苛烈なひとよ、忍に愛を

鉄永

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1章

第七話

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 その後も、真木と話をしながらも、仁波は広間の中を気にしているようだった。
 冬也と会いたいのだろう。
 とりとめない話題を長引かせる健気な様子に、真木は微笑む。
 そんな仁波は、突然爆弾を落とした。

「もしかして真木は、兄様のことが好きなの?」
「とんでもありません」

 ぎくりと跳ねた心情を顔には出さず、真木は即答する。
 真木が上総との関係を望むなんて、あってはならないことなのだ。
 冬也ではないが、身分が違いすぎる。

 せめて「ただの女」であれば、夜だけの関係でも、持てたのかもしれない。
 けれど、真木は忍だった。
 上総の利益になる感情でないなら、押し殺さねばならなかった。

「拙が上総様のことを好きになることは、ありえません」
「ありえない、とは酷いのう、真木」
「あら、兄様」

 いつのまに会議が終わっていたのか、開けられた襖から上総が出てきた。
 真木は慌てる。

「…申し訳ありません。上総様に魅力がないと言いたかったのではなく」
「ほお。なら、今夜わしの相手をするか?」
「…」

 はい、とも、いいえ、とも言えず、真木は困惑する。
 はい、と言ってしまえば、上総は本当に真木を夜の営みに呼ぶのだろう。
 それは避けたい。
 けれど、真木の顔を真顔で見つめる上総に、いいえと首を振ることも許されない気がした。
 焦る真木に、救いの声がかかる。

「上総様、真木が困っています。どうかそのあたりで」

 上総の後ろからひょこりと顔を出す優男。
 冬也である。

「冬也…。お前、あともう少し黙ってられんかったか」
「上総様の信条は『相手が欲しがれば与える』でしょう」

 これでは上総様が欲しがっている状態です、と冬也は笑う。

「そうです、兄様。いくら兄様が案外奥手だからと言っても、無理強いはよくありません」

 実妹からの援護に「うるさいわ」と上総が拗ねる。
 くすくすと笑いが広がる。
 そして、冬也と仁波が目を合わせた。

「…仁波殿」
「ご無沙汰しておりました、冬也様」
 
 それは、知らない者が見れば、ただの再開の場面だっただろう。
 けれど、明らかに二人の目の奥には、それ以上の感情が秘められていた。
 しかし、それも一瞬のことだ。
 冬也の後ろから家臣たちが続々と出てきて、あたりが騒がしくなる。
 人だかりになり始めたのを察し、仁波は上総を促して歩き始めた。

「本日の公務は終わりですか?」
「おお。あとはもう、これよ」

 酒杯を傾ける仕草をする上総を見て、仁波は「まあ」と笑う。
 連れ立って歩き始める仲睦まじい兄妹に、真木は微笑んだ。



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