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Episode35 朝陽※幾月視点

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 一夜明け。


 和室で布団に寝転んだまま、素肌の彼女に隣で見惚れる。


(これで自分は対してモテないとか思ってそうだから、怖いんだよな)


「明日香さん……」


 昨日散々呼んだ名前を独り呟く。


 本当は全裸の彼女を一目見た瞬間。


 天使でも舞い降りたのかと正直思った。


 綺麗だと。


 ちゃんと伝えたかったくせに。


 本能に負けて彼女のぬくもりにただ甘えた。


(心底惚れてる)


 あらためてそのことを自覚した。


「んぅ…………」


「っ!」


 彼女の寝言が聞こえただけで、ゴクリと自分の喉が鳴る。


「……………………んーーっ……」


 少しして、起きようと寝たまま伸びをした明日香さんの前髪に触れる。


 女性の髪は、時間をかけてセットされてることが多い。


 だから基本は触らない。


 ホスト業界へ入ってすぐ、先輩からそう教えられた。


 習ったころは、そんなもんかとしか思っちゃいなかったし。


 特段、他の女性の頭髪に、触れたいとも俺は思わなかった。


 ここだけは。


 そう言って、彼女が毎朝梳かしていた。


 さらさらとした明日香さんの髪。


「んー??………」


 ぽやぽやとした雰囲気で開かれた彼女の瞼へと触れるだけのキスを落とす。


「おはよう。明日香さん」


「……ん。おはよぉ~……」


(寝起きマジ可愛い)


 きっと、ここまでゆったりとした朝を迎えるのは、明日香さんにとって、物凄く久しぶりの出来事なのかもしれない。


 その緩みが、全面に押し出された寝惚けた明日香さんの前髪にも、そっと唇を当てる。


「幾月くん………??」


 段々と覚醒してきた彼女の意識が、照れ屋な明日香さんの頬を染めはじめた。


 素知らぬ顔で明日香さんの右手を俺の頬へと持ってくる。


「どうしたの?」


「どっ……べっ、別にどうもしないっ…」


 あきらかに、動揺してしどろもどろになった明日香さんに提案する。


「少し休んだあと。俺のお願い聞いてくれる??」


「ん?もちろん良いよ」


(嗚呼これは、忘れてんな)


「…………あっ…」


 軽く上体を起こした明日香さんが、何かに気付いて動きを止めた。


(おっ!思い出してもらえたか?)


「どうした?」


 体勢的にややキツそうな彼女の背中を支えるために、腰の辺りに右腕を添える。


「お願いごと…………」


 俯き呟くその様に、尋常じゃない速度で鼓動がはやくなっていく。


(明日香さん……)


 じっと、顔色を覗き込むようにして見ていたら、


「立ちっぱなしとか、スポーツ系はちょっと無理かも…」


 彼女が鼻の前に人差し指と親指をやり、ちょっとのポーズを俺に見せた。


「ン゙ッン!」


 あまりにも可愛いが過ぎるので、咳払いして冷静さを取り戻す。


 なんとなく。彼女の言いたいことは察しが付いた。


「幾月くん?……でも、これ痛みって言うよりなんか痺れ…?が抜けてなくて。なんか幾月くんがまだなかに………っ!」


「!!!」


 自分がしでかしたことの重大さに、口元へと手を押し当てて、涙目の上目遣いで見上げられる。


(いや。そりゃ、俺のせいっちゃせいだけど。今のは完全な自滅だからね?)


 そんなことを彼女に言われて、当然大人しく引き下がる玉じゃない俺は。


「明日香さんさぁ……」


 彼女へと話しかけつつも、一度立ち上がる。


「それ誘ってるとしか思えないんだけどっ」


 語尾と同時に全身へとやや力を入れる。


 若干痺れているらしい彼女の太腿の下に片手を回し、もう一方の手で彼女の上半身をしっかりと掴まえて持ち上げた。


「!! まっ、またしたら。もう明後日も、お店開けられなくなっちゃうかもだからっ!」


「何?もしかして、俺にお姫様抱っこされて昨夜のお願い思い出したの??」


「ゔっ……」


 図星らしい声を挙げた明日香さんを、露天風呂の木枠へと座らせてあげて正面でしゃがむ。


「ン」


「えっ……良いの??」


 差し出された白無地のバスタオルを見て、明日香さんがキョトン顔を俺に向けた。


    
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