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外伝 異世界ペットショップ

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 僕はガラス越しに通り過ぎて行くお客さんを目で追った。
 みんな昔は僕のブースも覗き込んでくれていたけど、今はみんな通り過ぎていく。
 代わりに他のブースの前に立ちどまって、キャンキャンと鳴く子犬達の声が聞こえて来た。
 僕は憂鬱にため息をついた。
 夜になって、客足の落ち着いた店の中を店員達がうろうろと掃除している。
 モップを持った女が僕のブースの前に立ち止まる。
「また、売れ残っちゃったね」
 女は悲しそうに言う。
「うーん、この子も人気の犬種なんだけどね……まぁ、たまたま間が悪かったんだよね。欲しいお客さんが来なかった」
 すると、少し年の行った男も現れる。
「店長、この子もう一歳になっちゃうんですね……大丈夫でしょうか」
 そう僕は、この店に来てかなり長かった。
 他の子犬達は貰われて行く中、僕は売れ残り一匹残されていた。
 小さかった体も気づけば大きくなっていた。
「いや、ある程度育った子を欲しいって人もいるから、きっと大丈夫だよ」 
 店長は自信を持って頷いた。
 その言葉に僕も勇気付けられる。
「おまえにもきっと良い飼い主が見つかるぞ」
「ワン!」
 僕は久しぶりに、吠えた。
 その時、突然、店の中が揺れる。
「わふっ!?」
 ケージがガタガタ揺れて、店の中の商品が床に落ちていた。
「きゃっ!!」
「わーー!!!」
 店員二人は慌てて身を低くしている。
 チカチカと明かりが点滅し、しばらくすると揺れが収まる。
「だ、大丈夫か?」
 店長が立ち上がって、周囲を見渡す。
 店内には物が落ちて壊れて酷い有様だった。
 まず店長と店員は犬達のチェックをする。
「みんな無事みたいです!」
「良かった」
 そして二人は外に出て行く。
 しばらくして慌てて戻って来た。 
 顔色が悪い。
「あ、あれ!!! どうなってるんでしょうか、店長!?」
「わ、わからん!? なんだあそこは!?」
 二人とも混乱している。 
 犬達は不安げにワンワン吠えている。
「と、とにかく私は周囲の様子をもう一度見て来る。君は犬達にご飯をあげてくれ」
「はい!」
 店長が外に行く。 
 女の店員はバタバタと走って、僕達のケージにご飯を入れて行った。
「どうぞ」
 ケージが開けられて、ご飯が入れられる。
 僕はそれをもぐもぐと食べた。

 一夜明けても、二人はまだ混乱しているようだった。
「こ、ここはどこなんだ……」
「や、やっぱり異世界って奴なんじゃないですかね……」
「い、異世界だって」
 二人は狼狽していたが、そんな中でも僕らにご飯をくれてペットシーツを変えてくれた。
 店内を掃除して、軽い散歩も順番にさせて貰った。
 チラっと、外が見えたのだが、そこはどうも以前記憶していた物とは違うようだった。
 慌ただしい日々が過ぎて行く。
 ある時、見知らぬ男がペットショップにやって来た。
「こ、これは犬かい?」
「えぇ、犬です。この世界にもいるんですか?」
「あぁ、私達の世界にも犬はいるが、こんなにかわいらしく、美しい子達は初めて見た……」
 男は一つ一つケージを覗き込む。
「君達はこのペットショップと言う場所で犬を売っていたんだね?」
「はい」
「そして、突然この世界に来てしまったのか……」
「はい……とても困っています」
 店長は本当に困っている声で言う。
「ふむ……」
 一つ一つケージを覗き込んでいた男が、僕のケージを覗き込む。
 僕も男の顔を見る。
 男は金髪で青い目をした、恰幅の良い男だった。
 彼は目を見開く。
「て、店長!」
「はいぃ!! どうしましたか!?」
「こ、この子を、この子を抱かせて貰えないか!?」
 店長が慌てて僕をケージから出す。
 僕を抱き上げて、知らない男に渡す。
 男は恐る恐る僕を抱いた。
「おぉ……」
 とても優しい手つきでそっと背中を撫でられる。
 知らない人に抱き上げられるのは、本当に久しぶりの事だった。
「この子に名前はあるのかい?」
「名前はありませんが、犬種はビーグルです」
「ビーグル……なんと、可愛らしい子なんだ……」
 彼は目をきらきらさせて僕の事を見る。
 僕も彼を見て尻尾を振る。
 だって僕にはわかったのだ、この人が僕の運命の人なんだって。
「こ、この子を私に譲って貰えないだろうか!」
「えぇ!? で、ですが、犬を飼うのは大変ですよ?」
 店長が念を押すように聞く。
「うむ、わかっている。だから、飼い方を指導して欲しい。私はこの子を必ず幸せにしたい」
 店長が腕を組んでうなる。
「わかりました。その子はお譲りします。その代わり、この子達の援助もお願い出来ないでしょうか」
 店長は他のケージに入った犬達を手で示す。
「もちろんだ! この素晴らしい犬達がこの世界で幸福に暮らせるように我がオルバイス家は尽力しよう!!」 
 男は高らかに言った。
「わん!」
 後に彼は、宣言通りにこの異世界で僕達の幸福の楽園を築いてくれるのだった。
 
***

 緑の芝生に立っていると、遠くから大好きな声がする。
「さぁ、おいでビーくん」
 両手を広げて、オルバイス様に呼ばれて僕は尻尾をはちきれんばかりに振って飛び込む。
「よーしよし」
 頭も耳の裏も、顎の下もオルバイス様はいっぱい撫でてくれる。
「ビーくんはかわいいなぁ♡」
「わふっ!」 
 僕は彼に毎日たっぷり愛される幸せな犬となった。
 周りの芝生では、彼の家族が犬達と楽しそうに遊んでいた。



おわり

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