Lost†Angel

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Supper

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「おい!おまえ一体どういう飼い方してんだ!?このままじゃアイツ餓死すんぞ?」



「食いたくねーっつってるもんをどうするよ……」


携帯電話越しに和泉の説教が聞こえてくる。

近況報告とは言えないくらい、ギャーギャー喚き散らしながら、かなりお怒りのようだ。

『とりあえず任せた』と告げ電話を切る。


昔から面倒見が良い奴だが、こんなに五月蝿い奴だったか…?


早く戻りたいのは当然だが、仕事が片付かないことには戻りたくても戻れない。



……手首切ったか……まぁいつかやるだろうとは思ってたけどな……


煙草をふかしながら、ソファーに深く体重を預け、一挙手一投足を思い返す。

灰皿に吸い殻を捨て、続け様にもう一本を吸い続ける。



いつ消えてもおかしく無さそうな危うさがある。


ガキのくせに脆そうに見えて、アレで意外と頑固だからな……


「さて、どうしたもんかね……」

泣きながら縋って、俺なしではいられないくらい依存すれば良い。

そう思って甘やかしたつもりだったが、思った以上に入れ込んでしまった。



毎晩悪夢に魘されながら、丸まった猫のように膝を抱えて眠る姿。

嫌だと泣き叫びながら、無意識に抱き付いてくる姿は、思い出すだけで勃起するくらい愛しい。

誰が何と言おうと、俺は湊に惚れているのだ。おそらく一目惚れだろう。



「アイツは愛情に飢えて自分を安売りしてるだけだ」

和泉の分析は正しい。足を開けば体温が貰える。

「相手は誰でもいい。自分を必要とされたがっている。典型的な自己肯定感の欠如の結果だ」


依存体質なのを理解しているから、突き放そうと必死になり、逆に愛情を欲しがっている。

酷い仕打ちをしている相手に、醜い感情を注ぎ込まれ、自分を見失う恐怖に怯えているのは、これ以上ない嗜虐心を満たす行為だ。




もっと嫌がる顔が見たい。俺を憎んで苦しめばいい。歪んだ愛情を押し付け、堕としたくて堪らない。


とっとと面倒な仕事を片付け、思いっきり壊したい衝動に駆られた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



俺が手首を切ってから、和泉は泊まり込んで帰る気配がない。

今もグラスにワインを注ぎながら飲んでいる。


「見張り……?」

「いや、ただ暇だから」

絶対嘘だと思いながら、土産に買ってきて貰った煙草を吸う。


「そんなに信用無いなら、鎖で繋いどけば?」

ソファーに頬杖をつき片膝を抱える俺を見ながら、和泉は飲んでいたグラスを置く。

「おまえが飯を食うなら考えてやってもいいよ」


交換条件を出されて、俺は黙り込むしかない。


「一緒に風呂入るか」

「え?…いや、俺はいいって……」


断る俺を無視し、抱え上げると浴室へと連れて行かれる。

「目を離すとお前何仕出かすかわからないからな」


バスローブを脱がされ全裸にされると、浴槽に下されシャワーを頭からかけられる。

「手濡れないようにしとけ」

「……ちょ、やめ…ッ…」

わしゃわしゃとシャンプーを泡立て嫌がる俺の髪を洗いながら、和泉が楽しそうに笑う。

「本当に猫洗ってるみたいだな」


「乱暴なんだよッ!」

シャワーの湯で洗い流すと、浴槽の中に湯を溜めながら和泉も一緒に入ってくる。


和泉の背中にある刺青に目が留まる。



「それ……」

パパの背中にもあるのと同じだった。

「あー…これか?」


「……一緒…」


見覚えのある鷹の刺青。

一緒にいると忘れそうになるが、和泉もヤクザなんだと思い知らされる気がした。

「お揃い……?」

「お揃いっていうか、まぁうちの組の奴らは入れてるな」

そんなもんなのかと考え込む俺に、和泉が背中を撫でる。

「おまえも墨入れるか?」


「え?」

「まぁおまえの場合はタトゥーだな」






ベランダから夜景を見下ろしながら煙草を吸う。


宝石箱ひっくり返したみたいだな……と思いながら、手摺に凭れ煙草を咥え眺めていると、背中からふわっと抱き締められた。


「飛んだらダメだぞ」

首元に顔を埋めながらギュッと力を込められ、温かい感触に包まれる。


和泉とは違う懐かしい感触。


「俺、そんな死にそうな顔してる……?」

苦笑いを零しながら背後を振り返ると、そのまま唇を塞がれ口付けを交わす。


「……ンッ……んぁ…んッ……」


甘い吐息が鼻から漏れ、向き直すと両腕を首に絡めるように抱き着く。


広い胸に抱き締められると、とても落ち着く。一週間ぶりの感触に自分でも驚くくらい懐かしくて堪らなかった。



「……どうした?」

「…………」



俺は――――

多分、今、倖せなんだと思う……



だからこの倖せをいつか無くしてしまうのが怖くて。

無くすくらいなら、いっそ自分から棄ててしまいたくなる。


無言のまま涙が溢れポロッと頬を伝う。


「泣いても無駄だぞ。もう家には帰れないんだからな」

涙を舐めながら立ったまま片足を持ち上げ、足の間に割り込むように勃起したペニスを押し付けられる。



これ以上一緒にいたら、依存して離れられなくなってしまう……


「…ヤ……ダ…ッ…」

嫌がる素振りを見せる俺を、赦さないとでも言うように、無理やり犯そうとしてくる。


「…嫌……だ……ッ…やめッ……」


バスローブを剥ぎ取るように無理やり脱がされる。

背中に入れたばかりの翼のトライバルタトゥーを見られる。


「痛がりのくせに、よく我慢出来たな」

和泉が連れてきた彫り師によって、俺はベッドで寝かされ肩甲骨辺りに彫られてる間、あまりの痛みに涙が流れ悲鳴を上げながら施術中気を失った。

通常3日かけてやるところを2日で完成させられ、一週間後にやっと皮膚の炎症もなく落ちついた。



完成した部分を撫でながら、パパが呟く。


「よく似合ってる。おまえの身体に俺の名前でも入れてやろうか?」

「え?」

「自分の持ち物には名前書いておくのが当然だろう?」


こんな痛みもう二度と御免だ。



針が背中に刺さる度、罰を与えられている気分になった。

罰を受け入れることで許されるなら、もっといくらでも入れてやる。



お姫様抱っこの形で抱え上げられ身体が宙に浮く。

軽々と抱える相手を不満そうに見上げながら、落とされないようしがみ付いているとリビングのソファーに下され、冷凍庫から取ってきた白桃のシャーベットをスプーンで救い口に運ばれる。

「ほら。アーン」

スプーンに乗せられたシャーベットを口に入れ、舌の上で溶けていくのをコクンと飲み込む。

「……ッ…」


パパの表情がホッとしたように崩れ、小さく息を吐き出した。

「……良かった」

初めて見る表情だ。嬉しそうに笑う顔に釣られて思わず俺も笑ってしまう。

「………ン」

続けて運ばれるスプーンを口に入れ吐き出さないように、ソファに横向きに寝転がりクッションを抱き締める。


「酒と煙草だけじゃ死ぬぞ……」

「いいよ。死んでも」


俺の身体を上に向かせると、顎を掴み唇を塞がれる。

「………ンッ…ぁ…」

抵抗しようと胸元を押そうとしても、敵うはずもなく両手を力付くで押さえ付けられたまま涙目で見つめる。



「バカ言え。おまえを殺していいのは俺だけなんだよ」

シャーベットを口に含み、口移しで流し込まれる。

口端から溶けた果汁が混ざった唾液が流れ、首筋に垂れていくのを舐められながら紅い痕を残される。


呼吸が乱れ顎を上げながら、感じそうになるのを耐えるよう背中の服を掴んだまま抱き着く。

「……いいよ。それでも。その代わり、殺したら全部喰ってな……」

「肉も骨も全部喰ってやるよ」

乳首に噛み付かれる痛みにビクッと反応し、ピチャピチャと水音を響かせ、流れる血を舐めながら吸われる。


「そしたら、永遠に一つになれるな……」

目を閉じたまま呟いた言葉は、おそらく聴こえてはないだろう。



……殺されるくらい愛してくれるなら、それでもいいやと思った。



犯そうとしてくるのを嫌がりながら、涙目で見上げ震える声で伝える。

「……キメセク、したい…」


限界だった。薬が切れると小刻みに指先が震え、禁断症状を抑えられなくなる。


込み上げる嘔吐感に耐え切れず、パパにしがみ付きながら訴える。

「……ク…スリ……欲し…い……」

幼い子供のように泣きながら縋り付き、頭の中はドラッグのことしか考えられなくなる。

「…お願い、苦し…ぃ……何でも…い…い……からッ……」


一瞬戸惑ったような表情の後、首を横に振られる。



目の前を蝶が飛ぶ幻覚――――



この苦しさからただ逃れたくて、体の中の不快感を吐き出そうと、リストカットの衝動に駆られる。


「……和…泉……呼ん…で……」


「和泉?」

パパの顔色が変わったことに俺は気付けなかった。


「…薬、持って…きて……貰って……」

ただこの苦しさから逃れたい一心で俺は縋る。


一旦俺を突き放すと、和泉を携帯で呼び出す。


「車か?お姫様がお呼びだぞ」

短く告げ電話を切ると、俺の髪を掴み首を絞められる。


「和泉にも足を開いたのか?」


「……シ、て…ない……」

蔑み見下すような冷たい視線で、アナルに指を突っ込まれる。

ビクッと身体を強張らせ、乱暴にナカを掻き回す指を締め付けてしまう。


「おまえが一週間も男無しでいられるのか…?」

「…………ッ」

「どうせ和泉にも抱かれたんだろう?」


首輪に手をかけグッと引っ張られると、呼吸が遮られ苦しさに意識が飛びそうになる。

「……違…、何も、してない……」

玄関のドアが開き、リビングに和泉が入ってくる。

ソファーで倒れてる俺を見るなり驚いて駆け寄り、引き剥がそうと引っ張る。


「ちょ、おまえ何やってんだッ!?」

「うるせぇ!おまえは黙ってろッ!!」


止めに入ろうとする和泉を突き飛ばし怒号が響く。


首を絞められたまま、絞り出すように声を出す。


「…和泉、は…裏切…る…ような、真似…しない…」

涙が目尻から伝って流れ落ちる。


庇えば庇うほど逆効果だった。俺の言葉がパパの逆鱗に触れた。


「随分和泉に懐いたようだな?」

「…和、泉は…関係…ない」

「和泉を誘惑してココから助けて出して貰おうとでも思ったか?」

「…そ、んな…こ、と……考えた、こと…な…い…ッ……」

胸ぐらを掴み突き飛ばされると、ゲホゲホと咳き込み床に倒れ込む俺を抱え、和泉がパパに向かって怒鳴る。

「いい加減にしろよ!湊は充分おまえに洗脳されてるだろ!?」


「うるせぇ!俺の物をどうしようと俺の勝手だ!!」

嫉妬に怒り狂ったまま和泉を蹴り飛ばすと、俺の足の上に乗り体重をかけられる。


「どこにも逃げ出せないよう折ってやる」


「……痛ッ…い……やめ、て…っやぁ……」

骨が軋む。痛みに泣きながら折られる恐怖に震える。


――――――――狂ってる


「…やだッ…いやぁ…やめ、て……」

やめろという和泉の制止も聞かず、狂気に満ちた表情で俺の膝の上で力を込められ、パキンと骨が折れる音がした。


「……ぅあぁアッ……――――!!」

痛みに泣き叫ぶ俺の叫び声が部屋に響く。

嗚咽を上げながら泣き泣きじゃくる俺を和泉が抱え上げる。


「やり過ぎだぞ」

怒りに満ちた目で睨み付け、寝室に連れて行かれる。

泣き過ぎて過呼吸気味の俺をあやすように、髪や頬を撫でながら和泉が謝る。


「ゴメンな。病院には連れて行ってやれないけど、医者を呼ぶから」


鎮痛剤代わりに強い睡眠薬を飲まされ、俺は意識を手放した。



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