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9 お風呂に入ろう

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「よーしよし♡」
「くーん♡」
 俺はアデーレの膝の上で頭や背中を撫でられている。
 あんなに決意も固く挑んだと言うのに、ものの数秒も持たなかった。他のワンコ達、同様にアデーレにデレデレしている。
(くっ……こんなはずでは……しかし、こいつのゴッドハンドがいけないんだ……!!)
 アデーレは時に激しく、時に優しく俺の体を撫でる。その巧みなナデテクに俺とワンコ達はメロメロなのだ。それだけ彼がしっかり犬達を見て、喜ぶところを覚えていると言う事だろう。
 ナデられながら、俺の尻尾は俺の意思に反して、ブンブン振られている。
「ミッチーもだいぶ元気になって来たね?」
 彼が俺の頭をもふもふ撫でる。
「そろそろお風呂に入ろうか?」
 その言葉に俺は何故かゾッとする。
(あれ?)
「さぁ、行こう!」
 彼に手を引かれ、部屋を出て廊下を歩く。遠くで、水音がする。その音を聞くと、やっぱり寒気がする。
 二つの扉を開いて連れて来られた部屋には、大浴場がある。
「ひっ」
 俺の尻尾は恐怖におののきピンと立つ。
「ほら、服を脱いで」
 固まる俺の服が脱がされる。彼も上着やブーツを脱いで、腕や裾をまくる。
「はい、こっちだよー温かいお湯だからねぇ」
 彼が手を引きながら後ろに下がり、先に湯船に入る。俺は湯船に入る前に、踏ん張る。
「ん?」
 互いに引き合い、俺たちは硬直状態になる。
「ミッチーもしかして、水嫌い?」
 俺はアデーレを睨む。
 生前の俺は別に水嫌いではない。普通に毎日風呂に入って、夏はプールで泳いでいた。
 けれど獣になった俺は何故だか本能的に水を拒否している。
「ぐるるる」
「あぁ、うならないで。大丈夫だよ」
 彼が湯船から出て来る。
「それじゃ、お湯を体にかけよう。いっぱい水の張ったところに入るのは怖いよね」
 彼が桶を持って来て、お湯をすくう。まずは近くの床に流す。俺の足下がぬるい湯で濡れる。
 俺は濡れた足を上げて、ピピッと跳ねさせる。
 今度は、足に直接お湯がゆっくりとかけられる。
 ぬるま湯なので熱くない。
「ぐるるる」
「足にお湯かけられるのも嫌かい?」
 アデーレが首をかしげる。俺は首を横に振る。
 お湯は嫌いだが、自分が獣臭いのはわかるので、体を洗いたい。
「そう? 嫌な時は言うんだよ」
 少しずつ足から上にお湯がかけられていく。膝下までお湯で濡れる。
 腰にもお湯がかけられる。
 余談なのだが、俺のアレは普段は毛深い毛の中に隠れて見えない。なのでアデーレにも今のところ見えていない。
 背中にもお湯がかけられる。ぶるぶるっと体を振って水滴を飛ばす。
「あははっ」
 彼は笑いつつ、胸と肩上にお湯をかける。
「頭にもかけて良いかな?」
 やや前かがみ気味の俺と、アデーレの身長は変わらなかったりする。お湯がかけやすいように屈む。
 髪にお湯がかかる。それは心地よかった。
(ふぅ……)
「さぁ、今度は泡で洗っていくよ」
 アデーレが洗剤片手に言う。
「この洗剤はご先世様とペットショップの人が共同開発した物なんだ。犬にも安全に使えるんだよ」
 洗剤を手のひらに出して、俺の足から洗い始める。足が泡だらけになる。どんどん上に上がって来て、太腿も泡だらけになる。
 俺ははっとして、股と尻尾は自分で洗う。
「うん、えらいえらい」
 その間にアデーレは俺の背後に回って背中をわしゃわしゃ洗う。俺の腕を洗った後に、前に来て腹と胸を洗う。
(む)
 手でぐりぐりわしゃわしゃ洗われている時、何か一瞬妙な気分になる。胸や腹の毛は薄くて、地肌が見えていた。つまり素肌を撫でられながら洗われている状態である。
「ん?」
 彼が青色の綺麗な目で見上げて来たので、俺は慌てて視線を逸らす。
「頭も洗って良いかな?」
 俺は彼に頭を差し出す。すると彼がわしゃわしゃと洗い始める。
(あぁ……きもちいい……)
 体を洗われている時は緊張したが、頭は心地よかった。
(そこそこ、そうそう、うは~)
 俺は心地よさに目を細める。
(耳の裏たまんねー)
 俺はヘブン状態になっていた。
 泡を流して貰った後、再度、湯の中に入るチャレンジをする。
 彼に手を引かれて、ゆっくりと湯の中に足を入れる。ビリビリビリっと全身に衝撃が走る。それをぐっとこらえて、湯の中に足を入れていく。
「うー」
「怖い? 無理しなくて良いよ?」
 俺は顔を横に振って、もう片方の足も湯の中に入れる。ジーンと、温かい湯の衝撃が俺の中に広がっていく。数秒それを感じ後、しばらく湯の中を歩いて、ゆっくりと腰を下ろした。お尻が湯の中に浸かっていく。アデーレがその様子を固唾を飲んで見つめる。俺は腹まで湯に入る。
「えらいぞミッチー!! お風呂に入れたじゃないか!」
 アデーレが頭に抱きついて来る。
「わふっ」
 俺は尻を床につけて、胸のあたりまで浸かる。
 するとアデーレも湯の中に入って来る。彼は服を着ていたが、気にしていないようだった。
「よーしよし、お風呂は気持ちいいだろう」
 アデーレに頭を撫でられると落ち着く。
「くーん」
「うんうん。しっかり温まってから出ようね」
 彼の肩に頭を押し付けて、たっぷり撫でて貰った。
 風呂から出た後は、ごしごしバスタオルで拭かれて、後は日なたに出て自然乾燥である。
 俺はくわりと、大きなあくびをして毛が乾くのも待った。
 半日かけて毛は乾き、アデーレがブラシをかけてくれた。全身の毛をふわふわにされた。
「あぁ♡ 毛艶が良くて、ふわふわで、良い匂いぃ♡♡♡」
 アデーレが俺の背中に顔をうずめて、匂いを吸う。
「くーん」
 俺は困った顔でそれを見た。



つづく
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