6 / 56
6 幽霊犬グレー
しおりを挟む俺は最初の日にあてがわれた部屋で、すやすやと眠っていた。
『あのう……』
ふかふかのベッドで穏やかに眠っている俺に、誰か話しかけて来る。
『もしもーし』
「ん……」
俺は目を開けた。そこには、ハスキー犬がいた。
「おわっ!!!」
その場から飛び上がって、後ずさる。
『そんな怖がらないでくださいよ』
ハスキー犬は、片足をあげてはっはっはっと息をする。
「な、なんだおまえ!?」
何故俺がこんなにビビってるのかと言うと、そのハスキーは暗闇でほんのり光っていたからだ。
『私、ハスキーのグレーと言いまして。アデーレ様に飼われていました』
「へ、へぇ。そうなのか」
やっぱりこの犬、幽霊らしい。
『私とアデーレ様の絆は深く、互いに赤子の頃から一緒でした』
(あいつ犬と一緒に育ったのか)
『他にも沢山の犬達がおりましたが、私とアデーレ様は特別だったのです』
ハスキーがうんうんと、感慨深そうに頷く。
『ですが私は十年前、寿命で死んでしまいました。最期までアデーレ様に見守っていただいての、大往生でした』
「そうか……」
犬の寿命は人より短い。必ず悲しい別れは訪れる。
『ですか私、未練が残っていてアデーレ様の元を離れる事もできず、ずっとあの方の事を見守り続けたのです……!!』
「主人思いなんだな」
俺はしんみりする。
『はいっ!! もう、アデーレ様がお亡くなりになるまで、待つ覚悟です!!!』
ハスキーがわふんと吠える。
「それで、主人思いのおまえは、なんで俺の夢枕に立ってるんだ?」
『それはですね。大変な事になったんですよ』
「?」
俺は首をかしげる。
『実は私と貴方は合体してるんです』
「なっ!?」
俺は唖然とした。しかし言われてみれば、このハスキーの毛並みの色と俺の毛の色はかなり似ている。
『私はいつものようにアデーレ様のお側をふよふよと漂っていました。その日は町に、馬車でお出かけだったんです。すると、紫の奇妙な煙に引き込まれて捕まってしまったのです……! そして気づくと、この通りでした』
犬がしゅんとする。
「え、なにか。俺はお前の魂と合体しちまってるって事か? あの紫の煙に引き込まれたせいで!?」
意味がわからない。
『そのようです……』
だから俺の体は、こんな獣化してしまったのか。
『あのう貴方にお願いがあります』
「な、なんだよ」
犬が上目遣いで見つめて来る。
『アデーレ様を守ってください』
「あいつ命でも狙われているのか?」
『いえ、そんな事は無いのですが。犬とはそう言うものなのです。主人を全身全霊で守り、愛す』
犬がふわりと尻尾を揺らす。
『私達は合体していますが、大半の主導権は貴方にあります。ですからお願いするのです。どうかアデーレ様を守ってください』
ハスキーはぺこりと、行儀よく頭を下げる。
「あぁ……まぁ……俺も世話になってる身だからな……」
元の世界にも帰れず、化物扱いされるこの世界で俺はアデーレに助けられた。
「出来る限り、守ってやるよ。あいつの事」
一応、人間の時より身体能力は高くなっている。暴漢が来ても、相手に出来るだろう。
『ありがとうございます!!』
ハスキーは嬉しそうに尻尾を振り、ハッハッハッと息をした。
「おまえ怖い顔してるのに、なんかマヌケに見える時があるなぁ」
『そうでしょうか? アデーレ様はよくかわいい、かわいいって言ってお腹に顔を埋めてましたよ』
「そうか……」
『そうだ! 守るのも大事ですけど、愛してもくださいね!! そっちはもっと大事ですよ!!』
「はぁ!? いや、それは無理だろ!?」
『なんで、ですか!? アデーレ様の顔ペロペロ舐めてあげたら、アデーレ様がいっぱいお腹撫でてくれますよ! 簡単ですよ!!!』
「できるかぁーーー!!!!」
俺は絶叫した。遠くで、それに呼応する犬達の遠吠えが聞こた。
つづく
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
1,087
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる