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第一章

異世界奴隷商人(4)家族

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そんなことを聞いていた時だった。
グリフォンの足元に小さな黄色い綿毛がもぞもぞと動いているのが見えた。
よく見るとそれはグリフォンの子供で頭も体も黄色い羽毛で覆われていて、
モフモフとしていてとても可愛らしかった。
中型犬位の大きさのグリフォンの雛は合計で6匹実の足元にワラワラと集まってきた。
雛たちの頭を撫でるとそれが気持ちいいのか『ピィ』声を出し自分も撫でてほしいと寄ってきた。
まだ雛なので人間を傷つけてはいけないと言うことが分からないのか、群がるように実の上に乗っかったり引っ張ったりして実を転ばせた。
一瞬、焦るナガレたち。

しかし、そんなナガレたちとは裏腹にモコモコとした毛が触れる度にくすぐったくて、実は雛まみれになりながら笑い転げていた。
「あはははは、まって! くすったい、ははは~」
上半身を起こしても雛たちは離れようともせず、実の肩や体にへばり付いていた 
「やったな~。 このこのこの~」
一匹の雛をモフモフともみくちゃにしたが、力は入っていないので雛は楽しそうに『ピャッピャッピャッ』と鳴いた。

グリフォンが『グアァ』と鳴くと、雛たちは一斉に寝床に戻っていった。
後に残された実は、雛たちの黄色い羽に塗れていた。
「大丈夫ですか?」
実が立ち上がると、体についた黄色い羽がフワフワと舞っていく。
「あぁ~。 癒された! 元の世界にいた時は朝から晩まで勉強か仕事のどっちかだったから、動物と触れ合う機会なんて無かったよ」
そう言って実は笑った。
それに対してナガレは慌てていた。
「ミノル様、お怪我は…」
「大丈夫だよ! 怪我なんて、あっても引っかきキズ位だよ」

そう気楽に言う実に対して、やっぱり落ち着かないナガレ
「? どうしたの」
「さっきほど言ってた悪種についてですが、もしも亜人や亜種が事故で間違って
人間族を傷付けちゃった場合でも、悪種になるんです」
「……その場合って、どうすることも出来ないの?」
「方法は、あるにはあります。 事故で人間を傷つけてしまった場合も多々ありますので。 一応その時に人間が許せば呪いは解除されるのですが…まずそんなことをする人間はいません 」
実は改めて柵の向こうに帰った雛たちを見たけど、苦しんでいる様子はなく巣の中で体を寄せ合っている。
その姿を見て実は、ホッとした。

その時「ただいま」と落ち着いた声と元気な声がした。
扉の方を見ると、身長はナガレとそんなに変わらないけど、ナガレよりも少し
顔つきが鋭い長い黒髪を後ろで縛りの男と8歳前後の男の子が2人帰ってきた。
「ミノル様、紹介します。 兄のライールと弟のソウルです」
「お邪魔してます。 ミノルです」
そして二人に対しても頭を下げて挨拶すると、同じく驚かれた。
「(…驚かれるの慣れてきたな)」
兄のライールはナガレよりも明るい、母よりの色の茶色い羽をしていた。
身長はナガレと変わらないけど、筋肉質な身体は圧巻だった。
弟のソウルも母と同じく銀髪の鎖骨までで短く、羽は父と同じく黒っぽい色合いだった。
ここの男たちの服装は二種類ある。
ナガレの父のように全身着込んでいる人と、ナガレのように上半身が裸かベストだけの人。
どうやら上半身が薄着の人は戦士なようで、戦うのに厚着が邪魔らしい。
兄のライールも上半身が裸なので、実は見事なシックスパックや胸筋を目の当たりにした。
しかもナガレ曰く、ライールは一族の中で一番の手練れ。

みんなが揃ったことで、お昼ご飯を食べることになった。
日本のお座敷みたいに座布団に座り、テーブルを囲む。
「ミノル様、こちらに座れますか?」
オールドが声をかけてきた。
誕生席みたいにテーブルの端に低めの椅子にあって、オールドがそれを指差しながら言った。
「大丈夫だよ、そこは足が悪いあなたの為の席でしょう? 俺はここで大丈夫」
オールドの右側の上座にあぐらで座った。
彼らの習慣には上座とかは無いのか、実の隣にはナガレ、イリーナ。
向にはライール、ソウル、マレーリアの順番で座っていた。

テーブルには色とりどりの豪華な料理が並べられていた。
その殆どが豚料理で驚いたが、いい匂いが立ち込めてきてどれもが美味しそう。
ライールがソウルの為に大皿から料理を取り分け、マレーリアはイリーナに取り分け渡した。
ナガレも同じく取り分け実に渡すと、実はそれをオールドに渡した。
テーブルから離れたところに座っているのと足が悪いことから届かないと思ったからだった。
オールドは驚いたけど素直に受け取った。

料理が行き渡りみんなが食べ始めていると、実が
「いただきます」
両手を合わせ、言うとスープを一口飲んだ。
口の中いっぱいに野菜の出汁と豚の脂の旨味が広がり、思わず「美味い!」と
言っていた。
「ミノル様、さっきのイタダキマスってなんてすか?」
ソウルが不思議そうに聞いてきた。
「ん? ああ、あれは俺たちの国でご飯を食べる時の挨拶みたいなもので『明日あす担うになうかてとしてお命をいただきます』っていう意味なんだ。 それで食べ終わった後は『大変美味しい御馳走でした』って言う意味のご馳走様って言うんだ」
「変わった風習ですね」
オールドが感心しながら言った。
「俺が生まれた、日本って言う国は『神の国』とも言われているんです。 木々の1本1本にも 道端に転がっている岩にも、八百万(やおよろず)の神が住んでいると言われ、礼節を重んじる傾向にあるので、何に対してもきっちり礼儀正しくと教わってきたんだ」
「それで、俺たちにも挨拶を…」
骨付き肉を片手に豪快に食べていたライールが呟いた。
「あれはお辞儀。 この世界じゃぁ亜人は身分が低いって聞いたけど、あいにくとこの世界のルールはまだよく知らないもんでね」
みんな実の故郷の話が面白いのか、色々と聞いてくる。
話をしている内に和やかな雰囲気になり、食事が進んだ。

ごちそうさまと言って食事を終えると、マレーリアとイリーナが片付け始めた。
「はぁ~美味かった。 食い過ぎで豚になりそう」
実がそう言った瞬間、マレーリアは持っていたお皿を落とした。
「もっ…申し訳ありません」
青ざめた顔でマレーリアが謝った。
静まり返る空気に「なんかマズかった?」と隣のナガレに聞いた。
「…そうですね。 先程、大婆様の神話の物語を覚えていますか? 
あの時、少女を殺した亜人はオークと言う豚の亜人なんです」
実は少し考えてから、ナガレの言葉の意図に気づいた。
「ああ、なるほど! 神の怒りを買い亜人たちの呪いの根源でもある豚の亜人
オーク、つまりこの世界だと豚は悪い者と考えてると」
ポンと手を叩き少しオーバーリアクションで答えた。

実の説明にナガレが頷き、
「いや! ゴメンゴメン、知らなかったよ」
その場の空気が和らいだ。
「てことは…自分もだけど、人はもっとダメだよね?」
「そうですね、誰かを豚のように例えたりするのもですが。 太っているのも豚を連想するのでよくないです。 後、豚の飼育などは罪人の極刑としてになっているんです」
なるほど、と感心していたミノルのところにまた雛が1匹来た。
その雛を膝の上に乗ってくると、また同じように頭を撫でてあげると雛は実の膝の上で気持ちよさそうに目を閉じた。

ナガレの家族は、それぞれ母親が食器の片付けをし、妹がそれを手伝う。
兄は狩りをした獲物のさばき方を弟に教えてあげていた。
父親はさっき座っていた席に戻り、彫刻刀を片手にまた木を削り始めた。
みんながそれぞれ動く中、実は父親の作業が気になったので近くに移動した。
実が動くと膝の上でくつろいでいた雛が、一緒に動いた。
オールドの側に置いてあった蔦の様な模様が掘られていた50センチ位の木を
手に取って見た。
「これって、テーブルの足? ですよね」
振り返るとさっきまでご飯を食べていたテーブルを見ると、同じ足だった。
「ええ、何度も組立てしている内に釘を打ってある部分が、悪くなってくるので」
「それなら、釘を使わなきゃいい!」
「釘本使わずにどうやってテーブルを組み立てるんですか?」
実の言葉に反応したのは、近くに寄ってきていたナガレだった。
「日本にはね、ほぞつぎとか組みつぎって言うのがあって、ほぞつぎは一方の材料にほぞ穴、もう一方の材料にほぞ加工して、ほぞ穴にほぞを差し込んで接合して、角材同士の接合する方法で、組みつぎは両方の材料の木口の接合部に凹凸の組み手を加工し接合するものなんだ」
手を使って説明していたが、上手く伝わなかったので、ナガレが紙と羽ペンを
持ってきたので図にして描いてあげた。
オールドは興味津々に色々聞いてきた。
他の職人仲間を呼んで、みんなで話そうと言ってきたが、時刻はもう遅かったので翌日になった。

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