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■
原稿をカリカリ書きながら、葵はヤスパースに尋ねた。
「ドニスエイメですか?」
「どう言う人なのかなって」
「あの、どうしてアオイ様があの変態男の名前をご存知なのですか?」
ヤスパースが首をかしげる。
(ヤスパースさんも、ドニスエイメの事嫌いなのかぁ)
「こないだ、会ったからです」
「えっ!?」
ヤスパースが素っ頓狂な声をあげた。
「どうしたんですか!?」
「あの男が、城の地下から出て来てんですか……!?」
「は、はい!」
「なんてこと。とんでもない事件だわ」
ヤスパースが口を手で覆う。
「そ、そうなんですか?」
「あたりまえです!! あの男が地下から出て来る時は【面白い発見】があった時です。それはだいたいにして、私達にとって面白くない事です」
「えっと……例えば?」
「あの男はネクロマンサーな事はご存知ですね?」
「はい」
「五十年前、城から出て来たあいつは、城下の墓地で大量のゾンビを作ったんです」
「うわぁ」
「しかも従来のゾンビと違い、あいつの作ったゾンビは走るんです! ゾンビの癖に走るんですよ!?」
ヤスパースは切れていた。
「俊敏に走るゾンビが大量に放たれ、城下は阿鼻叫喚でした!!!」
ヤスパースは頭を抱える。
「あの男は今度は何をしでかすつもりでしょうか……」
「とりあえず、城下に行くって言ってたよ」
「!?」
ヤスパースが目を見開く。
「何かする前にすぐに捕まえて来ます!」
「あのヤスパースさん」
「なんですか」
今にも部屋を出そうなヤスパースを呼び止める。
「戦いならルーセルさんも連れて行った方がよくないですか?」
「いいえ、私一人で十分です」
ヤスパースはきっぱり言い放った。
「では、失礼します」
扉を閉じて行ってしまった。
(ヤスパースさん、なんであんなルーセルさんの事、嫌いなんだろう)
葵は少し首をかしげる。
(とは言え、やっぱルーセルさんにも話しておいた方がいいわよね)
葵は立ち上がって、ルーセルを探しに出た。
***
「ドニスエイメが地下から出て来ている!?」
ルーセルは言いながら驚き、持っていた書類を床にバサバサと落としてしまう。
「そ、それは本当なのか?」
「はい」
葵は頷く。
「ヤスパースさんが城下に追いかけて行ってしまいました」
「ヤスパースか……」
ルーセルが眉を寄せる。
「ルーセル様とヤスパースさんって仲が悪いですよね」
ルーセルが葵を見る。
「あいつが一方的に俺を嫌っているんだ」
「な、なんでですか?」
「あいつの嫁が、俺の事を好きだったからだ」
「えぇ!?」
ヤスパースさんのお嫁さんと言えば、ネルさんである。
「ど、どう言う事ですか」
「そのままの意味だ。ネルが俺に一方的に恋慕を寄せていて、ヤスパースはそんなネルに惚れていたんだ。恨まれた俺は全くの無関係だろ!?」
「まぁ、そのトライアングルで言うと、不意を突かれた感じですね」
「ヤスパースはネルと結婚した後も、未だに俺の事を敵視しているんだ……」
「うーん、まぁ仕方ないですね。ルーセル様、かっこいいですから」
「はぁ。もうずっと仮面を被っておくか……」
(仮面の騎士……それはそれで美味しいと思います)
「違う、俺はこんな話をしたかったんじゃない! おまえと話すと、すぐに脱線する!!」
「すいませーん」
テへ、と舌を出した。
「とにかくドニスエイメが城下にいるのだな!?」
「はい」
「ならば俺は行く。おまえは、イルブランド様の側を離れないようにしろ!」
「はーい」
書類を拾い上げたルーセルが去って行く。
「しまった、 ドニスエイメさんの事、あんまり聞けなかったや……」
今のとこわかっているのは、解剖医でネクロマンサーである事。そして、定期的に城の地下から出て来て、事件を起こす人だと言う事だ。
「まぁ、いいや。イルブランド様に聞きに行こー」
葵は、そのままイルブランドの部屋に向かおうとした。しかし、後ろから伸びて来た手に捕まえられて口を布で覆われた。
「ん!」
数秒後、葵は気を失っていた。
***
目を開けると、石の台の上に寝かせられていた。手足が鎖で縛られている。
「なんだこれ!?」
体を動かすと、ジャラジャラと音が鳴る。
「こんにちはお嬢さん、ようこそ私の解剖室へ」
暗闇から白衣の男が出て来る。
(こわっ!)
「な、なんでこんな事するんですか!?」
「それは、貴方に興味がわいたからですよ。私は、謎は解かねば納得しないタチなのです」
彼が横に置かれた銀トレイから、ナイフを手に取る。
(ひっ!!!)
ナイフで、髪が一房切り取られる。
「例えば髪。髪は本来、魔力を多く集める部位だと言われています。どんなに魔力の低い者でも、長い年月をかけて魔力を蓄積させる事が出来るのが髪です」
彼は切り取った葵の髪をいで、数本食べる。
(めちゃくちゃ変態だ!!)
「しかし、これはこの通り、無味乾燥的です。なんの味もしない」
髪を小瓶に入れる。
「こんなの、興味を持つなと言う方がおかしいのです」
ドニスエイメがハサミを手に葵のドレスに手をかける。
「いやだー!!! 死にたくない!! イルブランド様ーーー!!!! 助けて!!!」
大声で叫び、ばたばたと暴れる。
「あぁ、ご安心を。殺すつもりはないので」
ドレスが真下から、まっ直線に上に切り開かれる。
「変態ぃ!!!」
「私の探究心を誰にも止める事はできません」
切ったドレスをどけて、彼の手が葵の胸を揉んだ。
「んん?」
もみもみと、しばらく揉む。
(胸を揉むなっ!!!)
イルブランドに最初捕まった時も同じような事をされた事を思い出す。
「イルブランドの魔力が付着してますね」
彼は脱脂綿に液体を浸して、葵の体を拭いてゆく。部屋の中にアルコールの匂いが広がる。
「おや、こんなところにも」
太ももやお尻も丹念に拭かれた。
(羞恥で死ぬ……!!!)
「イルブランド様ーー!!!!! 早く助けに来い!!!!!」
葵は人生で一番の大声をあげた。
「イルブランドは来ませんよ」
「えっ」
ドニスエイメは葵のふくらはぎを拭っている。
「彼にも効く睡眠薬を開発したんです。効果の程は、現在実験中です。数時間で目が覚めるかもしれませんし、数年は寝っぱなしになるかもしれませんね」
(イルブランドが眠り姫になってしもうた!!)
ドニスエイメが葵の足を台の上に戻す。
「ですから、えぇ。私はその間にじっくり貴方の体を診させてもらいます」
彼の手が葵の頬に触れる。ふにふにと、ほっぺを触られた。
「あの……」
「なんですか?」
「私を『殺さない』と言うのは本当でしょうか」
「えぇ、それは誓って本当ですよ。貴方はイルブランドの『妻』なのでしょう? さすがに妻である貴方を殺せば、私の命はありませんので」
(攫って来て台に張り付けにして、裸を診てるのも相当だと思うんですが)
「じゃ、じゃあ、取引きしませんか」
「取引ですか?」
彼は葵の首元を触っている。
「そうです。貴方は私の体を診る。その対価に、私は貴方から情報が欲しいです」
「情報ですか?」
ドニスエイメは唇を歪めて笑う。
「もしやイルブランドの寝首をかくおつもりですか? なるほど、安全だと思って魔力0の貴方を嫁にしたイルブランドは、スキを突かれて心を許した貴方に殺されてしまうんですね」
「そんな事しませんってば!!」
ドニスエイメの手は再び胸を揉んでいる。
「おや、違うんですか? では、どんな情報が欲しいんですか? よもや、貴方も死靈術にご興味が?」
「それは多少興味あるんですけど……私が知りたいのは、ドニスエイメ様とイルブランド様との関係です」
「私と彼の事ですか?」
「はい」
(どうあがいても、体診られるんなら、対価に萌情報を聞き出してやるっ!!!)
「何故、そのような事を」
ドニスエイメが葵のお腹を撫でる。
「お、夫の事を極力知りたいからです。私はまだ妻になったばかりなので」
「異世界から来て、世間にも疎いでしょうしね」
ドニスエイメが聴診器で心音を聞く。
「……はい」
「おや、嘘だ」
彼は呟く。
「えっ」
「ふふっ、人は嘘をつくと、どうしても体に動揺が出てしまうんですよ」
葵は冷や汗を流す。
「う、嘘じゃないです」
「もちろん、完全に嘘ではないけど本当でもない。語っていない真実があるのでしょう?」
ドニスエイメの手が太ももを撫でる。
「……はい」
これ以上、嘘をつけない。
「実は私、夫を【受け】にした漫画本を趣味で書いているんです」
「【受け】とは?」
「セックスで言うところの、女側のようなモノです。攻が入れる方、受が入れられる方です」
「なるほど。漫画本と言うのは、城下で流行っている絵の多い本の事かな?」
「はい」
城下に行くと言っていたが、その辺りも眺めて来たらしい。
「それで……ルーセル様×イルブランド様でずっと本を出していたんですが、ドニスエイメ様×イルブランド様も気になってて……」
葵は言いながら頬が熱くなるのを感じた。
「ふーん、驚くべき事に一切の嘘が感じられない、清々しいほどの真実だね」
彼は聴診器を葵の胸から外す。
「信じていただけましたか……?」
「体が本当だって言ってるんだから、真実なんだろうね」
彼は頷く。
「では……」
「もちろん良いよ。君、なんだか面白いね。私と、イルブランド様の漫画本。出したら、是非読ませておくれ」
「それはもちろんです! はい!!」
最近、本人達に薄い本を読まれる事に対する羞恥心が薄れてきていた。
「それじゃ、取引成立っと」
彼が葵の太ももを撫でる。
「私が、イルブランドと会ったのは、とある村の墓地でね。私は、そこで長い事、死靈魔術の研究をしていたんだ。墓地だから遺体は腐る程あるしね」
彼の指が葵の大事な秘部に触れる。
「!」
「私は、研究にのめり込むと周りが見えなくなるタチでね。何十年、何百年と死体をいじって生きて来たわけだ」
彼の指が葵の秘部の肉ひだを撫で、敏感ないただきをいじる。
「っ……」
「そんで、魔王様に目を付けられた」
「な、なぜですか」
葵は顔が熱くなるのを感じながら尋ねる。
「実験した死体を放置してたら、墓地をうろつくようになってしまったね。周辺の村にも被害が出ていたから、魔王様が直々にやって来たわけだ」
彼の指がずぶずぶと中に入って来る。
「んん、すごい」
彼が合間に感想をもらす。
「それで私は一月に及ぶ攻防を魔王イルブランドと行い、ついに負けを認めて、こうして城の地下に幽閉されたわけさ」
「幽閉されてるんですか!?」
「ごめん、うそ。幽閉って言うか、地下を貸してやるから外で実験するなって言われたんだよね。地下には定期的に材料になる遺体が運び込まれるから、ココは夢のような場所だよ」
彼の指が奥ま届いて、ぐりぐりと中を撫でる。
「あぁ……」
葵はみじろぎする。しばらく指を動かされた後に、引き抜かれる。
「本当に魔力がないな」
彼は、銀色の器具を葵の膣に入れて、開いた。
「きゃっ!」
それはクスコだった。
「へー、なるほどなぁ」
まじまじと秘部の中を見られている。
「それじゃ、イルブランド様とはあまりお話しないんですか?」
「そうでもないよ。たまに気がのったら、地下から出て来て話すんだ。私も、たまには話し相手が欲しいからね。一年に一回くらいかな」
(七夕の彦星と織姫かな?)
器具が引き抜かれたので、ほっとする。
「血液貰ってもいいかな?」
「少しなら……」
彼が葵の腕をゴム紐で縛って、注射針を刺す。
「彼あれで寂しがり屋だろ。だから、一晩中話につきあってくれるんだよね」
「一晩中……!」
葵はカッと目を開いた。
「どうかな、良いネタは提供出来たかな?」
「それはもう……」
あとはイルブランド側からの情報を聞いて補強出来れば完璧だろう。
「ちなみにどう言う話をするんですか?」
「ん? まぁ、私が発見した事とかかな。イルブランドは最近起きた事とかを教えてくれるよ。彼は賢いからね、理解力があって、話していて楽しいんだ」
(知性あふれる会話って描くの難しいのよねぇ)
「たまに気がのったら、カードゲームなんかもするな」
「本当ですか!?」
「あぁ。だんだんイカサマ勝負になっていくけどね」
彼は笑いながら葵をうつ伏せにした。そしてお尻を撫でる、
「あ、あの。これから何をするつもりでしょうか」
「お尻の中も見せてね」
「いやです!!」
「どうして。君の書いてる男同士の本だって、やる時は尻を使うんだろう?」
「そうですけど、自分のアナルを見られるのは嫌です!!」
「はいはい、力を抜いてくださーい」
お尻にぬるっとしたモノが塗られて、器具が突っ込まれた。カパッと、開く感じがする。
「ぐぅ……」
葵は羞恥で死にそうだった。
「良いことを教えてあげよう。イルブランドは長い間孤独だったせいで、人との距離感がおかしいんだ。肩寄せ合って、体を密着させて話しても怒らない」
「ほ、本当に……?」
「本当だよ。酒に酔っている時なんて特にね」
(イエスッ!!!)
新刊の道筋が見えた。
葵は服を着て、城に戻された。その足でイルブランドの元へ走る。
「イルブランド!!」
部屋の中に入ると、彼は床に倒れてすやすやと寝ていた。床にはワイングラスが落ちている。
「イルブランドー」
頬をつついても、起きる気配は無い。仕方ないのでメイドさん達に寝室に運んで貰った。
それから一日ほど寝続けたイルブランドは目を覚ました。
「……頭が痛い」
おそらく寝すぎだろう。
「おはようイルブランド」
彼の頭を抱えてぎゅっと抱きしめる。
「むっ」
彼が葵の腰を引き寄せる。
「おはようアオイ。どうしたんだ、今朝は……積極的だな」
「貴方がお酒を飲んですぐに寝ちゃったから、寂しかったんだよ?」
口から出任せである。しかし、ドニスエイメと約束があるので真実を気付かれるわけにはいかない。
「そうだったろうか……?」
「そうだよ、珍しく深酒したんだね」
ぎゅーっと胸でイルブランドを押しつぶす。葵は知っている、イルブランドはおっぱい星人なので、おっぱいでゴリ押しすればだいたいの事は上手くいく事を。
「むぅ……」
彼はもぞもぞと動いて、葵を押し倒した。
「誘ったのだから、覚悟は出来ているのだろうな」
「うん」
葵はにっこり笑顔を浮かべた。これでおそらく、一日の空白を彼が疑問に思う事はなく、ドニスエイメへの疑惑も免れただろう。
その後、葵はおもいっきり抱かれて、夕方まで動けなかった。
つづく
原稿をカリカリ書きながら、葵はヤスパースに尋ねた。
「ドニスエイメですか?」
「どう言う人なのかなって」
「あの、どうしてアオイ様があの変態男の名前をご存知なのですか?」
ヤスパースが首をかしげる。
(ヤスパースさんも、ドニスエイメの事嫌いなのかぁ)
「こないだ、会ったからです」
「えっ!?」
ヤスパースが素っ頓狂な声をあげた。
「どうしたんですか!?」
「あの男が、城の地下から出て来てんですか……!?」
「は、はい!」
「なんてこと。とんでもない事件だわ」
ヤスパースが口を手で覆う。
「そ、そうなんですか?」
「あたりまえです!! あの男が地下から出て来る時は【面白い発見】があった時です。それはだいたいにして、私達にとって面白くない事です」
「えっと……例えば?」
「あの男はネクロマンサーな事はご存知ですね?」
「はい」
「五十年前、城から出て来たあいつは、城下の墓地で大量のゾンビを作ったんです」
「うわぁ」
「しかも従来のゾンビと違い、あいつの作ったゾンビは走るんです! ゾンビの癖に走るんですよ!?」
ヤスパースは切れていた。
「俊敏に走るゾンビが大量に放たれ、城下は阿鼻叫喚でした!!!」
ヤスパースは頭を抱える。
「あの男は今度は何をしでかすつもりでしょうか……」
「とりあえず、城下に行くって言ってたよ」
「!?」
ヤスパースが目を見開く。
「何かする前にすぐに捕まえて来ます!」
「あのヤスパースさん」
「なんですか」
今にも部屋を出そうなヤスパースを呼び止める。
「戦いならルーセルさんも連れて行った方がよくないですか?」
「いいえ、私一人で十分です」
ヤスパースはきっぱり言い放った。
「では、失礼します」
扉を閉じて行ってしまった。
(ヤスパースさん、なんであんなルーセルさんの事、嫌いなんだろう)
葵は少し首をかしげる。
(とは言え、やっぱルーセルさんにも話しておいた方がいいわよね)
葵は立ち上がって、ルーセルを探しに出た。
***
「ドニスエイメが地下から出て来ている!?」
ルーセルは言いながら驚き、持っていた書類を床にバサバサと落としてしまう。
「そ、それは本当なのか?」
「はい」
葵は頷く。
「ヤスパースさんが城下に追いかけて行ってしまいました」
「ヤスパースか……」
ルーセルが眉を寄せる。
「ルーセル様とヤスパースさんって仲が悪いですよね」
ルーセルが葵を見る。
「あいつが一方的に俺を嫌っているんだ」
「な、なんでですか?」
「あいつの嫁が、俺の事を好きだったからだ」
「えぇ!?」
ヤスパースさんのお嫁さんと言えば、ネルさんである。
「ど、どう言う事ですか」
「そのままの意味だ。ネルが俺に一方的に恋慕を寄せていて、ヤスパースはそんなネルに惚れていたんだ。恨まれた俺は全くの無関係だろ!?」
「まぁ、そのトライアングルで言うと、不意を突かれた感じですね」
「ヤスパースはネルと結婚した後も、未だに俺の事を敵視しているんだ……」
「うーん、まぁ仕方ないですね。ルーセル様、かっこいいですから」
「はぁ。もうずっと仮面を被っておくか……」
(仮面の騎士……それはそれで美味しいと思います)
「違う、俺はこんな話をしたかったんじゃない! おまえと話すと、すぐに脱線する!!」
「すいませーん」
テへ、と舌を出した。
「とにかくドニスエイメが城下にいるのだな!?」
「はい」
「ならば俺は行く。おまえは、イルブランド様の側を離れないようにしろ!」
「はーい」
書類を拾い上げたルーセルが去って行く。
「しまった、 ドニスエイメさんの事、あんまり聞けなかったや……」
今のとこわかっているのは、解剖医でネクロマンサーである事。そして、定期的に城の地下から出て来て、事件を起こす人だと言う事だ。
「まぁ、いいや。イルブランド様に聞きに行こー」
葵は、そのままイルブランドの部屋に向かおうとした。しかし、後ろから伸びて来た手に捕まえられて口を布で覆われた。
「ん!」
数秒後、葵は気を失っていた。
***
目を開けると、石の台の上に寝かせられていた。手足が鎖で縛られている。
「なんだこれ!?」
体を動かすと、ジャラジャラと音が鳴る。
「こんにちはお嬢さん、ようこそ私の解剖室へ」
暗闇から白衣の男が出て来る。
(こわっ!)
「な、なんでこんな事するんですか!?」
「それは、貴方に興味がわいたからですよ。私は、謎は解かねば納得しないタチなのです」
彼が横に置かれた銀トレイから、ナイフを手に取る。
(ひっ!!!)
ナイフで、髪が一房切り取られる。
「例えば髪。髪は本来、魔力を多く集める部位だと言われています。どんなに魔力の低い者でも、長い年月をかけて魔力を蓄積させる事が出来るのが髪です」
彼は切り取った葵の髪をいで、数本食べる。
(めちゃくちゃ変態だ!!)
「しかし、これはこの通り、無味乾燥的です。なんの味もしない」
髪を小瓶に入れる。
「こんなの、興味を持つなと言う方がおかしいのです」
ドニスエイメがハサミを手に葵のドレスに手をかける。
「いやだー!!! 死にたくない!! イルブランド様ーーー!!!! 助けて!!!」
大声で叫び、ばたばたと暴れる。
「あぁ、ご安心を。殺すつもりはないので」
ドレスが真下から、まっ直線に上に切り開かれる。
「変態ぃ!!!」
「私の探究心を誰にも止める事はできません」
切ったドレスをどけて、彼の手が葵の胸を揉んだ。
「んん?」
もみもみと、しばらく揉む。
(胸を揉むなっ!!!)
イルブランドに最初捕まった時も同じような事をされた事を思い出す。
「イルブランドの魔力が付着してますね」
彼は脱脂綿に液体を浸して、葵の体を拭いてゆく。部屋の中にアルコールの匂いが広がる。
「おや、こんなところにも」
太ももやお尻も丹念に拭かれた。
(羞恥で死ぬ……!!!)
「イルブランド様ーー!!!!! 早く助けに来い!!!!!」
葵は人生で一番の大声をあげた。
「イルブランドは来ませんよ」
「えっ」
ドニスエイメは葵のふくらはぎを拭っている。
「彼にも効く睡眠薬を開発したんです。効果の程は、現在実験中です。数時間で目が覚めるかもしれませんし、数年は寝っぱなしになるかもしれませんね」
(イルブランドが眠り姫になってしもうた!!)
ドニスエイメが葵の足を台の上に戻す。
「ですから、えぇ。私はその間にじっくり貴方の体を診させてもらいます」
彼の手が葵の頬に触れる。ふにふにと、ほっぺを触られた。
「あの……」
「なんですか?」
「私を『殺さない』と言うのは本当でしょうか」
「えぇ、それは誓って本当ですよ。貴方はイルブランドの『妻』なのでしょう? さすがに妻である貴方を殺せば、私の命はありませんので」
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「取引ですか?」
彼は葵の首元を触っている。
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「情報ですか?」
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「もしやイルブランドの寝首をかくおつもりですか? なるほど、安全だと思って魔力0の貴方を嫁にしたイルブランドは、スキを突かれて心を許した貴方に殺されてしまうんですね」
「そんな事しませんってば!!」
ドニスエイメの手は再び胸を揉んでいる。
「おや、違うんですか? では、どんな情報が欲しいんですか? よもや、貴方も死靈術にご興味が?」
「それは多少興味あるんですけど……私が知りたいのは、ドニスエイメ様とイルブランド様との関係です」
「私と彼の事ですか?」
「はい」
(どうあがいても、体診られるんなら、対価に萌情報を聞き出してやるっ!!!)
「何故、そのような事を」
ドニスエイメが葵のお腹を撫でる。
「お、夫の事を極力知りたいからです。私はまだ妻になったばかりなので」
「異世界から来て、世間にも疎いでしょうしね」
ドニスエイメが聴診器で心音を聞く。
「……はい」
「おや、嘘だ」
彼は呟く。
「えっ」
「ふふっ、人は嘘をつくと、どうしても体に動揺が出てしまうんですよ」
葵は冷や汗を流す。
「う、嘘じゃないです」
「もちろん、完全に嘘ではないけど本当でもない。語っていない真実があるのでしょう?」
ドニスエイメの手が太ももを撫でる。
「……はい」
これ以上、嘘をつけない。
「実は私、夫を【受け】にした漫画本を趣味で書いているんです」
「【受け】とは?」
「セックスで言うところの、女側のようなモノです。攻が入れる方、受が入れられる方です」
「なるほど。漫画本と言うのは、城下で流行っている絵の多い本の事かな?」
「はい」
城下に行くと言っていたが、その辺りも眺めて来たらしい。
「それで……ルーセル様×イルブランド様でずっと本を出していたんですが、ドニスエイメ様×イルブランド様も気になってて……」
葵は言いながら頬が熱くなるのを感じた。
「ふーん、驚くべき事に一切の嘘が感じられない、清々しいほどの真実だね」
彼は聴診器を葵の胸から外す。
「信じていただけましたか……?」
「体が本当だって言ってるんだから、真実なんだろうね」
彼は頷く。
「では……」
「もちろん良いよ。君、なんだか面白いね。私と、イルブランド様の漫画本。出したら、是非読ませておくれ」
「それはもちろんです! はい!!」
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「それじゃ、取引成立っと」
彼が葵の太ももを撫でる。
「私が、イルブランドと会ったのは、とある村の墓地でね。私は、そこで長い事、死靈魔術の研究をしていたんだ。墓地だから遺体は腐る程あるしね」
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「!」
「私は、研究にのめり込むと周りが見えなくなるタチでね。何十年、何百年と死体をいじって生きて来たわけだ」
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「っ……」
「そんで、魔王様に目を付けられた」
「な、なぜですか」
葵は顔が熱くなるのを感じながら尋ねる。
「実験した死体を放置してたら、墓地をうろつくようになってしまったね。周辺の村にも被害が出ていたから、魔王様が直々にやって来たわけだ」
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「んん、すごい」
彼が合間に感想をもらす。
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「幽閉されてるんですか!?」
「ごめん、うそ。幽閉って言うか、地下を貸してやるから外で実験するなって言われたんだよね。地下には定期的に材料になる遺体が運び込まれるから、ココは夢のような場所だよ」
彼の指が奥ま届いて、ぐりぐりと中を撫でる。
「あぁ……」
葵はみじろぎする。しばらく指を動かされた後に、引き抜かれる。
「本当に魔力がないな」
彼は、銀色の器具を葵の膣に入れて、開いた。
「きゃっ!」
それはクスコだった。
「へー、なるほどなぁ」
まじまじと秘部の中を見られている。
「それじゃ、イルブランド様とはあまりお話しないんですか?」
「そうでもないよ。たまに気がのったら、地下から出て来て話すんだ。私も、たまには話し相手が欲しいからね。一年に一回くらいかな」
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器具が引き抜かれたので、ほっとする。
「血液貰ってもいいかな?」
「少しなら……」
彼が葵の腕をゴム紐で縛って、注射針を刺す。
「彼あれで寂しがり屋だろ。だから、一晩中話につきあってくれるんだよね」
「一晩中……!」
葵はカッと目を開いた。
「どうかな、良いネタは提供出来たかな?」
「それはもう……」
あとはイルブランド側からの情報を聞いて補強出来れば完璧だろう。
「ちなみにどう言う話をするんですか?」
「ん? まぁ、私が発見した事とかかな。イルブランドは最近起きた事とかを教えてくれるよ。彼は賢いからね、理解力があって、話していて楽しいんだ」
(知性あふれる会話って描くの難しいのよねぇ)
「たまに気がのったら、カードゲームなんかもするな」
「本当ですか!?」
「あぁ。だんだんイカサマ勝負になっていくけどね」
彼は笑いながら葵をうつ伏せにした。そしてお尻を撫でる、
「あ、あの。これから何をするつもりでしょうか」
「お尻の中も見せてね」
「いやです!!」
「どうして。君の書いてる男同士の本だって、やる時は尻を使うんだろう?」
「そうですけど、自分のアナルを見られるのは嫌です!!」
「はいはい、力を抜いてくださーい」
お尻にぬるっとしたモノが塗られて、器具が突っ込まれた。カパッと、開く感じがする。
「ぐぅ……」
葵は羞恥で死にそうだった。
「良いことを教えてあげよう。イルブランドは長い間孤独だったせいで、人との距離感がおかしいんだ。肩寄せ合って、体を密着させて話しても怒らない」
「ほ、本当に……?」
「本当だよ。酒に酔っている時なんて特にね」
(イエスッ!!!)
新刊の道筋が見えた。
葵は服を着て、城に戻された。その足でイルブランドの元へ走る。
「イルブランド!!」
部屋の中に入ると、彼は床に倒れてすやすやと寝ていた。床にはワイングラスが落ちている。
「イルブランドー」
頬をつついても、起きる気配は無い。仕方ないのでメイドさん達に寝室に運んで貰った。
それから一日ほど寝続けたイルブランドは目を覚ました。
「……頭が痛い」
おそらく寝すぎだろう。
「おはようイルブランド」
彼の頭を抱えてぎゅっと抱きしめる。
「むっ」
彼が葵の腰を引き寄せる。
「おはようアオイ。どうしたんだ、今朝は……積極的だな」
「貴方がお酒を飲んですぐに寝ちゃったから、寂しかったんだよ?」
口から出任せである。しかし、ドニスエイメと約束があるので真実を気付かれるわけにはいかない。
「そうだったろうか……?」
「そうだよ、珍しく深酒したんだね」
ぎゅーっと胸でイルブランドを押しつぶす。葵は知っている、イルブランドはおっぱい星人なので、おっぱいでゴリ押しすればだいたいの事は上手くいく事を。
「むぅ……」
彼はもぞもぞと動いて、葵を押し倒した。
「誘ったのだから、覚悟は出来ているのだろうな」
「うん」
葵はにっこり笑顔を浮かべた。これでおそらく、一日の空白を彼が疑問に思う事はなく、ドニスエイメへの疑惑も免れただろう。
その後、葵はおもいっきり抱かれて、夕方まで動けなかった。
つづく
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隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
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