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第二章

オレ達はスカートを履いて戦う事にした!(6)共闘

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黒魔法と白魔法は相容れない、油と水のようなもの。
だからこそ黒魔法師が開けたこの穴を白魔法師は塞ぐ事が出来ずにいた。
分かってはいてもそれでも死んでいった多くの仲間たち、壊され失った故郷、
今まで戦ってきた痛みと恐怖を考えると簡単には納得できなかった。
白魔法師たちは混乱し、お互いに押し問答をしていた。
そんな事をやっている内に、魔物たちが集まってきた。

「来たか。 部隊を展開、魔物どもを近づけさせるな。 本部に連絡、状況の説明と応援を要請! 急げ」
みんなが混乱する中、指示を出していく信幸。
混乱しながらも指示に従う隊員たち。
「ここは我々が食い止める、可能な限り穴を塞げ!」
百合子と一輝に言うなり信幸は二人から少し離れ、魔物が来ても二人を守れる
位置にいた。

百合子は涙を拭い振り返った。
「……一輝、穴を塞ぐわよ」
百合子は少し戸惑ったが信幸の言う通り、穴を塞ぎ出した。
一輝は手に持っていた大きな針に糸を通すとまた穴を塞ぎ始めた。

通信をした少尉が信幸のところに来た。
「大佐、本部と連絡が取れました。 後10分で応援が来ます」
「遅い! そんなに時間をかけていたらこっちは全滅する」
「本部も黒魔法師の出現に、混乱している様子で…」
仕方がないと黒澤は通信機を手にとった。
「こちら、第一大隊、黒澤大佐。 本部、応答願います」
黒澤が通信している間、少佐は近くに来る魔物を撃退していた。
『こちら本部。 黒澤大佐、黒魔法師を見つけたと言うのは本当か?』
「はい、穴の一部を塞ぐのを確認しました。 本人は白銀小百合と名乗っています、応援をお願いします」
数秒の間を置きまた通信機から声がしたが、今度は違う声だった。
『こちら、魔法師協会のフォークスだ。 …サユリが本当に、そこにいるのか?』
フォークスは魔法師協会の保守派の重鎮じゅうちんと呼ばれていて、かつてはいがみ合う白魔法師と黒魔法師たちの間に立ち、お互いを仲直りさせようと奮闘した人物だった。

『無事だったんだね。 君の父から君たち家族のことを頼むと言われずっと
探していたんだ……良かったよ、無事で』
無線の向こうで涙ぐむ声がした。
しかしその時だった。
「危ない!」
話をしている途中で信幸が叫んだ。
百合子はその声に振り返えると、信幸の隙をついて魔物が3体一輝に向かっていった。
信幸は爆裂の魔法で魔物を攻撃するが、1体が盾になって防いで2体が傷つきながらもそれでも一輝に向かって突進していった。
1体は百合子の使い魔の黒犬、ハウンドが倒したがもう1体が残っていた。

「まずい!」
魔物はすでに一輝の近くにいるので爆裂の魔法は使えない。
信幸は後を追うが間に合わない。
その魔物を倒したのは母、百合子だった。
彼女は召喚した魔物を剣に変えて戦っていた。
そんな百合子は魔物が一輝に到達する前に倒した。

だが、同時に魔物の攻撃が百合子の上腹部に刺さっていた。

百合子はそのまま落下していった。
一輝は何が起きたのか、理解できない様子でその場で固まって動けないでいた。
そんな百合子を受け止めたのは信幸だった。

空中で彼女をキャッチすると、傷口から溢れ出る血を見た後一輝を見ると、
一輝は青ざめた顔をしたまま動けないでいた。
「撤退だ! 少尉、各部隊に連絡、撤退する。 それと本部に大至急医師を
呼ぶよう伝えろ」
指示を出した後、信幸は百合子を抱えたまま一輝の手を引きその場から
離脱をした。

ようやく一輝が我に返ったのは、本部が作った仮設テントで治療を受けている母を見た時だった。
黒魔法と白魔法は相容れない。
だから百合子には白魔法師が使う治癒魔法が効かない。

旧式の手術でなんとか助けようとしたが……

「母さん……」
一輝は百合子に近づき声をかけると百合子は微かに目を開けた。
「一輝……あなを、穴を塞いで……」
「かぁ……さ……」
一輝はボロボロと泣きながら百合子のそばにしゃがみ込んだ。

そんな一輝を見て百合子は近くにいた信幸に視線を写した。
自分に用があるのだと気付いた信幸は近くに寄って片膝をついてしゃがんだ。
「…………一輝のこと……おねがい、しても……いいですか?」
「ああ、責任を持ってこの黒澤信幸が預かろう」
信幸のその言葉に百合子は手を差し伸べ、信幸はその手を握り返した。


          *  *  *


「その後すぐに彼の母が亡くなり、君の父が彼の後見人になった。 だが……」
チラッと一輝を見るホークアイ大佐。
その視線に徹も一輝を見ると、痛そうに傷を摩っていた。
その先は言うまでもなく分かっていた。

父、黒澤信幸がいるのは最前線。
毎日のように人が死んで、残された人たちの悲しみの中に元凶を投じるのは、
火に油を注ぐようなもの。
おまけに父は大佐、四六時中一輝と一緒にはいられなかった。

「理解しました。 白銀一輝の身柄、責任を持って預かります」
背筋をピッと伸ばし返事をする徹。
「うん、よろしく頼むよ」
ホークアイ大佐はいつものようにニッコリと笑った。
「ところで一輝君、詳しい事を聞いていなかったが穴はどうやって塞いだんだい?」

突然話しかけられ、一輝はビクッとして恐る恐る顔を上げた。
ホークアイ大佐に聞かれると、一輝は戸惑いながらも立ち上がり誰もいない壁に
手をかざすと空中に3つの三角が現れた。
しばらくするとその三角から3人の女性が出てきた。
細身な女性の一人は手に大きなハサミと縫い針。
小柄な女性の一人は古い糸紡ぎの機械の上に浮いていて。
豊満な女性の一人は手に銀色の糸が巻かれた糸巻きを持っていた。

「……糸紡ぎの妖精、の三姉妹」
たどたどしく一輝が説明する。
豊満な女性から糸巻きを受け取ると、それを徹に渡した。
「……これが、さっき、話していた異界の穴を塞いだ、糸」
受け取った徹は垂れ下がっている糸を指でつまんだ。
銀色の美しい糸を見ていて徹は気づいた。

「……この糸は、もしかしてお前の髪か!?」
徹の問いに一輝は頷いた。
「なるほどな、今まで隠れていた理由がこれか」
大佐の問いにも一輝は頷いた。
今まで隠れて生きてきた、ある程度糸が溜まって穴を塞ぐ事が出来る事が
証明出来れば一輝の身の安全は保障される。

だが、それは一輝の命のみで母、白銀百合子の命は考慮されてなかった。
否、むしろ母自身自分の命を考慮に入れてなかったのだ。
そしてその結果、母が負傷した時自分の命よりも穴を塞ぐ事を優先させた。

そんな一輝の思いとは裏腹に、話はどんどんと進んで行く。
「戦っていて気づいていると思うが、戦火は拡大している、魔族たちは一輝君を
探していると考えられる。 穴を塞ぐ為の作戦を早々にやらなければならない。 明朝0九00マルキュウマルマル時に作戦会議だ」
徹は敬礼をしながら力強く返事をした。

改めて一輝と向き合うと徹は、
「そう言えば、ちゃんと挨拶していなかったな。 改めて、第8魔法隊小隊長、
白魔法師の黒澤徹だ。 徹と書いてテツとも呼ぶのでそう呼ぶ者もいる、
一輝もどっちで呼んでも構わない、よろしく」
言って、握手の為に右手を差し出した。
一輝は徹のその手と顔を見ておずおずと手を握り返して握手をした。
「くっ、黒魔法師の白銀、一輝です」
徹は握られた手をしっかりと握り返し、一輝を見て笑った。
一輝も徹につられて少しだけ笑った。


のちに歴史言わく、この時の2人の出会い。
これこそが3つ目の分岐点が生まれた瞬間であったと。
そして争いは、この3つ目の分岐点で停止に向かっていった。
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