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始まり

異世界で美容師、はじめました。(3)師匠?

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しかし、そんな楽しい気持ちも翌日消え去っていた。
時間の指定は無かったので、朝の8時に来た。
大河は言われた住所に赴くとそこには、良く言えばレトロな感じの、悪く言えば
今にも潰れそうなオンボロな小さなお店が佇んでいた。
大きさ的には1軒家よりも少し小さく、店先には雑草が生え放題だった。
そこは美容室ではなく、床屋と呼ばれるところだった。
お店の前には赤と白と青のお馴染みの看板がくるくると回っていた 。
間違いではないかと思い、渡されたメモをもう一度見返したが、確かにここは指定された場所に間違いはなかった。
看板にも『辛夷』こぶしと書かれていた。

「(オーナーのせ性格から考えて、こんなイタズラや悪ふざけをするような人じゃない。 まず間違いなく、何かの意味がある。 いや…店構えはオンボロだけど
実はものすごい人が、中にいたと言う可能性もある。 きっとそうだ! 
そうに違いない、あのオーナーが『師匠』と呼ぶだけのことが、きっと
あるはずなんだ)」
店の前にたたずむこと15分、大河はひたすらにオーナーの意図を掴もうと
考えあぐねていた。
しかしいくら考えても分からなかったので大河は意を決し、戸を叩いた。
すると中から「空いてるぜ」どこか野太い声が聞こえてきた 。

扉を開けると大河は中の光景を見てさらに絶句した。
4人のおじいちゃんが店の中で麻雀をしていた。
しかも朝の8時から。
扉を閉めそうになったが、何とか堪えた。
しかし、さすがに頭を抱えた 。
「おう、なんで兄ちゃん頭でも痛いんか? ここ頭は頭でも髪の毛を見るとこれだからな、 頭が痛んだったら病院行きな」
一人のおじいちゃんがそう言うと、ほかのおじいちゃん達もカラカラと笑い始めた。
「いいや違うって玄爺げんじい、単純にこの兄ちゃんはこの状況が分かっちゃいねぇじゃね?」
「そう言や、見る人から見れば床屋やでなんで麻雀やってんのって話だよな 」
「違げぇねなー、ガハハ」
「まっ、どこで麻雀をするかは、俺らの勝手だろっと」
状況がつかめない大河を置いてけぼりに、おじいちゃんたちは麻雀を続ける。
「あ! それ、ロン」
「なに!?」

失礼かもしれないがどこからどう見ても、美容院や床屋が必要いない頭をしている
4人 
大河はその4人の内、左に座っていたおじいちゃんに声をかけた。
「ラフォーレのオーナー、エフェルさんの紹介で来たんだけど」
「…おう、エルフの紹介か」
「いや、エフェルです。 エフェルディンヘン」
そう言って大河はオーナーからもらった紙を、そのおじいちゃんに手渡した 。
「うん、確かにエルフの字だな。 お前さん、名前はなんて言うんだい ?」
「岸田大河です」
「虎かい! そぉりゃ良い名前だな」
「大きな運河で大河です。 大きな河みたいに、たくさんの人を助けることが
出来る様にって言う意味です」
おじいちゃんたちは、また楽しそうにカラカラと笑いだす。

そんなおじいちゃんたちを横目に大河は店の中を言い渡した。
店内には、カット用の椅子と鏡が2つ、シャンプー用の椅子も1つと、こじんまりしているが、一見古いように見えるけど、レトロモダンな感じで綺麗に掃除されていていなっている。
そうして店内を見回していて大河は、ハサミが3つ置かれている台に気づいた。

「ところでおめーさん、今日は荷物少なくねーか? ハサミはどうした 」
大河の荷物が小さなウエストポーチだけだと言うことに気づいた玄爺が訪ねた。
「挨拶のつもりでしたから、持ってきてません 。 来て初日で相手の実力も分からずに、いきなりお客様の髪、切れないでしょう」
「! ガハハ。 エルフのやつが寄越すだけのことはあるなぁ。 ならちょうど
いいや、今日は草むしりだけやってくれー 」
「はい? 草むしり?」
「店先のだよ、来ると見ただろ? ドアの前でず~っと、ウロウロしてたからな! 
この年になると足腰がキツくてなぁ、てな訳でよろしく!」
そう言ってこっちのことにキーもせずまた麻雀を始めた 
タイガーはそのまま何も言わず お店を出て行った 
それから3時間後、お昼ご飯を食べるのに、おじいちゃん3人が家帰っていった。

3人を見送る時に外に出た弦爺は店先の雑草が無くなっていることに気がついた。
店の裏手に行ってみるとそこにはまだ草むしりをしている大河の姿があった。
「あれ? 兄ちゃん本当にやってたんかい?」
「…裏にあった倉庫の軍手とかゴム手袋と草刈りのカマ、勝手に借りましたよ。 お客様に触れる手を傷つける訳にはいかないんだね 」
言いながら大河は立ち上がり、近くに置いてあった竹ぼうきで、草を掃いて一箇所に纏めた。
「あなたがどんな人か知りませんけど、俺をここに寄越したのはオーナーです。 俺はあの人を信じてるんです。 それにあんたのハサミ、丁寧に手入れされたんで。 実力は分からなんないけど、仕事はする人だとは思うからな」
そんな態度の様子を見た玄爺は盛大に吹き出し、転げ回る勢いで笑い出した。
「ガハハハハハハ! いやぁ、エルフのやつが寄越すだけのことはある! いいねあんた 気に入ったよ。 明日また来な今度はハサミを持ってこい、予約が入ってるんだ。 あんたにも手伝ってもらう」

玄爺のその言葉に、大河はニヤリと笑った。
1か所にまとめた草をゴミ袋に詰め込み、その後使った軍手やカマなどを店の裏の
倉庫にしまった 。
帰る時にもう一度、玄爺のところに立ち寄って『明日は朝の7時に来る様に』と
指示を受けた。
「そういえば、おめーさんに訊こうと思ってたんだが…よく4人の中で俺が店主だって分かったなあ、4人とも私服で区別付かなかったろ」
「ああ。 指だよ、あんたの右手親指と中指と薬指にハサミダコがあったから」
大河がそう答えると玄爺はまた大笑いをした。

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