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迷い
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気まずい朝食の始まりだった。
昨夜の嬌態は紛れもなくロンバードに目撃されているに違いなかったが、それについて何か問いただされるような事も無い。
それがかえってノーランマークにはむず痒かった。
「何だか今日は静かだなー。ねえ?サー・ロンバード?」
イーサンの突っ込みどころが意外に鋭いと思ったが、ロンバードに話を振るなと口に出かかった。
「そうですかな?お疲れですか?ノーランマーク」
しれっとした物言いのロンバードに、ノーランマークは目玉焼きのキミにうっかりフォークを突き刺さした。真っ白い皿の上にトロリと黄色いキミが流れ出す。
「オレ?オレは別に疲れちゃいないよ。ハハハハ、、、」
何とも乾いた笑い声を立てものだとノーランマークは自分自身に苦笑した。
「そうだ、明日はアスコットさんが来る日でしたね?サー・ロンバードは何か必要なものがありますか?」
イーサンが手元に伝票とペンを用意し、嬉々としてロンバードの返事を待っている。
何も知らない者は良いなと、ノーランマークは心からそう思う。
「そうですねえ、M9の弾が欲しいですねえ。あとはグレネードの」
ロンバードがそう言いかけたところで思わずノーランマークは吹き出した。
「ゴホッ!!
グレネードだと?ちょっと待て。
それって手榴弾のことか?穏やかじゃないな」
「穏やかさは物騒な物で守られているものなのですよ?ノーランマーク」
「つまり、武器商人が来るって事か?
‥‥‥うん??アスコット?」
そこでハタと気がつくことがあった。記憶の底から浮かび上がって来た名前。『アスコット』ノーランマークは思わず立ち上がった。
「今、アスコットさんって言ったか?」
「言ったけど?お知り合い?」
「武器商人のアスコット!あのろくでなしがこんな秘密の島にまで出入りしてるのか!」
突然怒り出したノーランマークに訳わからない顔をするイーサン。
「武器商人なんて言うとアスコットさんが怒るよ。貿易商だ。貿易商のアスコットさん」
「ぼうえきしょう?!昔あいつにカモられたんだ!とんでもないガセのショットガンをつかまされた事がある!しかもクーリングオフに応じるどころかとんずらしやがった!」
「武器のクーリングオフとは面白いですねえ、ノーランマーク。アスコットさんにカモられた事は幸いありませんが、カモるのはあなたの方がお得意なのではないですかな?」
この物言いがノーランマークの胸にチクチク来るのは気のせいか。
大事な坊ちゃまに、あんな事やこんな事をした事への嫌がらせなのかと思ってしまう。
一人でバツが悪くなったノーランマークは怒りの出鼻を挫かれ押し黙ってしまった。
それにしても、こんな所で昔の知り合いと遭遇する事になるのかもしれない。この島から脱出する良いチャンスになるかもしれないなと、思考の矛先は早くも武器商人を利用する事に集中し始めていた。
それまでに例の奇跡を何とか手に入れたいものだ。
そう思うものの、ラムランサンの顔が浮かぶとそこで思考が停止する。
「良からぬ事を考えるのは止めろ」
背後からまるで自分の今の考えを見透かすような声がした。振り返るとそこにはいつも通りの凛とした姿のラムランサンが立っていた。
「おはようございます!ラム様!」
元気に挨拶するイーサンの背後からぬっと顔を出した執事が恭しく胸に手を当て頭を下げる。
「おはようございます。ラム様。そろそろ朝食をお待ちいたしましょう」
「良い。ここで食べる」
そう言うと、ノーランマークの脇を目も合わせず通り過ぎ、台所のテーブル席に着いた。
つい今し方まで共寝をしていたとは思えないほどのよそよそしさだった。まぁこうなるのだろうと想像はついた。
イーサンとロンバードが慌ててテーブルセッティングをする。
彼の前に置かれたコーヒーを、ブラックのまま口に運ぶラムランサンを見ると、どうしても腕の中のアノ時の顔が目の前を過ぎる。
テーブルにはまだ食べかけの朝食が残っていたが、ラムランサンの顔を眺めながらの食事は気が進まなかった。
「芝刈りに行く」
そう言うとノーランマークは一言もラムランサンと話すことなく、食べかけの朝食を片付け、台所から出て行った。
「まずい。まずいまずい!まずいぞオレ!」
考えなければならない事は色々あると言うのに、芝刈りをしても床磨きをしてもラムランサンの事が頭から一向に離れてはくれない。
ラムランサンから輝石を強奪してそれでどうなるんだ?彼の一族が命と人生を引き換えに守って来た神託の輝石だぞ。金に換えるのか?
と柄にも無くノーランマークは葛藤していた。
輝石が欲しいと思い、下僕に成り下がってまでこの城へとついて来たと言うのに、彼を識った事で目的が根底からぐらつくのを感じていた。
抱くのでは無かった。
様々な意味でノーランマークは後悔し始めていた。
芝刈りも床磨きもあらかた終わり、海が見渡せる城の高台で、ノーランマークはぼんやり地平線を眺めていた。
今まで行きたいところへ行き、好きな事をする。その日暮らしの自由を謳歌して来たノーランマークには目的の無くなった城の生活など本物の牢獄と同じだった。
同時にラムランサンはずっとこんな所に縛りつけられているのかと思うと無性に彼を全てから解き放ってやりたい気持ちになるのだった。
そんな気の緩みを切り裂くような鋭い風鳴りが耳元を掠めた。それは途切れなく二発三発と鋭い何かがノーランマークを襲って来た。
咄嗟に身をかわし、一気に戦闘モードへと切り替わる。
城の城壁の上から狙われているのが分かると近くの植え込みの中へと飛び込んだ。
すかさず植え込みに今度は鋭いナイフが差し込まれてくる。
無碍に切り刻まれた木の葉が舞い散った。
ナイフは立て続けにノーランマークが逃げる方向へと正確に突き込まれた。
ノーランマークは手近な枝をへし折ると今度は自分から反撃に出た。
茂みを飛び出して、真っ向からその何者かへと枝を振りかざして突撃した。
ナイフと枝がぶつかる音が響き、互いに猛烈なスピードで後ずさった。
ノーランマークが息を切らせながら叫んだ。
「何しやがる!!誰だ!!」
昨夜の嬌態は紛れもなくロンバードに目撃されているに違いなかったが、それについて何か問いただされるような事も無い。
それがかえってノーランマークにはむず痒かった。
「何だか今日は静かだなー。ねえ?サー・ロンバード?」
イーサンの突っ込みどころが意外に鋭いと思ったが、ロンバードに話を振るなと口に出かかった。
「そうですかな?お疲れですか?ノーランマーク」
しれっとした物言いのロンバードに、ノーランマークは目玉焼きのキミにうっかりフォークを突き刺さした。真っ白い皿の上にトロリと黄色いキミが流れ出す。
「オレ?オレは別に疲れちゃいないよ。ハハハハ、、、」
何とも乾いた笑い声を立てものだとノーランマークは自分自身に苦笑した。
「そうだ、明日はアスコットさんが来る日でしたね?サー・ロンバードは何か必要なものがありますか?」
イーサンが手元に伝票とペンを用意し、嬉々としてロンバードの返事を待っている。
何も知らない者は良いなと、ノーランマークは心からそう思う。
「そうですねえ、M9の弾が欲しいですねえ。あとはグレネードの」
ロンバードがそう言いかけたところで思わずノーランマークは吹き出した。
「ゴホッ!!
グレネードだと?ちょっと待て。
それって手榴弾のことか?穏やかじゃないな」
「穏やかさは物騒な物で守られているものなのですよ?ノーランマーク」
「つまり、武器商人が来るって事か?
‥‥‥うん??アスコット?」
そこでハタと気がつくことがあった。記憶の底から浮かび上がって来た名前。『アスコット』ノーランマークは思わず立ち上がった。
「今、アスコットさんって言ったか?」
「言ったけど?お知り合い?」
「武器商人のアスコット!あのろくでなしがこんな秘密の島にまで出入りしてるのか!」
突然怒り出したノーランマークに訳わからない顔をするイーサン。
「武器商人なんて言うとアスコットさんが怒るよ。貿易商だ。貿易商のアスコットさん」
「ぼうえきしょう?!昔あいつにカモられたんだ!とんでもないガセのショットガンをつかまされた事がある!しかもクーリングオフに応じるどころかとんずらしやがった!」
「武器のクーリングオフとは面白いですねえ、ノーランマーク。アスコットさんにカモられた事は幸いありませんが、カモるのはあなたの方がお得意なのではないですかな?」
この物言いがノーランマークの胸にチクチク来るのは気のせいか。
大事な坊ちゃまに、あんな事やこんな事をした事への嫌がらせなのかと思ってしまう。
一人でバツが悪くなったノーランマークは怒りの出鼻を挫かれ押し黙ってしまった。
それにしても、こんな所で昔の知り合いと遭遇する事になるのかもしれない。この島から脱出する良いチャンスになるかもしれないなと、思考の矛先は早くも武器商人を利用する事に集中し始めていた。
それまでに例の奇跡を何とか手に入れたいものだ。
そう思うものの、ラムランサンの顔が浮かぶとそこで思考が停止する。
「良からぬ事を考えるのは止めろ」
背後からまるで自分の今の考えを見透かすような声がした。振り返るとそこにはいつも通りの凛とした姿のラムランサンが立っていた。
「おはようございます!ラム様!」
元気に挨拶するイーサンの背後からぬっと顔を出した執事が恭しく胸に手を当て頭を下げる。
「おはようございます。ラム様。そろそろ朝食をお待ちいたしましょう」
「良い。ここで食べる」
そう言うと、ノーランマークの脇を目も合わせず通り過ぎ、台所のテーブル席に着いた。
つい今し方まで共寝をしていたとは思えないほどのよそよそしさだった。まぁこうなるのだろうと想像はついた。
イーサンとロンバードが慌ててテーブルセッティングをする。
彼の前に置かれたコーヒーを、ブラックのまま口に運ぶラムランサンを見ると、どうしても腕の中のアノ時の顔が目の前を過ぎる。
テーブルにはまだ食べかけの朝食が残っていたが、ラムランサンの顔を眺めながらの食事は気が進まなかった。
「芝刈りに行く」
そう言うとノーランマークは一言もラムランサンと話すことなく、食べかけの朝食を片付け、台所から出て行った。
「まずい。まずいまずい!まずいぞオレ!」
考えなければならない事は色々あると言うのに、芝刈りをしても床磨きをしてもラムランサンの事が頭から一向に離れてはくれない。
ラムランサンから輝石を強奪してそれでどうなるんだ?彼の一族が命と人生を引き換えに守って来た神託の輝石だぞ。金に換えるのか?
と柄にも無くノーランマークは葛藤していた。
輝石が欲しいと思い、下僕に成り下がってまでこの城へとついて来たと言うのに、彼を識った事で目的が根底からぐらつくのを感じていた。
抱くのでは無かった。
様々な意味でノーランマークは後悔し始めていた。
芝刈りも床磨きもあらかた終わり、海が見渡せる城の高台で、ノーランマークはぼんやり地平線を眺めていた。
今まで行きたいところへ行き、好きな事をする。その日暮らしの自由を謳歌して来たノーランマークには目的の無くなった城の生活など本物の牢獄と同じだった。
同時にラムランサンはずっとこんな所に縛りつけられているのかと思うと無性に彼を全てから解き放ってやりたい気持ちになるのだった。
そんな気の緩みを切り裂くような鋭い風鳴りが耳元を掠めた。それは途切れなく二発三発と鋭い何かがノーランマークを襲って来た。
咄嗟に身をかわし、一気に戦闘モードへと切り替わる。
城の城壁の上から狙われているのが分かると近くの植え込みの中へと飛び込んだ。
すかさず植え込みに今度は鋭いナイフが差し込まれてくる。
無碍に切り刻まれた木の葉が舞い散った。
ナイフは立て続けにノーランマークが逃げる方向へと正確に突き込まれた。
ノーランマークは手近な枝をへし折ると今度は自分から反撃に出た。
茂みを飛び出して、真っ向からその何者かへと枝を振りかざして突撃した。
ナイフと枝がぶつかる音が響き、互いに猛烈なスピードで後ずさった。
ノーランマークが息を切らせながら叫んだ。
「何しやがる!!誰だ!!」
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