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Episode5 隠されていたこと
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「一方をって、どうやってそれを決めるんですか?」
聞いたこともない習わしに、困惑しきりだった修たちのうち、そう聞き返せたのは、やはりクルだった。
「……町長がね、選ぶんだよ。ほら、さすがに親に決めさせるのはあまりに酷ってものだろう?」
言いながら何度もピクピク痙攣する親父さんの右頬。
その光景を実際目にしたわけでも、ツッチーが双子だと明確に告げられたわけでもない。
けれど親父さんの全身から滲む重苦しい空気と反応に、三人共そうなのだろうと受け止めた。
「大昔のことだ。集落が形を成し始めた頃。双子が生まれた家に次から次へと災いが起きた。この事態を不吉だと判断した村人たちにせっつかれて、当時の村長が提案したのがその決まりだ。二年前の農村合併まで、この決まりは我々の村で受け継がれてきた」
(説明しなれてるのかな?)
それまでは、痛みを噛み締めているようなぽそぽそ呟く口調だったのに。余程話したいと思っていたのか、親父さんが突如饒舌になる。
「だがそのせいで、息子を手放させられた妻は心を壊し人形のようになってしまった。娘の乃愛も周囲の目から異を唱えられなかった私に呆れ、高校卒業と同時に家を出て行った。全て私が原因だ。彗だけはっ、弟を失っても、前を向いて生きていてくれたのに。……もう、何を謝ったところで、彗は帰ってきてはくれないけれど」
悟ったのか諦めたのか。後悔の残り滓のような、親父さんが発した小さな鼻息の音が響く。
向かいに座る修たちの顔など見る気すらもないようで、親父さんの眼差しは、その先の白い壁をただ反射させる。
焦点が合っていない瞳を一瞥して、修は親父さんが見ているだろう地方の農村を想像した。
イメージ出来た長閑な村には、笑顔の人々が闊歩する。
黄金色に生い茂る稲穂の脇を、柔らかな微笑みを携えたツッチーが通り過ぎた。
一人だった。
(ずっとみんなの中心で、あんだけ楽しそうにしてたのにっ)
「…………っ。なんでそんな、誰も止めたりとかしなかったんですか?!」
「ざっけんなっ!!!」
立ち上がりかけた勢いで、親父さんに殴りかかろうとしたカマと、修の腕がぶつかる。
「ストップ」
すぐにクルの両腕が伸びてきて、カマを身体ごと、親父さんから引き剥がした。
「別に暴力が良くないと思ってるだけで、貴方を許したわけじゃありませんから」
クルがぴしゃりと言い放つ。
親父さんを射る眼光に、ツッチーの分の怒りも込められている。修はそう感じた。
膝の上で握った手の爪が、肉に食い込んで少し痛む。
「っ……嗚呼。本当に申し訳ない」
親父さんのつむじがローテーブルの下へ、数十秒消えた。
カーペット伝いに懺悔が届く。
「村中からのプレッシャーにも厳格な祖父にも、当時の私は勝てなかった。あの子を選んだのは、他でもない。私の祖父だったというのに。代々町長を輩出してきた我が家のしきたりによって、彗が……選ばれるのを、ただ見ていることしか私は出来なかった」
「っ!」
無意識に、膝へ追い遣られていた視線が、ゆっくりと上がる。修はゴクリと一つ唾を飲み込んだ。
『あの子を選んだ』
(それってつまり……。そうだ。ツッチーが双子だった。引き離された境遇にばかり気が取られてたけど)
聞いたこともない習わしに、困惑しきりだった修たちのうち、そう聞き返せたのは、やはりクルだった。
「……町長がね、選ぶんだよ。ほら、さすがに親に決めさせるのはあまりに酷ってものだろう?」
言いながら何度もピクピク痙攣する親父さんの右頬。
その光景を実際目にしたわけでも、ツッチーが双子だと明確に告げられたわけでもない。
けれど親父さんの全身から滲む重苦しい空気と反応に、三人共そうなのだろうと受け止めた。
「大昔のことだ。集落が形を成し始めた頃。双子が生まれた家に次から次へと災いが起きた。この事態を不吉だと判断した村人たちにせっつかれて、当時の村長が提案したのがその決まりだ。二年前の農村合併まで、この決まりは我々の村で受け継がれてきた」
(説明しなれてるのかな?)
それまでは、痛みを噛み締めているようなぽそぽそ呟く口調だったのに。余程話したいと思っていたのか、親父さんが突如饒舌になる。
「だがそのせいで、息子を手放させられた妻は心を壊し人形のようになってしまった。娘の乃愛も周囲の目から異を唱えられなかった私に呆れ、高校卒業と同時に家を出て行った。全て私が原因だ。彗だけはっ、弟を失っても、前を向いて生きていてくれたのに。……もう、何を謝ったところで、彗は帰ってきてはくれないけれど」
悟ったのか諦めたのか。後悔の残り滓のような、親父さんが発した小さな鼻息の音が響く。
向かいに座る修たちの顔など見る気すらもないようで、親父さんの眼差しは、その先の白い壁をただ反射させる。
焦点が合っていない瞳を一瞥して、修は親父さんが見ているだろう地方の農村を想像した。
イメージ出来た長閑な村には、笑顔の人々が闊歩する。
黄金色に生い茂る稲穂の脇を、柔らかな微笑みを携えたツッチーが通り過ぎた。
一人だった。
(ずっとみんなの中心で、あんだけ楽しそうにしてたのにっ)
「…………っ。なんでそんな、誰も止めたりとかしなかったんですか?!」
「ざっけんなっ!!!」
立ち上がりかけた勢いで、親父さんに殴りかかろうとしたカマと、修の腕がぶつかる。
「ストップ」
すぐにクルの両腕が伸びてきて、カマを身体ごと、親父さんから引き剥がした。
「別に暴力が良くないと思ってるだけで、貴方を許したわけじゃありませんから」
クルがぴしゃりと言い放つ。
親父さんを射る眼光に、ツッチーの分の怒りも込められている。修はそう感じた。
膝の上で握った手の爪が、肉に食い込んで少し痛む。
「っ……嗚呼。本当に申し訳ない」
親父さんのつむじがローテーブルの下へ、数十秒消えた。
カーペット伝いに懺悔が届く。
「村中からのプレッシャーにも厳格な祖父にも、当時の私は勝てなかった。あの子を選んだのは、他でもない。私の祖父だったというのに。代々町長を輩出してきた我が家のしきたりによって、彗が……選ばれるのを、ただ見ていることしか私は出来なかった」
「っ!」
無意識に、膝へ追い遣られていた視線が、ゆっくりと上がる。修はゴクリと一つ唾を飲み込んだ。
『あの子を選んだ』
(それってつまり……。そうだ。ツッチーが双子だった。引き離された境遇にばかり気が取られてたけど)
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