言っている。

 ネガティブで、頑固なところがある僕に、本音を吐き出させようとしてくれている。

 打ったものを、ゆっくりと躊躇いがちに見せた。

『二人きりがいい』

 数秒間。吸い込まれそうな瞳を見つめる。

「嬉しいよ……」
「っ」

 僕を見る熱の籠もった眼差しに、自然と僕の手が佐々の頬へと伸びた。

(キスがしたい)

 幸い人通りもほとんどない。

 瞼をそっと閉じて待った。

「っ………………」

 佐々の唇から熱が届く。

 その熱が、じんわりと心の内側に響いて、段々と身体中が熱くなり始めた。

(佐々が好き)

 どうしてもそのことを伝えたくて、佐々の背中へ腕を回した。

 気が付くと、口付けが深いものへと変わり、伝わる熱も扇情的なものへ。

「んっ……………」
「!………………」

(佐々の声だ。感じてくれてる?)

 そう思えたのは一瞬だった。

 歯列をなぞられ、絡みとるようにして取られた舌が、佐々の熱い舌に触れる。

 激しくて、そこから聞こえる音に、耳を塞ぎたくなるほど恥ずかしいのに。

 佐々の背中から、手を離したくなくて、しがみつく。

「んんっ…………っ………」
「っ……………はっ………」

 ほんの一瞬。酸素を吸おうと、くぐもった、音というには稚拙な音が、僕の喉からした。

 実際には、どんなに空気が掠めることはあっても、僕の声帯は震えないけど。

 そんなマイナスな考えも、身体の芯から這い上がる、本能の前にあっという間に消え去っていく。

「んっ………はぁ……はっ……」「っ…………っ…………っ……」

 ゾクゾクと腰の辺りから駆け抜けた欲情に、大きく肺で呼吸する。

(抱いてほしい)

 自分の瞳が潤んでいることは解っていた。

 でもそれを拭うより、その目で僕が見つめることで、喋れない分この気持ちが、佐々に届けばいいのにと思ってじっと見つめた。

 僕よりもずっと大きくて筋肉質な胸板を、少し上下させながら、同じように瞳を潤ませた佐々が呟いた。

「ここが外じゃなかったら、俺っ……止めてあげられなかった」
「!!」

 冷めない熱を持った全身が、一気に佐々を求め出す。

 やめてほしい。そんなことを公共の場で口にするのは。

 そう思うのに。

 続きを期待する自分がいた。

(ここが外じゃなかったら……?)

 僕らは最後まで行っていたのだろうか。

(佐々も僕の身体を、求めてくれているのかな?)

【触れたい】

 と感じているのは……。

 その日僕らは、夏休みに僕の家で、勉強会をする約束をした。

『泊まりでもいい?佐々は嫌?』

 絞り出した勇気を形にして見せると、

「嫌じゃないけど、勉強どころじゃなくなるけどいい?」

 そう返されて、小さく、けどたしかに佐々の目を見て、頷いた。
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