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なんで・・・恋愛が嫌いな私が、よりにもよって恋愛シュミレーションゲームの主人公にして転生してるのよ、冗談じゃない!(2話)

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一方の可憐はさっき来た道を戻っていった。
エレベーターから降り人の波をかき分け、入社ゲートを出て行く。
途中、今から出勤しようとする人とすれ違いをするが、そんな人達には目もくれず会社を後にした。
しばらく歩いて、信号機で足を止めた。
すると自分と同じタイミングでため息をつく人がいた。
自分の左側にいるその人をチラッと見ると、自分よりも頭1つ分小柄な女性が立っていた。
しかしその人がため息をついたのは、自分とは違い不幸だからではなく、幸せなため息だった。
その人のお腹は大きく膨れ上がっていて、誰がどう見ても出産間近の妊婦だと言う事が分かる程だった。

その時、可憐の脳裏に元カレの言葉が蘇った。
『悪いけどさぁ別れてくれないか、彼女のお腹には俺の子供がいるんだ』
『分かるだろう! 男よりもできる女って可愛くないんだよ』
『お前、俺の事、好きだったんだろう! もう一回助けてくれないか、困ってるんだよ! 好きな男を支えるのは女の幸せなんだよ、分かるだろう』
「(分かるか! ボケぇ)」
蘇ってきた元彼の言葉に、内心ツッコミを入れる可憐。
もう一度ため息をつくと「(私もこれ位可愛げがあれば、よかったのかな……)」またチラッと隣の人を見てと思う。

そうこうしているうちに信号機が青に変わり、可憐は考えを振り払って横断歩道を渡り始めた。
その時だった、右側から信号無視した2トントラックが自分の方を目掛けて突っ込んできた。
歩道に引き返せばなんと言う事は無い、そう思い足を止めた可憐だったが、自分の左側からさっきの妊婦がトラックに気づかずに、横断歩道を渡っていくのに気づいた。

その一瞬、可憐には全てがスローモーションに見えた。
左側からは妊婦、右側からは2トントラック、考えるまでもなくこのままいけば大惨事になる。
その事を先に考えるより先に、可憐は行動をしていた。
左手に持っていたファイルを投げ捨て、妊婦のリュックサックを引っ張り自分の後ろ投げた。
可憐の後ろにいた男性2人が妊婦を見事にキャッチ、彼女は助かった。

しかし彼女を引っ張ったその反動で、可憐は不自然な大勢で横断歩道の真ん中へ投げ出され、そして弾かれてしまった。

遠くで誰かの悲鳴が聞こえる声がして、目が覚めた。
しかしそこは道路の真ん中でもなければ、病院でもない。

上体を起こし、辺りを見回すも周りはまだ暗くよく見えない。
ベッドから降りて、窓の方へ行きカーテンと窓を開けると上ったばかりの朝日と、少しばかり肌寒い風が部屋の中へ入ってきた。
振り返り、部屋の中を見ると中世のヨーロッパのような豪華な造りの部屋がそこにはあった。
白を基調とした派手ではない、品の良い作りの部屋。
大きな姿見があり、そこに自分の姿を映すとそこには30代のOLの可憐ではなく。
黄金色の腰まで伸びたシルクのような髪にサファイアのような緑色の瞳、15歳にしてはふくよかな胸、引き締まった筋肉質な体がそこにあった。

カレン・アルファード15歳、これが今の自分だ。

私はあの日、トラックに轢かれ私は死んだ。
そして志保が最後に貸してくれた乙ゲーの主人公、カレン・アルファードに転生した。
ゲームの主人公でもあるカレンは普通の平民でおとなしくて可憐と言う名前がぴったりの女の子。
しかも、この世界では火水風地の4種の妖精のうち1つか2つしか力が貰えない中で、カレンはなんとその4つの全ての力を持ったキャラだった。
ゲームの始まりは、15歳のカレンが聖オルフェン学園に入学するところから始まる。
そしてその学園で男達はカレンを奪い合い、悪役令嬢から嫌がらせを受け最後にたった1人と結ばれる。
と言う恋愛シュミューレションゲーム……なんだけど!

「なんで……恋愛が嫌いな私が、よりにもよって恋愛シュミューレションゲームの主人公に転生してんのよ、冗談じゃない! 」
髪をぐしゃぐしゃにかき乱しながらカレンは叫ぶ。

「そこは普通、悪役令嬢でしょう! それはもう、これでもかって言う位の悪役ぶりをお披露目してさっさと退場するのに!」
そう、この世界に転生してから15年カレンは毎日のようにそれを思って続けていた。
志保が貸してくれた漫画も主にそれが1番多かったからだ。
そしてとうとう今日、聖オルフェン学園に入学する時が来た、そんな時だからか15年前の懐かしい夢を、いや悪夢を見てしまった。

その時、トントントンと扉をたたく音がしてカレンは我に帰った。
「どうぞ」
返事を待って部屋の中に入ってきたのは専属メイドのオリビアだった。
「おはようございます、カレン様。 身支度用のお湯をお持ちいたしました」
「ありがとう」
専属メイドのオリビア、黒髪を後ろでお団子に束ね、優しそうな栗色タレ目に身長165センチと小柄なのにEカップの温厚な性格。

持ってきたオケの中のお湯で顔を洗い、歯を磨いた。
その間にオリビアはハンガーに掛かった学校の制服を、整えブラウスや靴を用意した。
顔を洗い終わると制服を受け取り、衝立の向こうで着替え始めた。

着替えをしているその時、ノックもなく1人の女の子が部屋に入ってきた。
「カレンちゃん、おはよー」
部屋に入ってきたのは、チェルシー・ダンフィー。
オリビアより全体的小さめのチェルシー。
背中まで伸びた赤茶の髪をサイドから後頭部かけて三つ編みで縛り、琥珀色のクリッとした瞳を、輝かせて入ってきた。
「チェルシー、今日からはカレンじゃないよ」
言いながらカレンは衝立の向こうから制服を着た状態で出てきた。
聖オルフェン学園の制服は、ブラウスに首元は各自自由なのでスカーフでもペンダントでも可。
上着はロングローランドで下は、女子はスカート男子がパンツ姿。
王族は白地に金色の飾り、貴族は紺地に銀色の飾り、平民は茶地に黒色の飾りと身分によって制服の色が変わっている。

チェルシーは白いブラウスにピンク色の大きなリボンを首元につけ、紺色のロングローランドに下は膝下10センチのフリフリのスカートを履いている。
一方のカレンは白いブラウスに首元は白いクラバットに妖精の姿をしたカメオを付け、同じ紺色のロングローランド。
しかし下は男子用のパンツを着ている。
「あーそっかぁ、今日からは『カレンちゃん』じゃなくて『レンくん』だね」
カレンの姿を見てチェルシーは残念そうに言った。
サラシで芳醇な胸をつぶし、髪を飾らず男の様に1本に縛った姿。
「できれば髪を切りたかったんだけどなぁ」
そうつぶやくカレンに「いけません! カレン様」とオリビアは声を荒らげる。
「オリビア『カレン』じゃないよ」
「失礼しました。 レン様」
オリビアとチェルシーの様子にやれやれと言った感じでカレンは、ため息をついた。
カレンとチェルシーは軽く朝食を済ませると馬車に乗り込み学園へと向かった。

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