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42 ビカスおじいちゃん

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 アデーレの家族にはだいたい会って、挨拶をした。
 しかし、この屋敷にもう一人家族がいる事を俺は最近知った。
 彼にもアデーレと一緒に挨拶に向かった。
「祖父はもう年でね。年々、患っている病気の数も増えて行っていて……離れで暮らしてるんだけど、最近は部屋の中にいる事が多いんだ」
 離れに向かう廊下を歩く。 
 用もないので、あまりこちらの方には来ない。
「たまに調子が良い日は、離れの側にある中庭でゆっくりしてるよ」
 俺達は扉の前で立ち止まる。
「祖父は耳も遠くなってるし、記憶も曖昧でね。喋る時は大きめの声で話してあげて欲しい。あと、根気よく話してあげてくれ」
「あぁ」
 俺は頷く。
 ちなみに、今日は人の姿になっている。
 獣耳を出して行くのは、驚かせてしまって心臓に良くないと判断したからだ。 
 アデーレが部屋をノックする。
「失礼します」
 二人一緒に部屋に入る。
 部屋の中央のベッドに老人が眠っている。
 ベッドの下では、ダルメシアンが伏せをしている。
 視線だけ俺達をじっと見ている。
「ビカスおじいちゃん、アデーレが来ましたよ」
 アデーレがにこっと笑って、ベッドに近づく。
 すると白髪の老人がしょぼしょぼと目を開けてアデーレを見る。
「あぁ、アデーレか。元気にしているか」
「えぇ、私は元気にしていますよ」
「随分、背が高くなったような気がするな」
「ふふっ、成長期かもしれませんね」
 久しぶりのような会話だが、アデーレは一日に一回は祖父に会いに来て、話しをしていると言っていた。
(本当に、記憶が曖昧なんだな……)
「ん? あぁ、エズモンドじゃないか。久しぶりだなぁ」
 するとビカスおじいちゃんは突然、俺の顔を見て懐かしそうな顔をする。
「え、違うよおじいちゃん。彼はミツアキ。私の親友ですよ」
「アデーレは、エズモンドと友達になったのか。それはええことだ」
 おじいちゃんは、うんうんと一人納得して頷く。
「エズモンドじゃないんだけどなぁ……」
 アデーレが困ったように呟く。
「エズモンドって誰なんだ?」
 俺は小声で尋ねる。
「私も、初めて聞く名前なんだ……」
 アデーレが小声で答える。
「おじいちゃん、エズモンドさんって、どんな人なの?」
「エズモンドかぁ、彼は気の良い奴でなぁ」
 ビカスおじいちゃんが懐かしそうに言う。
「パブリック・スクールで知り合ってな……お互いよく気があった……学校ではよくイタズラをして先生達に怒られたもんだ……一緒に別荘に行ったり、サロンに顔を出したり、彼と共に過ごした日々は楽しかった……」
「大人になってからは、会ってなかったの?」
 アデーレが尋ねる。
「……はて、どうなったのだったかのう…遠くの都市に行って…恋人と結婚すると言っていたが……」
 おじいちゃんは考え込む。
「まぁ、何はともあれ、おまえが元気そうで良かったよ、エズモンド」
 彼は俺を見て、嬉しそうに笑った。
 俺もにこっと微笑んでおいた。

***

 ビカスおじいちゃんの部屋から出た後に、アデーレがしょんぼりしていた。
「ごめんよ。ちゃんと紹介出来なくて」
「いや、気にしないでくれ。よっぽど俺が、エズモンドって人に似てたんだろうなぁ」
 俺は、ビカスおじいちゃんの嬉しそうな顔を思い出す。
「また、会いに来て良いか?」
「それはもちろん良いよ」
 アデーレは嬉しそうに笑みを浮かべた。


つづく

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