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第一章 幼な妻の輿入れ
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しおりを挟む妻が、目を醒まさない。
「お疲れでお休みなだけですから、大丈夫ですよ」
書類を持ち込んで妻―――リリアの寝室に入り浸るマティアスに、侍女のカロリーナが熱い紅茶を淹れてくれた。
「……ん……だれ……」
「あら、リリア様、お目覚めですか。
よくお休みになれたようでよろしゅうございました。ご気分はいかがですか」
「カロリーナ……おはよう」
「もう夕方だ」
「マティアス殿下!?」
横から顔を出したマティアスに驚いてリリアが跳ね起きる。
「全然起きないから心配した。
体調はどうだ?」
「殿下……」
「うん」
「あ、え、あの、昨日の……え、夢……?」
混乱するリリアは年相応の少女に見える。
昨日までの彼女の様子を思い起こして、随分と大人びた態度だったと思い至った。
皆が賢い賢いと言ってはいたが、もしかして彼女は俺が思っているより遥かに賢いのかもしれない。
「………ゆめ……」
徐々に悲しそうに口許を戦慄かせるリリアの呟きを、慌てて遮る。
「今朝、父上と宰相に話して来た。残念ながら十億しか貰えなかった。
確認してみたら別荘がざっと五億くらいで売れるらしいので、合わせて十五億だ」
「え」
「売却に一年くらいかかるらしい。十億が無くなるまでには売れるだろう。
再来年以降の予算は、父上が、学園なら恒常的に国家予算を使うべきではない、と言うので、今まで通り領地経営に組み込むことになった」
「………夢じゃ……」
「夢じゃない。良かったな」
翠がかった青い瞳が円く見開かれ、涙が盛り上がる。昨日もあれほど泣いていたのに、またぼろぼろと大粒の涙が零れた。幼な子のような泣き顔で震える声を絞り出す。
「あ、
ありがとうございます
ありがとうございます……!」
「うん」
「でも、別荘って、よろしいんでしょうか」
「うん、貴女を離縁する時に慰謝料としてあげようと思っていた別荘だから構わない。もう慰謝料は払えないかもしれないが……
―――使い方はこれで正解だろう?」
皆が賢いと誉めそやす少女が、天才を見る眼差しでマティアスを見つめた。
交渉にあたって宰相にはかなり嫌味を言われ気が滅入ったが、まあその価値はあった、と思った。
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