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繁華街の赤い月
part.8
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みんなの目が一斉にその女に注がれた。
「…あ、あの。麟ちゃん、」
皆の注目を浴びた彼女は居ずらそうな顔で八神を見て隅の壁際に身体を寄せた。
「いらっしゃい。…どうぞ、こちらへ」
「いいの、お迎えがあるから…あの、これ」
人目を気にするように例の茶封筒をバッグから覗かせた。
八神は慌てて彼女の元にやってくると、受け取った封筒を二つ折りにして尻のポケットに突っ込んだ。
「ありがとな、助かるよ」
「それじゃ、頑張って…」
たったそれだけの会話を交わして女はそそくさと店を出て行き、八神は外まで彼女を見送りに出て行った。
女と八神の間に特別な空気が流れていたのを誰もが感じた。
「怪しいわぁ~、ね、怪しいと思わない?」
マダムがそういった時、八神が店に帰ってきた。
「ちよっと、今のだあれ?八神ちゃんの彼女?」
さすがマダム。ズケズケと聞きにくい事を何の臆面もなく聞いていた。
八神はそんな下衆の勘繰りなど気にも止めない様子でこう言った。
「ああ、今のは俺の元妻ですよ」
一瞬、店内が水を打ったように静まり返ったその直後、一斉に響めきが上がった。
「えええええーっ?!結婚してたの?!八神ちゃんー!!!」
客の居なくなった午前三時。
八神は洗ったグラスを磨きながら、さっきから床を履いている秋山をチラチラと盗み見ていた。
「悪いな先生。手伝わせちまって。……あのさ、驚ろかせちまったな、あいつの事…」
八神が恐る恐る秋山に聞いてきた。
「あの人が桃香さんって言うんだね」
「あ、ああ…、隠してた訳じゃ無いんだが…何となく言いそびれちまって」
「僕は何となく奥さんいるの知ってましたから、ああこの人なんだってくらいでそんなには驚きませんでしたよ」
淡々とそんな事を言う秋山に八神の方が驚いて、カウンターの中からフロアへと歩いて来た。
「えっ?俺そんなこと言ったか?」
「まだちゃんと付き合う前に、一度だけ言ったじゃ無いですか。八神さんが俺が 結婚してたら変か?って聞いたから僕が変ですって…覚えてないですか?」
言われてみればそんな事を言ったような気がする八神だった。
「それよりも気になるのはお金です。何で僕に相談してくれなかったの」
「あれは、ここの開店資金にちょいとばかし借りたんだ…。言わなかったのは…先生だって金が無いだろう?」
「でも、元の奥さんに借りるくらいなら僕に言って欲しかったです。八神さんがお店したいって言うなら、僕がバックアップしたかっ…ーー」
「すまん、…ありがとな。先生」
いきなり秋山は背中から抱きしめられた。
口では強気な事を言った秋山だったが、気持ちが全くざわめかないと言ったら嘘になる。
だが八神は今は自分だけのものだと信じられるからこそ、穏やかな気持ちでいられるのだ。
「八神さん…。おめでとう」
八神の温かな腕の中で、己を包む八神の腕を抱きしめながら、今日初めて心からの祝いの言葉を言えた秋山だった。
「ん、…はぁ…八神さん、八神さん…っ」
いつもの部屋の布団の上で胡座の八神の上に秋山が跨り、裸で抱き合いながら二人は口付けに没頭している。
今まで何度、こうやって抱き合ったろうか。
既に二人の間では熱く漲る怒張が触れ合い絡まり合っている。
秋山の手を八神はそこへと導き手を重ねて握らせるとゆっくりと上下に動かした。
秋山の腰がビクビクと跳ね上がる。
二つのソレは秋山の手の下で別の生き物のように脈打ち、動かす度に淫猥な水音が耳を犯し始めていた。
「熱いだろう?分かるか?先生」
八神のその声は熱く甘く耳を犯し、秋山はそれだけで感じてしまう。
いつも痛がって100%を遂げられない秋山のために八神が用意したキシロカイン入りのゼリーを指に塗布した八神がゆっくりと指を秘孔へと埋没させて行く。その指をきゅうっと愛おしそうに甘く食い締められて、その反応に「可愛いよ」と囁かれた秋山が羞恥に赤く顔を染めた。
抜き差しは最初は緩慢に、次第に早く、解す指が二本から三本へと増やされた頃には秋山の中は熟れた果実のようになって八神の熱情を待ち詫びるまでになっていた。
「はあっ…んっ、あっ、八神さんっ!来て…っ!きて…っ」
上擦った声を上げて秋山が八神の首にしがみ付くと、八神は秋山の中へと己の怒張をゆっくりインサートさせて行く。
互いの胸を密着させ、しっかりと抱き合い、八神は小刻みに腰を揺さぶった。
「あっ、ぁ、八神さんが…っ、くる…!あっ、はっ、もっと、奥へ…!全部っ!」
「先生…、はあっ、あきやま!行くぞ、100%…!」
二人の盛り上がりは最高潮に達しようとしていた。八神が秋山を抱いたまま布団に沈み、腰を大きく振って最奥まで突き上げようかと言う時、僅かな衝撃と共に身体の下で何か不穏な音が響いた。
ボキっ!
バキっ!!
一瞬、二人の動きがとまった。
「な、なに…今の…」
「地震か?」
身体がふーっと目眩にも似た感覚を覚えた次の瞬間だった。
畳と一緒に二人を乗せた布団が斜めに傾いた。
「わっ!!」
ガクンっ!
バリバリバリ!!
ズザザザーー!!!
「うわぁぁぁ~っ!!!」
上がる土煙と共に放り出される衝撃に見舞われた。二人とも何が起こったか考える暇もなく、次に気づいた時にはクシャクシャの布団と共に、ルナ・ロッサの店内に真っ裸で放り出されていた。
「先生っ!無事か?!」
「や、や、八神さんっ、どうなったんだ??僕達」
土埃の立つルナ・ロッサの店内、散らばる瓦礫の中、クシャクシャになった布団の上で二人は手を握り合って茫然自失の体《てい》だった。
この時、何が起こったのか。
理髪店とルナ・ロッサは地続きの、いわば安アパートのような造りだった。
しかも築六十年と言う途方もないオンボロ。改築費をケチったせいか知らないが、酷い手抜き工事のお陰で、理髪店の方の二階が傾いてこの日しかもこの時に崩壊したのだった。
まあ、工事をしなくてもいずれはこんな事になっていたかもしれないが。
「なあ、これって100%って事にしない?」
「良いですけど…でも…なんか違う気が…」
こんな時だが、そこが一番気になる二人だった。だが秋山の中では100%の気がしない。これは何%かと言われたら、93%と言う感覚だった。
次に周りを見渡した八神がボヤいた。
「あーあ、先生の店がこんな事になっちまって」
何か聞き捨てならない言葉を聞いた。
「…えっ?先生の…店って?」
「いや、ここさ、ルナ・ロッサ」
「…八神さんの店だろう?」
「違うよ!ほら大家が言ってたろう?続きで借りたら三割り引きって。だからここのオーナーは先生だ。俺は雇われバーテンダー」
八神が何を言っているか分からない。
「えっ?えっ?どゆこと??」
「だから、先生が理髪店とここを続きで借りてる事になってる。あ、借金は俺の借金だから心配しなくていいぞ」
寝耳に水とはまさにこの事。秋山はワナワナと震えていた。裸で寒いからでは無い。
「契約書とか判子とか、そう、判子とかどうしたんだ!」
「先生の判子の場所なんか知ってるよ?台所の棚の三番目。通帳のある所だろう?」
「そう言うの私文書偽造になるんだよ?!」
「まあまあ」
「まあまあ?!何がまあまあ?!そう言えば店の経理とか出来んの八神さん!確定申告とかさ、誰がやるんだよ!!」
「ははははは!」
「はははじゃないよっ!」
裸の男二人、この状況でその話かい!と何処かから突っ込みが入りそうな色々と釈然としない午前八時。色々問題は山積みそうだったが、起きるのが遅い繁華街がこの惨劇に気づくには、もう少し後の事になりそうだ。
あの年末の惨劇とは違い、取り敢えず今回は服を着る時間があるのが救いといえば救いだ。
end.
「…あ、あの。麟ちゃん、」
皆の注目を浴びた彼女は居ずらそうな顔で八神を見て隅の壁際に身体を寄せた。
「いらっしゃい。…どうぞ、こちらへ」
「いいの、お迎えがあるから…あの、これ」
人目を気にするように例の茶封筒をバッグから覗かせた。
八神は慌てて彼女の元にやってくると、受け取った封筒を二つ折りにして尻のポケットに突っ込んだ。
「ありがとな、助かるよ」
「それじゃ、頑張って…」
たったそれだけの会話を交わして女はそそくさと店を出て行き、八神は外まで彼女を見送りに出て行った。
女と八神の間に特別な空気が流れていたのを誰もが感じた。
「怪しいわぁ~、ね、怪しいと思わない?」
マダムがそういった時、八神が店に帰ってきた。
「ちよっと、今のだあれ?八神ちゃんの彼女?」
さすがマダム。ズケズケと聞きにくい事を何の臆面もなく聞いていた。
八神はそんな下衆の勘繰りなど気にも止めない様子でこう言った。
「ああ、今のは俺の元妻ですよ」
一瞬、店内が水を打ったように静まり返ったその直後、一斉に響めきが上がった。
「えええええーっ?!結婚してたの?!八神ちゃんー!!!」
客の居なくなった午前三時。
八神は洗ったグラスを磨きながら、さっきから床を履いている秋山をチラチラと盗み見ていた。
「悪いな先生。手伝わせちまって。……あのさ、驚ろかせちまったな、あいつの事…」
八神が恐る恐る秋山に聞いてきた。
「あの人が桃香さんって言うんだね」
「あ、ああ…、隠してた訳じゃ無いんだが…何となく言いそびれちまって」
「僕は何となく奥さんいるの知ってましたから、ああこの人なんだってくらいでそんなには驚きませんでしたよ」
淡々とそんな事を言う秋山に八神の方が驚いて、カウンターの中からフロアへと歩いて来た。
「えっ?俺そんなこと言ったか?」
「まだちゃんと付き合う前に、一度だけ言ったじゃ無いですか。八神さんが俺が 結婚してたら変か?って聞いたから僕が変ですって…覚えてないですか?」
言われてみればそんな事を言ったような気がする八神だった。
「それよりも気になるのはお金です。何で僕に相談してくれなかったの」
「あれは、ここの開店資金にちょいとばかし借りたんだ…。言わなかったのは…先生だって金が無いだろう?」
「でも、元の奥さんに借りるくらいなら僕に言って欲しかったです。八神さんがお店したいって言うなら、僕がバックアップしたかっ…ーー」
「すまん、…ありがとな。先生」
いきなり秋山は背中から抱きしめられた。
口では強気な事を言った秋山だったが、気持ちが全くざわめかないと言ったら嘘になる。
だが八神は今は自分だけのものだと信じられるからこそ、穏やかな気持ちでいられるのだ。
「八神さん…。おめでとう」
八神の温かな腕の中で、己を包む八神の腕を抱きしめながら、今日初めて心からの祝いの言葉を言えた秋山だった。
「ん、…はぁ…八神さん、八神さん…っ」
いつもの部屋の布団の上で胡座の八神の上に秋山が跨り、裸で抱き合いながら二人は口付けに没頭している。
今まで何度、こうやって抱き合ったろうか。
既に二人の間では熱く漲る怒張が触れ合い絡まり合っている。
秋山の手を八神はそこへと導き手を重ねて握らせるとゆっくりと上下に動かした。
秋山の腰がビクビクと跳ね上がる。
二つのソレは秋山の手の下で別の生き物のように脈打ち、動かす度に淫猥な水音が耳を犯し始めていた。
「熱いだろう?分かるか?先生」
八神のその声は熱く甘く耳を犯し、秋山はそれだけで感じてしまう。
いつも痛がって100%を遂げられない秋山のために八神が用意したキシロカイン入りのゼリーを指に塗布した八神がゆっくりと指を秘孔へと埋没させて行く。その指をきゅうっと愛おしそうに甘く食い締められて、その反応に「可愛いよ」と囁かれた秋山が羞恥に赤く顔を染めた。
抜き差しは最初は緩慢に、次第に早く、解す指が二本から三本へと増やされた頃には秋山の中は熟れた果実のようになって八神の熱情を待ち詫びるまでになっていた。
「はあっ…んっ、あっ、八神さんっ!来て…っ!きて…っ」
上擦った声を上げて秋山が八神の首にしがみ付くと、八神は秋山の中へと己の怒張をゆっくりインサートさせて行く。
互いの胸を密着させ、しっかりと抱き合い、八神は小刻みに腰を揺さぶった。
「あっ、ぁ、八神さんが…っ、くる…!あっ、はっ、もっと、奥へ…!全部っ!」
「先生…、はあっ、あきやま!行くぞ、100%…!」
二人の盛り上がりは最高潮に達しようとしていた。八神が秋山を抱いたまま布団に沈み、腰を大きく振って最奥まで突き上げようかと言う時、僅かな衝撃と共に身体の下で何か不穏な音が響いた。
ボキっ!
バキっ!!
一瞬、二人の動きがとまった。
「な、なに…今の…」
「地震か?」
身体がふーっと目眩にも似た感覚を覚えた次の瞬間だった。
畳と一緒に二人を乗せた布団が斜めに傾いた。
「わっ!!」
ガクンっ!
バリバリバリ!!
ズザザザーー!!!
「うわぁぁぁ~っ!!!」
上がる土煙と共に放り出される衝撃に見舞われた。二人とも何が起こったか考える暇もなく、次に気づいた時にはクシャクシャの布団と共に、ルナ・ロッサの店内に真っ裸で放り出されていた。
「先生っ!無事か?!」
「や、や、八神さんっ、どうなったんだ??僕達」
土埃の立つルナ・ロッサの店内、散らばる瓦礫の中、クシャクシャになった布団の上で二人は手を握り合って茫然自失の体《てい》だった。
この時、何が起こったのか。
理髪店とルナ・ロッサは地続きの、いわば安アパートのような造りだった。
しかも築六十年と言う途方もないオンボロ。改築費をケチったせいか知らないが、酷い手抜き工事のお陰で、理髪店の方の二階が傾いてこの日しかもこの時に崩壊したのだった。
まあ、工事をしなくてもいずれはこんな事になっていたかもしれないが。
「なあ、これって100%って事にしない?」
「良いですけど…でも…なんか違う気が…」
こんな時だが、そこが一番気になる二人だった。だが秋山の中では100%の気がしない。これは何%かと言われたら、93%と言う感覚だった。
次に周りを見渡した八神がボヤいた。
「あーあ、先生の店がこんな事になっちまって」
何か聞き捨てならない言葉を聞いた。
「…えっ?先生の…店って?」
「いや、ここさ、ルナ・ロッサ」
「…八神さんの店だろう?」
「違うよ!ほら大家が言ってたろう?続きで借りたら三割り引きって。だからここのオーナーは先生だ。俺は雇われバーテンダー」
八神が何を言っているか分からない。
「えっ?えっ?どゆこと??」
「だから、先生が理髪店とここを続きで借りてる事になってる。あ、借金は俺の借金だから心配しなくていいぞ」
寝耳に水とはまさにこの事。秋山はワナワナと震えていた。裸で寒いからでは無い。
「契約書とか判子とか、そう、判子とかどうしたんだ!」
「先生の判子の場所なんか知ってるよ?台所の棚の三番目。通帳のある所だろう?」
「そう言うの私文書偽造になるんだよ?!」
「まあまあ」
「まあまあ?!何がまあまあ?!そう言えば店の経理とか出来んの八神さん!確定申告とかさ、誰がやるんだよ!!」
「ははははは!」
「はははじゃないよっ!」
裸の男二人、この状況でその話かい!と何処かから突っ込みが入りそうな色々と釈然としない午前八時。色々問題は山積みそうだったが、起きるのが遅い繁華街がこの惨劇に気づくには、もう少し後の事になりそうだ。
あの年末の惨劇とは違い、取り敢えず今回は服を着る時間があるのが救いといえば救いだ。
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