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目を覚ますと、イルブランドが葵の横ですっ裸で転がっていた。葵は思わず、自分の体を見下ろす。ちゃんと服を着ている。昨日、ヤッた記憶は無い。ごく穏やかに二人眠りについたはずだ。なのに、何故朝になったらイルブランドは服を脱いでいるのだろうか。
「ん……」
眠っていたイルブランドが目を開ける。
「おはようアオイ……」
彼が寝起きの、とろんとした目でアオイを見つめる。
「おはようございます」
朝から、顔の良い人の笑みを見て葵の心臓は飛び跳ねる。
「今朝は早起きなのだな」
いつもは葵の方が遅く目を覚ます。
「何か、奇妙な手触りがあったので」
「……?」
彼は首を傾げる。そう言うかわいい仕草を、普通にしないで欲しい。
「なんで裸なのでしょう」
葵は単刀直入に聞いた。
「あぁ、それか」
彼は自分を見下ろす。
「おまえの隣だと服を着る必要が無いのでな」
彼はにっこり笑った。あぁ、顔が良い。眩しい。
「いや、おかしいでしすよね、それ……!」
爽やかな美しい笑みに、一瞬流されるところだった。
「服は着ましょうよ……!」
「葵、そう怒らずに理由を聞いてくれ」
彼が葵を抱き寄せる。白い胸板が目の前に来る。
「おまえもルーセルから聞いてはいるのだろう? 私の魔力は大きすぎる。ゆえに魔術装飾や特殊な魔術の練り込まれた服を着て抑え込んでいるんだ」
イルブランドがいつも着ている服は、とてもゴテゴテしていた。あれらは全て、魔力を抑えるための物らしい。
「そ、そうなんですか」
「しかし着ている側からしたら、とても窮屈でな。肩も凝るし、イライラもする」
サイズの合わない服を着ている感じだろうか。それは、確かに嫌だ。
「だからアオイの側にいる時は、ありのままの姿で居たいんだ」
彼はそう言って、笑みを見せた。笑顔が眩しい。
「そうなんですね……」
「あぁ、そうなんだ」
葵は数秒考えた後に、口を開いた。
「でも、下着は履きましょう」
彼は下までばっちり全裸だった。
「考えておく」
しかし彼はその後も、葵の側では薄着を保ち寝る時は全裸だった。寝起きの度に美しい全裸を見る葵の気持ちにもなって欲しい。
■
葵は少し前から、城の中を好きに歩いても良いと言われていた。後ろに機械仕掛けのメイドを引き連れ、城の廊下を歩く。広い城には、葵達以外には人の姿は無かった。図書館に行くと、大量の本がある。国中から、贈答された本らしい。葵は適当に面白そうな本を手に取る。
「お持ちします」
メイドに本を二冊渡して、図書館を出る。
長い廊下をてくてく歩いて、庭に下りる。昼間は、イルブランドにはほとんど会わなかった。彼も仕事でいろいろと忙しいらしい。なので葵は基本、昼間は一人で過ごす。勉強したり、マンガを描いたり、こうして散歩をしたりしている。今は迷路のような、薔薇の庭を歩いている。すると、話し声がした。
「イルブランド様は、アオイ様の事を実際のところ、どう思っておられるのですか」
それは、ルーセルの声だった。迷路の壁の向こうにいるらしい。
「どう、とは」
イルブランドの声もする。また、薔薇を取りに来たんだろうか。
「未だに娼婦などと言われていますが、俺にはそう見えません」
パチンと薔薇を切る音がする。
「では、どう見える」
「恋人でしょうか」
葵は固まる。
「恋人にすべきだと思うか」
「えぇ、それが良いでしょう。好きな女性を、いつまでも『娼婦』と言う立場に置いて居てはいけません」
「そうか」
「はい」
葵はゆっくりと、その場を立ち去ろうとした。
「しかし、アレは私の恋人に収まってくれると思うか」
「それは……」
「私は彼女の姦しい性格を気に入っているが、彼女は私の事を気に入っているのかは正直わからない」
「イルブランド様を好きにならないなど、俺には正直理解できないのですが、どうも彼女の言動を聞いているとそのようですね」
「私の顔は好きらしいのだが」
「顔ですか?」
「あぁ、顔が綺麗だと言われた。まぁ、嫌いと言われるよりは良いだろう」
「そうですね」
「顔だけでなく、私自身を好きになってくれる方法は無いものだろうか」
「……やはり、共に過ごす時間の中で自然と惹かれて行くのを見守るしかないと思います。まじないを使うのならば、簡単ですが」
「まじないは使わない。心を操って自分のモノにしても、虚しいだけだ」
「よけいな助言でした。申し訳ありません」
「いや、良い。まぁ、しばらく、彼女の様子を見るしか無いか……」
二人が立ち去って行く音がした。葵はその場からまんじりとも動けずに止まっていた。
(と、とんでも無い会話聞いちゃったなぁ)
二人が立ち去った後に、葵はゆっくりと庭を出る。自分の部屋に戻りながら考える。
(イルブランド、本当に私の事が好きだったのか)
最初は娼婦として置いていたが、情がわいたのだろうか。
(でも、私はどうなんだろうなぁ)
葵は恋愛経験がほとんど無い。学生の時から人生の九割を同人活動に捧げていた。それは楽しくて、楽しくて仕方のない事だったので、葵は別に構わない。しかし、そのせいか葵は恋人が今まで一度もいなかった。二七と言えば良い年である。周りを見れば普通恋人がいるし、結婚して子どもだっている。しかし葵には、そんな存在はいなかった。言い訳するならば、同人に人生を振りすぎてしまっていたからだろう。しかし、同じように同人に全力の仲間達でも恋人や夫がいたりする。だからそれは、オタクである事が原因なのではなくて、葵自身にモテない理由があったのだろう。そんな葵の事を好いてくれる人が現れたのだ。
***
夜に食事を一緒にとった後、彼が夜のベランダで跪き葵にプロポーズした。
「結婚して欲しい」
「!」
(恋人じゃないんかい!)
いろいろな段階をすっ飛ばして、彼は求婚して来た。葵は、彼に差し出された一輪の薔薇を見て固まる。彼は葵を見つめて、返事を待っている。
「そ、それは」
恋人でも悩んでいるのに、結婚相手となると更に悩む。そもそも葵は、この世界の人間では無いし、いずれ元の世界に帰りたいと思っている。
「それは、無理です!」
大きな声で、断った。すると、イルブランドが目を見開いて固まってしまった。マンガなら、後ろに『ガーン』と効果音を入れたいぐらいの表情だ。
「な、何故だ」
彼が立ち上がり葵の肩を握る。
「と、突然結婚なんて考えられません」
「確かに突然、過ぎたか。では、いつなら良い」
「わかりませんよ、そんなの! それに私は、いずれ自分の世界に帰りたいんです!」
「帰る方法があるのか!」
「ありませんけど!!」
葵はイルブランドを睨む。
「でも、まだ諦められません」
葵は俯く。
「元の世界に帰りたいのか」
「あたりまえです!」
元の世界には仲の良い同人仲間もいるし、大好きな作品達もある。この世界にも楽しい物は見つけられたが、やはり元の世界への未練は強い。
「……わかった、ではおまえが元の世界に帰れるよう助力しよう」
葵は驚く。
「良いんですか」
「私との結婚は断るのだろう」
「はい」
「ならば、手元に置いても辛いだけだ」
彼は目を逸らす。相当、彼の心を傷つけたらしい。葵は、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「えっと、ありがとうございます……」
「ただし、帰るまでは『娼婦』と言う立場で居て貰う。良いな」
葵は肩を跳ねさせる。
「そ、そうですよね。わかりました」
葵は渋々頷く。
イルブランドが葵の手を引く。寝室に連れて行かれたので、つまり抱くつもりなのだろう。婚姻を断ったばかりなのに、抱かれるのは正直微妙な気持ちなのだが、しかし『娼婦』と言う立場上仕方ない。
彼にドレスを脱がされて、ベッドに押し倒される。じっと顔を見つめられた後に、キスをされた。葵は目を閉じて彼のキスに応える。毎日彼とキスをしているので、彼の相手にもだいぶ慣れて来た。下着の中に手を入れられて、胸を揉まれる。膝で股を割り開かれる。彼は性急に事を進めて、秘部を指で解し、濡れればすぐに自分のモノを挿入する。
「っ!」
葵は彼の背中に抱きついて、痛みと快楽に耐える。彼のキスを頬や耳に受けながら、目を閉じて彼のモノを受け入れた。互いの息遣いだけが聞こえる静かな夜だった。
つづく
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