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2章
第十五話
しおりを挟む「冬也殿の一派が謀反!山の方へ向かっていると!」
脳が一気に冷える。
真木は持ち場を捨てて走り出した。
現在、上総は敵を挟み撃ちするために本軍と別行動をしていた。
真木は陽動の方に残れと指示され、上総の近くにいない。
馬に飛び乗る。
寺で夜を越すことだけが不満じゃ、と言っていた今朝の上総の言葉を思い出す。
太陽は既に西にかたむきかけていた。
***
炎の回り始めた和室を、上総は見渡す。
生きている人間は、自分だけだった。
敵味方が混じった死体を軽く足で転がす。
「…だから寺は嫌だったんじゃ」
上総は息を吐き、持っていた刀を置く。
そして、死体の懐を漁って小刀を取り出した。
その場にどっかりと腰を下ろす。
「(ここで終わりか)」
既に着崩れた着物の合わせに手をかけて、前をくつろがせる。
恐ろしさは無かった。
ただ、ふと上総は真木のことを思いだす。
ここで死ぬのなら、真木に最期を任せたかった。
「(好いた女の心配もせんなんて、つくづくわしは薄情じゃな)」
まして、ここで一緒に死なせようと思っている自分に、上総は笑う。
だから、「上総様」と転がるように部屋に駆け込んできた真木を見て、上総は走馬灯を見ているのかと思った。
肌に感じている炎の熱と、体の痛み。
瞬きをしても消えない真木。
それらに、上総は本当に真木がこの場に来たことを理解した。
「なんだなんだ!懐刀らしく、介錯にでも来てくれたんか?」
「…その様な、」
「違うなら、何をしに来た」
上総は真木を見つめる。
真木は上総の予想通りの返答をした。
「貴方様を此処から逃がす為に、参りました」
「ハ、愚かじゃな。地獄まで付いていきますとか、そういう粋な返しはできんのか、お前は」
真木は上総の前に膝をつく。
「上総様、この様な場所で、潰えるおつもりですか」
「…そのつもりじゃったな」
上総の返答に、真木は珍しく顔を歪めた。
その反応に、上総は笑う。
「最後に残るもんが正しい。頭を抑えられた時点で、この盤は詰みじゃ」
「ここは、将棋盤では、ありません」
「まあ、な」
自分が駒だとは思ったことが無い。
だが、上総は自分と、自分の身の周りで起こることに対して、ある種の強制力のようなものを感じることがあった。
人ではどうしようもないような、運命と言うべき、歴史のうねり。
神などいないと言い、毛嫌いしていたのは、それに抗いたいと思っていたのかもしれない。
「…真木。お前、どうしてあの時、わしの手を取った」
「あの時、とは」
「お前と、出会った時」
脈絡のない問いに、真木は戸惑っているようだった。
こんな窮地で聞くことではない。
しかし、上総は真剣だった。
「答えよ」
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