【完結】王甥殿下の幼な妻

花鶏

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おまけ

六月の閨事情 03

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「嘘つき………! 引かないって言ったのに……!」

 枕に顔を埋めたまま動けなくなったマティアスの背中を、リリアは顔を真っ赤にしてぽこぽこと殴る。

「……引いてない。
 ちょっと、安心して気が抜けた」

 マティアスの言葉にリリアは不思議そうに拳を止める。

「貴女は、ちゃんと俺のことが好きなんだなと思って。
 ………抱きしめるのもキスするのもいつも俺からだから、少し不安だった」
「そんなこと不安に思ってるなら、聞いてくだされば良かったのに」
「それは、まあ、何を言われてももう別れる気はないからな」

 マティアスは寝転がったままリリアの頬を指の背で撫でる。

「貴女が嫌なら手は出さない。
 でも、もう、貴女を手放す気はない。
 他の男が貴女に手を出したら―――多分殺すな」

 マティアスらしからぬ物騒な物言いに、リリアは少し慌てるように言う。

「ほ、ほかの男性なんていないですよ! ……抱かれるのも、怖いけど、別に嫌では……」
「したくないって言ったじゃないか」
「したいとは、思わないです。
 牛とか虫の交尾なら見たことありますが、あまり楽しそうに見えませんし。
 でも、マティアス様がしたいなら、別に嫌ではないです」

 絶望的に認識が酷い。

 マティアスにとっても房事はずっと、いつか決められた相手と成さねばならない義務でしかなかったが、リリアへの気持ちを自覚してからは違っている。叶うならいつか、彼女の心と身体の許しを得て、この華奢な身体の全てに触れたい。
 リリアもマティアスのことを好きだと言ってくれるのに、リリアはそうではないのだろうか。

 夜の空気のせいか普段聞きにくいことも敷居が下がっている気がして、マティアスはこの際だから疑問に思う事は訊いておこうと決めた。

「じゃあ、離縁の話をしていた日に、何故誘ったんだ」
「もうお会いできないと思っていたので………あわよくば、子種を頂けないかと」

 ぺろりととんでもないことを言う。
 もしかしてあれは、キスとか愛撫とか全部すっ飛ばして種付けだけ要求されていたのか? いや、一応、ワンセットで要求されたと思おう、確認はしない。

「急に触られるのが平気じゃなくなったのは、俺のことが好きになったから?」
「マティアス様のことは、もっと前から好きです。
 マティアス様が、わたくしのこと好きだって仰るから」
「前もそんなような事を言っていたな。何が違うんだ」
「えっ、だって、全然、違うじゃないですか。……だいたい、好き同士なのに、必要以上に触るなんて、破廉恥じゃないですか……」

 ちょっと何を言っているのか分からない。
 好きな相手が特別というなら分かるが、相手が自分を好きかどうかで違うということか? え、全然分からない。キスは? 最近は毎日のようにキスしていたが、あれはいいのか?

「………子種云々のほうが余程破廉恥ではないのか」
「? 好ましい相手との生殖行為を望むのは、生物なら当然では」
「………うん、……うん、まあ、そうだな……」
「人間の受精は不確実なくせに、痛いとか、あまり良くないですね……どうしてでしょう、ややこも通る道のはずなのに……排卵は痛くないんだから、魚類と同じなら……月経痛だってなくなるのに……」

 ぶつぶつとひとりごちるリリアに、マティアスは眉間を押さえる。

 魚類の受精。

 確かに人間の生殖は女性にばかり負担が大きくて、不満も已むを得ない。………だがきっと魚類には魚類の苦労があろうし、俺は人間なのでどちらかというと人間の生殖行為がしたい……。

「………リリア」
「はい」
「勘違いしてるかもしれないから言っておく。
 ずっと俺が言っている、抱きたいっていう言葉は、身体中触ることも、込みだ」

「………えっ?」

 驚いた顔をされた。
 驚いた顔をしたいのはこっちの方だ。

「突っ込むだけなんて、俺だって別にしたくない」
「男性は、突っ込みたいものなのでは」
「他の男がどうかは知らない」
「さわ、触る必要が、どこに」
「触らないと出来ない」

 いや、試したことないし出来るのかもしれないが、全く挑戦する気にならない。
 もしかして今日誘惑に負けて抱こうとしていたら、愛撫の時点で破廉恥だと怒られていたのか。理不尽が過ぎる。

「………じゃあ、マティアス様、いつも、身体中触りたいって言ってたって、こと……?」
「身体中にキスするのも、込みだ」
「―――なっ、えっ、から………
 わたくしのこと好きなのに? わたくしも、マティアス様のこと好きだって、言ってるのに………!?」

 リリアの顔が茹蛸のように赤くなる。

 だからそれはどういう意味なんだ。寧ろそれ以外の相手に言ったら問題じゃないのか。

 リリアは後退りしながらシーツに隠れ、消え入るような声でマティアスを非難した。

「…………やだ……、やだ、マティアス様の、えっち………」

 青い瞳が熱く潤んでいる。

「……………………
 …………貴女から、そんな普通の女の子みたいな発言が聞けるなんて、俺は感無量だよ……」



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