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Episode8 疑惑

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 四月になり、僕たちももう高二だ。

 とは言え小柄な僕は、あまり一年の頃から伸びていない。

 けど佐々は、ここ最近、また少し背が高くなったような気がする。

(まだ伸びるのか)

 同じクラスになり、希望制で決められた席替えで、僕の真後ろをキープした佐々。

 そしてその右隣にはなぜか曽野坂。

(仲が良いってわけではなさそうなのにな……)

 顔を合わせては言い争い、仲が良いのか、悪いのか。

 よく解らない関係の二人。

(でも佐々が口喧嘩するのって、曽野坂だけなんだよなぁ)

 自分から、グイグイ行くのが苦手な僕は、結局二人の関係を訊けずじまいで、二年になった。

 ランチタイムを知らせる鐘が鳴る。

「昼飯食おうぜ」 
   
 佐々の言葉に、クッと顎を引いて肯定し、椅子を後ろへ半回転。

「秋の弁当は今日も手作り?」

 右手で丸を作り、佐々へ見せた。

 途端に佐々が机へ突っ伏す。

『どうしたの?お腹空き過ぎ?』

 大きな手が、僕のスマホへと伸びてきた。

 フリック入力する指さえも綺麗で、見ながらじっと待つ。

(喋ればいいのに)

 数秒後。

「ん」

 差し出された画面に、瞬きを繰り返した。

『腹が空き過ぎじゃなくて、秋が好き過ぎてうなだれてんの』

 思わず笑みが溢れる。

(この画面、保存しよう)

 スクショの音が辺りに響く。

 カシャッ。

「そういう楽しみ方もあるわけか」

 声に反応して顔を上げると、佐々の顔が僕から数センチのところにあった。

「っ」

 ほんの僅か、喉の辺りがキュッと締まる。

 少し離れた位置からボソッと嫌な台詞が耳へ届いた。

「女好きの癖に」

 曽野坂だった。

(女好き?)

 僕たちの、どちらのことを言ったのだろうか。

(僕は女の子と付き合ったことないしな)

 十中八九、佐々の話だ。

 そう言えば、曽野坂は以前にも、佐々に恋愛事で噛み付いていたような記憶がある。

(う~~ん……)

 ウチの学校は中高一貫校だ。とは言え、僕は中等部でこの二人とクラスが被ったことがない。

【ねぇ、佐々。佐々って女好きなの?】

(なんて本人に訊いたら、怒られるに決まってるしなぁ……)

「まーた、隠し事してる」
「!」

(どうしてバレたんだろ?)

 行儀良く綺麗な持ち方の箸で、挟まれた黒豆。

 僕は佐々のこういうところに、育ちの良さを時折感じる。

「黒豆ほしい?」

 ノンノンと左右に首振り。

 本人の過去を、第三者に尋ねるのは、性格的に好まないので、勇気を出してスマホをテーブルへ置いた。

『女子にモテてたの?』

 ガタッ。

 唐突に目の前で起立した佐々の顔が、何とも読み取れない表情をした。

 何か僕は、粗相をしてしまったのだろうか。

(佐々を怒らせないように、遠回しに尋ねたつもりだったんだけどな……)

「あっ……ごめん。その話は放課後な」
「?」

 クエスチョンマークを頭に浮かべながら、顔の動きで僕は了解の意を示した。
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