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23 柴犬ポチとルイス

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 庭の椅子に座った俺は、現在つぶらな瞳で見つめられている。
 くるんとした尻尾に、まるみを帯びてはいるが程よく引き締まったボディ、そして愛嬌のある顔。
 柴犬が俺を見上げている。
(かわいい……) 
 俺は大人になって犬を飼う機会が来たら柴犬を飼おうと決めていた。
 そっと手を伸ばす。
(頭は警戒されるから……胴体から……)
 そっと、胴体にタッチする。
 すると柴犬がそちらを見る。
(ナデナデ……)
 柴犬は俺の手の匂いをくんくんかいでいる。
 警戒の様子は見えない。
(頭も……いけるか……?)
 そっと手をあげる。すると柴犬が首をかしげる。
 俺はしばし柴犬と見つめ合う。
(たぶん……いける……はず……)
 すっと、柴犬の丸い頭を撫でた。肉厚な耳が手の平に触れる。
(ふ、ふあぁ……)
 柴犬は大人しく頭を撫でられている。
「ポチー! どこー!」
 高い子どもの声が聞こえる。 
 すると柴犬が辺りを見渡して、声の主の元に走って行ってしまう。
(あぁ、柴犬ぅ)
 柴犬は金髪の少年の元に行き、ぴょんぴょんと足下で跳ねる。
「ポチー♡」
 少年は体をかがめて嬉しそうに柴犬を撫でる。
(いいなぁ)
 俺はそれを羨ましい顔で見てしまう。
 すると俺の視線に気づいた少年が、驚く。
 こちらに走って来る。後ろから柴犬も付いて来る。
 俺の目の前に来たら、少年が右手を差し出す。
「お手!」
 俺は無言で右手を置く。
「おかわり!」
 左手も差し出される。
 その上に左手を置く。
「グッボーイ!」
 少年がぎゅっと抱きついて来る。
 抱きついたまま見上げて来る。
「僕、ルイス! こっちは親友のポチ! 君はお兄ちゃんのお友達?」
 そう言えば、アデーレには姉弟がいると聞いていた。
「あぁ、友達だ。ミツアキって言う。ミッチーって呼んでくれ」
 俺はにっと笑顔を見せる。
「わぁお! 本当におしゃべり出来るんだね! 凄いなぁ」
 俺は少年ルイスの頭を撫でる。
「えへへ、手もふわふわだぁ! 服の下もふわふわなの?」
「あぁ、全身毛だらけだよ」
「すごぉい! 今度、僕と一緒にプールに行こうよ!」
「うーん、水着を用意して貰わないとな」
「わんわん!」
 ポチが吠えている。
「あ、ごめん、ごめん。ポチも一緒にプールに行こうね」
「わん!」
(あれ? なんでだろう。柴犬のポチが言ってる事がわからないや……?)
 犬語がわからないのは初めてだった。
「ポチはプール好きなのか?」
「うん! 大好きだよ!」
「わん!」
(もしかして……)
「ポチって、まだけっこう若いのか?」
「そうだよ! まだ一歳にもなってないんだ! えーっと、九ヶ月目かな?」
 体だけ見れば成犬に見えるが、まだ子どもらしい。
「そうなのか」
(てことは、まだ犬語がうまく喋れないんだな)
 俺はポチに手を伸ばして体を撫でようとした。
「うーーー!」
 そしたら唸られた。
(え、なんでだ!)
「どうしたのポチ、唸ったりして?」
 ルイスがポチをなだめる。
「す、すまん。怖がらせちまったな」
 俺はしょんぼりして、手を引いた。
「うーー!(僕のルイス様をとるなぁ!)」
 若い柴犬の喋る曖昧な犬語は、俺には聞き取る事が出来なかった。


つづく

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