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第二章
オレ達はスカートを履いて戦う事にした!(5)白と黒の接触
しおりを挟む廊下を歩いていると、噂が広まっているのかすれ違いざまに少年を睨む者が
多かった。
そんな空気の中、少年を気遣った徹が声をかけた。
「いつまでも、お前や少年では困る。 名は何と言う」
徹の質問に少年は少しためらいながらも答えた。
「…………白銀、一輝(しろがね いっき)」
「白銀いっき、いっきとは一筋の光の事か?」
「……うん」
「そうか、白魔法師の俺が黒澤で、黒魔法師のお前が白銀か、言えて妙だな!
ハハハ」
徹はそう言って笑うが一輝は周りの視線が気になってそれどころではなかった。
そんな周りの視線を気にしていると、立ち止まった徹の背中にぶつかった。
「着いたぞ、ここだ」
扉を3回ノックすると中から返事が返ってきた。
扉を開けると部屋の中には中年の男性が一人、デスクの後ろにある大きな窓から
外を見ていたが、振り返り入ってきた二人を見た。
「失礼します。 黒澤徹第8魔法隊小隊長、参りました」
敬礼をして挨拶する徹。
一輝は徹の後ろでそれを見てるだけで、挨拶はしなかった。
「すまんね、来てもらって」
軽く手をあげて挨拶をすると、徹は敬礼をやめた。
「呼び出した理由は、言う間でもなく分かっているみたいだね」
一輝を見ながらホークアイ大佐は言った。
徹に近づくと一輝は一歩下がった。
「はじめまして、いつき君だっけ?」
「いいえ、一輝です」
怯える一輝の代わりに徹が答えた。
「そうか、一輝君か。 私はこの基地の責任者のマクベス大佐だ、地上にいながら上空から見下ろせるホークアイの力を持っているので、皆からはホークアイと
呼ばれている、よろしく」
怯える一輝の手を握り、無理やり握手をする。
金の髪にブラウンの瞳、戦場に出たら鬼になるが普段はいつも笑っている、
笑いシワがかわいいアメリカ人の男性。
身長は178センチと徹よりは少し小さめだが、引き締まった体とまっすぐ伸びた背筋、そして腕を腰の所で組んでいる堂々した姿は圧感を感じる。
63歳にして今も戦闘員のホークアイ大佐は、右足前にスリットがある黒の7部丈のロングスカートをはいている。
「さて、話を始める前に手当てが必要だね」
一輝の顔の傷を見て言うが、徹が一緒な事もあって事態を把握したので多くは
言わなかった。
「……ツヴァイルト隊長には、部下の指導も程々にするよう言っておいてもらえるかね」
「はい!」
徹に救急箱を渡しながら、ホークアイ大佐が言った。
救急箱を受け取り、近くのソファーに一輝を座らせると徹は手当てを始めた。
「そのままで構わないから聞いていてくれ」
手当てをしている二人の横でホークアイ大佐が話し始めた。
「今から3ヶ月前の事、異界の穴の付近で2人の人影があった。 それを見つけたのは君の父、黒澤信幸大佐だった……」
ホークアイ大佐の話に一輝は当時起きた事を思い出していた。
* * *
3ヶ月前……
海上上空に大きなガラスが割れているかのように、何も無い空に大きな穴があってその穴の中は、周りの綺麗な青空とは違いドス黒い暗雨が渦巻いていた。
それこそが異界に通じている穴なのである。
異界の穴の周辺に二人の人間の影があった。
徹の父黒澤信幸が率いる8人編制の軍隊がその影に近づいた。
「そこで何をしている! 所属部隊はどこだ?」
信幸が二人に声をかける。
一人は30代前半の女性と10代後半の少年だった。
女性は身長が170センチ前後、ボブショートの黒髪にエメラルドグリーンの瞳。
中肉中背で手には、鍔の部分が三角になっている大刀を持っていた。
服装は、戦いやすいジーパンにシンプルな藍色の上着。
だけど、膝まであるロングコートには、大小様々な大きさの三角が描かれていた。
女性は少年を守るように、兵士たちの前に立ちはかった。
「私は……黒魔法師の白銀百合子、あの子は私の子で一輝です。 私たちはこの
異界の穴を塞ぐ為に来ました」
自己紹介をした後、一輝に向かってうなずくと一輝は手に持った大きな針で、まるで布を糸で縫い合わせるかのように穴の一部を縫い合わせ、玉留めをして糸を切ると、穴が塞がり空になった。
驚く白魔法師たち。
黒魔法と白魔法は相容れない。
だから黒魔法師たちが開けたこの穴を白魔法師たちでは塞ぐ事が出来ずにいた。
そんな穴の一部を塞ぐ事が出来たと言う事は、紛れもなく黒魔法師の証。
突然現れた黒魔法師に驚いたが、これで穴を去ることが出来る、世界は再び平和になると黒澤は喜んだ。
しかし世界をこんな姿にした元凶を前に、黒澤以外の白魔法師たちの怒りが
込み上げてきた。
「何が、塞ぐ為に来ましただ! 元々お前らのせいで開いた穴だろう」
兵士の一人が叫ぶと、他の兵士たちも口々に罵詈雑言を二人に浴びせた。
「そうだ! ヒーロー気取りか? 元凶のクセに」
「今更かよ! 遅すぎるんだよ。 俺たちが、今までどれだけ大変な思いして
戦って来た」
彼女に食って掛かりそうになる兵士たちを宥める黒澤大佐。
「お前ら、止めろ…」
「黒魔法師は、みんながみんな一枚岩では無いのよ! 全部を私たちのせいに
しないで!」
女が悲痛な思いを叫ぶと、怒鳴り散らしていた兵士たちがシーンと静まり
かえった。
「……父は、黒魔法師協会の副会長だったわ。 でも神の召喚に猛反対した、
そんな事をやって成功しても失敗しても、大変な事になるって」
百合子は必死になって白魔法師たちを説得した。
そんな百合子の言葉にみんなが聞き入っていた。
「どうにか止めさせようと、反対をした事で父は協会を除名された。 私たち家族は協会や黒魔法師の和から離れ、後ろ盾もなくなり生活は一変して土地勘のない
田舎で貧しく暮らす事になった」
その時の辛い気持ちを思い出して百合子は、泣き出した。
「その後よ、あの失敗でこんな穴が開いてしまったのは……それなのに、協会の
連中は強い力を持つ父が協会を離れた事が原因だって言って……罪をなすりつけて、父を殺したわ」
百合子は泣きながらそれでも話を続けた。
その間、一輝は戸惑っていた。
「結局、残された母とまだ幼かった私は、協会にも黒魔法師にも白魔法師にも誰にも頼る事が出来ないまま自分たちだけで生きていくしかなかったのよ! それが
どれだけの地獄だったか、あなたたち分かる? いつ見つかって殺されるのかと
ビクビクと怯えながら、各地を転々としながらそれでも生きて来た。 本来なら
父を裏切った黒魔法協会の尻拭いなんてごめんだけど……それでも、父の言葉に
従い、黒魔法師としての責任を果たしに来たのよ。 邪魔をしないで!」
お互いの間に十数秒の沈黙のち信幸が言った。
「理解した。 君たちは穴を塞いでくれ、周りの魔物たちの一掃は我々でやる」
百合子を始め、白魔法師たちも驚いた。
「大佐! こいつらに協力するんですか!?」
事情を聞いてもそれでも黒魔法師が憎い白魔法師たちが文句を言う。
「では聞くが中尉、彼ら以外に誰がこの穴を塞ぐんだ?」
信幸の問いに誰も答えられなかった。
否、答えなんて分かりきっている。
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