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1 異世界へ

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 その日はいたって普通の日だった。自転車に乗って、学校に向かっていた。
「ん?」
 朝だと言うのに、やけに静かだ。いつものならこの時間は、他の学生達で賑わっているはずなのに。
 俺は不審に思いながら自転車のペダルを漕ぎ、そして突如目の前に出現した紫の霧のような物に突っ込んだ。
「うわっ!!!!」
 物凄い吸引力で霧の中に引っ張られ、体がぺしゃんこにされるような感覚を覚えながら、俺は気を失った。



 目を開けると、俺は知らない場所に居た。
(え……俺、なんで地べたに寝てるんだ……)
 のそりと体を起こして周囲を見渡す。知らない町の裏通りのようだった。遠くで人の声がする。俺はゆっくりと歩いて、そちらに向かった。
「え?」
 町中の大通りを、人が歩いている。けれど、何故かそこは中世の町のようだった。歩く人々も、時代錯誤な中世のような服を着ている。俺は震える足で歩いて、周囲を見渡す。
(なんだ? なんだコレ? 俺、なんかどっかのテーマパークにでもいるのか?)
 しかし突如、悲鳴が聞こえる。
 驚いてそちらを見ると、髪をひっつめにした女性が俺を見て叫んでいる。
「きゃあああ!!! 化物よ!!」
 すると他の人達も俺を見る。
 俺は何がなんだかわからず慌てた。なんで彼らは俺を見て叫んでいるんだ。どうして恐怖におののいているんだ。
 その時俺は自分の体を見下ろした。
(な、なんだこれ……!?)
 普通の人間だったはずの俺の体は、ふっさりとしたグレーの毛が生えていた。手もよく見たらふさふさとした毛並みで覆われ、おまけに鋭い黒爪がついている。
(えっ? えっ?)
 混乱する俺の頭に何かがぶつかる。
「!」
 頭がべっちゃりする。果実でもぶつけられたのだろうか。
 すると、次々人々が俺に何かをぶつけてきた。野菜や果実や卵。そして、石。
「きゃうん!」
 俺は頭を抱えて、その場から逃げた。逃げると人々は追って来たが、俺は必死に逃げた。
(殺される! 殺される!!)
 がむしゃらに走っていると、いつの間にか人々はいなくなっていた。途中、高い壁を飛び越えたような気がしたが、火事場の馬鹿力だろうか。

 俺はふらふらして、町外れの人のいない廃屋に隠れた。中にあった藁にくるまって自分の体を隠す。
(どうなってるんだ、コレ……)
 俺は自分の顔をペタペタ触った。犬のような鼻があるのかと思ったが、意外にも顔は人間と同じようだ。しかし頭に触れると、ピンと立った耳があった。更に尻からはふさふさのしっぽが生えていた。
 俺はどうやら、知らぬ世界に来て、なおかつ以前と姿が変わってしまったようだった。
 意味のわからない状況に頭を抱えた。



つづく


 
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