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6 幽霊犬グレー

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 俺は最初の日にあてがわれた部屋で、すやすやと眠っていた。
『あのう……』
 ふかふかのベッドで穏やかに眠っている俺に、誰か話しかけて来る。
『もしもーし』
「ん……」
 俺は目を開けた。そこには、ハスキー犬がいた。
「おわっ!!!」
 その場から飛び上がって、後ずさる。
『そんな怖がらないでくださいよ』
 ハスキー犬は、片足をあげてはっはっはっと息をする。 
「な、なんだおまえ!?」
 何故俺がこんなにビビってるのかと言うと、そのハスキーは暗闇でほんのり光っていたからだ。
『私、ハスキーのグレーと言いまして。アデーレ様に飼われていました』
「へ、へぇ。そうなのか」
 やっぱりこの犬、幽霊らしい。
『私とアデーレ様の絆は深く、互いに赤子の頃から一緒でした』
(あいつ犬と一緒に育ったのか)
『他にも沢山の犬達がおりましたが、私とアデーレ様は特別だったのです』
 ハスキーがうんうんと、感慨深そうに頷く。
『ですが私は十年前、寿命で死んでしまいました。最期までアデーレ様に見守っていただいての、大往生でした』
「そうか……」
 犬の寿命は人より短い。必ず悲しい別れは訪れる。
『ですか私、未練が残っていてアデーレ様の元を離れる事もできず、ずっとあの方の事を見守り続けたのです……!!』
「主人思いなんだな」
 俺はしんみりする。
『はいっ!! もう、アデーレ様がお亡くなりになるまで、待つ覚悟です!!!』
 ハスキーがわふんと吠える。
「それで、主人思いのおまえは、なんで俺の夢枕に立ってるんだ?」
『それはですね。大変な事になったんですよ』
「?」
 俺は首をかしげる。
『実は私と貴方は合体してるんです』
「なっ!?」
 俺は唖然とした。しかし言われてみれば、このハスキーの毛並みの色と俺の毛の色はかなり似ている。
『私はいつものようにアデーレ様のお側をふよふよと漂っていました。その日は町に、馬車でお出かけだったんです。すると、紫の奇妙な煙に引き込まれて捕まってしまったのです……! そして気づくと、この通りでした』
 犬がしゅんとする。
「え、なにか。俺はお前の魂と合体しちまってるって事か? あの紫の煙に引き込まれたせいで!?」
 意味がわからない。
『そのようです……』
 だから俺の体は、こんな獣化してしまったのか。
『あのう貴方にお願いがあります』
「な、なんだよ」
 犬が上目遣いで見つめて来る。
『アデーレ様を守ってください』
「あいつ命でも狙われているのか?」
『いえ、そんな事は無いのですが。犬とはそう言うものなのです。主人を全身全霊で守り、愛す』
 犬がふわりと尻尾を揺らす。
『私達は合体していますが、大半の主導権は貴方にあります。ですからお願いするのです。どうかアデーレ様を守ってください』 
 ハスキーはぺこりと、行儀よく頭を下げる。
「あぁ……まぁ……俺も世話になってる身だからな……」
 元の世界にも帰れず、化物扱いされるこの世界で俺はアデーレに助けられた。
「出来る限り、守ってやるよ。あいつの事」
 一応、人間の時より身体能力は高くなっている。暴漢が来ても、相手に出来るだろう。
『ありがとうございます!!』
 ハスキーは嬉しそうに尻尾を振り、ハッハッハッと息をした。
「おまえ怖い顔してるのに、なんかマヌケに見える時があるなぁ」
『そうでしょうか? アデーレ様はよくかわいい、かわいいって言ってお腹に顔を埋めてましたよ』
「そうか……」
『そうだ! 守るのも大事ですけど、愛してもくださいね!! そっちはもっと大事ですよ!!』
「はぁ!? いや、それは無理だろ!?」
『なんで、ですか!? アデーレ様の顔ペロペロ舐めてあげたら、アデーレ様がいっぱいお腹撫でてくれますよ! 簡単ですよ!!!』
「できるかぁーーー!!!!」
 俺は絶叫した。遠くで、それに呼応する犬達の遠吠えが聞こた。




つづく
 
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