34 / 54
Episode4 言葉遊び
しおりを挟む
「ありがとうございました!」
ソーセージの謎も解けないまま、明日に迫った謝罪を前に、修は喫茶店バイトへと精を出す。
緊張感からか。やり始めの頃のような大きな声が、ガラス越しに見える夕焼けからも浮いている気がした。
「今日元気だね。田中くん」
ここ最近売上が良く、ご機嫌な店長に微笑まれる。
「ありがとうございます」と一言返し、氷冷機のスイッチを押す。
(そういや今日は、これから宮坂さんが出勤だったよな?)
つい先日。代打を修に連発させた先輩は、明日のシフトを代わってくれた。
(きちんとお礼、言っとかないと)
日々の小さな積み重ね。こうしたほんの一手間が、人間関係を作っていく。
(軽やかに見えたその裏で、ツッチーみたいなタイプでも、実はこういうことに苦戦したりしてたとか……?)
「田中くん。お疲れ」
「お疲れ様です」
艶のある可愛い声に反応し、片付けようとしたカトラリーを、お盆ごと一度テーブルへ置く。
ぱっちり二重に見つめられ、ふわふわ揺れるワンピーススカートに目が眩む。
「宮坂さん。体調はもう全回復しました?」
「うん、平気。田中くんがいてくれたからね」
「……なら良かったです」
(嗚呼、ヤバい。見事に手のひらで転がされてる。俺)
「ふふっ」と小さく笑った宮坂さんは、まるでそういう笑い方が、男を射止めると知っているみたいで、楽しそうだ。
「明日は宜しくお願いします」
余計に心拍が早まらないよう、やることをやり、要件だけをパパッと伝える。
「うん。もちろん!田中くんには、ちゃんとお返ししないとね」
人差し指を頬へ数回当て、立ち去るその背を、目で追いかける。
(これがもし物語の主人公なら、俺は彼女に声をかけることが出来……ないな。うん。無理だ)
修は自分が物書きだから、よく解った。
(俺らの中で、もし物語を書くなら、主役はツッチーかカマか。その二人から選ぶよな?外見や華やかさならツッチーで、性格でならカマにする。俺じゃ地味だ。あまりにも)
人によっては、藤よりも不謹慎だと怒りそうな思考を断ち切るように、修は首を横へブンブン振った。
「田中くん?上がらないの??」
「あっ!!すみません。上がります」
(何やってんだって、怪しまれたかな??)
エプロン姿に着替えた宮坂さんへ頭を下げた後、更衣室まで小走りで戻ろうとして。
「田中くん。若者は、悩んでなんぼだよ」
店長の声が背中からした。
ソーセージの謎も解けないまま、明日に迫った謝罪を前に、修は喫茶店バイトへと精を出す。
緊張感からか。やり始めの頃のような大きな声が、ガラス越しに見える夕焼けからも浮いている気がした。
「今日元気だね。田中くん」
ここ最近売上が良く、ご機嫌な店長に微笑まれる。
「ありがとうございます」と一言返し、氷冷機のスイッチを押す。
(そういや今日は、これから宮坂さんが出勤だったよな?)
つい先日。代打を修に連発させた先輩は、明日のシフトを代わってくれた。
(きちんとお礼、言っとかないと)
日々の小さな積み重ね。こうしたほんの一手間が、人間関係を作っていく。
(軽やかに見えたその裏で、ツッチーみたいなタイプでも、実はこういうことに苦戦したりしてたとか……?)
「田中くん。お疲れ」
「お疲れ様です」
艶のある可愛い声に反応し、片付けようとしたカトラリーを、お盆ごと一度テーブルへ置く。
ぱっちり二重に見つめられ、ふわふわ揺れるワンピーススカートに目が眩む。
「宮坂さん。体調はもう全回復しました?」
「うん、平気。田中くんがいてくれたからね」
「……なら良かったです」
(嗚呼、ヤバい。見事に手のひらで転がされてる。俺)
「ふふっ」と小さく笑った宮坂さんは、まるでそういう笑い方が、男を射止めると知っているみたいで、楽しそうだ。
「明日は宜しくお願いします」
余計に心拍が早まらないよう、やることをやり、要件だけをパパッと伝える。
「うん。もちろん!田中くんには、ちゃんとお返ししないとね」
人差し指を頬へ数回当て、立ち去るその背を、目で追いかける。
(これがもし物語の主人公なら、俺は彼女に声をかけることが出来……ないな。うん。無理だ)
修は自分が物書きだから、よく解った。
(俺らの中で、もし物語を書くなら、主役はツッチーかカマか。その二人から選ぶよな?外見や華やかさならツッチーで、性格でならカマにする。俺じゃ地味だ。あまりにも)
人によっては、藤よりも不謹慎だと怒りそうな思考を断ち切るように、修は首を横へブンブン振った。
「田中くん?上がらないの??」
「あっ!!すみません。上がります」
(何やってんだって、怪しまれたかな??)
エプロン姿に着替えた宮坂さんへ頭を下げた後、更衣室まで小走りで戻ろうとして。
「田中くん。若者は、悩んでなんぼだよ」
店長の声が背中からした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる