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Episode2 襲来

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「えっと、これ……お前のだろ?」
「…………………………」

 週が明けた月曜の放課後。チャイムと同時に、佐々が教室へ来た。

 教卓近くの扉を覆う、しっかりとした大きな身体。

(すごい目立ってるなー……)

 一体何センチあるのだろうか。
 不良と言えど、私学の不良。派手髪でもなく、ロン毛でもない。

 それなのに。

 目の前に来ると、圧倒的な威圧感。

(金曜は特にそんなことなかったのにな)

 助けてもらった日のことを思い出し、首をつらないよう気を付けて見る。

「あいつ喋れないって、佐々知らないんじゃね?」
「誰か教えてやれよ」

 ヒソヒソと、後ろで話すクラスの奴ら。

 掌の上に置かれた【交通安全】の御守りを見て、

(これってこんなに小さかったっけ?)

と覗き込むようにして顔を近付ける。

「一応洗って、ドライヤーしてみたんだけどな。汚れてるか?」

(なんだよ。物凄く良い人じゃんか)

 一切言葉を発しない僕を、不思議と佐々は急かさない。

『はやく何か喋れよ』

 大概、そんな感じの態度を取られるのに。

「トイレで交通安全は、シュールだよなぁ~」

 なんて呟いて、口元で小さく笑ってる。

「紙詰まりしないようにぐらいしか、俺、思い浮かばねーもん」
「…………」

 ポケットからスマホを取り出し、文字を打った画面を佐々へと向けた。

『ごめん。ありがとう。昨日もほんと助かった』
「いや、困ってる時はお互い様だろ。何かあったらいつでも言えよ。真田とかめちゃくちゃ調子ノッてるからな」

(神か。この人。神様なのか?誰だ不良とか言った奴。出て来いホント)

 腕組みをして話す佐々の視線が、一瞬遠くを見据えた。

 目線の先には、ロッカー手前の窓際で、解りやすく顔を引きらせた真田。

 睨みを効かせてくれたんだろう。

 すぐに解って、胸の奥が熱くなる。

(呆れるくらい良い人だ)

「なぁ、連絡先訊いてもいい?」

 爽やかに、はにかみ訊かれて、大きく首を縦に振る。

 断る理由が見たらない。

 最強にして、最高の友だち。

「やった。俺、実はお前のこと気になってたんだよね」

(あっ……そっちか)

『喋れない』

 それだけで集まってしまう。好奇の目。

(なんだ。結局、こいつも周りと同じ)
「それピアスホールだろ?この学校だと、なかなか開けてる奴、見かけないからさ」

(へっ……?そっち??)

 長い指が、僕の左耳を指差した。

「俺も両サイ一つずつ。やっぱ開けたくなってくるよな~。えっと……名前」

 本当に僕のことを知らないのか、佐々は気不味そうに微笑んだ。

 簡単に口元を覆い尽くす大きな手。

(羨ましいな)

 すぐにそこから目を背け、
柳瀬やなせあき
 と、手元で見せた。

「なぁ、柳瀬。柳瀬が良かったらさ。これからファミレス行かね?スマホも置いて打った方がお前もラクだろ?」
「!」

 驚いた。

 そんなこと、これまで一度も言われたことはない。

(なんだこれ)

 全身から妙な汗が滲む。心做しか、身体も熱い。

 コクコクと、動揺して二回頷いてしまったけど、どうだっていい。

「やったぜ。気の合いそうな友だち。一人ゲット」

 ガッツポーズを脇でした佐々の手が、ゆっくりこちらへと近付いてくる。

 ぽんっと頭上から熱が伝わる。

「仲良くしようぜ」

 目線を僕の位置まで下げてはにかまれ、心臓の辺りへ、何かがグッと押し寄せた。

(胸焼けかな??)

 経験したことない鼓動の速さに、頷き返すというより、それを押し込むみたいにして、首を引っ込めた。
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