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第五回、魔界同人イベント会場で葵は感涙の涙を流していた。
「だ、大丈夫ですかアオイ様!?」
ヤスパースが慌てる。
「ヤスパースさん見て! こんなに二次創作ホモ本が沢山!!」
第五回目にして、サークル数は百サークルに増えている。その内、半分が二次創作を活動ジャンルに据えたサークルである。右を見ても、左を見ても男達のラブラブする表紙ばかりである。これが泣かずにいられるわけがない。
「感動ですよヤスパースさん! うっ、うっ」
「アオイ様! 良かったですね!」
ヤスパースも貰い泣きして泣いている。
「この素晴らしい同人文化をけして、途絶えさせてはいけないわ!」
葵は改めて決意を強くする。そして、買い物鞄を片手にサークルスペースから飛び出した。
「ちょっと、一狩り行って来る!」
「アオイ様ー!?」
ヤスパースの驚きの声を背に、葵はサークルスペースを端から端まで全て見て回り本を買う。自分のスペースに戻った時は、両手に大量の本を抱えていた。
「アオイ様! ダメですよ、スペースからいきなりいなくなっちゃ!」
「ごめん、つい興奮して!」
本をドサリと置いて椅子に座る。
「ファンの子達が、待ってるんですからね!」
すると葵の前に、列ができる。
「アオイ様、いつもご本楽しみにしています」
「アオイ様! これ受け取ってください!」
女の子達が、キャッキャッと声をかけて来て手紙やプレゼントをくれた。葵はそれを、顔が熱いのを感じながら受け取った。
寝室のベッドの上に購入した薄い本を広げて読む。
「んふふふ」
葵は一冊一冊じっくり読んで、再び最初の一冊を手に取って三週目に突入しようとしていた。魔界同人イベントはまだ三年目だが、既になかなか技術と情熱の極まった作品が出てきているのだ。大量の萌を全身に浴びて葵は、ご満悦である。
そこにイルブランドが寝室に入って来る。彼は、ベッドの上に広げられた薄い本に一瞬、驚く。
「楽しんでいるようだな」
しかし、すぐに表情をニュートラルに戻して彼は葵の隣に座る。最近、彼も葵の行動にすっかり慣れ始めている。
「えぇ、とっても!」
葵は本を丁寧に袋の中に戻す。
「もう、凄く楽しくて興奮して、新しいネームを切りたい気分です!」
良い本を読むと、漫画を描きたくなり、葵の漫画を読んだ誰かが再び新しい漫画を描いてくれる。素晴らしい循環である。葵は、本をサイドデスクの上に置き、引き出しから紙のついたバインダーを取り出す。鉛筆を手に、コマ割りをする。
「早いな……」
イルブランドが葵を後ろから抱きしめて、紙を覗き込む。
「すぐ、終わらせるから持っててね」
葵は、シャッシャカと鉛筆を走らせて簡易なネームを八P描いた。
「ふああああ! 良いの描けた!」
「おつかれ」
頬にキスをされる。バインダーを、引き出しに入れてイルブランドに抱きつく。
「ねぇねぇ、イルブランド! 同人イベントの開催回数もう少し増やしても良いかしら?」
現在の開催ペースは年に二回である。
「……それは良いが、私に構うおまえの時間が減るのは困るな」
彼が葵の頬に擦り寄る。
「ふふっ、大丈夫よ。私が出るのは、今まで通り年に二回までだから! 内、一回は買い専に回るわ!」
葵は、魔界に来て自分の原稿ペースを見直した。元の世界では人生の九割を原稿に捧げていた。しかし、この世界では六割程度に押さえる事にした。なにせこの先、五〇〇年も生きるのだ。多少ゆっくりと同人ライフを楽しんでも許されるだろう。
「うむ、ならば良い」
イルブランドが葵にキスをする。彼の首に腕を回して、キスに応える。
同人活動は順調で、素敵な旦那様も居て、葵は魔界で今日も幸せである。
つづく
第五回、魔界同人イベント会場で葵は感涙の涙を流していた。
「だ、大丈夫ですかアオイ様!?」
ヤスパースが慌てる。
「ヤスパースさん見て! こんなに二次創作ホモ本が沢山!!」
第五回目にして、サークル数は百サークルに増えている。その内、半分が二次創作を活動ジャンルに据えたサークルである。右を見ても、左を見ても男達のラブラブする表紙ばかりである。これが泣かずにいられるわけがない。
「感動ですよヤスパースさん! うっ、うっ」
「アオイ様! 良かったですね!」
ヤスパースも貰い泣きして泣いている。
「この素晴らしい同人文化をけして、途絶えさせてはいけないわ!」
葵は改めて決意を強くする。そして、買い物鞄を片手にサークルスペースから飛び出した。
「ちょっと、一狩り行って来る!」
「アオイ様ー!?」
ヤスパースの驚きの声を背に、葵はサークルスペースを端から端まで全て見て回り本を買う。自分のスペースに戻った時は、両手に大量の本を抱えていた。
「アオイ様! ダメですよ、スペースからいきなりいなくなっちゃ!」
「ごめん、つい興奮して!」
本をドサリと置いて椅子に座る。
「ファンの子達が、待ってるんですからね!」
すると葵の前に、列ができる。
「アオイ様、いつもご本楽しみにしています」
「アオイ様! これ受け取ってください!」
女の子達が、キャッキャッと声をかけて来て手紙やプレゼントをくれた。葵はそれを、顔が熱いのを感じながら受け取った。
寝室のベッドの上に購入した薄い本を広げて読む。
「んふふふ」
葵は一冊一冊じっくり読んで、再び最初の一冊を手に取って三週目に突入しようとしていた。魔界同人イベントはまだ三年目だが、既になかなか技術と情熱の極まった作品が出てきているのだ。大量の萌を全身に浴びて葵は、ご満悦である。
そこにイルブランドが寝室に入って来る。彼は、ベッドの上に広げられた薄い本に一瞬、驚く。
「楽しんでいるようだな」
しかし、すぐに表情をニュートラルに戻して彼は葵の隣に座る。最近、彼も葵の行動にすっかり慣れ始めている。
「えぇ、とっても!」
葵は本を丁寧に袋の中に戻す。
「もう、凄く楽しくて興奮して、新しいネームを切りたい気分です!」
良い本を読むと、漫画を描きたくなり、葵の漫画を読んだ誰かが再び新しい漫画を描いてくれる。素晴らしい循環である。葵は、本をサイドデスクの上に置き、引き出しから紙のついたバインダーを取り出す。鉛筆を手に、コマ割りをする。
「早いな……」
イルブランドが葵を後ろから抱きしめて、紙を覗き込む。
「すぐ、終わらせるから持っててね」
葵は、シャッシャカと鉛筆を走らせて簡易なネームを八P描いた。
「ふああああ! 良いの描けた!」
「おつかれ」
頬にキスをされる。バインダーを、引き出しに入れてイルブランドに抱きつく。
「ねぇねぇ、イルブランド! 同人イベントの開催回数もう少し増やしても良いかしら?」
現在の開催ペースは年に二回である。
「……それは良いが、私に構うおまえの時間が減るのは困るな」
彼が葵の頬に擦り寄る。
「ふふっ、大丈夫よ。私が出るのは、今まで通り年に二回までだから! 内、一回は買い専に回るわ!」
葵は、魔界に来て自分の原稿ペースを見直した。元の世界では人生の九割を原稿に捧げていた。しかし、この世界では六割程度に押さえる事にした。なにせこの先、五〇〇年も生きるのだ。多少ゆっくりと同人ライフを楽しんでも許されるだろう。
「うむ、ならば良い」
イルブランドが葵にキスをする。彼の首に腕を回して、キスに応える。
同人活動は順調で、素敵な旦那様も居て、葵は魔界で今日も幸せである。
つづく
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