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第一章 出会い

偽勇者(1)異世界に来ちゃった!

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ここは新宿、歌舞伎町。
奥まった場所にある二階建てのボロアパート周辺で騒ぐ男たち。
「クソッ! 寝ぐらにも帰ってね、どこ行きやがった」
スキンヘッドの厳つい男がアパートの二階から降りながら、ぼやく。
「部屋の中にはまだ荷物があった。 戻ってくるはずだ」
スキンヘッドの男に続いて、金髪でオールバックのチンピラが言った。

季節は冬。
12月の半ばにもなるこの時期は、何処も彼処もクリスマスで浮かれている。
日が暮れると、イルミネーションがキラキラと光だす。
そんな中、恐ろしい形相で、物騒な連中が走り回っていた。
そこへ1台の黒塗りの車が横付けされた。
車に気づいて駆け寄る2人
「お疲れ様です、アニキ」
「お疲れ様です、寒い中ご苦労様です 」
車の中から、紺色の高そうなスーツに紫のネクタイを着こなした50代の
オールバックの男
「ご苦労様じゃねえんだよバカヤロー! 俺を動かすんじゃねーよ! 
仕事しろや」
言いながら2人の頭をグーで殴る。

部屋を見上げてアニキが2人に尋ねた。
「ネオは居たか」
「いいえ。 居ませんでした」
「でも、ケータイも財布も置いてあったんで、また戻って来ますよ」
そう言ってチンピラが部屋の中に置いてあった財布と携帯をアニキに見せた。
「…部屋の中にあったのか?」
「はい、置いてありました」
「バカヤロー!」
チンピラを、もう1回大きく叩いた。
「財布を置いてどこ行くっていうんだよ。 近くのコンビニすら行けやしねぇだろ! そいつはお前ら目をくらます為に置いてったんだよ。 ヤツはとっくに
逃げてる」
アニキは声を張り上げた。

「お前ら、部屋の中からやつがどこに行ったのか手がかりを探せ 」
アニキはそう言って、また車に飛び乗りその場を去った 。
二人は言われた通りにもう一度部屋に戻り、手がかりを探した。
「クッソ~。 やられた! 逃げてた後ってことは高跳びとかで、もう近くには
居ないってことか?」
「ああ。 しかも金もねえ、組から盗んだ金額って確か、億はいってたよな?」
「聞いた話だとそうだって言ってた、組の金貸しで稼いだ半年分近い金を持って
逃げたから、最低でも1億はあるって話だ」
そんなことを話しながら、2人は部屋の中を家捜ししていた。

そんな二人の様子をモニター越しに見つめる1人の男がいた。
『そんな金を組から奪ったなんて、捕まったら…生きて帰れねぇな』
モニターの向こうから聞こえてくる声に、男はニヤリと笑った 
「(バーカ。 見つかんなきゃいいんだよ、灯台下暗しだな高跳びしたように
見せかけて実はまだ近くにいただよね~。 まっ、高飛びならするさ、
騒ぎが収まった頃ぐらいな )」
そう言って男は温かいコーヒーを飲んだ。
周りをよく見ると、ここは24時間営業のスーパー。
男たちが家探しをしている場所から4、5メートル離れたところにある。
男はそこで優雅に晩ごはんを食べながら、その様子を携帯のモーターで見ていた。

彼の名前は、金田 新かねだ ねお
職業は、詐欺師。

黒塗りの車がアパートの近くから離れて10分程が経った。
その頃合いを見計らい、新は荷物を持って、その場を離れた。
黒い大きなスーツケースの上に大きめのグレーのカバン。
それを引きずりながら、白と青の縞模様の肩掛けカバンを持って店内を出る。
季節は冬。
東京にしては珍しく、ちょっとだけ雪が降っていた。
街のイルミネーションと重なって 幻想的なその 雰囲気に誰もが 空を見上げていた 

そんな人たちの間を新は、縫うように歩いていく。
鎖骨まで伸びた金髪の髪を隠すように、頭には暖かそうな灰色のニット帽で
顔を隠すように目深に被っていた。
同じ灰色の丈が膝まであるカシミアのコート、白いインナー、淡い藍色のYシャツに、クリーム色で太ももまである丈のウールのセーター、黒いストレートジーンズに新品の黒い革靴。
雪で寒いから着込んでいるのではない、メイド・イン・ジャパンは海外では中古でもいい値段で売れるから、国産で揃えたコーデだ。
「(とりあえず、ほとぼりが冷めるまで大阪か名古屋の辺りのネカフェに行泊しながら、頃合いを待つか…)」

そんな事を考えながら歩いていると、前の方から見知った顔が歩いてくるのに
気付いた。
組員の1人だった。
それに気づいた新は、 横の小道を曲がった。
「(…まずいな、駅の近くは見張られてる)」
しかし、その小道にも別の組員が2人いたので、更に別の裏道を曲がった。
とりあえず、駅から離れるうと組員を気にしながら、通ったこと無い枝分かれする薄暗い裏道を右へ左へと進んでいった。

何処をどれ位の時間歩き回っていたか分からなくなってきた頃だった。
周りを気にしながら歩いていたので、足元に転がっていた人に気づかず、
つまずいて転びそうになった 。
「あっぶねぇ! こんの、飲んだくれオヤジが! こんなところで寝てると
凍死するぞ…」
そう転がっていた人に向かって文句を言いながら振り返った。
しかし、少しそこに転がっていたのは、酔っ払いのおっさんではなく、
白骨遺体だった。
「うわぁ……凍死どころか、既に死んでんじゃん…」
その時になって新は周りの様子がおかしいことに気づいた。

自分がいる場所は洞窟の中だった。
さっきまで自分がいたのは新宿の裏道、人通りが少ないけど多くの店が軒を連ねている場所 。
小汚い居酒屋や狭い焼き鳥屋 、カラオケの音が漏れてくるスナックなどがひしめき合っていた、はずなのに…
いつの間にか、洞窟の中。
新は混乱した。
「(……新宿に、こんな場所あったっけ? いや、あったとしても死体が白骨化するまで放置されているなんてことは、無い…と思う)」
新は改めて周りを見渡した。

洞窟の広さは地下鉄のトンネルより少し狭い感じ。
だけど不思議なことにどこにも電気 は無いのに 洞窟の中は明るい 
不思議に思って探ってみると洞窟の中にいくつか鉱物があり、その鉱物が発光しているのだと分かった。
出来れば関わりたくないけど、改めてその白骨死体を見ると、新はある事に気付いた。
それは白骨死体の服装だった。
黄ばんだTシャツに、ボロボロの茶色のズボン、靴は履いていない。
それよりも1番におかしいのは、このご遺体が防具を着けているということだった。
自分の知る防具と言えば、組の一員だった頃に組員たちに教わった剣道で使ったやつがったけど…
これはそれとは違うものだった。
右肩には肩当てがあり、それと繋がるように胸を1周するように胸当てがあった。
色自体はくすんだ灰色だったが、材質がよく分からなかった。
意を決し、触れてみると白骨死体はバラバラに散らばった。
もともとつまずいた時に、半分散らばっていたような状態だったが、
完全にバラバラになった。

その防具を持ち上げてみると、ズッシリと重かった。
プラスティックでもアルミでも無い。
錆びてもいないから、鉄でも無い。
新がそう思っていると、洞窟の奥から大きな音が聞こえて来た。
それは轟音のような、獣の咆哮のような感じだった。
気になった新は音のする方へ行った。
そして、そこで彼は信じられない光景を目の当たりにした。

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