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1章
第四話
しおりを挟む木材と有機物が燃えた香ばしい臭い。
炭と化した家屋から立ち上る煙。
その中を、従者数名を引き連れながら、上総は馬に乗って見回っていた。
酷いもんだ、と自分がもらたらした惨状に、他人事のような感想を抱く。
ぽつり、と頬に落ちる水の感触に上を見上げた。
重い色をした雲と、遠くから聞こえ始めた雷鳴。
従者がさっと傘を取り出して、上総の上に掲げる。
ほどなく、ざあ、と音を立てて雨が降り出した。
いまだ熱気を感じるこの廃屋たちも、この雨で冷やされることだろう。
手綱を引き、元来た道へ帰ろうとした上総は、ふと、聞こえた物音に目をやる。
少し離れた柱の陰に、子どもがいた。
荒れた髪と、ボロボロの服から伸びる、枝のような手足。
こちらをぼんやりと眺めて佇んでいる。
上総は馬から降りた。
従者に動くなと命じ、子どもへ近寄る。
子どもは、近寄ってくる上総から逃げなかった。
一歩の距離まで近付き、しゃがんで目線を合わせる。
子どもの目は、不思議な緑色をしていた。
「この村で生き残るなんて悪運の強い…いや、絶望的に運が悪いとも言えような」
無言で、じっと上総を見つめる子どもに、上総は口の端を吊り上げる。
「なあ、わしのために働いてみんか?」
子どもは瞬きをして、首を傾げた。
「…わし?」
高い声だった。
身なりで分からなかったが、おそらく少女だろう。
「『わし』って…あなたは、おじいさん…?」
「じじいと言われるほど歳は食っておらんが」
くつくつと上総は笑う。
上総はこの間、元服したばかりである。
まだ少年の面影の残る上総から、老齢な言葉遣いが出たことに、違和感があったのだろう。
少女はしげしげと上総を見て、「おわかい…ですね?」と感想を漏らす。
「ふふ…中々肝が座っとるな、お前」
褒められたことが嬉しかったのか、少女はふにゃりと微笑む。
「…あなた、は…かみさま?」
神、という言葉に、上総は途端に顔をしかめる。
上総は、宗教が好きではない。
信仰というものは、支配者とは相性が悪いからだ。
実はこの村は、とある神を信仰する村だった。
税は神に捧げるべきとして国に納めず、怪しげな儀式で村人から莫大な寄進を搾取する村だった。
再三の注意文にも意を課さず、最後通告にも応じなかった村に対し、上総は決断を下した。
焼け、と。
上総は少女の瞳を見つめる。
「…神仏なぞ、この世にはおらん」
「しんぶつ」
「おん。代わりに、わしがおる」
「あなた…?」
「お前を導く、上様じゃ」
上総は笑って、少女の前に手を差し出した。
「もう一度聞く。お前は、わしのために、働くか?」
「…」
「はい、か、いいえ、じゃ」
少女は数回瞬きをし、上総の手を握った。
「は、い」
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