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過去のカケラ
そこにあったものは?
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「痛い!!いたたたっ!!」
今から遺跡にアタックしようという時に、エルネストの大きな悲鳴が上がった。
「エルネスト!どうした?!」
「転んだっ!木の根っこに足を取られた!」
慌ててルイとヴィクトーが叫び声のする方へと行ってみると、盛り上がる木の根っこの足元に、逆さに倒れているエルネストを発見した。
二人がかりで抱き起すが、その痛がりようから察するに、左足にヒビが入っているか、悪くすると骨折している感じだった。
靴を脱がすのもズボンを捲るのも大騒ぎで仕方なくハサミで切った。見れば脛が腫れ上がり内出血で紫色に変色していたのだ。
「い・や・だ!私はいやだ!ここまで来たのに!目の前じゃないか!中に入れないなんてあんまりだ!」
ここまで漕ぎ着けるのには膨大な下調べをし、何年もかけて計画を立て、ようやくスポンサーも見つかって、ルイもエルネストも満を侍してこの場にいた。
何よりエルネストの夢が今日この日に全て詰まっていた。
自分が悪いとはいえど、連れていけないと言われてもあっさりと納得なんて出来るはずもない。
だが無理して立てたとしても、探索出来る状態では無いことは本人が一番分かっていた。
可哀想なほど男泣きのエルネストにルイもヴィクトーもかける言葉も見つからなかった。
取り敢えず脚に添え木をして包帯でぐるぐる巻にし、現地の人を一人付けてルイ達一行は遺跡探索に向かう事になった。
「お前の分もしっかり見て来るからな。大丈夫、心配するな直ぐに戻って来る。安静にしていろよ、エルネスト」
「…私の事は気にしなくて良い。存分に探索して来いよ」
漸く気持ちを無理矢理落ち着け、エルネストは目を赤くしながらも、二人を快く送り出そうとしていた。
ヴィクトーもかける言葉の代わりにエルネストをギュっと抱きしめる事で気持ちを切り替えていた。
遺跡と言うからには建造物でなくてはならない筈だが、どう見ても木の根っこに取り込まれた巨石にしか見えない。
そもそも本当にこれが遺跡かどうかも分からない。もう何年もかけて重箱の隅をつつくように、ほんの僅かな文献の記載を掻き集め、言い伝えと現地の人達の下調べと、そしてルイ達の推論だけを頼りに手繰り寄せた場所だった。
まずは巨石の周りから丹念に調べることから始める事にした。
様々な計測から始まり、成分検査のために巨石のサンプルをいくつも取ったり、ハケやチリトリで岩や根っこの絡まる場所を丹念にはいていく。すると薄くはあるものの石積みのパターンらしきものが浮き出て来たのだ。
さらに調べて行くと驚いた事にその巨石と思われたものは一分の隙間もなく積まれた石の壁である事が分かった。
これは巨石ではなく、樹木に飲まれた建造物。間違いなく遺跡だったのだ。
「これは…エルネストが言った通り、相当古いものかもしれんな。まだ誰も知らない未知の古代文明があったと言うのか?いや、だが極めて高度な石積みだ!こんな事があるだろうか…」
ルイが興奮気味に独り言を言いながら石壁を撫で、ヴィクトーも父の真似をして少し浮いたようになっている壁を指で突いてみた。
すると思いもよらず、10センチ四方ほどのカケラがポロリと内側に落ちたではないか!
そう思った途端、そのわずかな隙間から何かの吐息がふわりとヴィクトーのまつ毛を震わせた気がしてヴィクトーは怖気上がった。
「父さん!!父さん!!見て!ここから中に入れるかもしれない!!」
内側に落ちたと言うことは、この奥に空間があると言うことだ。突然の発見にヴィクトーは自分の肌が総毛立つのが分かる。
ゾッとするような、沸き立つような不思議な高揚感と、全身を貫く快感と恐怖の入り混じった感覚。それはその後もずっとヴィクトーを支配する事になる強烈な一瞬の感覚だった。
そしてそれを追い求めて今日のヴィクトーがある。
正しくこの時、ヴィクトーは考古学と言うフィー・フォンに目を覗き込まれ、そして取り憑かれたのだ。
壁の厚さは不規則で、ある所は10センチ、又ある部分では50センチもある。まるでパズルのように組んである壁をヴィクトー達はカケラ一つも粗末に扱わず、記録を取りつつ慎重に崩して行くと数時間後、ようやく人一人が潜り込める大きさになっていた。
穴の底は覗いても何も見えず、石を投げて穴の深さを測ったがかなり深い事が推測できた。
火を灯したランプを吊るすと火は消えず、空気はあるようだったが、光が届く範囲以上に空間が広がっているようだった。
「入ってみよう。私が先に行く」
「気をつけて父さん!」
一番先にルイが降りてみる事にした。
近くの木の根にロープを縛りつけ、皆が見守る中ルイは慎重にロープを伝って下に降りて行った。
ルイは下でトーチに火を付けて周り全体を照らし出してみた。
「これは…!………ああ…なんたる事だ…!」
辺りを見渡したルイが感嘆を漏らした。
信じられないと言った面持ちで周囲に目をに奪われたまま、早く来いと手招きだけで皆を呼び寄せている。
それを見たヴィクトー達一行が次々と地中へと降りて行き、そして皆一様に言葉を失いルイと同様に惚けた顔で周りを見渡した。
不意に生き物の騒めきが頭上から降り注ぎ、見上げたヴィクトーはその光景に思わず「あっ!」と声を上げて目を見張った。
普段はそんなことをする子供ではないのに、思わずルイの腕を掴んで引き寄せていた。
「父さん!あれを見て…っ」
今から遺跡にアタックしようという時に、エルネストの大きな悲鳴が上がった。
「エルネスト!どうした?!」
「転んだっ!木の根っこに足を取られた!」
慌ててルイとヴィクトーが叫び声のする方へと行ってみると、盛り上がる木の根っこの足元に、逆さに倒れているエルネストを発見した。
二人がかりで抱き起すが、その痛がりようから察するに、左足にヒビが入っているか、悪くすると骨折している感じだった。
靴を脱がすのもズボンを捲るのも大騒ぎで仕方なくハサミで切った。見れば脛が腫れ上がり内出血で紫色に変色していたのだ。
「い・や・だ!私はいやだ!ここまで来たのに!目の前じゃないか!中に入れないなんてあんまりだ!」
ここまで漕ぎ着けるのには膨大な下調べをし、何年もかけて計画を立て、ようやくスポンサーも見つかって、ルイもエルネストも満を侍してこの場にいた。
何よりエルネストの夢が今日この日に全て詰まっていた。
自分が悪いとはいえど、連れていけないと言われてもあっさりと納得なんて出来るはずもない。
だが無理して立てたとしても、探索出来る状態では無いことは本人が一番分かっていた。
可哀想なほど男泣きのエルネストにルイもヴィクトーもかける言葉も見つからなかった。
取り敢えず脚に添え木をして包帯でぐるぐる巻にし、現地の人を一人付けてルイ達一行は遺跡探索に向かう事になった。
「お前の分もしっかり見て来るからな。大丈夫、心配するな直ぐに戻って来る。安静にしていろよ、エルネスト」
「…私の事は気にしなくて良い。存分に探索して来いよ」
漸く気持ちを無理矢理落ち着け、エルネストは目を赤くしながらも、二人を快く送り出そうとしていた。
ヴィクトーもかける言葉の代わりにエルネストをギュっと抱きしめる事で気持ちを切り替えていた。
遺跡と言うからには建造物でなくてはならない筈だが、どう見ても木の根っこに取り込まれた巨石にしか見えない。
そもそも本当にこれが遺跡かどうかも分からない。もう何年もかけて重箱の隅をつつくように、ほんの僅かな文献の記載を掻き集め、言い伝えと現地の人達の下調べと、そしてルイ達の推論だけを頼りに手繰り寄せた場所だった。
まずは巨石の周りから丹念に調べることから始める事にした。
様々な計測から始まり、成分検査のために巨石のサンプルをいくつも取ったり、ハケやチリトリで岩や根っこの絡まる場所を丹念にはいていく。すると薄くはあるものの石積みのパターンらしきものが浮き出て来たのだ。
さらに調べて行くと驚いた事にその巨石と思われたものは一分の隙間もなく積まれた石の壁である事が分かった。
これは巨石ではなく、樹木に飲まれた建造物。間違いなく遺跡だったのだ。
「これは…エルネストが言った通り、相当古いものかもしれんな。まだ誰も知らない未知の古代文明があったと言うのか?いや、だが極めて高度な石積みだ!こんな事があるだろうか…」
ルイが興奮気味に独り言を言いながら石壁を撫で、ヴィクトーも父の真似をして少し浮いたようになっている壁を指で突いてみた。
すると思いもよらず、10センチ四方ほどのカケラがポロリと内側に落ちたではないか!
そう思った途端、そのわずかな隙間から何かの吐息がふわりとヴィクトーのまつ毛を震わせた気がしてヴィクトーは怖気上がった。
「父さん!!父さん!!見て!ここから中に入れるかもしれない!!」
内側に落ちたと言うことは、この奥に空間があると言うことだ。突然の発見にヴィクトーは自分の肌が総毛立つのが分かる。
ゾッとするような、沸き立つような不思議な高揚感と、全身を貫く快感と恐怖の入り混じった感覚。それはその後もずっとヴィクトーを支配する事になる強烈な一瞬の感覚だった。
そしてそれを追い求めて今日のヴィクトーがある。
正しくこの時、ヴィクトーは考古学と言うフィー・フォンに目を覗き込まれ、そして取り憑かれたのだ。
壁の厚さは不規則で、ある所は10センチ、又ある部分では50センチもある。まるでパズルのように組んである壁をヴィクトー達はカケラ一つも粗末に扱わず、記録を取りつつ慎重に崩して行くと数時間後、ようやく人一人が潜り込める大きさになっていた。
穴の底は覗いても何も見えず、石を投げて穴の深さを測ったがかなり深い事が推測できた。
火を灯したランプを吊るすと火は消えず、空気はあるようだったが、光が届く範囲以上に空間が広がっているようだった。
「入ってみよう。私が先に行く」
「気をつけて父さん!」
一番先にルイが降りてみる事にした。
近くの木の根にロープを縛りつけ、皆が見守る中ルイは慎重にロープを伝って下に降りて行った。
ルイは下でトーチに火を付けて周り全体を照らし出してみた。
「これは…!………ああ…なんたる事だ…!」
辺りを見渡したルイが感嘆を漏らした。
信じられないと言った面持ちで周囲に目をに奪われたまま、早く来いと手招きだけで皆を呼び寄せている。
それを見たヴィクトー達一行が次々と地中へと降りて行き、そして皆一様に言葉を失いルイと同様に惚けた顔で周りを見渡した。
不意に生き物の騒めきが頭上から降り注ぎ、見上げたヴィクトーはその光景に思わず「あっ!」と声を上げて目を見張った。
普段はそんなことをする子供ではないのに、思わずルイの腕を掴んで引き寄せていた。
「父さん!あれを見て…っ」
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