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 約束通り、魔法使いクリストフェルが屋敷にやって来てくれた。
 今日は、愛犬のラフコリー犬も連れている。
「ワン!(初めまして! シャーロットと言います。クリストフェルがお世話になっています)」
「俺はミツアキだ。よろしく、シャーロット」
(礼儀正しい子だぁ)
「わふっ(よろしく)」
 ちなみに、セントバーナードのセナもいる。
 何故、セナがいるかと言うとアデーレがクリストフェルの監視を頼んでいるからだった。
「では、予定していた精神訓練を行うぞ」
 クリストフェルは絨毯の上に座って、杖を置く。
 俺も彼の前に座る。
 シャーロットも伏せをして、大人しくしている
「目を閉じろ」
 目を閉じる。
「深く息を吸い、長く吐け」
 吸って、ゆっくりと吐く。
「静寂の中に身をひたせ。頭を空っぽにしろ、外界を忘れ、己も忘れろ」
(座禅みたいだ……)
 ぼんやりと瞑想をしながら、俺は静かな時間を過ごした。
 
***

 コーギーのギーを足下に置いて、アデーレは執務室で仕事をしていた。
「ミツアキの訓練は上手くいってるのかなぁ……何か妙な事をされてないと良いなぁ」
 魔法使いの儀式は、傍目から見るとエッチな儀式も多いと言う。
「はぁ、心配だ……まぁ、セナがついてるから大丈夫だと思うけど……」
「ワンワン!(アデーレ様、暗い顔してるぜ! 俺でも撫でて元気出せよ!)」
 ギーが足下で吠えて主張する。
「ふふっ、ありがとう」
 ギーの体をいっぱい撫でて、アデーレは仕事に戻った。

***

「よし、良いぞ。精神の奥深くにもぐれている。あとは、自分のなりたい姿をイメージするんだ」
 クリストフェルの声を遠くに聞きながら、俺は頭の中に『人』の姿をイメージする。
(人、ひと、ヒト。俺は人の姿になりたい) 
 心を空にしながら、まるで夢でも見るようにぼんやりとした意識の中、俺は願った。
 パチっと目を開ける。
(あれ、俺寝てたか?)
 どれくらい瞑想していたか覚えていない。
 クリストフェルを見ると、俺の顔を見てニヤッと笑っている。
「上手く出来たじゃないか」
(え)
 言われて、自分の体を見下ろす。
 人の手があった。
 頭とお尻に触れると、獣耳と尻尾が無い。
 服の下の体中のもっさりした獣毛も無い。
「ほ、本当だ!!!!!」
 俺は立ち上がって、部屋にある鏡を覗く。
「おおおおぉおお!!! 人だあぁああ!!!」
 そこにはばっちり、以前の姿をした俺がいる。
 目の周りの、隈取もないし、目も黒に戻っている。
 髪も灰色ではなく黒である。
「やったあぁ!!!」
「元々人間だったから、姿のイメージがしやすかったようだな」
 クリストフェルがラフコリー犬の頭を撫でながら言う。
「わん!(良かったですね!)」
「わふっ!(お疲れ様でした)」
 シャーロットと、セナに褒められる。
「へへっ!」
「まぁ、姿を維持出来るようになるには、また訓練が必要だろうがな」
「頑張るぜ! けどとりあえず、アデーレに見せて来る!!」
 俺は部屋を飛び出してアデーレの元に走った。
 しかし途中で、イタズラを思いつく。
 別の部屋に行って、イタズラ用の仕込みを行った。

***

 アデーレが仕事をしていると、ノック音がする。
「アデーレ様、お茶をお持ちしました」
 執事のエルドの声がする。
「あぁ」
「失礼いたします」
 返事をすると、彼がカートを押して入って来る気配がする。
 アデーレは顔を上げずに、仕事をする。
 カチャカチャと、茶器の鳴る音がする。
 アデーレの横に紅茶と菓子が置かれる。
「ありがとう」
 顔をあげて礼を言う。
「……」
 茶を置いたのは、執事のエルドでは無かった。
 彼はカートの側にいる。
 アデーレの近くにいるのは、年若い執事だった。
 その彼に思わず見とれてしまう。
 彼が小さく頭を下げて、離れて行く。
「あっ」
「どうかなさいましたか?」 
「あ、いや……」
「では、失礼いたしました」
 二人が頭を下げて、部屋から出て行く。
 扉が閉じた後も、アデーレはドキドキしていた。
(さっきの執事、ミツアキとよく似てたな……ミツアキが人になったら、あんな感じなのかな……)
 そう思いながら、茶のカップを手に取る。
 すると受け皿に小さいカードが置かれている事に気づく。
 アデーレはそのカードを読む。
『気づかなかったか?』
 拙い字で書かれた文字を見て、アデーレはすぐに立ち上がって部屋を出る。
「ミツアキ!!」
 廊下に執事姿のミツアキがにっこり笑って、立っていた。
「ようやく気づいたか!」
 アデーレは、彼に抱きつく。
「凄いよく似た子がいるなとは思ったんだけどさ!!!」
「あっはっはっはっ!!! ガン見してたもんな!! すぐ、突っ込まれるかと思ったぜ」
 ミツアキが抱き返して来る。
 そして改めて、彼の姿をまじまじと見る。
「人になると、そんな感じなんだね……何て言うか……幼い」
「童顔で悪かったな! これでも一八だ!」
 隈取も、青い目も無くなった彼は随分幼く見えた。
 それにアデーレより、少し背が低い。
(人型のミツアキもかわいぃ♡ 黒目が柴犬の子犬みたいでキュートだ♡)
「全然、悪くないよ♡♡♡ 凄くかわいいよ♡」    
 アデーレは彼の頬にキスをする。
「ぬおっ!」
 ミツアキが慌てる。
「あ」
 アデーレはミツアキの頭を見て、声をあげた。
 ミツアキが恐る恐る自分の頭に手を伸ばして触れる。
 そこには獣耳がピンと立っている。
 ズボンのお尻が膨らんでいるので、尻尾も生えているらしい。
 目の隈取はなかった。
 半端に獣化している。
「あぁ、それもかわいいね♡」
(人寄りのミツアキに生えた獣耳ぃ♡♡♡ かわいぃ♡♡♡) 
「訓練がんばろ……」
 しゅんと、耳を垂れされたミツアキの頭をよしよしと撫でた。 

つづく



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